著者
加納 尚之
出版者
看護理工学会
雑誌
看護理工学会誌 (ISSN:21884323)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.63-69, 2019 (Released:2019-07-31)
参考文献数
14

意識や聴覚や思考能力はあるものの,目も開けられず,完全に閉じ込められた状態になる完全閉じ込め症候群(Totally Locked-in Syndrome:TLS)となってしまった筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis:ALS)患者のための意思伝達補助装置(Communication Aids:CA)の開発が切望されている.そこで,視覚刺激や聴覚刺激に関連して出現する事象関連電位(Event-Related Potential:ERP)を意思情報として利用するAndroidスマートフォンアプリを開発した.患者家族や医療関係者からの簡単な質問に対する患者のYESまたはNOの意思を特定する.これにより,本アプリは患者と家族,そして医療関係者との日頃の会話の一助となり,TLSとなったALS患者の生活の質は大きく改善する.
著者
下村 義弘 夏 亜麗 津田 文香 大賀 久美 横井 麻里 藤村 寛子 藤村 寛子
出版者
看護理工学会
雑誌
看護理工学会誌 (ISSN:21884323)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-12, 2020

浮腫は疾患本来の内的要因に加え,同じ姿勢を維持するといった日常生活の外的要因によって,より一層,進行する.外的要因のなかでも日常生活で起こる可能性の高い下肢のむくみと入浴行為に注目した.ミストサウナ,全身浴,シャワーの3種の異なる入浴法を比較した.直立位タスクで下肢にむくみを誘発し,その後に入浴を行い,回復期を設けてむくみの改善効果を調べた.測定項目は主観評価とふくらはぎ周囲長であった.その結果,すべての入浴方法は回復期終了時点で,タスクによって誘発されたふくらはぎ周囲長はもとに戻らなかった.しかし,主観的不快感は緩和された.また,ミストサウナでは,出浴後の最大周囲長の有意な減少がみられた.入浴方法によってはおもに血液性のむくみに対して異なる影響を与えることが分かった.つまり回復期を長くすると,入浴法によっては客観的な改善効果が認められる可能性がある.
著者
井上 文 保坂 嘉成 村山 陵子 田邊 秀憲 大江 真琴 内田 美保 小見山 智恵子 真田 弘美
出版者
看護理工学会
雑誌
看護理工学会誌 (ISSN:21884323)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.67-72, 2017-01-25 (Released:2018-02-28)
参考文献数
12

患者への末梢静脈カテーテル留置場面での,留置針を刺入し輸液ルートを接続する際の看護師の主観的体験を明らかにすることを目的とした.都内一施設の看護師10名(経験年数3~14年)の実際の刺入場面を録画し,それを視聴しながら手技を行っていた際の気持ちなどについて半構造化面接を行い,質的記述的に分析した.東京大学医学部倫理委員会の承認を受けた.分析の結果,【知識と経験に基づく血管選択の困難感】【末梢静脈路確保できないことへの不安感】【技術向上への思い】【血液に対する焦りと恐怖】【繁忙による焦り】【患者からの重圧】【末梢静脈路確保に伴う葛藤】の7カテゴリーが抽出された.技能の修得レベルの向上に伴い小さくなっていくカテゴリーもあったが,不安や困難感は完全には解消されなかった.看護技術をサポートすることで,困難感などの緩和,解消につながると考えられたカテゴリーも多く,末梢静脈留置針刺入の成功につながる可能性が示唆された.
著者
池川 充洋 大島 暁 須藤 久美子 倉智 恵美子
出版者
看護理工学会
雑誌
看護理工学会誌 (ISSN:21884323)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.80-85, 2018-01-25 (Released:2018-01-31)
参考文献数
15
被引用文献数
2

