著者
善積 京子
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
no.4, pp.66-74, 2005-05-28

近代婚姻制度では、婚姻と性と生殖の〈三位一体〉制度がとられ、子どもを産み・育てるという再生産機能は婚姻内だけに期待され、親子関係は婚姻関係と結びつけられ、嫡出推定によって法的な父親が定められる。先進諸外国では近年、同棲・婚外出産・離婚・ひとり親家庭や再婚家庭が増え、人間の再生産機能は婚姻家族だけでなく多様な形態の家族によって遂行されるようになる。子どもの人権尊重やライフスタイルへの中立性の視点から、家族法が改正され、「嫡出・非嫡出子」の概念が取り除かれ、「嫡出推定」「嫡出否認」の制度は廃止される。親の婚姻関係を超えて父子関係が形成され、離婚後も共同親権が認められる。一方日本においては、婚前の性関係は一般的になるものの、嫡出性の規範が支持され、「婚姻-生殖」の結合関係が維持される。日本では、法的親子関係がいかに婚姻制度を軸にして展開されているかを、親の婚姻関係の有無で異なる父子関係の形成、嫡出推定の排除方法、国際婚外子の国籍、非婚の父の出生届、離婚後の単独親権や養育責任追及制度から検討し、その問題点を明かにする。
著者
トイボネン トゥーッカ 山本 耕平
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
no.13, pp.102-110, 2014-05-31

社会起業および社会イノベーションという概念は、この20年間で、新たな実践と研究の領域を切り開いてきた。しかし、社会起業家の社会イノベーションの事例などについては研究が蓄積されてきた一方で、起業家の恊働については十分な研究がなされていない。そこで本稿では、この側面をより体系的に探究するための、柔軟な枠組みを構築することを目指す。社会起業という領域における恊働は、いわゆる社会イノベーション・コミュニティー-恊働を可能にする物理的環境およびインターネット環境に加えて、社会起業の文化によって動かされる混合体-という文脈で展開されるようになっている。いまやこうしたコミュニティーは世界中で生まれているが、これはさらに、当初の恊働関係を超えてより広範な社会イノベーションの「回路をつなぎ換える」ような、恊働体(collaborative community)と見なせるだろう。社会イノベーション・コミュニティーは、多様な参与者を取り込み、学習と創造能力の向上を促進することで、創意にあふれ、かつ持続可能な経済への転換を触発するようになっている。こうしたコミュニティーや、それがもたらすイノベーションのプロセスおよび影響にかんするさらなる研究においては、社会ネットワーク分析、社会関係資本の理論、エスノグラフィーといった多様なアプローチが実り多い成果を生むと思われる。
著者
石田 佐恵子
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.35-44, 2007-05-26 (Released:2017-09-22)

メディア文化が高度に細分化・多様化する現代において、年齢層(世代)ごとに明瞭に区分可能な文化を同定することははたして可能なのだろうか。若者文化論、対抗文化論など、かつて世代ごとに区分可能な文化が観察可能であったとして、それらはまさしくマス(=大量)文化を形成するメディア商品とその市場が可能にしていた現象に過ぎなかったのではないか。本報告では、文化研究における差異の問題、世代文化論の困難(問題点)を考察する。世代論の困難は、(1)俗流若者論、(2)世代主義、(3)女の系譜の忘却、の3つの論点にまとめられる。また、1970年代から2000年代までの、世代論のマーケット的意味を概括する。さらに、時代ごとの共通経験や時間感覚を文化研究に反映させるための方法論的な可能性について、メディアの共通経験をキーワードに論ずる。
著者
山本 めゆ
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.5-17, 2014-05-31 (Released:2017-09-22)

