著者
木ノ内 勝士 森田 紀代造 橋本 和弘 野村 耕司 宇野 吉雅 松村 洋高 中村 賢 阿部 貴行 香川 洋 佐久間 亨
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.328-332, 2006-11-15 (Released:2009-08-21)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

総肺静脈還流異常症(TAPVR)修復術術後の肺静脈狭窄(PVO)は重篤な合併症であり,術後の再燃も希ではない.今回われわれは,TAPVR1a+2a混合型術後PVOをくり返した14ヵ月,男児に対してsutureless in situ pericardial repair,および,左心耳-左肺静脈吻合を施行した.術後経過は良好であり,術後2年9ヵ月時に施行した心臓カテーテル検査では,右肺静脈に有意な再狭窄所見は認めず,左肺静脈に軽度再狭窄所見を認めた.また,術後3年1ヵ月時に施行したmultidetector computed tomography (MDCT)による3次元再構築像では,良好なPVO解除が長期に得られていることが示された.
著者
有馬 大輔 梅木 昭秀 山本 哲史
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.73-76, 2019-01-15 (Released:2019-02-02)
参考文献数
5

心肺蘇生の際の胸骨圧迫に伴うさまざまな合併症が報告されている.大動脈解離術後に心肺停止に陥り胸骨圧迫による偽腔破裂を呈したと考えらえた症例を経験した.症例は79歳の女性.上行大動脈にentryを呈した急性大動脈解離(Stanford A型,DeBakey I型)の診断で,緊急手術を施行した.術後は特に問題なく経過し,POD 5にICUを退室するも,POD 6に痰詰まりから心肺停止となり,胸骨圧迫が施行された.蘇生したが,左胸腔ドレーンから血性排液が増加したため,施行した造影CT検査で下行大動脈偽腔から左胸腔に造影剤の流出を認めた.硬膜外血腫も同時に呈しており,保存的加療と低体温療法を施行した.幸い輸血と止血剤の投与で血管外漏出が停止した.開心術症例の胸骨圧迫後には,造影CTなどで出血の確認をするべきで,大動脈解離術後の胸骨圧迫では,稀ではあるが偽腔破裂が生じ得る可能性が示唆された.
著者
平山 裕子 井元 清隆 鈴木 伸一 内田 敬二 小林 健介 伊達 康一郎 郷田 素彦 初音 俊樹 沖山 信 加藤 真
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.60-64, 2008-01-15 (Released:2009-09-11)
参考文献数
27
被引用文献数
2 2

症例は76歳,女性.両下肢浮腫と呼吸困難を主訴に来院した.経胸壁心エコーで右房内に可動性に富む腫瘤を認め,心不全を伴う右房内腫瘤と診断し手術を施行した.術中の経食道心エコーで右房内腫瘤が下大静脈内へ連続していることを確認したが原発巣は不明なため,心腔内腫瘤摘除にとどめ,残存腫瘍断端はクリップでマーキングした.術直後のCTで子宮筋腫から下大静脈内へ連続する構造物の中にクリップを認め,さらに摘出標本の病理所見からintravenous leiomyomatosis(IVL)と診断した.術後半年のCTでクリップは下大静脈から子宮に連続する静脈内に移動しており,腫瘍は退縮傾向であると考えたが,今後も厳重なる経過観察が必要である.
著者
入澤 友輔 都津川 敏範 吉鷹 秀範 田村 健太郎 石田 敦久 近沢 元太 毛利 教生 平岡 有努 松下 弘 坂口 太一
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.287-290, 2014 (Released:2014-10-23)
参考文献数
8