製造における生産方式であるセル生産方式にヒントを得て,看護提供方式に展開し業務改善を具体化した事例を取り上げる.セル生産方式はベルトコンベアで多数の工員が細分化した単純作業を行うライン生産方式と異なり,1人,もしくは小集団にて製品組み立てから検査までの工程すべてを受け持つ.セル看護提供方式では日単位に勤務看護師に対し担当病室を割り振り,担当病室における患者に対するすべての業務を受け持つ.加えてスタッフステーションを起点とした情報収集・共有,カンファレンスなどの従来型の業務運用ではなく,病室・病室前の廊下を起点とした業務運用を基本としている.結果,患者の気配を察し,先取りケア実践が実現され,ナースコール呼出回数の減少を,さらに看護師のスタッフステーションに情報収集,物品を取りに戻るなどの業務動線の短縮を狙っている.当調査では位置検知システムの利用により把握可能な看護師従事場所情報を利用しセル方式導入効果を整理した.
著者
松野 悟之 岡山 久代 二宮 早苗 内藤 紀代子 森川 茂廣
出版者
看護理工学会
雑誌
看護理工学会誌 (ISSN:21884323)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.43-49, 2016-01-25 (Released:2018-02-28)
参考文献数
22
被引用文献数
2

骨盤底筋トレーニングのための体外式バイオフィードバック装置を用いて女性の骨盤底筋群の機能と腹圧性尿失禁の関連性を検討することを目的とした.147名の女性を対象に骨盤底筋群の最大筋力および収縮持続時間,尿失禁症状,体組成,一般属性を調査し,ロジスティック回帰分析を用いて各因子の腹圧性尿失禁の発症に対するオッズ比を算出した.結果,腹圧性尿失禁の発症に対する有意な要因として,分娩経験(オッズ比:2.694,95%信頼区間:1.058-6.859)および骨盤底筋群の収縮持続時間(0.861,0.777-0.954)が抽出された.今回,収縮持続時間の短縮も抽出されたことから,収縮持続時間に関与すると考えられる骨盤底筋群の遅筋線維が腹圧性尿失禁の防止に重要な役割をもつことが示唆された.骨盤底筋群を強化する際には,収縮持続時間の延長を促すことで腹圧性尿失禁の効果的な改善につながる可能性が示唆された.
著者
梶原 志保子 中出 麻紀子 服部 知彦
出版者
看護理工学会
雑誌
看護理工学会誌 (ISSN:21884323)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.107-115, 2020 (Released:2020-07-01)
参考文献数
8

眼の調節意思に従い輻輳と調節を一致させることが可能な遠近両用眼鏡の開発を目的とした.想定は70 歳とし,累進レンズを輻輳に従って水平方向に累進させることで,本開発眼鏡を設計した.本設計に従い光学部材を配置しステレオ画像を撮影し定性評価した.結果,本開発眼鏡は,従来の遠近両用眼鏡にくらべ,より自然な観察が可能であり,画像歪みが軽減された.定量評価としてレンズ累進率対両眼瞳孔間距離表を作成した.両眼瞳孔間距離55×10 -3,58×10 -3,61×10 -3,64×10 -3,67×10 -3,70×10 -3(m)の場合のレンズ累進性換算表が作成でき,定量的に本開発眼鏡の実現可能性が示唆された.さらに,眼鏡の装着再現性を評価した.結果,眼鏡装着位置の変位は0.113×10 -3(m)であり,眼鏡の装着再現性の本開発眼鏡への影響は,想定年齢70歳との誤差が約3.4 歳であった.
著者
藤本 由美子 大桑 麻由美 酒井 透江 浦井 珠恵 青木 未来 定塚 佳子 丸谷 晃子 松本 勝
出版者
看護理工学会
雑誌
看護理工学会誌 (ISSN:21884323)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.109-117, 2016-07-25 (Released:2018-02-28)
参考文献数
22

