著者
内田 智士
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.125-133, 2023-03-25 (Released:2023-06-25)
参考文献数
35

中枢神経系難治疾患は、mRNA医薬の有力な標的であるが、デリバリーが課題である。送達経路として、脳実質や脳脊髄液への局所投与、全身投与からの血液脳関門(BBB)を介した送達、nose-to-brain経路があげられる。高分子ミセルは、中枢神経系への局所投与において、炎症反応を伴うことなく効率的なタンパク質発現を誘導し、モデル動物に対して治療効果を示した。例えば、アミロイドβに対する抗体断片のmRNAのマウス脳室内投与により、脳内アミロイドβ量が減少した。CRISPR/Cas9系のCas9タンパク質およびガイドRNAをマウス脳実質内に投与することで、in vivoゲノム編集に成功した。一方で、より低侵襲かつ簡便な投与を目指し、BBB経由やnose-to-brain経路によるmRNA送達システムも開発されている。
著者
岡本 彩香 浅井 知浩 奥 直人
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.54-61, 2016-01-25 (Released:2016-04-25)
参考文献数
20

統計的に日本人の3人に1人以上が罹患するといわれるがんは、我が国の死因別死亡率の第1位を占めており、より有効な抗がん剤の開発が望まれている。筆者らは、低分子医薬、抗体医薬に次ぐ抗がん剤シーズとして、がんにおける異常なシグナル伝達を特異的に遮断し、がん細胞を選択的に細胞死へと導きうる核酸分子、特に低分子2本鎖RNAに着目した。2本鎖RNAの臨床応用にはDDS技術が不可欠であることが広く認識されている。筆者らはリポソームや脂質ナノ粒子を核酸のDDSに応用し、がん選択的な核酸送達および効率的なRNA干渉の誘導を示してきた。本稿では、筆者らが開発したポリカチオンリポソームや抗体修飾脂質ナノ粒子を用いたがんへの核酸送達について、近年の知見を紹介する。
著者
小林 久隆
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.274-284, 2014-09-25 (Released:2014-12-25)
参考文献数
17

より特異的な癌イメージングは、より正確な治療を可能にし、さらに超特異的癌治療は、癌に対しては強力でありながら、患者の体に対してはやさしい治療になりうるはずである。より良い癌の臨床を追い求める医学研究者として、さらなる「病気に厳しく、患者の体に優しい」方法の開発が、究極の目標である。この稿では、私たちの研究室で行ってきた特異性を重視した次世代のイメージング方法論、さらに造影薬剤作成と利用の基本理念と方向性を解説したい。加えて、次世代のイメージング技術の新たな進化形である、超特異的癌治療「近赤外光線癌治療」の開発理念と特徴、さらにそのさまざまな応用法についても触れたい。
著者
大山 力 加藤 哲郎
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.18, no.5, pp.431-437, 2003-09-10 (Released:2008-12-26)
参考文献数
22

ホルモン製剤DDSの代表的薬剤として黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH-RH)徐放性注射剤(リュープリン®)があげられる. 本剤は, 高活性LH-RH誘導体の1カ月あるいは3カ月間徐放性薬剤で, 1回の注射で長期間にわたって薬物を放出し, 前立腺癌, 乳癌, 子宮内膜症, 子宮筋腫, 中枢性思春期早発症などのホルモン依存性疾患の治療法として臨床の場で広く用いられている. 本剤の開発から臨床応用までの経緯を当初の対象疾患であった前立腺癌を中心に紹介した.
著者
清水 達也
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.18-27, 2021-01-25 (Released:2021-04-25)
参考文献数
38
被引用文献数
1

再生医療を牽引してきたティッシュエンジニアリング(組織工学)は多様化しており、さまざまのアプローチが開発されている。当研究所では「温度応答性培養皿」を用いて、温度を下げるだけで細胞をシート状に回収、単層あるいは積層化して3次元化した組織を移植するという独自の手法「細胞シート工学」を開発してきた。すでに7つの領域で細胞シート移植による再生治療が臨床応用されている。また細胞シート積層化により心筋組織を代表とする機能的な立体組織の構築を実現、血管網付与技術によるスケールアップに挑戦している。さらに細胞シート工学は、創薬・疾患研究に必要な組織モデルの構築や近年話題となっている培養肉の生産にも応用されており、未来に向けた新たな展開も始まっている。
著者
阿部 隆之 谷 英樹 松浦 善治
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.608-615, 2009 (Released:2010-02-16)
参考文献数
27