症例は64歳男性.半年前より胸痛を認め,大動脈弁狭窄症と診断されて,当科紹介受診となった.患者はエホバの証人信者であり,無輸血手術を希望した.そのため胸骨切開を行わない小切開大動脈弁置換術(MICS AVR)を行う方針とした.手術は右第4肋間開胸アプローチし,機械弁ATS AP360 20 mmで大動脈弁置換を行った.手術直後のHb値は11.2 g/dlであった.経過良好で術後17日に退院となった.エホバの証人信者のように無輸血で手術を行わなくてはならない場合,胸骨を切らずにアプローチするMICS AVRは,出血も少なく有用な方法と考えられた.
著者
桑原 史明 平手 裕市 森 俊輔 高野橋 暁 八神 啓 臼井 真人 宮田 義彌 吉川 雅治
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.280-283, 2009-07-15 (Released:2010-04-07)
参考文献数
14
被引用文献数
2

症例は44歳,女性.不明熱の原因検索のため紹介された.血液培養でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を検出し,心臓超音波検査で大動脈弁に疣贅を認め,Duke criteriaに基づき感染性心内膜炎(IE)と診断した.バンコマイシン(VCM)とイセパマイシン(ISP)により治療を開始したが,その後も高熱が続き,皮疹も出現したため,抗生剤をテイコプラニン(TEIC)に変更したが効果が見られず,最終的には,第22病日よりリネゾリド(LZD)に変更した.LZDに変更して1週間後には解熱し,心内膜炎に伴う塞栓症による血管炎も軽快した.大動脈弁膜症による心不全を薬物療法によって管理しながらLZDを28日投与し,その時点で,その副作用と思われる貧血を認めたためLZDの投与を中止してレボフロキサシン(LVFX)の内服に変更した.感染の再燃がなく,機械弁による大動脈弁置換術を施行した.LZDは手術直前に投与し,術後も15日間継続した.その後,LVFXの経口投与に切り替えて術後35日目に退院した.退院後も1年間感染の再発がなく経過している.リネゾリドはMRSA心内膜炎の治療法の一つとして有効であると考えられるが,その投与法や投与期間に関しては,さらなる検討が必要である.
著者
嶋田 将之 山下 慶之 梅末 正芳
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.406-411, 2023-11-15 (Released:2023-12-09)
参考文献数
18

三尖弁は非対称的な3次元構造であり,posteroseptal portionが最も心尖部寄りにあり,anteroseptalportionが最も心尖部から遠くにある.完全内臓逆位では心腔内構造は正常解剖心の鏡像となるが,posteroseptal portionが最も低い位置に,anteroseptal portionが最も高い位置にあることは変わらない.そのため完全内臓逆位の症例における三尖弁形成術において,通常使用される3次元構造のrigid ringを裏返して使用するとposteroseptal portionが高い位置にanteroseptal portionが低い位置に誘導され,弁尖のcoaptationが不良になる恐れがある.今回,右胸心,完全内臓逆位における三尖弁閉鎖不全症,僧帽弁閉鎖不全症,慢性心房細動に対してflexible bandを用いた三尖弁輪縫縮術,僧帽弁形成術,左房縫縮術,左心耳閉鎖術を施行したので文献的考察を加えて報告する.
著者
佐々木 花恵 小渡 亮介 大徳 和之 川村 知紀 山﨑 志穂 皆川 正仁
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.245-248, 2022-07-15 (Released:2022-07-30)
参考文献数
11

症例は13歳男性で先天性水頭症症例である.自宅にて呼吸停止状態で発見され,当院救急搬送後に蘇生したが,重度の脳障害を負った.搬送1カ月後に当院で気管切開術が施行された.気管切開後2カ月で気管腕頭動脈瘻を院内発症し,腕頭動脈離断術と直接縫合閉鎖による気管瘻孔修復術が行われた.術後2週間目に気管修復部破綻をきたし,体外式膜型人工肺(VA-ECMO)下での気管形成術を行った.VA-ECMO確立後,気管切開カニューレを抜去した.気管損傷部を紡錘形になるようにトリミングし,マットレス縫合をかけて気管形成を行った.その後,経口で気管挿管チューブを気管分岐部直上に留置し,気管形成部の安静をはかった.術後15日目に気管切開へのチューブ交換が行われた.術後3カ月現在,気管形成部破綻や再出血はない.気管瘻孔部への補てん物の縫着が困難な気管修復部破綻症例に対して,VA-ECMO補助下での気管形成は有用な治療選択肢であると考えられた.
著者
小笠原 尚志 大徳 和之 野村 亜南 川村 知紀 谷口 哲 福田 幾夫
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.345-350, 2019-09-15 (Released:2019-10-02)
参考文献数
6

