著者
丸笹 直子 岩井 大 吉永 和仁 泉川 雅彦 金子 明弘 立川 拓也 山下 敏夫
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.237-241, 2001-02-28 (Released:2010-06-28)
参考文献数
11
被引用文献数
4

1988年1月から1997年8月までに, 関西医大耳鼻咽喉科で全身麻酔下に口蓋扁桃摘出術を施行された725例を対象とし, このうち術後出血例につき検討した.その結果, 11例 (1.5%) で術後出血が見られ, 6例 (0.8%) は再度の全身麻酔が必要な症例であった.習慣性扁桃炎の11~20歳の年齢層に術後出血が生じやすく, 出血部位は左に多く, 出血時期は術後24時間以内に多く見られた.扁桃摘出術に際し, こうした事項の認識が重要であると考えた.
著者
原田 生功磨 國井 博史 小山 新一郎 勝見 さち代 村上 信五
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.109-115, 2009 (Released:2010-07-01)
参考文献数
22
被引用文献数
3

口蓋扁桃摘出術における周術期抗生剤の投与期間を手術当日のみから術後3日以上に延長, 術後経過をカルテで追跡した. その結果, 抗生剤投与日数を3日以上に延長しても術後出血率, 解熱鎮痛剤使用数, 発熱の有無に影響がみられなかった. 周術期の抗生剤投与は手術当日のみで十分と考えられたが, 術後出血例の検討では局所感染を伴うものもあった. 術前より術野の常在菌叢, 薬剤感受性を把握し最適な抗生剤を使用するなど症例毎に感染対策を行うことが良いと思われた. 一方, 抗生剤使用期間にかかわらず, 解熱鎮痛剤の使用が多いと, 有意に術後出血が増加した. その原因は不明であり解熱鎮痛剤の抗血小板作用なども含め今後の検討を要する.
著者
工藤 典代
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.29-32, 2014-03-31 (Released:2014-08-20)
参考文献数
5

口蓋扁桃摘出術は従来, 扁桃被膜の鑷子剥離と出血点の絹糸結紮で行っていたが, 現在は高周波凝固切開装置 (オートバイポーラ) を用い剥離と切離・摘出, 出血点の凝固を行っている. 前者を従来法, 後者を現法とし, 総手術時間 (摘出時間と止血時間) と出血量についての比較を, 扁摘経験による術者別に行った. その結果, 術者の経験を問わず, 手術時間も出血量もともに大きく短縮及び減少させることができた. 止血処置を要した術後出血は, 14年間の扁摘1,923例中, 25例 (1.3%) であった. アルゴンプラズマ凝固法を併用しはじめた年は4.1%であったが, 翌年以降には術後出血例は再び年間0から2例となり, 用いた手術機器による差は見られなかった.
著者
井之口 昭
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.7-10, 2012 (Released:2012-07-27)
参考文献数
18

味覚障害の診断の現状について概説した. 丁寧な問診, 特徴的な視診所見の取得が重要であるが, 味覚機能検査として電気味覚検査と濾紙ディスク検査が最も重要である. 電気味覚検査は味覚伝導路障害の診断, 予後判定に有効である. 濾紙ディスク検査は受容器型味覚障害の診断, 経過観察に適している. 詳細な味覚検査を行うと, 結果の評価において年齢, 性別, 喫煙習慣を考慮する必要がある. 電気味覚検査では60歳以上での閾値上昇を考慮する. 濾紙ディスク検査では年齢については今後のさらなる検討が必要である. 性差, 喫煙について重症度判定においては考慮せずともよいと考えている.
著者
余田 敬子 尾上 泰彦 西田 超 金子 富美恵 須納瀬 弘
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.171-177, 2011 (Released:2011-09-14)
参考文献数
12
被引用文献数
1

性感染症クリニックで, 淋菌・クラミジア検査を行った女性169人の職業と, 男性81人の性交渉の相手について検討した. 女性の92%を占めたソープランド (ソープ) 従業女性では, 淋菌の咽頭陽性者が性器より多く, クラミジアは性器陽性者が咽頭より多かった. ソープ以外の性風俗店従業女性においても, 淋菌・クラミジアの咽頭と性器の陽性者が存在した. 性風俗従業でない女性にも, 淋菌・クラミジアの陽性者があった.男性では, 咽頭の淋菌陽性者の89%, 性器の淋菌陽性者の93%, 咽頭のクラミジア陽性者全員, 性器のクラミジア陽性者の77%が, 性風俗従業女性からの感染と推察された. また, 少数ではあるが, 特定の女性から淋菌・クラミジアに感染した人と思われた人が存在した.
著者
中島 正己 和田 伊佐雄 加瀬 康弘
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.147-152, 2014-06-10 (Released:2014-08-20)
参考文献数
18

