- 著者
-
加藤 孝明
- 出版者
- 東京大学生産技術研究所
- 雑誌
- 生産研究 (ISSN:0037105X)
- 巻号頁・発行日
- vol.64, no.4, pp.429-432, 2012-07-01 (Released:2013-02-23)
- 参考文献数
- 3
2012年1月大手新聞社は科学的知見をもとに「マグニチュード (M) 7級の首都直下地震が今後4年以内に約70%の確率で発生する」と報道した. その後追随したマスコミは, 「東京湾北部地震」を「首都直下地震」として取り扱って報道した. 明らかな誤解である.
ここでいう「首都直下地震」は, 首都圏のどこかで起こる直下型地震のことをいう. 一般に直下地震の強震範囲は限定され, 首都圏全体が強震するわけではない. したがって, ある場所から十分に遠くで地震が起こっても被害は生じない. 4年で70%の発生確率の地震は, そういう地震をすべて含んだものである. 「東京湾北部地震」の発生確率ではないし, ある特定の場所が強震する確率ではない.
今回の一連の報道は, 一見, 社会全体として防災意識を高め, 防災対策の推進に寄与したと言えそうだが, その一方で, 負の側面がある. 科学的な知識が正しく社会に伝わっていない. 対策推進に寄与したことは免責にならない. 科学的に正しい知識をもって防災意識を啓発し, 同時に防災対策を推進できる状況をつくることが本来の状況である.
本稿では, 1月23日報道の情報ソースのいう確率とその後の報道の確率の違いが異なることを解説した上で, 「M7級首都直下地震の発生確率」と「首都圏内のある特定の場所 (或いは, 地域) がM7級首都直下地震によって強震する確率」との関係を示し, 地震の発生確率の適切な提示の仕方について論考する.[本要旨はPDFには含まれない]