著者
三上 紗季 山口 泰彦 岡田 和樹 後藤田 章人 松田 慎平
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.121-130, 2009-02-28
参考文献数
32
被引用文献数
3

目的:歯科臨床における簡便で精度の高い睡眠時ブラキシズム(SB)の評価法の実現を目指し,我々はこれまで超小型コードレス筋電図計測システム,BMSを開発し,日中覚醒時の顎運動における測定精度や夜間睡眠時を想定した体動や装置への接触の影響の検討等を行ってきた.本研究ではBMSのSB評価装置としての実用化を図るため,実際に自宅における夜間睡眠時の咀嚼筋の活動を支障なく測定できるかどうかの検証を行った.方法:対象はブラキサー群9名,非ブラキサー群9名で,被験者の自宅にて2日間,右咬筋を対象に測定を行った.2日目のデータを解析の対象とし,最大咬みしめの20%以上の大きさで,0.25秒以上持続するバーストを抽出し,両被験者間で比較した.入眠と起床の確認には,小型睡眠センサー,アクティグラフ(A・M・I社製)を用いた.結果:すべての被験者で,自宅での装置の設定,操作が可能であり,記録されたデータでは筋活動波形の認識,解析が可能であった.稀に混入した通信エラーと考えられるスパイク状のノイズは,データ解析時に識別,除去が可能であった.ブラキサー群と非ブラキサー群の筋活動の比較では,睡眠1時間あたりのバースト数,バースト時間,バースト積分値において,ブラキサー群は非ブラキサー群と比較して有意に大きな値を示し,それぞれ前者は後者の6.3倍,3.2倍,2.5倍だった.バースト毎の持続時間の平均値は,ブラキサー群は非ブラキサー群と比較して有意に小さな値を示した.バーストRMS値,睡眠時間については両群間で有意差は認められなかった.結論:BMSを用いた測定では,ブラキサー群と非ブラキサー群の自宅における夜間睡眠時の咬筋筋活動波形の認識,解析が可能なことが示され,BMSは睡眠時の臨床的な咬筋筋活動モニターとして実用可能な装置と考えられた.
著者
大川 周治 篠原 希和 橋原 真喜夫 足立 真悟 操田 利之 小村 育弘 吉田 光由 西中 寿夫 八塚 信博 阿部 泰彦 津賀 一弘 赤川 安正 福場 良之
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.33-44, 1994-12-21 (Released:2010-10-13)
参考文献数
12
被引用文献数
1 7 2

今回我々は, JTバレーボール部に所属する男性10名 (平均年齢24.7歳) , 及び湧永製薬ハンドボール部に所属する男性10名 (平均年齢25.3歳) を用いて, バレーボールのスパイク時ないしハンドボールのシュート時における咀嚼筋の活動様相をテレメータにより記録分析するとともに, 記録された咀嚼筋の活動様相とスパイク・フォー・ムないしシュート・フォームとの関連性について分析した.その結果, スパイク時及びシュート時における明らかな咀嚼筋筋活動の発現が被験者全員に認められた.しかも, 運動動作の強弱に同調して, 咀嚼筋筋活動も変化した.これらのことから, バレーボールのスパイク動作及びハンドボールのシュート動作と咀嚼筋機能との間には密接な関連があることが明らかとなり, スポーツにおける全身運動に咀嚼筋が関与している可能性が示された.
著者
宮脇 正一
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.16-20, 2006-10-30

ブラキシズムとは,咀嚼筋群が何らかの理由で異常に緊張し,上下の歯を無意識にこすり合わせたり,くいしばったり,連続的にカチカチとかみ合わせたりする習癖で,歯科医学の分野では,異常機能活動(parafunction)と考えられている.また,睡眠医学の分野では,睡眠時ブラキシズムは睡眠時随伴症(parasomnia)に分類されている.ブラキシズムは,歯ぎしり音による同居者への睡眠妨害の他に,歯の咬耗や楔状欠損等に起因する知覚過敏,補綴物の破損,歯周病の悪化,歯根吸収,歯肉退縮,咬筋肥大,咀嚼筋の疲労感やこわばり,一時的な頭痛および顎関節症等の様々な口腔疾患を引き起こすことが報告されている.さらに,ブラキシズム患者は子供に多く認められ,その後経年的に頻度が低下すると報告されている.ブラキシズムの関連因子として,これまで,微小覚醒などの睡眠時の覚醒現象,睡眠時無呼吸,脳内神経伝達物質,喫煙,カフェイン摂取,ストレス,遺伝的・家族的要因,身体運動ならびに体位などが報告されてきた.これらに加えて,私共はブラキシズムが嚥下や胃食道酸逆流と関連があるかもしれないことを報告した.本稿では,このようなブラキシズムに関する基礎的なことに加えて,新たな消化器内科学的考え方について記す.
著者
加藤 均 古木 譲 長谷川 成男
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.119-127, 1996-01-31
被引用文献数
30