閉塞型睡眠時無呼吸 (OSAS) における鼻腔開存性を検討するため, ポリソムノグラフィー施行予定の患者48名を対象として, 座位と仰臥位でそれぞれ鼻腔通気度測定法と音響鼻腔計測法 (AR) による測定を行った. AR による比較では, 座位に比べ, 仰臥位のほうが最小鼻腔断面積, 鼻腔容積共に減少する傾向にあった. さらにこの変化は仰臥位になってから5分後にすでに生じていた. 座位から仰臥位に体位変換することにより, 鼻腔抵抗値は増加し, 生理学的な変化を生じると共に, 鼻腔容積や鼻腔最小断面積の減少により鼻腔開存性が変化し, 解剖学的な変化も生じると考えられた. この変化が OSAS 患者の病態に関連することが予想された.
著者
小林 祐希 野澤 はやぶさ 後藤 孝 吉崎 智貴 高原 幹 原渕 保明
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 = Stomato-pharyngology (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.289-296, 2005-06-01
被引用文献数
8 5

ベーチェット病は, 口腔咽頭などの消化管粘膜潰瘍, ぶどう膜炎などの眼病変, 結節紅斑などの皮膚症状, 外陰部潰瘍など多彩な症状を呈する原因不明の炎症性全身疾患でりしばしば治療に難渋する.<BR>ベーチェット病の中には上気道炎や扁桃炎によって発症または症状の悪化がみられる症があるとの報告があり, 扁桃病巣感染症の一つと考えられている.今回我々は, 扁桃病感染症が疑われたベーチェット病4症例に対し両側口蓋扁桃摘出術 (扁摘) を施行したで報告する.<BR>扁桃炎の既往, および扁桃炎時にベーチェット病の症状が増悪したエピソードのある症例では, 扁摘によって術後に明らかな症状の改善が認められた.他の2症例においてプレドニゾロン等の併用にて症状の改善が認められた.<BR>自覚的なスケールを用いた扁摘後のベーチェット病の改善度を判定した結果は, 今回示した4症例全てにおいてスコアの改善が認められ, 扁摘への満足度は高いものと思わた.
著者
中田 誠一
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 = Stomato-pharyngology (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.181-184, 2008-03-31
参考文献数
3

アメリカは民間の医療保険が発達している. そのため民間医療保険側からの医療に対する制約が多く, 患者側は多大な医療保険を払わされる上に, かつ指定された医療機関しかかかれない保険があるなど負担が大きい. 睡眠医療に関しても夜間の睡眠検査料は日本と比べると法外なものであり, その背景に経済市場原理が働いていると思われる. 睡眠検査は睡眠センターというところで一括して行われ, 診断とともにその治療に関与して, かつCPAP治療はアメリカでは患者本人が直接, 業者からCPAP機器を購入し自分で自己管理という形式をとるため日本とは診療形態がまったく異なっている. アメリカで睡眠にかかわっている実地医家は, CPAP治療に脱落した患者に対してコンサルタント料や手術を希望すれば手術費用などを徴収することによって医療が成り立っていることがわかった.
著者
小林 里実
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.55-59, 2009 (Released:2010-06-01)
参考文献数
14
被引用文献数
3

扁桃病巣感染による皮膚疾患の治療では, まず扁桃炎に対する治療をどう行うかを考えるのが合理的である. 皮膚疾患が一過性であり抗生剤内服で十分なもの, 扁摘が有用なものを整理しておくとよい. 反復する急性扁桃炎の度に安静を要する皮膚疾患を繰り返す場合, QOL改善のために扁摘も考慮する. 扁桃は無症状であるが皮疹が慢性に経過する掌蹠膿疱症は, 扁摘の高い有効性から病巣感染による皮膚疾患であると捉え, 扁摘の適応疾患と考える. 非観血的治療と比べ, 治癒達成率, 速やかな軽快において扁摘は優れた効果を示すこと, 手術の負担とリスクを患者に正しく伝え, 患者の意思に即した治療を選択することが皮膚科医の責務である.
著者
鳥居 邦夫
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.245-254, 1995-06-01 (Released:2010-06-28)
参考文献数
21
被引用文献数
1

