著者
西条 昇 木内 英太 植田 康孝
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.26, pp.199-258, 2016-03

2015 年は,アイドルシーンにとって画期的な年であった。ジャニーズやAKB48 を中心としたアイドル・ブームはまだまだ堅調であったが,これが「仮想空間」にも拡大,一般化して「アイドルアニメ」がエンタテインメント市場を席捲した。現実のアイドルは近年,ちょっとでも容姿や体型が落ちるとインターネット上で「劣化」と騒がれてしまうが,アニメのアイドルは「劣化」せず純粋にグループのために頑張る理想の集団としてファンに映り,「ラブライブ!」「アイドルマスター」「うたの☆プリンスさまっ♪」の3 大作品が大ヒット,「ラブライブ!」から派生した声優9 人組によるユニット「μ's(ミューズ)」が2015 年末の「第66 回NHK 紅白歌合戦」に出場,2015 年流行語大賞の候補に熱狂的ファンを表す「ラブライバー」が選ばれるなど社会現象化した。「ラブライバー」が成立した背景には,「ヴァーチャル空間」拡大による「ファン母数増加」と「ファンコミュニティ内つながりの緊密化」の2 点が挙げられる。現代アイドルの魅力は,具体的な素の存在に基づく「現実空間」における「キャラクター」性と,アニメやマンガのキャラクターに通じるように,類型化されたイメージの中から選び取られた「仮想空間」における「偶像」性の二重構造を持っていることにある。「現実空間」における「キャラクター」と「仮想空間」における「偶像」が合致した時,アイドルの魅力は一気に高まる。一方,その乖離が露呈すると,虚構性が興ざめ感を惹起する危険性も兼備する。かつて安室奈美恵やSPEED などアーティスト志向が強かったグループはアイドルとして捉えられることに対し拒絶する動きを見せたが,SNS や動画配信な「ヴァーチャル空間」が拡大してファンとの距離が近く感じられるようになった現在においては,アーティスト然と振る舞うことは逆にカッコ悪く映り,身近に感じさせられるアイドル的行動がファンを増やす点で効果的になっている。ファンになってもらうためには,SNS やイベントを通して「人となり」を伝えることが求められる。アイドルはイベントで握手や写真撮影に応じることに加え,公式サイトやFacebook,Twitter でグループや自らの現況を積極的に発信して,実際に触れ合う「現実空間」とネットを通じた「ヴァーチャル空間」の両空間において,ファンに「楽しみ」を提供している。また,新曲が出るとPV の動画が「ヴァーチャル空間」に流れるため,ファンは無料で身近にアイドルに接することが可能となっている。男性ファンは女性アイドルに対して,潜在的に疑似恋愛的な視線を向ける傾向がある。可愛い女の子が一生懸命全身全霊でファンのために人生の応援歌を歌い踊り演じる。アイドルが頑張るから,自分も一緒に頑張ろうという意識の下,アイドルを応援する。AKB48 で有名な「恋愛禁止」ルールは,個々のメンバーが切磋琢磨し高め合うことに一生懸命であれば恋愛している暇なんてないだろうという意味づけであり,結果として男性ファンの疑似恋愛を守ることに成功している。一方,女性アイドルファンにとって,ジャニーズアイドルを中心とする男性アイドルは理想の恋愛相手という存在に留まらず,別機能を備えた存在となっている。ジャニーズアイドルは,「わちゃわちゃ感」と呼ばれる男性同士の親密さや絆を有する「現実空間」における「キャラクター」をアピールして,アイドルに付随する女性の存在を無化する「偶像」になることに成功している。以前の女性を救い上げる男性イコール王子様,選ばれる女性というジェンダー役割は変質して,男性アイドルは,身近な自分の好みと合致させやすい「キャラクター」であると同時に,自分とは異性愛関係を結べない「偶像」(仮想空間における「偶像」)でもある。女性ファンにとって,男性アイドルは手の届かない遠い「偶像」ではなく,現実空間に極めて近いところにいる「キャラクター」として認識されている。
著者
植田 康孝 磯部 珠緒
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.30, pp.407-418, 2020-03

