著者
白井 真理子 伊藤 理絵
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.107-119, 2018 (Released:2018-12-27)

近年笑われることを極度に恐れる「笑われ恐怖症(gelotophobia)」という概念が報告されている。笑われ恐怖症を発症する背景には,感情が深く関わっていることが指摘されているにも関わらず,そもそも笑われることによりどのような感情が生じるのかについては,実証的に検討されていない。本研究の目的は,失敗を笑われるという不快な状況に至るまでに生じる感情について,探索的に検討することである。大学生25名(男性17名,女性8名,平均年齢19.92歳)を対象に,登場人物が転んで泣く(転倒条件)・転んで友人に見られて泣く(友人条件)・転んで友人に見られて笑われて泣く(笑われ条件)の3条件を提示し,質問紙により各条件で生じた感情について自由記述を求めた。すべての条件で報告された感情は,恥,痛み,悲しみ,怒り,驚きの5つであり,最も多く報告された感情は恥であった。本調査の結果より,失敗を笑われることに伴う感情は様々であったことから,笑われることで生じる感情の複雑さが示唆された。これまで笑われ恐怖症の核となる感情として,恥の感情が深く関わっていることが指摘されてきたが,今後は,恥以外の感情も含めて明らかにする必要がある。
著者
影山 貴彦
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
no.17, pp.91-99, 2010-07-10

映画「ディア・ドクター」。昨年、2009年に劇場公開されたこの作品は極めて高い評価を各界より受け、多くの賞を受賞している。本論文においては、「ディア・ドクター」を題材として取り上げ、作品がより優れたものになった大きな理由として「笑い」を掲げ、その仮説提起によって論を進めたものである。作品の原作・脚本・監督を手がけた西川美和、そして本作品で主演を務めた老若男女を問わず人気を博している芸人・笑福亭鶴瓶という二人をキーワードに据え、互いを具に考察するなかで、両者の出会い、キャラクターの絡み合いが、映画に独特の化学反応とも呼ぶべき相乗効果を生み出したと唱えている。また、作品における「脚本・演出の笑い」と「演者のアドリブの笑い」についても言及し、それぞれの「笑い」の存在が反発することなく融合したことにより、作品に極めて効果的な深みを生み出す結果となった、と展開させている。
著者
伊藤 理絵 内藤 俊史 本多 薫
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.114-118, 2009-07-11 (Released:2017-07-21)

本研究の目的は、幼児期に見られる攻撃的笑いについて、観察記録に基づき検討することである。年少児~年長児44名について分析したところ、幼児は、直接的に相手を支配・威圧したり、間接的に攻撃するために攻撃行動に伴う笑いを見せていた。また、仲間と共有する攻撃的笑いには、一つの笑いに親和的性質と攻撃的性質が含まれており、より見えにくい形の攻撃的笑いが見られた。
著者
伊藤 理絵
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.33-45, 2016 (Released:2016-12-20)

青年期における笑いに対する意識や態度の性差について多角的に検討するため、笑いに対する積極性尺度を作成し、ユーモア志向性および笑わせたい相手との関連から考察した。笑いに対する積極性尺度の作成にあたり、18 ~ 31 歳の大学生261 名(男性70 名,女性191 名; M = 19.37,SD =1.37)の回答を分析した結果、最終的な笑いに対する積極性尺度は第1因子から第4 因子の「笑いに対する好感」「笑わせ欲求」「笑いに対する自信」「お笑いへの親しみ」の4因子で構成された。性差を検討したところ、男性の方が「笑わせ欲求」の得点が高く、恋愛関係にある相手を笑わせることを女性よりも重視していることが確認された。一方、女性は男性よりも「笑いに対する好感」の得点が高かったことから、日常的に笑いがある生活をより重視し、コミュニケーションに笑いがあることを望むからこそ、笑わせてくれる相手やよく笑う他者を魅力的だと感じている可能性が示唆された。
著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
no.21, pp.5-18, 2014-08-02

