- 著者
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岡村 収
- 出版者
- 日本魚類学会
- 雑誌
- 魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
- 巻号頁・発行日
- vol.13, no.4-6, pp.103-111, 1966-07-31 (Released:2010-06-28)
- 参考文献数
- 19
本報において日本産タラ目魚類2亜目4科11種の脳形が調査された。その結果, タラ目魚類は独特の脳形をもつこと, および脳形は亜目ならびに科の分類形質として非常に重要であることが判明した。さらに脳形に反映された各科魚類の一般的な習性・行動もあわせて考察された。1. 従来タラ科魚類については指摘されていたように, タラ目魚類の脳では嗅球は常に嗅葉から遊離し, 嗅索によって後者につながる。2. タラ亜目では嗅球は前頭蓋腔内にあり嗅神経によって嗅嚢につながる。また1対の嗅索は左右に巾広く分れておりかつ眼窩には決して入らない。下垂体は扁平で, 腹面観においてシャベル状を呈する。いっぽう, ソコダラ亜目では嗅球は前頭蓋腔を出て鼻窩に入り嗅嚢に密着する。したがって, 嗅球と嗅嚢の間には単一の嗅神経束が認められない。さらに左右の嗅索は互いに上下に重複し, 前方において眼窩に入る。下垂体は塊状で下方に向って突出する。3. サイウオ科では脳全体は円筒形を呈し, 嗅索は短かく, 嗅葉の表面は殆んど円滑で, 小脳体は扁平。下葉, 顆粒突起, 小脳稜および血嚢体はほとんど認められない。延髄は脊髄始部と共に一大肥大部を形成する。チゴダラ科魚類の脳はタラ科魚類のそれによく似ており, 脳全体は側扁し, 嗅索は長く, 嗅葉表面の形は複雑で, 小脳体は大きくて後曲する。下葉, 顆粒突起, 小脳稜および血嚢体はよく発達する。さらに延髄後部はサイウオ類におけるほど肥大しない。ただし, チゴダラ科魚類の脳は端脳が中脳よりもよく発達すること, および各側の嗅索は基部では2叉するが1条からなることなどの点においてタラ科魚類の脳と異なる。ソコダラ科では, 上述した亜目としての形質のほかに, 脳全体がいちじるしく側扁すること, 下葉, 顆粒突起および小脳稜が非常によく発達すること, および各嗅索は基部で2叉するが全体として1条からなることなどが特徴的である。