大動脈食道瘻は手術死亡率が高く,予後不良な疾患である.症例は胸部下行大動脈嚢状動脈瘤による嚥下困難を認めた72歳男性.胸部ステントグラフト内挿術施行4カ月後にendoleakによる大動脈瘤の拡大をきたし,食道内視鏡検査で中部食道に突出する壁欠損を伴う腫瘤を認めた.腫瘤内部は血栓で充満していた.大動脈造影ではステントグラフトの小彎側からI型のendoleakを認め,腫瘤内への血流を認めたため大動脈食道瘻と診断した.発熱はなく,血液検査ではCRPの上昇を認めたが,白血球数は正常であった.人工血管に感染が及ぶことが必至と思われたため,開胸人工血管置換術および健常大動脈壁による瘻孔閉鎖を行った.人工血管は大網で被覆し,瘻孔部と隔離した.術後経過は順調で,術後4年のCT検査では食道穿孔部の治癒を確認,9年後の現在健在である.
著者
髙山 哲志 迫 秀則 安部 由理子 阿部 貴文 森田 雅人 田中 秀幸
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.320-323, 2019-09-15 (Released:2019-10-02)
参考文献数
15

症例は73歳女性.主訴は心窩部不快感とふらつき.前医循環器科にて,重度の大動脈弁閉鎖不全症と僧帽弁閉鎖不全症によるうっ血性心不全と診断され,入院となった.薬物療法に抵抗性で内科的治療では心不全コントロールが困難であり,外科的治療目的で当院紹介入院となった.当院入院後も心不全増悪傾向を示し,緊急で手術を行った.術中所見では大動脈基部-上行大動脈瘤と,右冠尖と無冠尖の間の交連部に離開を認めた.上行大動脈置換術と,Florida sleeve法に準じた大動脈基部置換術および二弁置換術を行い良好な結果を得た.離開部の病理組織検査では粘液腫様変性を認め,交連部離開の原因となった可能性が示唆された.
著者
齋藤 真人 山﨑 琢磨 田辺 友暁 栃木 秀一 建部 祥 一森 悠希 丁 毅文
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.339-344, 2022-11-15 (Released:2022-11-30)
参考文献数
23

[背景]近年,心臓血管外科周術期管理に診療看護師を導入する施設が増加しているがその成績を評価した報告は限られている.[目的]診療看護師が介入した心臓血管外科手術の周術期成績を明らかにすることで有用性の評価を行う.[方法]当院で2019年4月1日から2021年5月31日までに行われた開心術のうち第一助手を診療看護師が行った患者をNP群,第一助手を医師が行った患者をDR群として後方可視的に周術期データを調査した.患者の内訳はNP群99名,DR群109名が対象となった.[結果]両群の患者属性に有意差を認めなかった.手術時間(min)(304.4±92.7 vs. 301.4±86.8:p=0.947),30日以内死亡(n)(2 vs. 2:p=0.923),ICU滞在日数(day)(5.72±4.42 vs. 6.65±5.43:p=0.302),術後合併症発生に関しても両群に有意差を認めなかった.在院日数(day)(18.6±6.7 vs. 23.0±9.8:p<0.001),人工呼吸器管理期間(h)(19.7±22.6 vs. 28.8±50.2:p=0.047),はNP群が有意に短かった.[考察]NP群とDR群を比較すると手術成績は同等であった.医師のみで周術期管理を行う場合よりも診療看護師を加えたチームで患者管理を行うことで,人工呼吸器管理時間の短縮とそれに伴う早期離床を可能にし,在院日数が短縮したと考えられた.これにより診療看護師は医師の直接指示・監督下に手術助手を含めた周術期管理を安全に行える可能性が示唆された.
著者
森田 紀代造
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.liv-lxviii, 2022-11-15 (Released:2022-11-30)
参考文献数
84