ヒトはなぜ笑うのだろうか?古くから数多くの研究者が取り組んできた問いだが、その答えは未だに完全に明らかになったとは言えない。この問いには、視点の異なる様々な内容が含まれている。この壮大な問いの答えに近付くためには、まず、この問いに具体的にどのような論点が含まれているかを整理する必要がある。そこで本論では、ニコ・ティンバーゲンが提示した「行動に関する4つのなぜ」の分類を参照しながら、笑いに関する研究の論点の整理をおこなった。具体的には、近接要因(笑いの発生要因・メカニズム)、究極要因(生存・繁殖上の機能)、発達過程、進化史の4つの視点について、どのような研究がおこなわれているかを概観した。それぞれの領域において、どのような問題が未解決のまま残されているかにも触れた。究極要因と進化史についての研究がやや遅れているが、今後の発展の余地が大きく残されていることを示した。
著者
遠藤 謙一郎
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.93-102, 2015-08-01 (Released:2017-07-21)

日本の文化・生活における「間(ま)」の重要性については、いろんな分野で研究されている。話芸においても、無言・沈黙の時間の「間」が述べられている。今回、落語の「間」を考えるときに、特に意図的に短縮された時間もしくは一切省略された「間合い」が多用されていることに着目し、これを「端折りの間合い」とよび検討を加えた。その「端折りの間合い」を具体例にて3つの類型に分けて提示し、イ.ながれ、ロ.かぶせ、ハ.いきなり、と分類してその演技上の効果について解説を試みた。

3 0 0 0 OA 祭礼の笑い

著者
浦 和男
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.5-18, 2015-08-01 (Released:2017-07-21)

日本には落語、漫才などさまざまな笑いの文化があるが、一番身近なものは伝統的な祭礼で見る事ができる笑いである。伝統的な祭礼は厳格に執り行われていると思いがちだが、実は笑いにあふれている。笑う祭礼、笑うことを意図する祭礼、笑いを意図しないにもかかわらず、笑ってしまう祭礼など、日本の民俗社会の祭礼は、本来どこかに笑う場面が必ずあったと言われている。本稿では、本学会『笑いの民俗行事』プロジェクトが提案した祭礼の笑いのカテゴリーを検証し、祭礼における笑いの役割を考察する。祭礼では、ただおかしいから笑うというのではなく、その笑いには意味があり、それは日本人の笑い観にも影響を与えてきたと考えることができる。祭礼、行事についての民俗学的研究、文学的研究、あるいは、アジア諸国の祭礼、行事との比較文学、比較文化的、文化人類学的考察に関する先行論文は多数あるが、祭礼の笑いについて論じた先行研究はほとんどない。

3 0 0 0 OA 笑いと看護

著者
小林 廣美
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.62-69, 2013-08-31 (Released:2017-07-21)

看護師の「笑い」の効用は、「患者さんを主役」にし、「あなたを受け入れます」につながる。つまり、「患者さんの主体性の発揮」と「その人が持っている可能性の発揮」につながる。患者さんの治癒過程の中で、患者さんの一番身近にいる「キーパーソン」である看護師が笑顔で対応するということで、他部門や保健・医療・福祉との人的環境の中で連携がスムーズになり、健康上の問題の解決につながりやすい。また、病気のために基本的ニーズが満たされなくなった時の援助は笑顔の看護師さんだと安心して頼むことができる。看護師は「笑い」の効用を認識し、看護の場面において、患者さんが笑える場の環境づくりも重要である。生命を脅かされている場面、苦痛が生じている場面、日常生活が自分でできない悲しさなど、患者さんが体験する場面を共有し、共に乗り越えていくその先には、患者さんの笑顔が見える。その笑顔に会いたくて日々看護している。
著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.46-55, 2012-07-21 (Released:2017-07-21)

動物の「笑い」に関するさまざまな記述を整理しながら、動物の行動を「笑い」と認める場合の基準について議論した。ある動物が「笑っている」ということを認めるためにはまず、その行動が生じる社会的文脈が、ヒトの笑いが生じる文脈と似ているということを示す必要がある。表情や音声などの行動形態の類似から、動物が「笑っているようだ」と思ってしまう例も多いが、それが見られる文脈にヒトの笑いとの類似性が認められない場合には、それを「笑い」と見なすべきではない。ヒトの笑いと進化的に同じ起源を持つ行動なのかどうかを問う場合には、行動の類似性だけでなく、種間の系統関係との対応についても検討する必要がある。ヒトの笑いと起源が同じと考えられる行動としては、仲間同士の遊びにおける類人猿の笑い声が挙げられる。
著者
札埜 和男
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
no.15, pp.186-189, 2008-07-12
著者
白石 よしえ
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.128-140, 2012-07-21 (Released:2017-07-21)