非侵襲的陽圧換気療法(non-invasive positive pressure ventilation:NPPV)のマスクによる圧迫創傷の関連要因を導くことを目的に健康成人に非換気でNPPVマスク装着の条件を整えて繰り返し装着し,皮膚の変化を詳細に観察し分類した.方法は9名の対象者に対して2種類のマスクを2回以上装着した.研究者1名がマスク固定の絞め方を統一しすべての調査内容の観察を行った.皮膚変化が2回同じようにみられた場合をマスクによる皮膚変化とし,顔の形状および対象者の主観との関係を分析した.その結果,頬や額はマスクの形状に一致した定形の皮膚変化がみられたが,鼻はマスクの形状と一致しない特徴的な不定形な形状がみられた.また鼻はマスクのずれ感を伴い,マスクサイズの不一致やマスク自体の変形が皮膚変化の形状に影響していることが考えられた.NPPVマスクの圧迫創傷の要因はケア要因のみではなくデバイスの評価や適性使用のアセスメントも重要であることが示唆された.
著者
井上 淳 林 敏熙 花崎 泉
出版者
看護理工学会
雑誌
看護理工学会誌 (ISSN:21884323)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.28-37, 2020 (Released:2020-11-30)
参考文献数
20

著者らは,片麻痺患者が早期から自然な歩行訓練をできる補助機器を開発してきた.そのなかで,本研究では従来の形状とは異なる短下肢装具を開発した.これは足底部を3層に分け,中央の層に凹凸を作ることで,反発力のないMP関節を反発なく背屈可能にした短下肢装具である.本論文ではそれが歩行に与える影響について検討するために,裸足歩行と平面型の足底部パーツ,足底部に関節のある2種類の足底部パーツをつけた短下肢装具での歩行の計4条件で,下肢装具の足底部形状が歩行に与える影響を5m 歩行持間と足底圧中心の移動範囲の2点から比較した.その結果,足底部に関節のある下肢装具のほうが平面型の下肢装具よりも速度が速い歩行が可能であることと,足底圧中心移動が自然にできることが分かった.また,足底部に設ける関節位置が人間のMP 関節と一致していることが歩行速度によい影響を与えることを明らかにした.
著者
中山 絵美子 高橋 聡明 北村 言 野口 博史 仲上 豪二朗 桑田 美代子 四垂 美保 真田 弘美
出版者
看護理工学会
雑誌
看護理工学会誌 (ISSN:21884323)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.116-129, 2020 (Released:2020-07-31)
参考文献数
25

本研究は,介護保険病床を有する病院に入院している認知症高齢者を対象に,1.患者とコミュニケーションロボット(以下ロボット)との関係構築にかかわる要因,2.ロボットの継続的な使用にかかわる要因,3.ロボットへの期待を明らかにすることを目的とし,ロボット事業が継続している介護保険病床を有する病院において,6名の病棟スタッフへの半構造化面接の記録を質的に分析した.その結果,関係構築にかかわる要因として{患者のもつさまざまな特性や変化する患者・療養環境とロボットのマッチング}が,継続使用にかかわる要因として{スタッフがやりがいを感じながら,新しい試みであるロボットの導入・活用と向き合うこと}が,ロボットへの期待として{ロボットが患者・スタッフとともに過ごすことができる存在となる}ことがテーマとして抽出された.これらから,ロボット導入時には患者-ロボット間,継続使用の際にはスタッフ-ロボット間の関係構築が重要であると示唆された.
著者
織田 茜 鏡(関塚) 真美 北島 友香 島田 啓子
出版者
看護理工学会
雑誌
看護理工学会誌 (ISSN:21884323)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.12-21, 2019 (Released:2019-01-31)
参考文献数
23

本研究は妊娠後期の乳腺組織の厚みの変化を明らかにし,分娩前の乳腺組織の厚みと産後3~5日目の乳汁分泌量との関係を明らかにすることを目的とした.対象は妊娠34~35週の妊婦で,携帯型超音波診断装置(Vscan Dual Probe)を用いて妊娠34~35週より分娩前1~7日まで妊婦健康診査の時期において乳腺組織の厚みを継続的に測定した.分析対象は産褥婦14名であった.分娩直前の乳腺組織の厚み29.0mmを基準として2群に分類し,群分けしたグループと産後日数および両者の交互作用を固定効果,対象者を変量効果とした線形混合モデルで分析した結果,乳汁分泌量に関連していた固定効果は乳腺組織の厚みと産後日数であり,有意な固定効果がみられた(p=.030,.001).すなわち29.0mm以上の群ではそうではない群にくらべ乳汁分泌量が有意に多かった.以上のことより,分娩前における最終妊婦健康診査時の乳腺組織の厚みと産後乳汁分泌量との関連が示唆された.
著者
松野 悟之 岡山 久代 二宮 早苗 内藤 紀代子 森川 茂廣
出版者
看護理工学会
雑誌
看護理工学会誌 (ISSN:21884323)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.43-49, 2016