本研究では、黄禍論の広がりととともにアジア人への排斥が進んだ20世紀初頭、南アフリカに移入した日本人の地位とその変遷に注目する。当国の移民政策に対して日本側はいかなる交渉、適応、抵抗を見せ、それは人種の境界をいかに動揺させたのか。反アジア主義的な移民法をめぐる研究史のなかにこれらの関心を位置づけながら、人種主義研究の観点から検討することを目指す。南アフリカでは19世紀後半よりインド人、20世に入って華人労働者が導入されたことによりアジア人排斥の動きが広がり、1913年にアジア人移民の規制強化を目的とする移民規制法が制定された。日本人がアジア人として規制の対象となったことに強い危機感を抱いた日本政府や領事館は、南アフリカ当局に対し粘り強い交渉を続けた。その結果、1930年に両国間で合意が交わされ、いくらかの制約を含みながらも、日本人の商人、観光客、研究者が禁止移民から除外されることとなる。その背景には日本側が渡航者の身分を商人や駐在員に限定し労働移民を排除するという方針を提示したことや、前年からの大恐慌で南アフリカが羊毛の市場開拓を迫られていたという事情もあった。本稿は、当時の日本人移民の地位について、バレットとローディガー(1997)によって提示された「中間性」概念を重視しながら粗描し、南アフリカの人種政策に対する日本側の批判とその限界について再検討を加える。
著者
金菱 清
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.137-148, 2018 (Released:2019-05-11)
参考文献数
9

ライティング・ヒストリーは、調査者の介在を必要としながらもその関与を無効にし、当事者のなかで抑圧されていた無意識に対して、当事者が自らの手で意味のある「歴史」として刻むことができる新たな実践です。現場の当事者は、こんなことを話すべきではない、書くべきではないという形で感情を抑圧している場合があります。いわゆる沈黙状態です。それを二人称で亡き人に対して「手紙」という形で書き記してもらいます。予め書かれたものがあってそれを分析するといった書かれた(written)文章資料主義ではなく、書こうとする(writing)意思に重点を置きます。ライティング・ヒストリーは、自分でわけのわからないぐちゃぐちゃしていた感情を自分のなかで咀嚼しながらなんとかそれを理解可能なものへと導いてくれます。そのことで、これまで歴史のなかで沈黙を強いられてきた問題が何であるのかを明らかにする試みです。
著者
山北 輝裕
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.5-18, 2020 (Released:2021-05-29)
参考文献数
13

本稿は、長期野宿者に対して居宅をすみやかに提供し、居宅移行後もケアを継続する支援実践であるハウジング・ファーストを質的調査から検討する。なかでもアパートに出現する「幽霊」に悩む男性の経験をめぐって、その男性、支援者、福祉事務所、不動産屋、地域住民との間で経験の分離がどのように立ち現れ、そしてそれに人々がどのように向き合うのかという問題に着目した。そのことで、ハウジング・ファーストのフィデリティである無条件性がどのように達成されているのかが明らかになった。当事者と支援者は経験の分離から離脱せず、両者が共有する「経験の飛び地」を志向することによって、相互作用を継続させた。そのことが結果的に当事者に変容を迫らない無条件性を成立させていた。しかし経験の分離が保たれたまま「飛び地」を志向することは、両者を取り巻く社会においては容易に共有されず、否定されていた。住居提供にとどまらず、「飛び地」を拡大することに当事者たちの生活を支える社会運動としてのハウジング・ファーストの意義が存在する。
著者
竹内 麻貴
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.93-107, 2018 (Released:2019-05-11)
参考文献数
26
被引用文献数
1

労働力不足の解消・出生力の回復・低成長時代での家族形成という超高齢社会の日本が抱える政策的課題へ対応するには、男性稼ぎ手モデルから脱却することが必要とされている。本稿ではそれを阻む要因として考えられる、母親であることが低賃金に結びつくMotherhood Penalty(以下、MP)について検証した。男女の賃金格差の要因としてMPを盛んに研究してきた欧米に比べ、日本での蓄積はまだ浅い。そこで本稿では、最新の大規模パネル調査を用い、現代日本におけるMPの計量的検証を行った。被説明変数を時間あたり賃金、主な説明変数を子ども変数とした固定効果推定の結果、子ども1人につき約4%のMPが確認された。また、子どもが2人いると約12%、就学前の子ども1人につき約4~6%、子どもがいない女性よりも賃金が低いことが明らかになった。とくにMPの検出において、労働環境の質的特性が重要であることが示唆された。ただし、MPに関連する要因を統制することでMPを検出することはできたが、MPのメカニズムはそれらの要因によって説明されなかった。この結果には出産・育児離職によるセレクションが日本で大きいことが背景にあると考えられる。本稿で確認されたMPを予期し出産をしない女性や出産前に離職する女性が存在している可能性も鑑みれば、単に女性の労働参加を促すだけでなくMPを小さくすることが政策的に重要である。
著者
高橋 美恵子
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.75-84, 2014