われわれは摂食時に口腔内に遊離してくる栄養素等の小分子量の物質を味覚として認識することにより, 食物を上手に選択して生存に必須なエネルギー源, 電解質源, 蛋白質源を, それぞれ甘味, 塩味, うま味として過不足の生じないように食べ, そして味が好ましくない毒物や腐敗物の摂取を拒否している.グルコースはエネルギー産生系の中心的な基質であり, 主として炭水化物を分解し, そして肝などで糖原性アミノ酸などから生合成されて得ており, 体温の維持と行動の熱源として利用される.運動等による熱源不足そして糖尿病発症により甘味嗜好性が惹起される.体液の恒常性維持, 特に血中電解質濃度や体液量は神経系, 内分泌系により厳密に調節されている.主要なナトリウムが欠乏すると強い食塩嗜好性が発現する.又, 本態性や高アルドステロン性高血圧症患者では, 唾液中Na濃度が上昇し, 並行して塩味閾値も上昇, 強い塩味嗜好性を示す.うま味物質はアミノ酸 (特にグルタミン酸) と核酸関連物質であり調味料として我国で発見された.うま味物質は動植物の組織に普遍的に分布し, 蛋白質摂取と密接に関わっていると考えられる.個々のアミノ酸はそれぞれ異なる味をもち, 特定アミノ酸の欠乏においては人も動物も味を手がかりに定量的に選択摂取することが出来る.味覚は又, 消化吸収を調節し生体恒常性維持に役立っている.
著者
中田 誠一
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.25-31, 2016-03-31 (Released:2016-06-23)
参考文献数
11

今回は軽度から中等度閉塞性睡眠時無呼吸症候群 (OSAS) の患児たちへの治療オプションを CHAT study から検討した. 5歳以上の小児 OSAS の場合, 1年以内で自然治癒する場合もあるので, 家族とのより詳細なインフォームドコンセントが必要である. アデノイド切除術及び口蓋扁桃摘出術 (以降 adenotonsillectomy と表記) 後の自然経過はアデノイドの再増殖がキーポイントである. アメリカにおいては adenotonsillectomy 後にも睡眠呼吸障害が残存する患児にたいして様々な治療が行われている. adenotonsillectomy の周術期の合併症を回避する方策として術前に鼻炎が起きているかどうか? 重症の OSAS であるかどうか? 挿管困難などの可能性がないかどうかについては麻酔科医と話し合っておくことが肝要と考える.
著者
伊藤 真人
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.91-96, 2019 (Released:2020-06-10)
参考文献数
9

小児の閉塞性睡眠時無呼吸症(obstructive sleep apnea:OSA)に対する口蓋扁桃摘出術+アデノイド切除術(Adeno-tonsillectomy)は,有効な治療法として広く施行されている.しかし,従来法の手術には術後出血のリスクや,術後の強い痛みによる食事摂取の遅れ,不十分な切除による症状の再発などの問題が指摘されてきた.特に術後出血は時に生命予後にも関わる場合もあることから,Adeno-tonsillectomyは外保連難易度Bランクの基本的な手術ではあるが,患者・術者ともにストレスのかかる手術でもある. 近年,マイクロデブリッターシステムなどのパワーデバイスを用いた口蓋扁桃・アデノイド切除術(Powered Intracapsular Tonsillotomy and Adenoidectomy:PITA)により,従来法よりも安全確実に同等の有効性が得られることがわかってきた.本稿では,我々が行なっているPITA手術の実際を解説するとともに,その有効性と安全性,さらには問題点と今後の課題について述べる.
著者
田中 貴男
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.67-74, 2011 (Released:2011-04-16)
参考文献数
13
被引用文献数
1

味覚障害の発症には, 一部亜鉛欠乏が関与すると考えられており, 亜鉛製剤であるポラプレジンクが味覚障害患者に対して有効であることも報告されている. しかし, 味覚障害に対する亜鉛補充の重要性を示した基礎研究の報告は少ない. ポラプレジンク (プロマック®) は亜鉛とL-カルノシンの錯体であり, 胃潰瘍治療剤として我が国で広く使用されている. 本稿では, 亜鉛欠乏ラットに対するポラプレジンクの味覚障害改善作用を示すと共に, その作用機序として, ポラプレジンクに由来する亜鉛の舌への分布, 舌上皮の亜鉛含量, 味蕾細胞の増殖能及び舌の病理組織学的変化に対するポラプレジンクの作用について言及する.
著者
竹林 慎治 林 泰之 康本 明吉 籔内 咲 暁 久美子 大野 覚 池田 浩己 三浦 誠
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.65-69, 2015-03-31 (Released:2015-05-21)
参考文献数
17

