著者
古賀 英也
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.111, no.1, pp.51-67, 2003 (Released:2003-11-19)
参考文献数
61
被引用文献数
7 6

西南日本出土の縄文時代から現代に至る頭蓋骨682個についてクリブラ·オルビタリアを, また626個体の歯列についてエナメル質減形成を肉眼観察し, それぞれの出現頻度を調査した。両ストレスマーカーは共に小児期から思春期頃にかけて最高頻度に達し, 以後は年齢と共に減少する傾向が見られた。クリブラ·オルビタリアは現代人の35.4%が最高で, 最低は博多の天福寺近世人の2.4%であった。また, エナメル質減形成は原田近世人で87.0%の最高値を示し, 最低は北部九州弥生人の15.2%であった。このストレスマーカーには西日本各地の弥生集団間でかなりの違いが見られたが, 縄文人に較べて特に北部九州弥生人で低下傾向が認められた。以上の各時代, 地域集団において, ハリス線を含めた3種のストレスマーカー間の相関を調べたところ, クリブラ·オルビタリアとエナメル質減形成の間に弱いながらも有意の関連性が認められた。
著者
鈴木 隆雄
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.92, no.1, pp.23-31, 1984
被引用文献数
2

北海道渡島半島西海岸の上之国町に位置する中世城跡「勝山館」は1979年から発掘調査が進められている。今回報告するものは,1982年に発掘された多数の人骨片のうち,幾つかの骨片に認められた興味ある古病理学的所見についてである。この病変を示す骨片は頭蓋片,右大腿骨,左脛骨,左腓骨の4つであり保存は良好である。これらの骨片は発掘状況や病変からみて同一個体(熟年&bull;男性)に属すると推定されるものである。<br>古病理学的所見として,特に頭蓋では,後頭骨において,底面に不整な骨溶解像を呈するクレーター状の陥凹が数個所に存在している。また頭頂骨では骨硬化像を伴う星芒状の"ひきつれ"たような病変が不整な骨新生像とともに認められる。このような特徴ある骨病変は明らかに骨梅毒症と診断されるものである。<br>上之国町「勝山館」遺跡は,その考古学的調査から,室町時代末葉から江戸時代初頭のものであることが確認されている。従って本人骨も同時期に属するものと考えられるが,この時期は我が国に梅毒がもたらされた時期とほぼ一致する。その意味において,本例は我国の梅毒の起源とその伝播やその初期の爆発的流行とも深く関連のある症例と考えられ,極めて興味あるものであるろう。

2 0 0 0 OA 北海道の土城

著者
阿部 正已
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.34, no.10, pp.325-331, 1919-10-25 (Released:2010-06-28)
著者
鈴木 敏彦 澤田 純明 百々 幸雄 小山 卓臣
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.112, no.1, pp.27-35, 2004 (Released:2004-07-14)
参考文献数
27
被引用文献数
1 3

青森県下北半島浜尻屋貝塚の2002年の発掘調査において,中世に属する1体の小児人骨が出土した。本研究では,歯冠の計測値および非計測的形質について日本列島の各時代の集団との比較分析を行うことで,浜尻屋人骨の帰属集団を探った。歯冠サイズに関しては,浜尻屋人骨はアイヌと中世本土日本人の双方にオーバーラップしており,そのどちらに近いかを明らかにすることは難しかった。一方,非計測的形質に関しては,上顎前歯部の弱いシャベル形質や,下顎第二乳臼歯に見られたmiddle trigonid crestは,より縄文人的すなわちアイヌ的な形質特性を意味するものと思われた。以上を踏まえると,浜尻屋人骨は少なくとも渡来的形質を持った本土日本人ではなく,アイヌ,もしくは縄文・アイヌ的形質を備えた本土日本人のどちらかに属する可能性が高いと考えられた。
著者
甲野 勇
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.32-33_1, 1925-01-25 (Released:2010-06-28)
被引用文献数
1
著者
小田 静夫 Keally Charles T.
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.94, no.3, pp.325-361, 1986
被引用文献数
4

日本の旧石器時代の研究において,一つの関心事は日本列島に最初に渡来した人類の問題であろう.現在多数の研究者は1万-3万年前頃の旧石器時代人類の存在は認めているが,3万年以前に遡るとされる所謂「前期旧石器時代」になると,その存在に賛否両論があり現在未解決の問題として残されている.日本の前期旧石器時代については,1969年頃から芹沢長介により本格的に研究され始め,全国に遺跡,遺物の発見があった.しかし,ここ数年,岡村道雄&bull;鎌田俊昭らが宮城県内で推進している「新たな前期旧石器時代」の提唱は,芹沢により研究されてきた本来の「前期旧石器問題」を解決させることなく,これこそ真の石器であり,遺跡も完壁なものであると力説する.現在宮城県内で33ヵ所の前期旧石器時代遺跡が発見されており,その中でも座散乱木,馬場壇A,志引,中峯C,北前,山田上ノ台遺跡等が有名である.
著者
八木 奘三郎
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1-6, 1917-01-25 (Released:2010-06-28)
著者
瀬口 典子
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.116, no.1, pp.57-66, 2008 (Released:2008-06-30)
参考文献数
61
被引用文献数
1 1 1