 骨盤底筋トレーニングのための体外式バイオフィードバック装置を用いて女性の骨盤底筋群の機能と腹圧性尿失禁の関連性を検討することを目的とした.147名の女性を対象に骨盤底筋群の最大筋力および収縮持続時間,尿失禁症状,体組成,一般属性を調査し,ロジスティック回帰分析を用いて各因子の腹圧性尿失禁の発症に対するオッズ比を算出した.結果,腹圧性尿失禁の発症に対する有意な要因として,分娩経験(オッズ比:2.694,95%信頼区間:1.058-6.859)および骨盤底筋群の収縮持続時間(0.861,0.777-0.954)が抽出された.今回,収縮持続時間の短縮も抽出されたことから,収縮持続時間に関与すると考えられる骨盤底筋群の遅筋線維が腹圧性尿失禁の防止に重要な役割をもつことが示唆された.骨盤底筋群を強化する際には,収縮持続時間の延長を促すことで腹圧性尿失禁の効果的な改善につながる可能性が示唆された.
著者
織田 茜 鏡(関塚) 真美 北島 友香 島田 啓子
出版者
看護理工学会
雑誌
看護理工学会誌 (ISSN:21884323)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.12-21, 2019

本研究は妊娠後期の乳腺組織の厚みの変化を明らかにし,分娩前の乳腺組織の厚みと産後3~5日目の乳汁分泌量との関係を明らかにすることを目的とした.対象は妊娠34~35週の妊婦で,携帯型超音波診断装置(Vscan Dual Probe)を用いて妊娠34~35週より分娩前1~7日まで妊婦健康診査の時期において乳腺組織の厚みを継続的に測定した.分析対象は産褥婦14名であった.分娩直前の乳腺組織の厚み29.0mmを基準として2群に分類し,群分けしたグループと産後日数および両者の交互作用を固定効果,対象者を変量効果とした線形混合モデルで分析した結果,乳汁分泌量に関連していた固定効果は乳腺組織の厚みと産後日数であり,有意な固定効果がみられた(p=.030,.001).すなわち29.0mm以上の群ではそうではない群にくらべ乳汁分泌量が有意に多かった.以上のことより,分娩前における最終妊婦健康診査時の乳腺組織の厚みと産後乳汁分泌量との関連が示唆された.
著者
仲上 豪二朗 久保 貴史 川波 一美 岩嵜 徹治 真田 弘美
出版者
看護理工学会
雑誌
看護理工学会誌 (ISSN:21884323)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.174-179, 2015

&emsp;背景/目的:皮膚バリア機能の損傷は細胞間脂質の減少によって引き起こされ,褥瘡のリスクになりうる.本研究はセラミド含有ドレッシング材(CD)から皮膚へのセラミドデリバリーが皮膚バリア機能の回復能を有するかどうかを検証した.方法:健常者の皮膚に対して,異なる濃度のCDを貼付し,セラミドデリバリーの濃度依存性を検討した.その後,CDを,人工的に皮膚バリア機能を損傷させた健常人の前腕に貼付し,皮膚バリア機能回復能を検証した.結果:CDから角層へセラミドが移行することが確認された.また,セラミド非含有ドレッシング材および未貼付群に比較して,CDは貼付後3日および6日目の経皮水分蒸散量を有意に低下させた(貼付後3日:順にP=0.047,P=0.009;貼付後6日:順にP=0.048,P<0.001).結論:CDによるセラミドデリバリーは皮膚バリア機能を回復させるのに有効であり,褥瘡予防方法として有用な方法である可能性が示された.