著者
藤井 義博
出版者
藤女子大学
雑誌
藤女子大学紀要. 第II部 (ISSN:13461389)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.57-70, 2012-03-31

この論文は、新渡戸稲造(1862〜1933)の著作において日本人の生活法についての見解や意見を検討することにより、彼の頭を始終悩ましていた「広い意味のモーラル」を明らかにする試みであった。その見解と意見は、6つの概念で括ることができた。すなわち無作法、我儘の振舞、消極性、外的標準、黙思、物事を善用する心がけである。新渡戸稲造は、黙思および物事を善用する心がけを日本人の心に採り入れることによって、無作法、我儘の振舞、消極性、外的標準のような日本人の習慣を変えて、内的基準を持った人格、世界人としての日本人を創造しようとした。彼の理想は、西洋と東洋の長所を結合することでよりよい哲学を創設し、直観の精神を土台として科学を応用することであったが、それは、現在においても実現されることを待っている大いなる夢である。
著者
藤井 義博
出版者
藤女子大学
雑誌
藤女子大学QOL研究所紀要 (ISSN:18816274)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.17-24, 2011-03

宣長の自らの墓地定めは、平田篤胤や本居大平の言動が示唆するように学者としての一貫性を危うくするかもしれない思想信念における齟齬なのか、それとも弟子たちでさえ容易に把握することができなかったその一貫性故の帰結なのか、本論はこの研究的疑問を追究する試みであった。宣長は、古事記伝のなかで、持ち去る火が遠ざかりつつ本の跡に及ぼす光の喩えでもって、死者の魂はこの世から穢い黄泉国に去り往かねばならない悲しい定めにあるものの、去りながらなおこの世に留まり得ることを述べたが、研究的疑問は死者の魂についての2つの解釈の違いに由来することが示唆された。すなわちアイデンティティーを有するもの(死者の魂は黄泉国に去るかさもなければこの世に留まる)と把握するか、あるいは死者の魂は、後に遺された親愛なる者や後世の人の生活事象において活発な社会的存在と影響を持ち続ける作因(agency)であると解釈するかである。そして後者の解釈を採用するときにのみ、宣長の言動における一貫性が確認されるように思われる。倭建命(やまとたけるのみこと)の魂が草那芸剣(くさなぎのつるぎ)にとこしえに留まっているように、宣長は造った奥つきに魂が永く留まることを希ったが、そのとき宣長は自らの魂が後世の人に及ぼす影響力を考えていた。いわば後世の人々に向かってまっすぐに伸びてゆく玉の緒のような志を宣長は抱いていた。そしてその象徴が、山室山のすばらしい風景のなかに造った奥つきであった。塚には山桜の随分花のよい木を吟味して植えてもし枯れたときは植え替えるなど、宣長の奥つき造りはすべて人として行なうべき限りを行なうという信念に基づいての行為であった。しかし自身の死後に、奥つきが永きにわたって世の人に作用力を保持するか否かは「神の御はからひ」によることから、奥つきの名が永く言い伝えられてこそ、自らのいのちは永続するであろうと宣長は推し量った。このように宣長は、自ら造った奥つきが、後世の人において新たな感覚と行動を生み出す味を保持し続けることを視野に入れていた。
著者
寺沢 重法
出版者
藤女子大学
雑誌
藤女子大学人間生活学部紀要 (ISSN:21874689)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.13-27, 2015-03-31

Objective:To examine whether respondents majoring in natural science (rikei) in higher education(under graduate and graduate university) are non-religious. Methods: Data from the 2008 Japanese General Social Surveys (JGSS-2008) is analyzed. Dependent variables are 1)religious affiliation,2)devotion,and 3)confidence in religious organizations. Independent variable is whether respondents majoring in natural science (rikei)or human-social science (bunkei)in higher education. After cross-tabulation analyses,multinominal logit analyses and ordered logit analyses are conducted with the net effects of various socio-demographic and educational variables. Results: Respondents majoring in natural science are not significantly less religious than those who majored in human-social science in higher education, even though controlling various control variables. Conclusions: The widely accepted idea that those who majored in natural science in higher education are non-religious is partially rejected.
著者
吉田 真弓 山田 美智子 角張 敬子 藤井 義博
出版者
藤女子大学
雑誌
藤女子大学QOL研究所紀要 (ISSN:18816274)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.45-53, 2011-03