人工知能を基盤としたデータサイエンス領域の発達は,自然科学分野に留まらず,経営学,社会学,歴史学,文学など文系分野においても,研究手法の変革を起こしている。これら領域においても,動画,写真,絵,文字など様々なメディア要素をデータ化し,ビッグデータや人工知能などの最新技術を応用する動きが広まっている。データサイエンスは,統計学や数学,情報学の考え方を採用して,データのパターンを読み解き,物の見方や判断力を体得する学問である。統計的な解析手法で緻密な分析が出来るようになり,定説を覆したり,思わぬ発見が生まれたりと,若手研究者と学生による研究の質と成果が経験豊富な専門家による既存研究を上回る。例えば,社会学や文学では,様々なデータを回帰分析や時系列分析,主成分分析といった様々な統計手法で関連性を解析する試みが生まれ,過去の蓄積された研究を質において凌駕する。 企業のマーケティングや金融機関の投資などの社会活動は,データに基づいて意思決定がなされる。金融分野,特に投資部門には多数の自然言語処理の専門家が配置され,研究においても実証分析される。彼らは企業経営者の発言など話し言葉をデータに還元して分析する。決算発表の席でCEO の発言がどのような単語を選んでいるかは,有益なデータになり,そこから読み取れる感情が企業における超過収益の源泉となる。同じく文系出身者が多いマスメディア領域,広告領域,エンターテインメント領域は,従来,目に見えないもの,例えば義理や人情,体力や運といったものに左右されて来た。しかし,人工知能の発達によりSNS 上のトピックや投稿からユーザーの属性情報を把握して蓄積し,ターゲットを絞り込み,ニュースや広告を表示できるようになった。音楽においては,自然言語解析を援用したJ-POP やアニソン等の歌詞を対象とした定量的研究が登場した。本論文では,16 作品の「プリキュア」シリーズの楽曲に対し,歌詞をデジタルデータ化した上で形態素解析を施し,語の頻度,特徴語といった観点から歌詞の特徴について考察を行う。アニメの主題歌は本稿の内容を反映して作るという前提の下,主題歌を分析することが本編の内容を分析する際に参考になると捉えた。
著者
植田 康孝
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.27, pp.1-34, 2017-03

「シンギュラリティ(技術的特異点)」とは,人工知能が人間の能力を超える時点を言う。ヒトは自らの学名を傲慢にもホモ・サピエンス(賢明なヒト)と名付けたが,ホモ・スタルタス(愚かなヒト)になる瞬間である。近年の急激な技術進化により「シンギュラリティ」はもはや夢物語とは言えなくなっている。英オックスフォード大学のニック・ボイスロム教授の調査では,「シンギュラリティ」が到来しないと回答した人工知能分野の研究者は僅か10% に過ぎなかった。厚生労働省発表に拠れば,2016 年に生まれた子供の数(出生数)が98 万1,000 人となり,初めて100 万人を割り込んだ。出産に携わる20 ~ 39 歳の女性は2010 年(1,584 万人)から2014 年(1,423 万人)の4 年間で160万人以上減るなど構造的な問題であり,今後も進展する。団塊世代のピーク1949 年には269 万,第2 次ベビーブームのピーク1973 年には209 万人もいたから,半分以下の激減である。猛スピードで少子高齢化が進展する日本では,特定職種における労働力不足が深刻化している。人手不足を解消する,という社会的要請に応じる形で,人工知能の浸透が進む。人工知能に置き換えられる労働人口の割合はアメリカ(47%)やイギリス(35%)と比べて,日本(49%)が最も高い。これは,労働者が比較的守られて来た日本で,置き換えが遅れていたためである。人工知能の進化によって,産業構造や人の働き方が激変する。伴って,近い将来,私たち生活者の価値観や生き方が大きく変わるようになる。人工知能によって労働や生活における問題の大半が解決された場合,人間はどのような悩みを持つ存在になるのか。人工知能の進化は,人間の拠って立つ軸,例えば,信念や価値観,行動の判断基準を変えることを迫る。日本人は子供の頃から「働かざるもの食うべからず」と教えられ,「勤勉」を尊ぶ価値観が日本人の精神には深く根付いて来た。しかし,2016 年女性人気が爆発した深夜アニメ「おそ松さん」は,6 人の兄弟が揃って定職に就かず,遊んで暮らす「脱労働化生活」を送る。全員同じ顔と性格を持つ6 つ子が登場していた原作に対し,それぞれに細かくキャラクタを設定し声優の割り当てを別としたことにより,キャラクタごとに「推し松」と呼ばれる熱狂的な女性ファンが続出し,社会現象となった。人間は,2030 年に到来すると予想される「シンギュラリティ」以降には,仕事を減らすための人工知能が増え,「おそ松さん」的脱労働化生活を送るようになる。「おそ松さん」的ライフスタイルとは,ある程度,物質的な欲望を満たした場合,「モノ」の充足を超えて,文化や芸術,旅行,あるいは自分自身の想い出など,「コト」についての関心を増やすことである。政府がすべての国民に対して最低限の生活を送るために必要とされる現金を支給する「ベーシック・インカム」制度の導入により,お金のために労働する,お金を使って消費するという生活から少しでも自由になることを可能にする。社会のために必要な「仕事」を人工知能が肩代わりしてくれるのであれば,賃金が支払われるだけの「労働」を行うことを中心とした生き方よりも,個性を大切にする生き方の方が余程「人間らしい」と言える。過去の常識に振り回されることを防いで,創造的な行動を行うことが,「おそ松さん」的「脱労働化生活」を実現することである。歴史家ホイジンガが説いた「人間はホモ・ルーデンス(遊ぶ存在)」の体現である。
著者
八木 徹 山口 敏和
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.30, pp.473-485, 2020-03