バキュロウイルスは,環状の二本鎖DNAを遺伝子に持っている昆虫を宿主とするウイルスであり,現在,大腸菌発現系と同様にさまざまな組換え蛋白質の発現系システムとして広く汎用されている.その一方で,近年,複製はしないが,広範囲な哺乳動物細胞にも感染できることが示され,新しい遺伝子導入ベクターとしての有用性が期待されている.これまでに,筆者らは,バキュロウイルスのウイルスベクターワクチンとしての評価を検討したところ,バキュロウイルス自身に哺乳動物細胞に自然免疫応答を誘発できることを見いだした.近年同定された,自然免疫認識分子であるToll様受容体は,さまざまな病原微生物由来の構成因子を認識し,炎症性サイトカインやインターフェロンを誘発して生体防御反応に寄与することが知られている.さまざまなToll様受容体およびそのシグナルアダプター分子であるMyD88を欠損した免疫細胞内では,バキュロウイルス感染に伴う炎症性サイトカインの産生が著しく減少することが示されたが,インターフェロンの産生は正常であることが確認された.Toll様受容体非依存的にインターフェロンを産生する分子としてRNAヘリケースであるRIG-IおよびMDA5が同定され,さまざまなRNAおよびDNAウイルス感染に対するインターフェロンの発現制御に関与していることが報告されている.しかしながら,バキュロウイルスによるインターフェロンの産生はこれらRNAヘリケースにも非依存的であることが示され,既報のシグナル経路とは異なる機序にてインターフェロンの産生が制御されている可能性が示唆された.
著者
横田 美幸
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.498-504, 2005-09-10 (Released:2008-12-09)
参考文献数
12

本稿では, 痛みの基本的なメカニズムを概説し, 急性痛, 特に手術後の痛みにどのような疼痛対策があるかを述べた. さらに, 最近のDDSの進歩により, control release opioidが発展し, 種々の製剤が臨床導入されている. 術後疼痛は, 手術が行われた部位で, 手術中より内因性発痛物質が放出·形成されていることによる. 硬膜外麻酔, 持続鎮痛法, PCA, 持続静脈内鎮痛法(CIVPCA), 持続皮下注(CSC)などの多様性のある鎮痛方法がある. これらの鎮痛方法は, 疼痛コントロールのみならず合併症, 罹病率, 死亡率からも有用であると考えられる. 周術期の疼痛対策は, がん性疼痛コントロールに応用されてきた.
著者
内田 良一
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.252-258, 2018-09-25 (Released:2018-12-25)
参考文献数
33
被引用文献数
1

長鎖アミノアルコールと長鎖脂肪酸がアミド結合して生成されるセラミドは、スフィンゴリン脂質とスフィンゴ糖脂質の母骨格を形成する。セラミドとしても細胞と細胞内小胞器官を覆う脂質二重層膜の少量ながら構成成分となる。一方、皮膚の最外層を覆う表皮の角層細胞間において、鎖長と水酸基化度の違う酸アミド結合型脂肪酸とスフィンゴシン塩基の違いによる多様な分子種からなるセラミドは物質透過バリアの主要な構成成分となる。これら構造物的な役割に加えて、セラミドとその代謝産物のスフィンゴシン-1-リン酸やセラミド-1-リン酸は生理活性脂質(脂質メディエーター)として、細胞の増殖、分化、細胞死、および自然免疫の調節を介して、生体の機能維持に重要な役割を果たしている。
著者
辰巳 佐和子 金子 一郎 瀬川 博子 宮本 賢一
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.408-416, 2014-11-25 (Released:2015-02-27)
参考文献数
26
被引用文献数
1

無機リン酸(以下リン)は、細胞膜構成、エネルギー代謝、酵素反応を含むさまざま生理学的機能に必須な栄養素である。血中リン濃度の維持は主に腎臓、腸管および骨が担っている。そしてリンを輸送するトランスポーターの働きによって厳密に制御されているのである。このトランスポーターの発現調節は、古典的にはリン調節ホルモンである副甲状腺ホルモン(PTH)、1,25-dihydroxyvitamin D3によって知られてきた。近年、最初に同定されたフォスファトニンであるfibroblast growth factor 23(FGF23)のリン利尿作用についての研究が飛躍的に進んだ。FGF23は骨細胞から分泌され遠隔臓器である腎臓に作用しリン排泄を制御することから、リン代謝における骨腎連関が重要であることが認識された。本稿では多臓器にわたる生体内リン恒常性維持機構について最近の知見を加えて概説する。
著者
髙橋 葉子 丸山 一雄 根岸 洋一
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.116-123, 2019-03-25 (Released:2019-06-25)
参考文献数
27

遺伝子・核酸医薬が臨床応用されるうえで、標的組織および標的細胞へのデリバリー技術の開発は重要課題である。近年、物理エネルギーのなかでも超音波を利用したデリバリーシステムはその安全性の高さから注目されており、ナノバブルやマイクロバブルを併用することで、造影効果のみならず薬物・遺伝子・核酸デリバリー効果の増強の可能性が示されている。筆者らは、超音波造影ガスを封入したリピッドバブルを開発し、種々の疾患モデルマウスを用いて遺伝子・核酸デリバリーツールとしての有用性を評価してきた。本稿では、超音波による診断と治療を融合したシステム(セラノスティクス)構築に向けた現状について概説するとともに、筆者らが開発したリピッドバブルによる遺伝子・核酸デリバリー効果とその治療への応用を紹介する。
著者
山西 弘一
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.151-158, 2008 (Released:2008-06-18)
参考文献数
20