人々の健康と豊かな生活の実現を目指す上で、ワーク・ファミリー・バランス(WFB)は重要な政治課題といえる。我が国では男女双方のWFBの重要性を唱える一方で、性別役割分業を前提とするジェンダー規範は根強く残り、社会全体のジェンダー構造にも大きな変化はみられない。長時間労働や働き方の硬直性に特徴づけられる日本の就労環境でのWFBをめぐる男女間の不均衡は、ヨーロッパの先進諸国に比較すると突出している。本稿では、子育て世代の男女のWFBに主眼を置き、EU諸国を比較対象として、マクロデータとミクロデータを用いて、ジェンダーの視点からWFBをめぐる議論の動向と実践を考察した上で、日本の問題点を抽出し、今後の政策議論の方向性について検討した。本稿で提示した日本の問題点は、相互に関連する複数のギャップ-(1)男女間のギャップ、(2)WFB推進施策・制度と実践のギャップ、(3)理想と現実のギャップ-の存在である。スウェーデンを皮切りに、オランダやドイツ等のEU先進国では、共働きモデルへと転換を図った上で、男性のケア役割についての議論を行っている。日本でも、まずWFBにおける(1)のギャップを取り除いていくという視座に立つ実践的な取組みが求められる。時間的ゆとりをもって豊かに暮らせる生活の質を包括する概念としてWFBを捉え、EUで実践されているディーセント・ワークの観点から、働き甲斐のある人間らしい仕事についての共通認識を得ることも急務であろう。
著者
菅原 祥
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.113-125, 2010

本論の目的は、旧ソ連・東欧の社会主義圏におけるユートピア的想像力が当時の人々の意識や実践とどのような相互作用を及ぼし合い、そこにはどのような思考や実践の可能性が存在したのかを明らかにすることである。この目的のために、本論は1950年代のポーランド・ドキュメンタリー映画を当時の雑誌記事などと合わせて分析することにより、社会主義のユートピア的想像力がいったいどのような形で映画のなかで映し出される「現実」をとらえようとしていたのかを考察する。分析から明らかになったことは、1950年代前半の「社会主義リアリズム」のドキュメンタリーにおける特異な時間意識をもとにした未来志向のユートピア的想像力が、1956年の「雪どけ」以後に現れた「黒いシリーズ」と呼ばれるドキュメンタリーにおいては、言わば「ポスト・ユートピア的」とでも言いうるような別の現実認識のありかたに取って代わられたということである。これら二種類の映画のありかたの違いは、単なる体制側のプロパガンダと反体制側による真実の暴露といったような、単純な政治的対立図式で理解できるようなものではない。むしろそれは、社会主義のユートピア的想像力における意識や知覚のありかたの変容をしるしづけていたのである。結論として本論は、一枚岩の抑圧的体制と思われがちな社会主義体制のプロジェクトのなかに、実は多様な想像力や実践のありかたが存在していたのだということを示唆する。
著者
安里 和晃
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.93-101, 2014

経済成長を背景とした女性の労働力化と高齢化の進行に対応すべく、家事・介護・看護の外部化が多くのアジア諸国で進んでいる。シンガポール、香港、台湾だけで70万人を超える外国人家事労働者が存在し、韓国や東南アジアの受け入れ諸国でもその数を増大させている。日本はやや例外的で性役割分業を前提とした家族モデルが相対的に強く、家事労働などの外部化はそれほど進展しなかった。しかし、幾度か外国人家事労働者や介護労働者、看護師などの受け入れが議論されたことがある。本稿では外国人労働者政策を振り返ることで、介護保険、ポイント制、経済連携協定が議論された際、外国の人材受け入れに関してどのような対応がされたか検討した。日本では労働需給にもとづき外国人労働者を導入するといった補完的論理に基づく外国人労働者政策を取ることができず、研修や日系人、留学生といった形で事実上の受け入れを行ってきた。EPAにおいても看護・介護部門の人材不足は認められないという前提に立ち「候補者」という形で受け入れが行われ、わかりにくい運用となっている。外国人の労働者性に対する懸念は国民主権の論理、治安の悪化や社会保障費用の増大といった社会的コストなどがあげられるが、人口構成の変化に対する新たな社会システムの構築は喫緊の課題であり、労働市場に応じた受け入れというある意味わかりやすい社会政策と関連付けた外国人労働者政策が取れるかどうか検討されるべきであろう。
著者
尾﨑 俊也
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.85-97, 2017