深層学習を含む機械学習が多くの人にとって身近なものとなり,各々の目的に活用するツールとなっていくことを想定した場合,機械学習を理解して活用できるようにするための教材が重要となる。本研究では,機械学習を体験し,学ぶためのシステムに求められる機能について考察した。さらにScratch 3.0 の拡張機能を活用し,TensorFlow やml5.js といったフレームワークを用いてScratch で機械学習を行うための拡張機能ブロック(Blocks for Machine Learning)を開発した。具体的には,画像分類を行うBML IC(Image Classifier)のほか,分類器にk 近傍法を用いるBML KNN(k-Nearest Neighbor), 転移学習を実行するBML TL(TransferLearning)という3 種類の機能を作成した。さらに,これらの機能を機械学習の体験に活用する方法についても検討をおこなった。
著者
植田 康孝 榎本 優奈
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.30, pp.397-405, 2020-03

近年,ストリーミングの台頭で音楽の聴き方が大きく変わりつつある。スマートフォンが変えた様々な生活スタイルの中でも,音楽は劇的に変化した消費行動の一つである。利用者の嗜好に合わせて人工知能が推薦曲を自動的に生成し,日々変化させる。ストリーミングを利用することにより,音楽消費が好みのアーティストや楽曲,アルバムを指定して聴くスタイルから,プレイリスト中心のスタイルへと大きく変化した。ストリーミングを使ってヒットするためには,プレイリストの活用が重要になる。そして,プレイリストに採用されるためには,繰り返し聴けるBGM にもなる楽曲となることを必要とする。色々なプレイリストに入る楽曲の方が再生回数を伸ばすには,メタルのような激しいサウンドの楽曲よりも,歌詞をじっくりと聴ける楽曲の方が適する。ストリーミングランキングにおいては,売り上げや動員よりも再生回数が指標となり,繰り返して何度も聴きたくなるシンプルな「楽曲の良さ」がヒットに直結する。レコード会社,アーティスト,芸能事務所,マスメディアの力が弱まり,歌詞や楽曲が重要となっている。この点がCD シングルランキングとの大きな違いである。 「あいみょん」も「トップ50」や「ネクストブレイク」など,各社の公式プレイリストに入ったことがストリーミングにおける人気に繋がった。「あいみょん」が人気となった最大の理由として,歌詞の良さが挙げられる。歌詞に彼女が得た人気の原因があり,ストリーミングという何度でも繰り返し聴きたくなる楽曲に有利なメディアと相乗効果を生んだことが,デビュー以降の急激な人気上昇を生み出した。本研究は,「あいみょん」の歌詞に着目,テキストマイニングにより歌詞を数量化したデータに考察を加えた。「あいみょん」の歌詞を分析すると,アーティストらしさが意識された語として「君」「僕」「あなた」「2 人」がすべての楽曲において多用されていることが分かった。
著者
清水 一彦
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.25, pp.195-206, 2015-03

