- 著者
-
伊藤 由紀子
- 出版者
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
- 雑誌
- 日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
- 巻号頁・発行日
- vol.117, no.5, pp.681-687, 2014-05-20 (Released:2014-06-20)
- 参考文献数
- 12
- 被引用文献数
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スギ花粉症患者や医療従事者にとっては, 花粉飛散数の予測値以外に, 花粉の飛散期間, 最盛期の時期, 終了時期などの飛散パターンも抗原回避や治療の計画に役立つ有益な情報である. 今回はスギ花粉の飛散パターンの分類を行い, 飛散パターンの実例を示した. 空中花粉調査は1987年から2012年までダーラム法で行った. 過去26年間のスギ花粉飛散数を調べた. 各年の2月上旬~4月下旬までの1旬あたりの花粉飛散数を変数としたクラスター分析を行った. クラスター分析の結果, 飛散数の少ない谷の年11年は1群にまとまり, 飛散数の多い山の年15年は2A, 2B, 2C群に分類された. 1群ではほぼ左右対称の飛散パターンであり, 3月下旬には飛散数が速やかに減少した. 2A, 2B群は最盛期より後半に多く飛散するタイプ, 2C群は最盛期より前半に多く飛散するタイプであった. 2A群では3月下旬の飛散割合が非常に高く, 引き続きヒノキの最盛期に移行した. 本格飛散日数は1群, 2A, 2B, 2C群ではそれぞれ38, 47, 47, 51日であった. 2群は1群より約10日長かったが, 2A, 2B, 2C間に有意差はなかった. 2A群のように最盛期より後半の3月下旬の飛散量が非常に多いパターンでは引き続きヒノキの大量飛散時期に移行するため, 有症期間の長期化や重症化が懸念された. 飛散パターンという新しい概念を取り入れることで, 花粉症の適切な治療に役立てたい.