硬い食品の咀嚼時に破砕を行う部位を確定するために, 試験食品としてストッピングを用い, これを舌上に乗せて任意の位置での噛みしめを行わせた.5回の噛みしめで, 噛みしめ部位は多くの被験者で一定していたので, これを主機能部位と名付けた.24側の被験例について主機能部位の観察を行い, 以下の結論を得た.1.主機能部位は多くの被験例で対合する上顎第1大臼歯口蓋側咬頭と下顎第1大臼歯頬側咬頭内斜面の間に存在していた。2.主機能部位は咬頭嵌合位において最も緊密な咬合関係を示す部位に一致していた.3.主機能部位は, 咬頭嵌合位での咬合関係の変化に伴って, 隣在歯あるいは頬舌的に同一歯牙の他の部位に移動した.
著者
呉本 晃一 前田 照太 井上 宏
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.17-23, 1997-08-30
被引用文献数
1 1

クリッキングやクレピタスなどの顎関節雑音はこれまで多くの研究によって報告されてきたが, その対照となる正常者の顎関節運動音に関する研究は数少ない.我々は正常者の顎関節運動音の性状を明らかにし, またコンタクトマイクロフォンにより測定する場合, どの様な要因に影響を受けるかを明らかにすることを目的として実験を行った.被検者は自覚的他覚的に顎関節に異常を認めず, 聴診および触診においても顎関節に雑音を認めない正常有歯顎者9名とし, 測定部位を4カ所に設定し, 開口速度も3段階に変化させた.顎関節運動音とマイクロフォンの揺れはコンタクトマイクロフォンとそれに外付けした加速度計を用いて観察した.その結果, 1.正常者の顎関節運動音は30Hz以下に限局した周波数分布を示し, 2〜4Hz付近にピーク周波数をもつことが明らかとなった.2.コンタクトマイクロフォンによる正常者の顎関節運動音は関節内部の音とともに顆頭運動に伴う顎関節の動きをもとらえていることが推察された.3.測定部位の違いにより顎関節運動音は周波数分布が変化し, 開口速度の違いにより運動音の大きさが変化することが明らかとなった.4.マイクロフォンの揺れ(加速度)からみて, 顎関節運動音は平均的顆頭点の前方20mmの位置で測定することが最適であると考えられた.
著者
後藤田 章人 山口 泰彦 岡田 和樹 松樹 隆光
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.93-102, 2007-02-28
被引用文献数
2

本研究の目的は,咀嚼筋活動や顎位など管楽器演奏時の顎機能の特徴を明らかにし,管楽器演奏により顎関節や咀嚼筋へかかる負荷を検討することである.被験者として金管楽器奏者18名,木管楽器奏者12名を対象に管楽器演奏時の咬筋,側頭筋,口輪筋,顎二腹筋の筋電図測定,および下顎切歯点の移動距離の測定を行い,以下の結果を得た.1.口輪筋,顎二腹筋の筋活動量は比較的大きかったが,咬筋,側頭筋の活動量は最大咬みしめ時に比較すると極めて小さかった.2.音量の大小で各筋の活動量に明らかな変化はなかった.3.金管群と木管群の楽器群間では咬筋,側頭筋,顎二腹筋の筋活動量に明らかな差はなかったが,金管群の方が咬筋活動量の個人間のばらつきが大きかった.4.下顎切歯点については,木管群の方が下方への移動量が大きかったが,移動方向の個人間のばらつきは金管群の方が大きかった.以上より,一般的な楽器演奏では閉口筋の緊張は僅かであり,顎関節への圧縮方向の力の負荷は少ない可能性が示唆されたが,個人差の影響についての今後の検討が必要と考えられた.
著者
小林 義典
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 = The Journal of Japanese Society of Stomatognathic Function (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.95-120, 2009-02-28
参考文献数
322
被引用文献数
3

増大かつ持続する睡眠時ブラキシズムは,口腔領域あるいは一部関連する領域の問題ではなく,睡眠や自律機能に関連する重大な生体の問題として考えなければならない.また,睡眠時無呼吸症候群の歯科的なアプローチは,医科の専門領域との連携が必須であり,慎重な対応が必要である.本稿で示した今までの研究と臨床の知見は,口腔感覚が睡眠時ブラキシズムと睡眠時無呼吸の種々な部分で重大な役割を演じている可能性を示唆している.これらを脳・睡眠・疼痛のメカニズムに関連づけて究明すべく,分析を進めれば,睡眠時ブラキシズムと睡眠時無呼吸の解明の緒となる貴重な資料を提供してくれるだろう.
著者
志賀 博 小林 義典 荒川 一郎 横山 正起 雲野 美香
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.25-29, 2005-10-30