1956 年の流行語となった「もはや「戦後」ではない」は,同年版『経済白書』に記されている。戦後からの回復を通じての経済成長が終わったあとにくる難題にたいしての警句であったが,そういつまでも戦後でもあるまいといった「空気」を背景に,情報の送り手と受け手の相互作用で戦後を抜け出し高度成長へ向かう凱歌として解釈されることになった。その後もこの凱歌としての社会的記憶は,送り手にとっても受け手にとってもより"ここちよい"物語として再構成されつづけ,現在では,神武景気を経て『経済白書』は「もはや戦後ではない」と高らかに高度経済成長期突入を宣言した,とまで変容している。本稿は,このフレーズの社会的記憶が変容する過程を分析した。
著者
福田 一彦
出版者
江戸川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

約2500名の幼児を対象とした調査で、3歳児で70%、4歳児で80%、5歳児で90%、6歳児で95%の子どもが自宅では昼寝をとらない事が明らかとなった。アメリカのデータでは3歳児の40%が昼寝をとらないとされてきた。今回の結果は、この数字をはるかに上回る割合の3歳児が昼寝をとっていないという事が明らかとなり、昼寝の消長についてより詳しい調査を行う必要があると考えられた。昼寝の中止後には、就床時刻の前進、寝つきや、朝の気分の改善が認められた。夕食の時刻、入浴の時刻は幼児の就床時刻と高い相関を示したが、母親自身の就床時刻には非常に低い相関しか認められず、重回帰分析の結果、最初に除外対象となった。
著者
福島 亜理子 仁科 エミ
出版者
江戸川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は、可聴域上限をこえる超高周波成分を豊富に含む音が深部脳活性を高め心身を賦活する現象(ハイパーソニック・エフェクト)の発現強度が、超高周波成分の周波数に応じて変化する現象について検討する上で、より適切な情報構造を有する異なる音源においても同様に観察されるかどうかを確認するために、先行研究とは異なる音源を開発し、脳波計測実験を行った。まず、超高周波成分が豊富に含まれることが多い熱帯雨林環境音に着目し、アフリカやボルネオの熱帯雨林で超高密度収録された数十に及ぶ音源アーカイブについて、録音状態や超高周波成分の含有状況を周波数分析を行って確認した。その結果、計画している分割帯域毎にほぼ同程度の信号強度を有する実験用音源に適すると判断された音源を見出し、超高密度編集機器を用いて、100kHzに及ぶ超高周波成分を豊富に含む音源を実現した。この音源によるハイパーソニック・エフェクト発現を確認するために、楽器音を用いた先行研究に準じて、48kHz以下の周波数成分と48kHz以上の周波数成分とに分割して呈示し、被験者の脳波α2成分から基幹脳活性化指標を算出し比較した。その結果、48kHz以下の成分のみを呈示した場合に比べ、48kHz以上の超高周波成分を合わせて呈示した場合に、基幹脳活性化指標が増加する傾向を見いだした(p=0.073)。このことは、先行研究において、48kHzより高い超高周波を用いた場合に、より低い成分を用いた場合に比較して基幹脳活性化指標が有意に増大したことと矛盾しない。こうして、異なる音源においても、少なくとも超高周波成分を48kHzを境に大きく分割した場合に、ポジティブな効果とネガティブな効果を検出しうることや、呈示時間を楽器音よりも長く設定した方が安定した結果が得られることなどが示され、次年度以降のより詳細な分析に向けた準備を整えることができた。
著者
植田 康孝
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.26, pp.141-158, 2016-03