魚骨異物は日常臨床でしばしば遭遇し, 診断・治療が容易な場合が多いが, 稀に困難な症例も存在する. 我々は, 3例の非典型的な魚骨異物症例を経験したので, 当院での頸部魚骨異物症例の検討を加えて報告する. 症例1は70歳の女性で, 舌筋層内に魚骨迷入し, 発症から受診まで半年を要し, 放線菌感染を伴う膿瘍形成を生じた. 症例2は68歳の女性で, 発症時近医喉頭ファイバースコープ検査で発見できず, 5日後右頸部膿瘍を生じ, 甲状腺右葉背側に迷入した魚骨を外切開により摘出した. 症例3は59歳の男性で, 舌扁桃内に埋没していたが, 経口腔的に摘出できた. 当院で4年半の間に60例頸部魚骨異物摘出術を施行し, CT 検査が有用であった.
著者
余田 敬子
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.255-265, 2002-06-01 (Released:2010-06-28)
参考文献数
25
被引用文献数
6

口腔咽頭梅毒のほとんどは性感染症としての第1・2期の顕症梅毒である.日本でも今後口腔咽頭梅毒の増加が危惧されている.当科で経験した23例からみた口腔咽頭梅毒の特徴は, 第1期病変で受診する症例は少なく第2期の粘膜斑“butterfly appearance”や乳白斑を呈して受診する症例が多いこと, 性器病変を伴わない例が多いこと, '98年以降HIV感染を合併している同性愛男性例が増えてきたことが挙げられる.口腔咽頭梅毒を的確に診断するため, 10代から高齢者までの患者の口腔咽頭病変に対し常に梅毒の可能性を念頭に置きながら対処し, 顔面・手掌.頭髪などの皮膚病変の有無にも着目することが有用である.
著者
加藤 泰奈 茂呂 順久 宮本 真 齋藤 康一郎
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.39-43, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
17

歯性感染症が原因で深頸部膿瘍を形成した症例は多数報告されているが,側頭部に膿瘍を形成する症例はまれである.今回我々は下顎の歯周炎が原因で側頭窩および側頭下窩に膿瘍を形成した1症例を経験したので,その治療と臨床経過について報告する.症例は63歳女性で,左側頭部痛,開口時痛,開口障害を主訴に当科を紹介受診となった.造影CTにて左側頭部に膿瘍形成を認め,同日左側頭部に皮膚切開を加えて外科的ドレナージを行い,抗菌薬による加療を行った.膿瘍の治療として適切な切開排膿が重要であるが,今回側頭部の皮膚切開を工夫することで全ての膿瘍腔を開放できたことが早期治療につながったと考える.
著者
堀田 修
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.17-23, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
52

上咽頭は鼻孔から流入した吸気が通過する最初の免疫学的関所で,感冒等の急性上気道炎時における炎症の悪化は必発である.上咽頭は健常人においても樹状細胞,活性化リンパ球が豊富で,鼻咽頭関連リンパ組織(NALT)として特に自然免疫を介した感染防御において重要な役割を果たす.IgA腎症患者においては高頻度に自覚症状を欠いた重度の慢性上咽頭炎が存在し,同疾患での上咽頭における自然免疫の慢性的活性化状態が示唆される.急性咽頭炎に伴う肉眼的血尿はIgA腎症の特徴的症状であるがこの現象は扁摘後の症例にも認められ,上咽頭等の口蓋扁桃以外のNALTの更なる活性化が肉眼的血尿の責任病変である糸球体血管炎の増悪に関与していることを示唆している.本稿では感冒時における腎症悪化の機序をCX3CR1/fractalkine interactionを介したepipharynx-kidney axisの観点から概説する.さらに,糸球体性血尿を呈するも蛋白尿が陰性でまだ腎生検の適応にならない潜在的IgA腎症の段階における上咽頭擦過療法の有用性に関する私見を述べる.