アメリカ自然人類学会(AAPA)の現状と動向を紹介し,その歴史に触れながら自然人類学のあり方の検討を行った。19世紀から20世紀前半のアメリカ自然人類学の研究テーマは「人種タイポロジー」的な理論と方法論が主であった。しかし,1951年のシャーウッド・ウオッシュバーンの「新しい自然人類学」の提唱後に,アメリカ生物人類学は,新しい方法論,理論,仮説検定に焦点をおく科学に変化を遂げた。形質人類学も生物文化的なアプローチを取り,生物考古学の視点やフェミニズムの視点をもって,ゆっくりではあるが,発展してきた。そして,自然人類学の枠だけに留まらず,考古学,文化人類学,言語人類学との融合性を目指した研究テーマを切り開こうと努力している。しかし,近年の司法人類学の人気に伴って,アメリカ自然人類学はウオッシュバーン以前の人種タイポロジー的なアプローチを取る古い形質人類学に引き戻されてしまう危機にも直面している。現在,アメリカ自然人類学会と研究者達は,これまで起こってきた矛盾,批判,反省,議論をアリーナとして,21世紀の社会に貢献するための新しい研究テーマと活動を模索している。

2 0 0 0 OA 犬肉食用考

著者
奥村 繁次郎
出版者
日本人類学会
雑誌
東京人類學會雜誌 (ISSN:18847641)
巻号頁・発行日
vol.15, no.167, pp.184-186, 1900-02-20 (Released:2010-06-28)
著者
五十嵐 由里子
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.100, no.3, pp.311-319, 1992
被引用文献数
4

現代日本人女性の遺体20体にっいて,腸骨耳状面の前下部に認められ,妊娠や出産に関係すると考えられている窪みや溝を観察し,その強さと,妊娠や出産の経験との関係を調べた.遺体の死亡年齢は49歳から99歳にわたり,このうち出産の経験がある者は16体であった.出産や流産にっいての情報は,家族へのアンケートによって得た.これらの窪みや強さは,事前に近代日本人の骨格標本の骨盤を調査して作った三段階の基準(強い,弱い,無し)に従って判定した.<br>その結果,強い窪みや溝は経産婦にのみ現れ,窪みや溝が無いと判定された1例は未産婦であった(Table 1と2).さらに,妊娠と出産の回数がわかった個体にっいて,これらの窪みや溝の出現状況を分析した結果,これらの特徴が出産の際にではなく妊娠の間に形成され,その強さは妊娠の回数とある程度の相関を持っことが示唆できた(Fig. 6).また,最終出産後18年から65年たっても,これらの窪みや溝は消えないことがわかった(Table 1).
著者
西村 眞次
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.204-214, 1916
著者
芥川 昌也
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.123, no.1, pp.61-66, 2015 (Released:2015-06-20)
参考文献数
16

新教育課程では,これまで高校で学習したメンデル遺伝を中学校で履修することになったが,一遺伝子交雑しか扱わず,検定交雑や特殊な遺伝は扱わない。高校低学年で履修する「科学と人間生活」では遺伝の内容は全く扱わない。高校の低学年で90%以上の生徒が履修する「生物基礎」では遺伝学関連分野は,旧課程のメンデル遺伝から分子生物学へと内容がシフトし,DNA,染色体の基礎,遺伝子の発現,ゲノムについて学習する機会がある。選択で約20%の生徒が履修する「生物」では遺伝子と染色体,遺伝子による発生の制御,全能性といったテーマを扱うこととされている。分子生物学の基礎から応用までを教える過程で,DNAとバイオテクノロジー,ヒトの染色体と病気の遺伝子,出産に関わる案件,遺伝子差別と情報管理の問題に触れる等の工夫が可能である。その中で,教員は生徒たちに,知識以外に必要な倫理的な判断能力を育成する必要がある。
著者
埴原 和郎
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (ISSN:09187960)
巻号頁・発行日
vol.102, no.5, pp.455-477, 1994 (Released:2008-02-26)
参考文献数
105
被引用文献数
3 3

この論文は, 沖縄人およびアイヌを含む日本人集団の形成史を単一の仮説で説明する二重構造モデルを提唱するものである。このモデルは次の点を想定する。すなわち, 日本列島の最初の居住者は後期旧石器時代に移動してきた東南アジア系の集団で, 縄文人はその子孫である。弥生時代になって第2の移動の波が北アジアから押し寄せたため, これら2系統の集団は列島内で徐々に混血した。この混血の過程は現在も続いており, 日本人集団の二重構造性は今もなお解消されていない。したがって身体•文化の両面にみられる日本の地域性-たとえば東西日本の差など-は, 混血または文化の混合の程度が地域によって異なるために生じたと説明することができる。またこのモデルは, 日本人の形質•文化にみられるさまざまな現象を説明するのみならず, イヌやハツカネズミなど, 人間以外の動物を対象とする研究結果にも適合する。同時に, このモデルによって日本の本土, 沖縄およびアイヌ系各集団の系統関係も矛盾なく説明することができる。
著者
鈴木 尚
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.7-11, 1948-07-01 (Released:2008-02-26)
参考文献数
17
被引用文献数
49 62
著者
馬場 悠男
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.116, no.2, pp.184-187, 2008 (Released:2008-12-27)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

小中高の生徒たちは,ヒトの成長期間が長いのは多くを学習するためであることを具体的に認識してはいない。個体成長曲線で知られるように,幼児期に急速な脳の成長があり,思春期以降に性的成熟がある。身体全体は,児童期に長い成長遅滞があり,その間に教育効果が上がるようになっている。教育の要素をこのような成長パターンに当てはめてみると,脳成長と身体成長とのズレは知育のため,身体成長と性的成熟のズレは徳育のためである。この二つのズレを実際の教育・学習によって適切に充填しないと,まともな自己実現は出来ない。このように手間はかかるが最終的に優れた適応力を発揮するライフヒストリーこそ人間性の中核であり,それが人類進化の過程でいかに獲得されたかを普及させるのは,人類学研究者の責務であろう。