新しいメディアが新しい体験をもたらし,時として認識する方法を再編し人々の生活あるいは人生のあり方を変えることは,メディア史研究の源流の一つであるイニス,ハヴロック,マクルーハンらの第一世代,オングやメイロウイッツら第二世代のトロント学派によって提起されてきた。たとえば,最近のInstagram の急速な普及は,特にファッション分野において男性中心だった写真文化の「女子化」というメディア文化の変容をもたらしている。スマートフォンの普及に伴い,Instagram の月間アクティブユーザー数(MAU)は4 億人に増えTwitter の月間を超えLINEに次ぐ2 番目のアプリの位置を占めたことが報告されるが,本学学生の間においても,約6 割の学生が利用経験を有し,約9 割の学生が撮影した写真をネットに投稿した経験があることがアンケート調査で分かった。インターネットの面白いところは,作り込まれたテレビ番組を見るよりも,Instagram で流れて来る友人の近況の方が「エンタテインメント」になることである。更にInstagram が急速に広がった理由として,若者が好む「自己肯定感」がある。Instagram に投稿した意外な背景やイケてる自分が仲間に注目され認められれば,自信につながる。同じインターネットサービスであっても,ブログとは異なり,ネットワーク財としての性格が強いInstagram の場合,ネットワークを通じて拡散する傾向が強く,ユーザーの自信が増幅して投稿する誘因となりうる。特にファッション分野においては,モデルや女優が自撮りした数多くの写真をInstagram に投稿するようになっている。Instagram は,その日のファッションや訪れたカフェの写真を投稿したり,好きなモデルやタレントをフォローしたり,「おしゃれ」なイメージから大学生を中心に人気が拡大している。Instagram には,ファッションアイテムやコーディネート,ヘアアレンジ,メイクなど,多様なファッション関連写真が投稿される。Instagram はファッションに関する若者の興味関心を細分化することにより,多様化多彩化していくメディアである。一方でInstagram はそのメディア(中間)性を発揮して若者を結び付け,「想像の共同体」を育んだ。その疑似空間は時にお互いが切磋琢磨する学びの場となっている。ファッションモデルやファッションブロガーの大半がInstagram にアカウントを持っており,ファッションに関心がある若者はこれらモデルや有名人をフォローして,コーディネートを考える時にInstagram を参考にするようになっている。そのため,「ファッシニスタ」と呼ばれる美意識の高い先進的な若者がファッションに関する知識を得るメディアは,かつての店頭マネキン(1970 年代),テレビ・新聞(1980 年代),ファッション雑誌(1990 年代),読者モデルによるブログ(2000 年代)からInstagram(2010 年代)へと移行した。エンタテインメントビジネスでは,「演者」と「観客」の偏りで大きく2 つに人気構造が分かれる。たとえば,ジャニーズやAKB48 などアイドルは「異性間消費」である一方,ファッションにおけるInstagram は同性から支持を受ける「同性間消費」である。「異性間消費」は「疑似恋愛」の関係が観客から演者に取り結ばれる一方,「同性間消費」では観客から演者に「私もかくありたい」という憧れの構造が取り結ばれる。Instagram はその先進性がゆえにオールドメディア過ぎる人々には包摂と排除のメカニズムを有するが,ミレニアルズ(21 世紀世代人)にはメディア環境変化の必然である。
著者
植田 康孝
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.27, pp.35-85, 2017-03