目的:従来、配偶者との死別経験が食事満足度にどのように影響しているのかは全く検討されていない。そこで前報では、特別養護老人ホーム入所者の主観的な食事満足度に影響を及ぼす配偶者との死別経験の影響について検討し報告した。本報では、対象者を増やしてさらなる検討を行った。対象と方法:札幌市内の特別養護老人ホーム3施設の入所者81名を対象とした。施設入所者の食事満足度について、多角的に調査できるよう構成された32項目からなる食事満足度調査票を使用し、個人面接調査を行った。個人面接調査は、施設と全く関係がない管理栄養士5名が行った。食事満足度調査質問32項目について配偶者の死別経験の影響を検討するためにウイルコクスンの順位和検定を行った。結果:配偶者との死別経験者は、「食べ慣れた味付け、料理はうれしい」、「施設入所で満足」において、非経験者よりも有意にスコアが高かった。男性の死別経験者は、「いつもの食事の楽しさ」、「行事食のおいしさ」、「自分の誕生日は特別」において、男性の死別未経験者より有意に高いスコアを示した。女性の死別経験者は、「食べ慣れた味付け、料理はうれしい」において女性の死別未経験者より有意に高いスコアであった。女性の死別未経験者は、「行事食の中で自分の誕生日を1番楽しみにしている」において女性の死別経験者より有意にスコアが高かった。男性の死別経験者も、「行事食の中で自分の誕生日を1番楽しみにしている」において女性の死別経験者より有意に高いスコアを示した。女性の死別経験者は「献立内容の把握」、「うるさくて食事に集中できないことはない」において男性の死別経験者よりも有意に高いスコアであった。女性の死別経験者のうち、入所期間が8年以上の入所者は、「行事食の好物」、「行事食の待ち遠しさ」、「職員から大切にされている」、「食事は期待通り満足」、「施設入所で満足」において入所期間8年未満の入所者よりも有意に高いスコアを示した。結論:配偶者との死別経験は、施設入所高齢者の食事満足度と主観的QOLに有意な影響を及ぼしていることが示唆された。
著者
近藤 江利子 小野 百合 藤井 義博
出版者
藤女子大学
雑誌
藤女子大学QOL研究所紀要 (ISSN:18816274)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.51-57, 2013-03-31

糖尿病患者のセルフケア行動には、病に対する感情負担がその行動に負の影響を及ぼすことが明らかにされている。しかし、食事療法に特化した感情負担とセルフケア行動の調査研究は少ない。そこで、糖尿病患者の感情のあり方と食のセルフケア行動の関連を明らかにすることを目的として、調査を行い、糖尿病の成因別に検討した。因子分析により、本研究の対象となった患者の食事観(食事の価値観)として、「ストレス解消優先型」、「生活習慣型」、「健康目的型」、「アンバランス型」と命名した4因子が抽出された。重回帰分析の結果、1型糖尿病患者においては、糖尿病特有の感情負担(PAID得点)が、食行動(EAT・EDI過食下位尺度得点)、糖尿病非特有の感情のあり方(WHO SUBI 陽性感情得点)、HbA1cに強い影響を及ぼしていた。一方、2型糖尿病患者では、食行動(EAT・EDI過食下位尺度得点)そのものが、感情のあり方(WHO SUBI 陰性感情得点)、BMIに影響を及ぼしているのが特徴的であった。また、食行動と感情負担の問題は、摂食障害の問題を中心として1型糖尿病の女性が対象になりがちであるが、2型糖尿病患者においても感情のあり方が食行動へ与える影響は大きいことが推測された。
著者
岡野 尚子
出版者
藤女子大学
雑誌
藤女子大学紀要. 第II部 (ISSN:13461389)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.91-119, 2012-03-31

