- 著者
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林 竜馬
兵藤 不二夫
占部 城太郎
高原 光
- 出版者
- 日本花粉学会
- 雑誌
- 日本花粉学会会誌 (ISSN:03871851)
- 巻号頁・発行日
- vol.58, no.1, pp.5-17, 2012-06-30 (Released:2018-03-30)
- 参考文献数
- 53
鉛-210とセシウム-137法による高精度の年代決定が行なわれた琵琶湖湖底堆積物の花粉分析によって,過去100年間のスギ花粉年間堆積量の変化を明らかにした.また,戦後の造林によるスギ人工林面積の増加と花粉飛散量との対応関係を検討するために,琵琶湖の近隣府県における31年生以上のスギ人工林面積の変化を推定し,琵琶湖湖底堆積物中のスギ花粉年間堆積量の変化との対比を行なった.花粉分析の結果,1900年以前ではスギ花粉年間堆積量が900〜1400grains・cm^<-2>・year^<-1>と比較的少なかったことが明らかになった.1900年以降になるとスギ花粉の年間堆積量が若干の増加傾向を示し,1920〜1970年頃には2800〜3700grains・cm^<-2>・year^<-1>の堆積量を示した.1970年頃以降になるとスギ花粉年間堆積量の増加が認められ,1970年代には4200〜4400grains・cm^<-2>・year^<-1>,1980年代前半には6300〜7100grains・cm^<-2>・year^<-1>に増加した.1980年代後半から1990年代にかけて,スギ花粉年間堆積量はさらに増加し,8300〜13400grains・cm^<-2>・year^<-1>に達した.このような琵琶湖湖底堆積物中のスギ花粉年間堆積量の増加は,31年生以上のスギ人工林面積の増加と同調したものであり,戦後の造林による成熟スギ人工林増加の影響を大きく受けて,多量のスギ花粉が飛散するようになったことを示している.また,琵琶湖湖底堆積物中のスギ花粉年間堆積量の推定値は,相模原市における大量飛散年の空中花粉量の経年変化との整合性も高く,これまで蓄積されてきた空中花粉調査のデータを補間し,より古い時期からの花粉飛散量変化の情報を提供しうるものと考えられる.さらに,琵琶湖堆積物の花粉分析結果を基にした地史的なスギ花粉年間堆積量との比較から,1980年代以降に増加したスギ花粉飛散量と同程度の飛散は3000〜2000年前頃ならびに最終間氷期の後半においても認められた.本研究では,鉛-210とセシウム-137法によって高精度での年代決定が行なわれた過去数100年間の堆積物についての花粉分析を行なうことにより,数10年から数100年スケールでの花粉堆積量変化の記録を復元できる可能性を示した.今後,各地で同様の研究を進めていくことにより,20世紀における全国的なスギ花粉飛散量の変化について明らかになることが期待される.