現在までに臨床導入された心筋保護法には多くの組成・方式があるがいずれも有効性や安全性に遜色なく,その選択は理論的特徴や基礎臨床研究よりもむしろ施設や術者の好みに委ねられてきた.このため心筋保護はすでに確立した術中手段としてその基礎理論の重要性や臨床的な検証が軽視される傾向にある.しかし現代の心臓外科においては手術適応拡大による重症例や拡大手術症例の増加,MICSの導入や修練外科医の教育などを背景に,予期しない長時間心停止あるいは心筋保護灌流不均衡など想定外の事態において,心筋保護法が生死をわける事態をまねくことも稀でない.また最近ではさまざまな心筋保護に関する前向きランダム化比較試験randomized controlled trial(RCT)が報告されるようになり不十分ながら客観的検証に基づくエビデンスがようやく構築されつつある.このため心臓血管外科医にとって学術的意義のみならず医療安全の観点からも心筋保護理論の習熟と最新情報の周知はきわめて重要であることが再認識されるにいたった.現在開心術のための臨床的心筋保護法とは,心筋保護液組成crystalloid/blood cardioplegia,心筋保護液温度cold/warm/tepid, 投与方式continuous/intermittent(multidose)/single dose,投与経路antegrade/retrograde deliveryなどさまざまな要素によって構成されるハートチーム全体で連携すべき総合的補助手段である.本稿では代表的な心筋保護法についてその適正な選択のための基礎的理論と臨床成績を概説するとともに,Del Nido cardioplegia,Microplegiaなど新たな心筋保護戦略,比較臨床研究結果などの最新の臨床知見を紹介する.
著者
中山 正吾 坂本 和久 伊藤 恵
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.155-158, 2013-03-15 (Released:2013-04-02)
参考文献数
11

症例は66歳,男性.持続性心房細動に対し経皮的カテーテルアブレーションを施行された.施行後15日目に吐血を主訴として来院し,上部消化管内視鏡検査にて食道潰瘍と診断された.約1カ月間の絶食治療の後,経口摂取を再開したが,再開後4日目に多発性脳梗塞を発症し,同日大量吐血からショック,心肺停止となった.カテーテルアブレーションに合併した左房食道瘻と診断し,心肺蘇生後緊急手術を施行した.胸骨正中切開にてアプローチし,体外循環を用い心停止下に左房後壁の瘻孔および食道穿孔部を直接縫合閉鎖したが,開心術後3日目に低心拍出量症候群と多臓器不全にて死亡した.本疾患は稀な合併症であるが,発症すれば致命的な病態となるため発生予防が重要である.また発症した場合には速やかな外科的治療が必要と思われる.
著者
東 修平 森田 雅文 真野 翔 島田 亮
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.293-297, 2018-11-15 (Released:2018-11-30)
参考文献数
9

