著者
荒谷 航平
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.117-122, 2022-12-18 (Released:2022-12-15)
参考文献数
10

本研究の目的は,若手の中学校理科教師/科学教育研究者である筆者が,筆者自身の理科教師としての演技的振る舞いである〈ふり〉について物語ることである.本稿では,筆者の理科教師としての〈ふり〉の中から,「勿体ぶる」,「子どもぶる」,そして「アドリブる」の3つを取り上げて物語り,その後に,それらの〈ふり〉について,「教師-子ども」の権力関係や隠れたカリキュラムの観点から考察する.
著者
中村 大輝
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.223-228, 2023-12-09 (Released:2023-12-07)
参考文献数
7

学校現場の業務量が増加する中で,学力調査の実施負担を軽減することは喫緊の課題である.本研究では,調査の対象となる教科の学力得点が教科への態度得点と相関を持つことに着目し,質問紙によって得られる態度得点の情報を利用して教科の学力を推定する方法を検討した.全国学力・学習状況調査の個票データを用いたシミュレーションの結果,教科への態度を補助変数とする一般化回帰推定量(Generalized Regression Estimator)を利用することで,従来よりも効率的に誤差を減らすことができることが示された.これは,現在の調査方法よりもより少ない調査学校数で同程度の精度を実現できる可能性を示唆している.
著者
川崎 弘作 雲財 寛 中村 大輝 中嶋 亮太 橋本 日向
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.85-90, 2023-12-09 (Released:2023-12-07)
参考文献数
14

本研究では,生命領域における探究の特徴を踏まえた学習指導が知的謙虚さの育成に有効か否かを明らかにすることを目的とした.このために,小学校第6学年「植物のからだのはたらき」において授業実践を行った.その結果,量的分析から,知的謙虚さ得点の平均値が実践後に向上していたと判断できる結果が得られなかった.このため,生命領域における探究の特徴を踏まえた学習指導が知的謙虚さの育成に有効であるとはいえないと判断した.その一方で,本研究の成果と先行研究の知見を比較することを通して,知的謙虚さの育成に関する新たな視点として,「自身の考えが誤っている可能性を常に疑い続ける学習」が有効であるという示唆を得ることができた.
著者
石井 康博
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.23-28, 2023-02-23 (Released:2023-02-21)
参考文献数
18

算数科教育の歴史においては,第一期国定算術教科書いわゆる黒表紙教科書にかかわる論争が確認される.それは「直観主義」に対する「数え主義」の図式が存在している.しかしその一方で,その対立においては子どもに提示される掛図,すなわち実物として動きが表現されない教具に対して自由に操作できうる実物といった教具,それぞれ二種の異なる具体物の捉え方の相違が背景にあると考えられる. 本稿では,藤澤利喜太郎(1986)の『數學教授法講義筆記』を辿り,第一期国定算術教科書における「数え主義」において利用されたと考えられる具体物に焦点を当て,「数え主義」にかかわる具体物として数図を取り上げ,現在使用されている教科書において掲載されている数図に対して,心理学的な側面から検討していく.
著者
下川 瑞貴 江頭 孝幸 野口 大介
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.127-130, 2023-02-23 (Released:2023-02-21)
参考文献数
17

「炭酸アンモニウム」は不安定な物質であり,市販品は炭酸水素アンモニウムとカルバミン酸アンモニウムの混合物とされる.炭酸水素アンモニウムとカルバミン酸アンモニウムには結晶構造が知られており,最近では炭酸アンモニウムについても一水和物の結晶構造が報告された.こうした結晶構造データを効果的に用いれば,高校化学の無機物質分野におけるより魅力的な授業を展開できるかもしれない.すなわち,簡易型アンモニアソーダ法の生徒実験を湯煎および氷冷による二通りで実施すれば,高温と低温で生じる違いを事前に予想させつつ,観察に目的意識を持たせることができる.そして反応温度により生成物が異なることに気づかせ,思考を深めさせることも期待できる.結晶構造を立体的に表示すれば,視覚的理解に基づくさらに発展的な学習も可能だろう.
著者
紙本 裕一 福田 博人
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.133-138, 2023-12-09 (Released:2023-12-07)
参考文献数
10

本稿は,算数・数学科教科書に含まれる文章表現の意味理解の限界が存在するのかどうかを明らかにすることが目的である.分析の結果,教科書の90%は中学3年で,理論上理解できるものの,残りの10%については他教科の教科書や,これまでに使用した算数・数学科教科書を使っても理論上意味理解ができないものが残ることが明らかとなった.他教科の教科書やこれまでに学習した算数・数学科教科書を使って本文の意味理解を進めるとき,小学6年でも20%程度の語が理解できないことが明らかになった.つまり,他教科の教科書を活用しても,算数・数学科教科書に含まれる文章表現を一字一句理解することはできない.
著者
田中 秀志
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.237-242, 2023-12-09 (Released:2023-12-07)
参考文献数
13