日本は,面積は世界60 位に過ぎないが,人口は世界10位,GDPはいまだ世界3位であり,「大きな力を持つ小さな島国」である。しかし,同じく小さな島国であるニュージーランドと日本の国民生活の質を示す「一人当たり名目GDP」は逆転し,年々その差を拡げつつある。伴い,多くの変化が見られるようになって来た。日本とニュージーランドは対極にあることが分かる。日本が貧しくなっているならば,ニュージーランドは豊かになっている。英国EU離脱や米国トランプ大統領就任が続く中,移民を上手く受け入れ自由貿易を推進するニュージーランドは今や「世界を元気づけ幸福に出来る唯一の例外」である。 ニュージーランドでは,2016年12月,49.5% という高い国民支持率を得ながらジョン・キー首相(1961 年8 月9日生まれ,55 歳)が「今が引き際」と辞任(政界引退)を表明し,副首相兼財務相のビル・イングッシュ氏にその座を禅譲する潔さが話題となった。一方,日本は,東京五輪準備で元首相が影響力を行使するなど,高度経済成長の頃を夢見て,客観的な判断を怠る姿を露呈した。日本の凋落は,幻想に縛られ,時代の転換期に付いて行けなくなっている前世代がもたらす「老害」に他ならない。「21 世紀に生きているのに,20世紀から抜け出せない感覚を抱いている」世代は,若い世代に居心地の悪さを与える。日本の若者は,職業が安定せず年金がもらえない不安があり,賃金も低いまま放置されている世代である。将来に不安があるため,晩婚化が進み社会に少子化をもたらす。民主主義はその参加者により決まるが,わが国が抱える病理は,参加者の大半が高齢者になっている点である。高齢者は自らの世代を最優先に考えて行動するため,年少世代が貧乏くじを引く羽目に陥いる。 2016 年末,テレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ(逃げ恥)」が若者を中心に人気沸騰したが,25 歳大学院修了で働きたい意欲を持つ主人公「森山みくり」(新垣結衣)が派遣切りされ月給19万4,000円で「家事のプロ」を目指さなければならない,「就職難」「晩婚化」という日本の若者が抱える現代事情を反映させたことが,広く「共感」を呼んだ。若者世代は社会や他人から必要とされたいアイデンティティ欲望を強く持つが,高学歴で「できる」若者が,「できない」高齢者の割を食う構図にあり,生き難いと感じる社会になっている。主人公が「ああ,誰にも必要とされないって,つら~い」とため息を付くところから,作品は始まった。 同じく大ヒットした「君の名は。」は,女子高生・三葉(上白石萌音)と男子高校生・瀧(神木隆之介)の「入れ替わり」という超常現象で結び付いた恋愛関係が山深い町に住む人々を100 年に1 度の彗星が近付く巨大災厄から救う大きな力になる。若者世代が活躍する場が狭められている日本において,「社会に役立つ存在になりたい」「他人から必要とされたい」という2つの欲求を同時に成就させる過程が若者世代の心を捉えた。 バブルを知らず大きな災厄のみを体験して来た若者世代は「もう日本は経済成長せず,下り坂を転がり続ける」と感づいており,「日本はどうなってしまうのか」と壮大な不安の只中にいる。東京五輪も無責任な高齢者たちが場当たり的に事を進める茶番を繰り広げ,大手メディアからの「みんなで」応援しようという「同調圧力」は悽まじい。推進するはずであった大手広告代理店は24歳の新入社員を過重労働やサービス残業,セクハラやパワハラで自殺に追い込んだ。SMAP が解散に至るまでの経緯は,若い挑戦者が年長者や既存システムにすり潰されて行く姿を映し出した。新しい時代を築くためには新しい発想が不可欠であり,若者世代が主役となるべきであるが、日本は若者世代が活躍する場が極めて狭い社会となっている。 「老人大国」日本と「若者の国」ニュージーランドでは将来性に大差があり,今後更に格差が拡がる見込みである。
著者
植田 康孝
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.26, pp.141-158, 2016-03