今回われわれは,下行大動脈にエントリーを有する慢性B型解離の偽腔の拡大に対して,偽腔から起始する右腎動脈に対してVIABAHNを用いて再建およびリエントリー閉鎖を行ったうえで,TEVARによるエントリー閉鎖を施行した症例を報告する.症例は78歳,男性.発症時期不明のB型解離に対して過去に2回のTEVARによる治療歴がある.外来フォロー中に残存偽腔の拡大傾向を認め,胸部下行大動脈の最大径が58 mmとなったために手術適応となった.大動脈造影CTでは胸部下行大動脈に明らかなエントリーを有し,右腎動脈は偽腔から起始しており,その根部はリエントリーを形成していた.その他の腹部分枝はすべて真腔から起始し,また,術前大動脈造影検査にて,右腎動脈起始部以外に明らかなリエントリーは認めなかった.手術は,VIABAHNを腹部大動脈真腔から偽腔を通過して右腎動脈に留置したうえでTEVARによるエントリー閉鎖を行った.術後経過良好で,脊髄梗塞等の合併症を認めることなく,偽腔は完全に血栓閉鎖され,右腎動脈血流も良好であった.術後10日目に独歩退院となった.術後10カ月目のフォローアップのCTでは血栓化偽腔の縮小傾向を認めた.慢性大動脈解離に対するTEVARにおいては,エントリーおよびリエントリーの位置等によっては,偽腔血流が残存して,期待どおりの大動脈リモデリングが得られない症例が存在する.特に腹部分枝が解離によりパンチアウト状態でリエントリーを形成している症例では,分枝は偽腔起始となり,TEVARによるエントリー閉鎖だけでは不十分となる可能性がある.今回われわれの経験した,偽腔から起始する右腎動脈に対してVIABAHNを用いて再建およびリエントリー閉鎖を行ったうえで,TEVARによるエントリー閉鎖を行う方法は,慢性B型大動脈解離における偽腔拡大に対するTEVARにおいて有用な方法である可能性があり,報告する.
著者
奈良原 裕 尾頭 厚 村田 登
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.254-257, 2010-09-15 (Released:2010-12-03)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

症例は78歳,女性.3日前からの胸部圧迫感を主訴に近医受診,急性心筋梗塞(AMI)の診断にて当院紹介となった.当院循環器内科にて緊急冠動脈造影検査を施行し,seg. 7 100%閉塞,seg. 1 90%の狭窄病変を認め,経皮的冠動脈形成術(PCI)が施行され再灌流を得られた.ICU入室後,心タンポナーデからショック状態となった.心嚢穿刺ドレナージによっても直にショックとなるため大動脈内バルーンパンピング(IABP)を挿入した後,緊急開胸手術とした.手術台上で無脈性電気活動(PEA)となり,開胸したところ心嚢内には多量の血腫を認め,これを除去すると左室心尖部付近の前壁3カ所より多量の血液噴出を認めた.前壁のblow out型左室破裂(LVFWR)であった.手術は,非ヘパリン化,非体外循環下にTachoComb®,fibrin glueの重層法+馬心膜パッチ+GRF glueによるsutureless techniqueを用いた.Blow out型LVFWRに対して非体外循環下にsutureless techniqueを用いて救命し得た症例は報告例が少ない.
著者
窪田 武浩 新宮 康栄
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.184-187, 2021-05-15 (Released:2021-06-02)
参考文献数
8

症例は77歳,女性.冠動脈バイパス術を9年前に受けた.その後,外来フォロー中に大動脈弁狭窄症が出現,進行したため経胸壁心エコーで経過観察していた.経過観察中に僧帽弁後尖弁輪部の高度の石灰化と同部に付着し左室流出路にたなびく可動性のある疣贅様腫瘤が認められたため,腫瘤の摘出と大動脈弁置換術を行った.腫瘤は僧帽弁後尖弁輪部に基部を持つ3 mm×23 mmの棍棒様で容易に折れてしまうものであった.通常の組織染色に加え血管内皮細胞のマーカーであるCD31とvon Willebrand factorの免疫染色を施行したところ,両者ともが陽性であった.病理学的には薄い内皮に覆われた細胞成分を含まない石灰化物質と診断した.摘出した腫瘤は石灰化弁輪の剥離により生じたものであることが示唆された.石灰化弁輪に伴うとされるcalcified amorphous tumor(CAT) とは異なる稀な病態であったため,文献的考察を加えて報告する.