目的: 食品の味の違いが咀嚼時の脳内血流に及ぼす影響を明らかにする目的で, 健常者に味の異なるグミゼリーを咀嚼させた時の脳内血流について分析した.方法: 健常者10名(男性5名, 女性5名, 22〜34歳, 平均年齢24.8歳)に味の異なる3種類のグミゼリー(普通, 甘い, 苦い)を主咀嚼側で20秒間咀嚼させた時の両側の脳内血流を浜松ホトニクス社製近赤外分光装置NIRO-300^[○!R]を用いて記録した.なお, 近赤外分光装置の測定プローブは, 照射部と受光部の距離を4cmとし, 両側の咀嚼運動野相当部の皮膚上に毛髪をかき分けて, 開閉口運動に最も反応する位置に設定した.分析は, はじめに各グミゼリーの咀嚼前, 咀嚼中, 咀嚼後の脳内血流の経時的変化を調べた.次いで, 咀嚼前と咀嚼中との脳内血流の変化量について, 食品間で比較した.結果: 脳内血流は, いずれのグミゼリーでも咀嚼中に有意に増加したが, 咀嚼終了後に減少し, 咀嚼前の状態に回復する傾向を示した.また, 脳内血流量は, 苦いグミゼリー咀嚼時が最も少なく, 甘いグミゼリー咀嚼時, 普通のグミゼリー咀嚼時の順に多くなり, 食品間に有意差が認められた.結論: 脳内血流は, 咀嚼運動によって増加すること, また食品の味の違いは, 脳内血流の増加の大小に影響を及ぼすことが示唆された.
著者
大倉 一夫
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.139-145, 2000-08-31

ブラキシズムは睡眠時の口腔習癖として古くから知られており, 歯周疾患, 歯の過度な咬耗, 顎機能障害などに影響を与えると考えられている.ブラキシズムを理解することは臨床的に重要であるが, 現在においてもブラキシズムの詳細については未解明の点が多い.本文の目的は睡眠時ブラキシズムを研究あるいは治療の対象とする際の問題点や方法論に関して, 当教室で行われたブラキシズムの研究を例として解説することにある.主に以下の項目について述べる.1.ブラキシズムとは何か?2.ブラキシズム測定上の問題点3.ブラキシズム解析上の問題点4.治療を考慮したブラキシズム把握法5.今後の展望
著者
大倉 一夫
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.139-145, 2000-08-31 (Released:2010-10-13)
参考文献数
28

ブラキシズムは睡眠時の口腔習癖として古くから知られており, 歯周疾患, 歯の過度な咬耗, 顎機能障害などに影響を与えると考えられている.ブラキシズムを理解することは臨床的に重要であるが, 現在においてもブラキシズムの詳細については未解明の点が多い.本文の目的は睡眠時ブラキシズムを研究あるいは治療の対象とする際の問題点や方法論に関して, 当教室で行われたブラキシズムの研究を例として解説することにある.主に以下の項目について述べる.1.ブラキシズムとは何か?2.ブラキシズム測定上の問題点3.ブラキシズム解析上の問題点4.治療を考慮したブラキシズム把握法5.今後の展望
著者
大竹 博之 河野 正司 松山 剛士 土田 幸弘 荒井 良明 金田 恒
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.131-138, 1997-01-30
被引用文献数
7

咀嚼運動や下顎のタッピング運動時には, 下顎運動に協調して, 下顎と同一の周期を示す頭部運動が存在している.その中でタッピング運動に観察される頭部運動は, 開口時には上方へ, 閉口時には下方へと相対する運動方向を示し, その垂直的運動量は開口量の約10%であることが報告されている.一方, 顎機能障害症例においては, 種々の下顎運動の障害が存在することから, 下顎の運動に附随した頭部運動が存在しているか否か大いに興味があるが, いまだその報告はない.そこで著者らは, 顎機能障害症例の行う習慣的タッピング運動時に, 下顎運動と協調した頭部の周期的な運動の存在の可否を検索し, 正常者の頭部運動と比較することとした.習慣的タッピング運動の測定に際しては, 頭部固定装置やヘッドレストを一切用いず, 頭部を拘束することなく行った.また, 顎機能障害症例の行うタッピング運動は開口量および頻度の指示を一切行わず, 「リズミカルに開閉口運動を行って下さい」と指示し, 被験者が楽に行えるものとした.その測定結果において, 正常者では見られなかった頭部の運動様相が観察された.その運動について上下成分を時系列描記して, その波形を単峰性, 多峰性, 無峰性に分類し, それぞれの出現率を求めた.その結果, 1.顎機能障害症例における頭部運動は, 下顎との協調性を示す単峰性の運動が79%を示し, その他は多峰性あるいは無峰性を示し, 正常者とは異なった.2.臨床検査に見られる痛みに関する症状と頭部運動の出現率の低下には関連がみられた.3.正常者に比較して顎機能障害症例では, 頭部運動の出現率が低いことから, 頭部運動は下顎の機能運動を円滑に遂行するための随伴運動であると考えられる.以上の結果より, タッピング運動時の頭部運動様相は顎機能障害症例と正常者で異なり, 頭部運動が下顎の機能運動に協調した運動であることが確認できた.