新しいメディアが新しい体験をもたらし,時として認識する方法を再編し人々の生活あるいは人生のあり方を変えることは,メディア史研究の源流の一つであるイニス,ハヴロック,マクルーハンらの第一世代,オングやメイロウイッツら第二世代のトロント学派によって提起されてきた。たとえば,最近のInstagram の急速な普及は,特にファッション分野において男性中心だった写真文化の「女子化」というメディア文化の変容をもたらしている。スマートフォンの普及に伴い,Instagram の月間アクティブユーザー数(MAU)は4 億人に増えTwitter の月間を超えLINEに次ぐ2 番目のアプリの位置を占めたことが報告されるが,本学学生の間においても,約6 割の学生が利用経験を有し,約9 割の学生が撮影した写真をネットに投稿した経験があることがアンケート調査で分かった。インターネットの面白いところは,作り込まれたテレビ番組を見るよりも,Instagram で流れて来る友人の近況の方が「エンタテインメント」になることである。更にInstagram が急速に広がった理由として,若者が好む「自己肯定感」がある。Instagram に投稿した意外な背景やイケてる自分が仲間に注目され認められれば,自信につながる。同じインターネットサービスであっても,ブログとは異なり,ネットワーク財としての性格が強いInstagram の場合,ネットワークを通じて拡散する傾向が強く,ユーザーの自信が増幅して投稿する誘因となりうる。特にファッション分野においては,モデルや女優が自撮りした数多くの写真をInstagram に投稿するようになっている。Instagram は,その日のファッションや訪れたカフェの写真を投稿したり,好きなモデルやタレントをフォローしたり,「おしゃれ」なイメージから大学生を中心に人気が拡大している。Instagram には,ファッションアイテムやコーディネート,ヘアアレンジ,メイクなど,多様なファッション関連写真が投稿される。Instagram はファッションに関する若者の興味関心を細分化することにより,多様化多彩化していくメディアである。一方でInstagram はそのメディア(中間)性を発揮して若者を結び付け,「想像の共同体」を育んだ。その疑似空間は時にお互いが切磋琢磨する学びの場となっている。ファッションモデルやファッションブロガーの大半がInstagram にアカウントを持っており,ファッションに関心がある若者はこれらモデルや有名人をフォローして,コーディネートを考える時にInstagram を参考にするようになっている。そのため,「ファッシニスタ」と呼ばれる美意識の高い先進的な若者がファッションに関する知識を得るメディアは,かつての店頭マネキン(1970 年代),テレビ・新聞(1980 年代),ファッション雑誌(1990 年代),読者モデルによるブログ(2000 年代)からInstagram(2010 年代)へと移行した。エンタテインメントビジネスでは,「演者」と「観客」の偏りで大きく2 つに人気構造が分かれる。たとえば,ジャニーズやAKB48 などアイドルは「異性間消費」である一方,ファッションにおけるInstagram は同性から支持を受ける「同性間消費」である。「異性間消費」は「疑似恋愛」の関係が観客から演者に取り結ばれる一方,「同性間消費」では観客から演者に「私もかくありたい」という憧れの構造が取り結ばれる。Instagram はその先進性がゆえにオールドメディア過ぎる人々には包摂と排除のメカニズムを有するが,ミレニアルズ(21 世紀世代人)にはメディア環境変化の必然である。
著者
松田 英子
出版者
江戸川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

調査から労働者と学生の睡眠の不調は深刻な状態にあるものの,薬物治療による抵抗感が確認された。労働者は不眠と悪夢症状が強いが,さらに学生は不眠が深刻で過眠症状も強く,睡眠のリズムの乱れの影響が疑われた。労働者と学生において,職務ストレサーや学生生活ストレサーそのものよりも,不眠,過眠,悪夢症状から成る睡眠の不調が,抑うつ症状をよく予測するモデルが見出された。つまり,抑うつの予防には睡眠の不調の改善が重要であることが示唆された。非薬物療法である CBT による事例研究と準実験研究を実施し,不眠に関して,入眠前の筋弛緩法や思考に対する認知療法の効果を確認し,悪夢に関して入眠前の思考に対する認知療法の効果を一部確認した。
著者
植田 康孝 木内 英太 西条 昇 田畑 恒平
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.25, pp.171-184, 2015-03

近年の大学教育において、特に学生集めに奔走する私学では、学生に分かり易い「現実」や「過去」を教育対象とする傾向がある。いわゆる「置きに行く」と呼ばれる行為である。しかし、本来「大学」とは長期的視座に立って時代や学生の一歩先、半歩先の方向性を提示する機関であるべきはずである。本稿は、このような反省に立ち、新たな時代概念として「インフォテインメント(Infotainment)」を提示して、概説するものである。「インフォテインメント(Infotainnment)=情報娯楽」とは,「エンタテインメント(Entertainment)=娯楽」と「インフォメーション(Information)=情報」を融合させた上位レイヤー概念である。アナログ文化に留まらず,「(デジタル)インフォメーション」と融合することにより,「エンタテインメント(Entertainment)」をより魅力あるものにすることが可能となる。「スマート(賢い)エンタテインメント」とも言うべき存在である。具体的には,初音ミクや末永みらい,プロジェクションマッピング,ライブ・ビューイング,AR(拡張現実)を用いた劇場演出などが挙げられる。一方でイノベーションの基に生まれる画期的な「(デジタル)インフォメーション」もスムーズに社会や市民に受け入れられる訳ではない。材料を削る切削加工,金型を用いた射出成形,板金やプレス成型などを代替する新しい製造技術として期待される「3D プリンター」も,フィギュアやキャラクターグッズ,アクセサリーなど「エンタテインメント」との融合を起点とすることにより,ユーザー・インターフェイスを格段に向上させる。「クール(カッコイイ)インフォメーション」とも呼ぶべき出発点はユーザーフレンドリーな存在である。平成27 年度カリキュラムから本学マス・コミュニケーション学科に創設される「エンタテインメント」コースは,これら「スマート・エンタテインメント」や「クール・インフォメーション」の上位レイヤーのコンセプトとして「インフォテインメント」を掲げ,これを学ぶものである。従来のアナログ中心の「エンタテインメント」教育や,効率性・利便性を中心とした工業的な「情報」教育とは,明確なる区別を目指すものであり,新たな時代の実践モデルを図る。平成26 年度においては,「プロジェクションマッピング」「3D プリンター」や「ユーストリーム中継」を用いた教育を実践し一定の教育効果を見た。平成27 年度は改組した上で,「人工知能(AI)ロボット」や「AR ウェアラブル端末」を用いた新たな「インフォテインメント教育」を導入する計画である。
著者
植田 康孝
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.25, pp.185-193, 2015-03