ROSES(Relevance of Science Education-Second)は,15歳の生徒を対象とした理科や科学,科学技術に関する情意面を調査するための国際比較調査プロジェクトである.本研究では,日本の中学校3年生を対象に,ROSE(Relevance of Science Education)およびROSES(Relevance of Science Education-Second)国際比較調査プロジェクトのデータを用いて,地震や自然災害に関する生徒の意識の変容の調査を行った.日本では,自然災害に関する学習指導要領の改訂があり,地震,火山,気象と,それぞれの災害へ対して防災教育を充実させた内容へと変化してきている.しかし,分析結果から,20年間で地震に対する防災意識は向上している一方で,台風など気象関連の災害に対する関心は低下している可能性が示唆された.
著者
下平 剛司
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.91-96, 2023-12-09 (Released:2023-12-07)
参考文献数
12

科学の健全な発展のためには,科学や研究における適切な行動規範,研究倫理が重要である.科学の行動規範や研究倫理は記述的であり,それらを包括して理解するための理論的枠組みの検討は研究倫理に関する議論を深めるための重要な基礎的作業である.本研究では科学の営みとその倫理の関係性を捉えるための理論的枠組みを模索し検討するために,科学における倫理的行動について定式化を行った.倫理や規範に関する行動(文化形質)と,科学コミュニティへの所属・アイデンティティの認識に焦点を当てて定式化し,これらの関係性についてマトリクス形式での整理と解釈を検討した.また,倫理的立場の違いや規範とアイデンティティの衝突について議論できる可能性や,科学的活動のプロジェクトにおいて倫理的行動を取るための方策の議論やシミュレーション研究への発展の可能性など,本研究の発展可能性について検討した.
著者
下平 剛司
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.123-128, 2022-12-18 (Released:2022-12-15)
参考文献数
26

文化的コンテンツの1つであるマンガは,娯楽の文脈だけでなく,科学教育の文脈でも活用されている.ここで,マンガ内の描写は科学的事柄だけでなくフィクションを含むことから,マンガの科学教育の活用においては,読み手が科学的事柄とフィクションの境界を認識できる必要がある.本研究では,科学教育の観点からのマンガ研究の土台を整理するために,これらの論点に関して理論的な検討を行った.まず,マンガのストーリーの構成要素内における科学的事柄とフィクションの描写について検討し,作品によってその境界にグラデーションがあることを確認した.次に,グライスの推意の理論を援用して,「学習マンガ」と「学習マンガと見做した娯楽マンガ」に対して読み手が行う推定の相違を示した.最後に,これらの議論を踏まえた上で,”学習マンガ” としてマンガを位置づける際のステークホルダーの役割と,科学教育におけるマンガ研究の今後の展望を整理した.
著者
Kumiko Takahara
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
日本科学教育学会年会論文集 (ISSN:21863628)
巻号頁・発行日
pp.153-154, 1995 (Released:2018-05-16)
参考文献数
3

The goals of Japanese language teaching in the United States as part of the university curriculum needs to be reset in response to a changing socio-economic climate and societal expectations from foreign language studies. Three major areas are identified for discussion on how the Japanese Language Program at the University of Colorado may expand its roles and increase its contributions to higher education in order to continue its growth. A number of problems which may be encountered in pursuit of these goals will be addressed.
著者
野田 尚吾 後藤 朱 紙本 裕一
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.251-256, 2023-12-09 (Released:2023-12-07)
参考文献数
7

学習指導案は教科によって書き方も異なり,各項目も異なっている.教科全体で見たときに,その前に学習指導案はどのような傾向・特徴を持っているのだろうか.本稿は,教科全体で見たときの学習指導案の特徴を明らかにすることを目的とする.小学校学習指導案細案を題材として分析した結果,「①西日本・東日本で見て学習指導案細案の特徴に傾向の差はない.②質的に見ると,社会が最も他の教科と特徴が近く,理科が最も遠い傾向がある.③質的に見ると,近畿,中国・四国,九州は比較的特徴が近い指導案を書く傾向にある」という結果が得られた.
著者
山川 結衣
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.291-294, 2023-12-09 (Released:2023-12-07)
参考文献数
3

本研究では,沖縄の生徒が理科の授業で学ぶものは身近ではないという潜在意識があることが課題であるとし,沖縄の文化に関連した理科の授業を行うことで,生徒の学習意欲に変化がみられるのではないかと考えた.授業づくりにおいて,沖縄の自然や文化に関する題材を用いることで,生徒の興味・関心を引き,理科と日常生活との関連性への気づきが得られることや,実践意欲が高まることが分かった.また,生徒自身で学習内容を応用し,科学的な根拠に基づき,新しい考え方へと発展させることができると実感できた.
著者
俣野 源晃 山口 悦司 渡辺 桜 置塩 佳奈
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.61-64, 2022-12-18 (Released:2022-12-15)
参考文献数
4