<p>本稿は、社会学的行為理論の枠組みから男性性概念を用いて男性のDVや性暴力を研究しているメッサーシュミットから知見を得て、暴力行為と男性性の関係を明らかにすることを目的とする。行為理論の枠組みから、男性の暴力行為がどのように理解されうるのかは大きく問われてこなかった。他方、犯罪心理学の分野において、男性の暴力行為の原因が個人の病理的な特性や性衝動に回収される傾向にあった。そのなかで、メッサーシュミットの研究からは、暴力行為に極めて社会的な過程があることが理解できる。メッサーシュミットは暴力行為の社会的意味が暴力行為者にとって重要なものであり、暴力行為を通じて、男性性が実践される側面を解明した。この意味で、われわれの社会が構築してきた男性性が、暴力加害に作用していると言える。男性の女性に対する暴力については、支配的な男性性をめぐる男性同士の社会的な闘争で周縁化された男性が、女性に対する暴力を行使することで、支配的な男性性を実践する社会過程があると分かった。さらに、性暴力は異性愛に特徴づけられた男性性を行為することを通じて、より支配的な男性性を実践できる傾向にあることも読み取れた。このように、女性に対する男性の暴力が発生する背景に、社会的に構築された男性性があり、また性的な意味を経由することで、よりその支配性が暴力行為者によって見出されるのである。</p>
著者
富永 京子
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.17-30, 2013-05-18 (Released:2017-09-22)
被引用文献数
1

本研究は、グローバルな社会運動において運動体間の連携がどのように行われるのかを問う。先行研究は「社会問題の被害者=主要従事者」「被害者以外の人々=支援者」と定義して分析を行うが、グローバルな社会運動は被害者と加害者の境界が曖昧であるために、主要従事者と支援者を判別することが困難である。本稿はサミット抗議行動を事例とし、グローバルな運動の中で主要な運動従事者が決定される過程と、運動主体間におけるレパートリーの伝達過程を分析することにより、グローバルな社会運動における運動体間の連携のあり方を考察する。具体的には、サミット抗議行動においてレパートリーの伝達がいかになされたかを参加者50名の聞き取りデータを基に検討する。分析の結果、本運動の主要従事者はサミット抗議行動が行われる地域で普段から活動する人々であり、レパートリーは毎回の抗議行動と同様に定例化・定期化されて行われる。しかし、主要従事者は定例化されたレパートリーを義務的に行う一方、設営や資源調達といった場面で自らの政治主張や理念を反映させることがわかる。グローバルな運動における運動体の連携に関する結論として、第一に、「場所」が主たる運動従事者を決定する要素となり、第二にレパートリー伝達をめぐって「前例」が大きな役割を果たしており、第三に主要な従事者は表立ったレパートリーだけでなく資源調達によって政治的主張を行うことが明らかになる。
著者
浦野 茂
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.202-215, 2018 (Released:2019-05-11)
参考文献数
20

生活のなかにおける障害をどのように記述し説明するかという課題は、認識上の課題であると同時に、それが障害をめぐる社会関係の一部をなしているがゆえに道徳的な課題である。したがって、その記述と説明をどのように組織するかという課題は、社会学者以前に社会成員の課題である。本稿はこうした視点のもとに、ある精神障害者を対象とした当事者研究会における相互行為を検討する。そこでは、感情的なトラブルの経験について、その経験そのものに対してではなく、それを記述・説明する仕方そのものが主題化され、その方法の転換が成し遂げられる。当初、家族における道徳的問題として記述されていたトラブルは、この結果、身体を原因したそれへと、本人自身によって書き換えられていく。本稿は、このような相互行為を記述することにより、精神障害にかかわるトラブルの記述・説明方法の転換を共同で成し遂げるための技法のひとつを明らかにする。そのうえで最後に、こうした技法が精神障害者の地域生活支援に対していかなる意義をもつのか考える。
著者
桶川 泰
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.93-104, 2007-05-26 (Released:2017-09-22)