2014 年3 月に国内上映が始まったディズニー映画「アナと雪の女王」は,興行収入で,「千と千尋の神隠し」(304億円),「タイタニック」(262 億円)に次ぐ歴代第3 位となったが,ヒット作以外は厳しいのが,日本における映画産業の現状である。2013 年の日本公開映画の1 本当たりの興行収入は1 億7,389 万円であり,1973 年以来40 年ぶりの低水準に落ち込んだ。興行収入総額は1,942 億円であり,3 年連続で2,000 億円を下回り頭打ちとなっている。このような中で,閑散期に映画館の上映室や座席を有効利用する策として考えられたのが,映画以外のコンテンツ配信である「ODS(Other Digital Stuff)」あるいは「AC(Alternative Contents)」とも呼ばれる「ライブ・ビューイング」である。「ライブ・ビューイング」は,音楽ライブ,スポーツイベントなどの中継,オペラやミュージカル,歌舞伎,落語など様々なジャンルに及ぶ。また,映画とは異なり鑑賞料金の価格を自由に設定することができることに加え,人気アーティストの生中継では満席に近い集客が期待できるため,映画上映では平均稼働率25% にしか座席が埋まらない映画館側にとってメリットがある。観客にとっても,入手困難で高額なチケットを購入しなくてもライブの臨場感を楽しむことができること,ライブ会場までの長距離移動が解消されること,ゆったりとした環境で視聴できることなどのメリットがある。
著者
佐古 仁志
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.30, pp.257-265, 2020-03

本稿では,心理学と哲学の〈あいだ〉でなされてきたインゴルドの思索の変遷を,彼の「移動」にまつわる研究に注目し,展開する。特に,インゴルドが西洋近代思想の特徴と主張している「反転の論理」の要点が「〔存在するものの〕知覚」と「〔存在しないものの〕想像」の区別・対立にあること指摘する。そのうえで,「反転の論理」を反転させようとするインゴルドの試みが,たえず生まれては消えながら波を形成する波頭のように,生きることをたえざる世界との調整あるいは世界の形成に見る生成の人類学とでも呼ぶべきものであること,さらには,パースの連続主義と結びつけることで,身体性認知科学の方へと展開しうるということを提示する。
著者
大内 田鶴子 玉野 和志 林 香織 鰺坂 学 廣田 有里 小山 騰 ディアス ジム 斎藤 麻人 吉田 愛梨 細淵 倫子 清野 隆
出版者
江戸川大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

グローバリゼーション下、地域社会と市民・近隣組織に関する新たな理論枠が必要になっている。本研究は新しい社会に対応する近隣組織について実態を把握し、論点を整理した。1.イングランドでは自治会規模の住民組織が準自治体となっている。2.シアトル市ではボトムアップ式の協議体を設置し、合意形成能力を獲得し、その後政治対立に巻き込まれ機能不全に陥った。3.シアトル近郊の極小自治体の長期存続は、住民の凝集性の維持につとめたこと、コモンズの維持管理を行っていることなどによる。4.個人が情報のコントロール力を持ちつつある現在、ITによる意見交換の仕組みと個人の情報発信のスキルが必要であることが明らかになった。