予備校という教育現場で20年以上教えてきたが、「『笑い』のある授業はクラス運営に有効である」と常に感じており、それゆえ「笑い」を意識して授業を行ってきた。この研究ノートでは、「笑いを教育現場に持ち込めば、なぜ、クラス運営がうまく行くのか」という疑問に対して、動機づけ理論の1つである「反転理論」の立場から、そのメカニズムを論じることで答えたいと思う。
著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.17-31, 2013-08-31 (Released:2017-07-21)

産まれたばかりの新生児は、睡眠中にときおり「自発的微笑」と呼ばれる笑顔に似た表情を見せる。ヒトの胎児や、チンパンジーの新生児にもこの表情が見られることがわかっている。本稿では、この自発的微笑にとくに注目しながら、新生児と乳児の笑いの発達と進化について論じた。前半で、ヒトとチンパンジーの自発的微笑と社会的微笑の発達過程についてまとめた。後半ではいくつかの末解明の問題に焦点を当てて考察し、今後の研究の課題と展望を示した。(1)自発的微笑は快の表出なのかどうか、(2)自発的微笑と社会的微笑は発達上どのような関係にあるのか、(3)自発的微笑はなぜ進化したのか(どのような機能を持つのか)という問題について考察した。さらに、チンパンジーとの比較を元に、見つめ合いのコミュニケーションの発達が、ヒトの笑いの表出と他者の笑いへの反応性に大きな変化をもたらした可能性があるということについて論じた。
著者
野村 亮太
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.32-43, 2013-08-31 (Released:2017-07-21)

健やかに楽しく生きるための資源として活用しやすい落語の楽しさを説明する観点として没頭体験に着目し,落語没頭体験尺度を作成した。17歳から23歳の高校生・大学生75名(男性48名,女性27名)を対象に調査を行い,信頼性・妥当性を検討した。噺の世界に入り込む主観的な感覚と五感の作用および生理的反応が生じる頻度について尋ねる21項目で構成された本尺度は高い内的整合性を示した。また,この尺度はメディアを視聴する場合よりも対面状況においてより没頭体験が生じやすいことを測定できることから,一定の妥当性が示された。なお,尺度得点に性差や年齢差は見られなかった。これを基に作成された10項目で構成され短時間で実施できる短縮版尺度は本尺度と同様の信頼性・妥当性を示すとともに,本尺度をよく予測できた。これらの結果は,落語鑑賞時の楽しさにみられる個人差とこれが心身の健康に与える効果という観点から議論された。
著者
福島 裕人 橋元 慶男
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.75-82, 2014-08-02 (Released:2017-07-21)

人がどのような種類の笑いを好んでいるかという,笑いの傾向を測定するための「笑いの態度尺度」の試作を行った。予備調査では大学生39人を対象に(1)積極的に相手を笑わせる,(2)積極的に自分が笑うことを好む,(3)人に合わせて愛想笑いをするという観点から質問項目を設定し,因子分析によって項目選定を行った。本調査では大学生119人を対象に予備調査で作成した項目を用い,傷つけ合い回避尺度と日本版GHQ精神健康調査票との関連を検討することで,本尺度の構成概念妥当性について検討した。その結果,3因子19項目が採用され,それぞれ「人の笑い話によく反応する」などの“受け身的笑い”因子,他者を積極的に笑わせようとする“積極的笑わせ”因子,「たいしておかしくもない冗談に笑顔で返す」などの“愛想笑い”因子と命名した。内的信頼性や構成概念妥当性の検討では,概ね良好な結果が得られたと考えられた。しかしまだまだ不十分な点も多く,今後更に精度を高めていくことが期待される。
著者
ブッシュネル ケード
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.17-32, 2017 (Released:2018-01-13)

本研究では、会話分析の手法を用いて、日本語を第2言語とする観客が落語会でいつ、どのように笑うか、また笑うことによってどのような知識を主張するか検討する。データは外国人留学生向けに行われた落語会で収集したものである。分析では、①外国人の観客向けの落語会で演じられていた落語の構造的特徴である「ボケ+ツッコミ」というのがいかに笑いを適切な位置に産出するための探索の枠組みとなり得たかを示し、そして②観客、及び落語家を含める参加者がどのように「ボケ+ツッコミ」の出現によって可視化される「笑う位置」に「笑う」という行為を協同達成するかを示す。最後に、Sacks(1989)のアメリカ英語における冗談に関する研究と比較し、「笑う位置に笑う」という行為が、笑える要素を「理解した」という主張とどのように関わるかを検討していく。