恋愛を礼賛する声は明治初期において芽生え、大正期においてより一層勢いを持ち、花が開くようになった。ただよく知られているように、大正期では個人の自由な配偶者選択すら認められていない現実が存在していた。それでは、当時の社会において恋愛は如何にして既存の秩序に訓化させられていたのだろうか。本稿では、恋愛が礼賛されると同時に、既存の秩序との調和を取るのに適した恋愛観・結婚観が大正期、もしくはその次の時代の昭和初期に如何なる形で存在していたのかを分析することでそれらの「問い」を解き明かそうとした。分析の結果、恋愛の情熱的な側面を盲目的なものとして批判し、危険視していく「情熱=衝動的恋愛観」言説を中心にして、恋愛が既存の秩序に訓化させられていた。そうした恋愛観は、まず恋愛には理性が必要であることを強調し、そしてその理性的判断のためには両親の意見や承認が必要であるという論理を生み出していった。またその一方で、そうした恋愛観は一時的な情緒的満足や快楽によって成り立つ恋愛を否定し、恋愛は子孫、民族のために費やさなければならないという論理を生み出すことで「優生結婚」とも結びつきを見せるようになった。
著者
松岡 慧祐
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.100-113, 2008-05-24 (Released:2017-09-22)

1990年代に厚東洋輔や若林幹夫によって、地図は個人が直接的に俯瞰することのできない「社会」の全体像を可視化し、他者と共有することを可能にするメディアであるということが論じられた。だがそれ以来、こうした発想を現代社会の分析に適用するような「地図の社会学」が展開されることはなかった。現代では、グローバル化によって個人を取り巻く「社会」がますます大規模化・複雑化し、個人の生活は<ここ>ではない場所の目に見えない影響を受けやすくなっている。そこで、個人が地理的想像力を拡張し、こうした「世界社会(地球社会)」を面的・視覚的に把握するためのモデルとして、地図の役割があらためて重要になっている。また近年、コミュニティ再生が課題となっている地域社会でも、住民みずからの地理的想像力をローカルに拡張し、面的な「地域社会」を再発見するための地図がまちづくりに活用されるようになっている。だが地理的想像力は、地図の変容や電子メディアの発達などによって、危機に晒されるようにもなっている。地図は地理的想像力を拡張し、社会(学)的想像力の手がかりになりうる一方で、現代社会における地図のあり方は、地理的想像力を断片化し、「社会」を不可視化することで、個人と社会を切り離す可能性をもちはじめているのである。
著者
金 瑛
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
no.11, pp.3-14, 2012-05-26

本稿の目的は、アルヴァックスの集合的記憶概念を再考することにある。そこでまず行なったのが、アルヴァックスによる記憶(memoire)と想い出(souvenir)の区別、集合的記憶と歴史の区別を検討することで、集合的記憶を定義し直すことである。集合的記憶は、時間的な連続性の流れとして定義され、言語活動・時間・空間という「枠組み」によって構成される。本稿では、従来あまり注目されてこなかった「環境(milieu)」という概念に着目することで、時間の「枠組み」を支える空間性について論じた。そしてそこでは、ノラの「記憶の場」という概念やモースの贈与論を参照軸に、「環境」と「場」の関係、「場」の変化による忘却の問題を論じた。また「環境」という観点から、個人的記憶と集合的記憶の関係、集合的記憶における忘却と想起についても論じた。本稿の論点は、「環境」が集合的記憶に対してもつ意義を説くことである。
著者
秋風 千惠
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.175-187, 2018 (Released:2019-05-11)
参考文献数
19

本稿では軽度障害当事者の語りから、彼/彼女らのディスアビリティ経験をみていくこととする。まず軽度障害者が浮上してきた経緯を述べ、その背景となったイギリス社会モデル批判を検討し、アメリカ社会モデルが妥当であると結論する。これまで社会モデルへの批判は主にインペアメントの扱いについての批判であったが、星加良司はディスアビリティについて再検討し、障害者が蒙る不利益を集合としてみる“不利益の集中”という概念を持ち込んだ。本稿では星加の不利益理論を補助線として、軽度障害者の語りを検討する。『社会的価値』『個体的条件』『利用可能な社会資源』『個人的働きかけ』といった諸要素を考慮に入れながら、主に性別役割分業に照準したディスアビリティ経験を分析してみる。