Some recent surveys revealed that many Japanese have difficulty in developing self-affirmation skills, life skills,and the ability to think on their own, and to relate to others. These abilities and skills are at the very foundation of existence, and surveys seem to suggest the importance of early childhood education in the formation of self in children. In kindergartens, topics related to "life" and "living" frequently appear and these topics are often taken up in educational activities. Children learn how to live, after all,from the experiences they undergo, and this is particularly true for children at kindergarten age who are in the process of gaining independence and for whom everyday life itself is a learning experience. Teachers play a major role in building the kindergarten environment. In order for education goals to be achieved, it is crucial that the teachers understand and evaluate the individual and collective growth of children, and reflect and apply the learning to their everyday educational practices. In this study,we look into some studies and practices aimed at building a good environment for children from four perspectives. We hope that all adults involved with children during their growth period will learn that there are so many opportunities for education in everyday life and that they must take advantages of these opportunities to help develop the special personality in each child.
著者
阿部 典子
出版者
藤女子大学
雑誌
藤女子大学・藤女子短期大学紀要. 第II部 (ISSN:02869470)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.13-21, 1974-12

本研究に於いてパイクラストの薄層形成ともろさについて油脂量を0%〜100%までの9段階の配量と油脂の種類としてバター,パイバター,ネオマーガリン,コーンマ-ガリン,ショーートニソグ,マリーナ, ラーマを用いて折り重ねを2〜6回まで行なった場合の影響及びバターとコーンマーガリンの混合による成品への影響について検討し,次の結果を得た。1)パイクラストの薄層の形成ともろさは,油脂量に左右され油脂量50%以下ではパイ特有の連続した層形成は困難で厚く硬い。100%は薄層で連続的でありもろいが,味は油脂量が多いため油っぽい。外観は100%よりは劣るが80%,70%が好まれる。2)油脂の種類としてはバターを用いた場合には生地を十分冷却(7℃)して焙焼すると薄層となり浮きがよい。焼き色,風味は他の油脂より優れている。パイバターは層状は良好であるが風味はバターより劣る。コーンマーガリンはパイバターのように安定した層を形成し,風味はパイバターより良好で融点37℃で比較的高くパイ用の油脂として使用出来ることが認められた。ネオマーガリン,ショートニング,マリーナ,ラーマはパイ作りには不向きと認められた。3)油脂の種類と折り方の関係はバター,ネオマーガリンでは重ね4回、5回が層形成がよい。パイバターは重ねの影響を受けず常に安定した組織を形成する。コーンマーガリン,マリーナ,ラーマは重ね3回、4回が浮きがよくこれより重ねが多過ぎても少な過ぎても層の明瞭さが失なわれる。ショートニングは重ね2回,3回がパイ様であるが,重ねが多くなると不連続なビスケット状となる。油脂の種類によって伸展性と固定化が異なるので油脂の性質に応じた重ね数を選択する必要を認めた。4)バターとコーンマーガリンの混合に於いてバターにコーンマーガリンを10%混合すると重ねが少ない2回,3回が薄層で連続的な層となるが混合割合が変ると油脂の固定化が悪く不連続な層を形成する。コーンマーガリンは混合物よりむしろ単独で使用した方が膨化や薄層形成には良好であることが認められた。
著者
八島 絵美 藤井 義博 Emi YASHIMA FUJII Yoshihiro 藤女子大学人間生活学部食物栄養学科 藤女子大学人間生活学部食物栄養学科人間生活学研究科食物栄養学専攻
出版者
藤女子大学
雑誌
藤女子大学紀要 第2部 (ISSN:13461389)
巻号頁・発行日
no.44, pp.13-30, 2007-03-31

本研究の目的は、栄養教育に応用するために、栄養の多次元的必要性(生理的必要性、安全の必要性、帰属の必要性、尊敬の必要性、自己実現の必要性)を評価する新しい尺度を開発することであった。本研究は、以下3つの順番で実施した;(1)57の質問項目からなり、5段階リカートスケールを用いた自己記入式質問票の開発。(2)467名の札幌の小中学校あるいは北海道内の病院において実働している栄養士を対象とした調査票の郵送。(3)因子分析による6因子の同定と解釈:第一因子(ストレス解消型食事因子)、第二因子(アンバランス型食事因子)、第三因子(健康維持型食事因子)、第四因子(ウェルネス志向型食事因子)、第五因子(やせ志向型食事因子)、そして第六因子(自己実現型食事)。今回の探索的因子分析により、食習慣を評価する43項目からなる自己記入式質問票である食習慣判断指標Food Usage Judgment Index(FUJI)が構築された。