新型インフルエンザなどの新興感染症の出現が危惧されている現在,新たなコンセプトに基づくワクチンの開発が要望される.従来のワクチンは小児を対象としたものが主であったが,最近では思春期を対象としたパピローマに対するワクチンや,成人や高齢者を対象とした帯状疱疹ワクチンも開発されてきた.今後は遺伝子組換えワクチン,DNAワクチン,ポリペプチドワクチンの開発とともに,投与法の改良として粘膜ワクチン,免疫をより効果のよいものにし,副反応の少ないアジュバントの開発が急がれる.
著者
今井 輝子
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.422-432, 2015-11-25 (Released:2016-02-25)
参考文献数
12

プロドラッグやアンテドラッグ/ソフトドラッグは薬物代謝を利用した分子修飾体であり、薬物の薬剤学的・薬理学的特性の改善を目的としている。低分子医薬品の開発が低迷している今、これらの分子修飾は創薬方法の1つとして再認識されている。いずれも代謝予測が容易なエステル化合物として設計されるが、エステラーゼの発現・機能に関する情報が少ないことが、開発のボトルネックとなっている。エステラーゼの機能解析・臓器発現に基づくデザイン方法、さらに、動物種差の問題を克服した体内動態予測のためのツールを見出すことが、これらの分子修飾体の開発に重要である。本稿では、プロドラッグおよびアンテドラッグ/ソフトドラッグの例を紹介し、加水分解酵素の基質認識性、臓器分布、動物種差などについて概説する。
著者
杉林 堅次
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.201-209, 2016
被引用文献数
1

経皮吸収型製剤(TDDS)を多くの薬物に応用するためには、皮膚透過促進技術の利用が必須となる。一方で、最終的な医薬品とするためには、バイオアベイラビリティや吸収速度をあらかじめ予測した値にするため、コントロールドリリースの機能も必要となる。本稿では、TDDSのこの40年の開発研究から、経皮吸収促進剤の利用研究やイオントフォレシスやマイクロニードルなどの物理的吸収促進法の研究までについて紹介する。また、これら吸収促進法との併用により、ようやく本来の意味のコントロールドリリース能を持ち、高いバイオアベイラビリティを有するTDDSの開発が可能になりつつあること、さらにはモノのインターネット(IoT)の概念を導入したTDDSについて述べ、これら新規なTDDS(TDDS-IoT)が医薬品製剤の中心を担う可能性について論述する。
著者
朝倉 こう子 濱﨑 俊光
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.474-484, 2015-11-25 (Released:2016-02-25)
参考文献数
12
被引用文献数
2
著者
河合 敬一
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.164-175, 2012-07-30 (Released:2012-10-30)
参考文献数
21
被引用文献数
1 6

イオントフォレシス法にエレクトロポレーション法を併用した経皮デリバリー法(メソポレーション法)を用いることにより、経皮吸収促進効果が飛躍的に改善できる。本稿では、メソポレーション法とその皮膚科学的応用結果について紹介する。
著者
和田 和洋 森下 竜一
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.579-589, 2010 (Released:2011-02-25)
参考文献数
37

近年,核酸医薬品が次世代の分子標的薬として注目され,様々な疾患の分子レベルでの機構解明を目的とした研究に基づき,その有効性が検証され臨床応用への期待が高まっている.DDSを適用し,目的とする臓器・組織へ送達,標的分子に作用させることにより,治療できる対象疾患が拡大されうるが,核酸医薬品の開発には,安全性および品質の確保という観点で,低分子化学合成品にはない留意点があり克服しなければならない.本稿では,NFκBデコイオリゴヌクレオチドの開発を中心に,核酸医薬品の開発上の課題とDDS技術適用の試みを紹介する.
著者
菊池 寛
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.51-63, 2014-01-25 (Released:2014-05-29)
参考文献数
47
被引用文献数
3 2

さまざまなDDS(Drug Delivery System)技術が存在し、実際にすでに多くのDDS医薬品が世界で上市され、医療に貢献している。DDS技術は創薬の重要なツールの1つとしての地位を確立したといっても過言ではないし、新薬をなかなか創出しにくくなった昨今では、その重要性がますます高まっている。それぞれのDDSはその特徴に基づいて、長所とともに限界も持っている。DDS医薬品開発を効率的・効果的に進めるためには、各DDS技術の特徴を十分に理解することが重要である。
著者
清宮 啓之
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.24-31, 2006 (Released:2006-08-18)
参考文献数
25
被引用文献数
1 2

染色体末端におけるテロメアの短縮は, DNA損傷応答を惹起して細胞老化を誘導することから, 発がん予防の一翼を担うと考えられている. がん細胞の無限増殖性はテロメラーゼによるテロメア長の維持に依存しているため, テロメラーゼ阻害剤は新たながん分子標的治療薬となりうる. テロメラーゼのテロメア会合を促進すると考えられるタンキラーゼ1もまた, 有望なテロメア分子標的である. テロメラーゼ阻害剤の制がん効果はテロメアの短縮に依存すると考えられてきたが, 最近ではテロメア非依存的な作用メカニズムの存在も示唆されている.