本研究の目的は,アーギュメントの証拠として利用すべき複数の観察・実験結果を必ずしも証拠として記述できていない「アーギュメント構成における証拠の十分性の問題」について,証拠の十分性に関する認識的理解の観点から事例的に検討することであった.俣野・山口・渡辺・置塩(2022)において報告された小学校理科の単元「太陽と地面の様子」に関する証拠の十分性の認識的理解のタイプに即して,事例となる学習者3名を抽出し,個々の学習者における証拠の十分性の認識的理解,証拠の選択,証拠の記述という3者の関係性を検討したところ,アーギュメント構成における証拠の十分性の問題には証拠の十分性に関する認識的理解が影響していることが示唆された.
著者
板橋 夏樹
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.11-14, 2022-12-03 (Released:2022-12-01)
参考文献数
7

本研究は,小学校段階でのエネルギー概念の導入を検討するための基礎的知見を得るための一環として,エネルギーをテーマとした小学生向けの学習漫画『ドラえもん科学ワールド エネルギーの不思議』に掲載された4つのエピソードを事例に,エネルギーに関する登場人物の台詞の表現とその特徴について分析した.その結果,以下のことが明らかになった.(1)共起ネットワークによる分析から,エネルギーと関連付けられた言葉は「熱気球,ダイナミック,役に立つ,便利,遊べる,車,新しい,遊べる,ママ」等のような日常生活に関するものであった.(2)液体のような流動的なもの,燃焼に必要な燃料としての資源,保存できずに消滅してしまうもの,また,ある形態から別の形態に変換できるもの,としてエネルギーが表現されていた.
著者
中村 大輝
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.165-170, 2022-12-18 (Released:2022-12-15)
参考文献数
15

近年,機械学習(Machine Learning)の技術を教育評価に応用する動きが加速している.しかしながら,科学教育における機械学習を用いた評価方法は研究蓄積が不十分であることに加えて,今後の研究へ向けた成果と課題が十分に整理されていない.そこで本研究では,科学教育における機械学習を用いた評価方法の先行研究をレビューし,研究の現状と課題を検討した.Zhai et al.(2020a)の先行レビューに新たな論文を加えた60件の論文を対象にレビューを実施した結果,次の3点が明らかになった.1.機械学習の導入によって自由記述などのより多様なデータを使用して妥当性を担保しつつ,採点の自動化によって評価の負担を減らし,大規模な評価の実施を目指す研究が多くみられる.2.評価内容や領域には偏りが見られる.3.多くの研究が転移可能性の課題を抱えている.
著者
佐藤 陽 安藤 秀俊
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.13-16, 2022-12-03 (Released:2022-12-01)
参考文献数
5

ヒメチャマダラセセリは,鱗翅目セセリチョウ科の蝶である。日本では,北海道の特産種で日高山脈アポイ岳付近に産し,国の天然記念物(絶滅危惧ⅠA類)に指定されている。近年,生息環境の変化により個体数が急激に減少し,日本チョウ類保全協会などの調査では,調査地(計11カ所)における7月下旬の幼虫数の変化を見ると2013年には361頭であったが,2020年には70頭まで減少し絶滅の危機に瀕している。絶滅を避けるためには,生息域外保全による増殖などの対策が必要であるが,1973年の本種の発見から,2年という短い期間で天然記念物に指定されており,生息域外保全のための基礎的な飼育データがほとんどない。そこで今回,日本チョウ類保全協会から環境省と文化庁の許可を得て採集した母蝶から強制採卵した300卵の生息域外保全を委託され,温度,日長,2化の条件など,累代飼育のための基礎的データの収集を行った。
著者
齊藤 智樹
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.15-20, 2022-12-03 (Released:2022-12-01)
参考文献数
24

This study aimed to depict the structure of integrative STEM education. Referring to literature from the period when discipline-based education was actively discussed, the paper argues the nature of the structure, its three-dimensional view, and the differences depending on the structures of teaching and learning. As a result, it is shown that there is a need to reconsider the boundary between Inter- and Trans-disciplinary STEM education and to redefine the classification.
著者
Sheila Gamut OYAO Takeshi FUJITA
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
科学教育研究 (ISSN:03864553)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.179-191, 2009-09-10 (Released:2017-06-30)
参考文献数
32

This study explores the beliefs and practices of Japanese and Filipino elementary teachers concerning their roles and those of their pupils in the conduct of hands-on science, as well as barriers to hands-on science teaching. A survey questionnaire was used to achieve the aims of this study. The results indicate that Japanese and Filipino teachers had beliefs and actual practices regarding hands-on science that can be described as having their pupils design the method of investigation, and work collaboratively. Nevertheless, Filipino teachers have the tendency to provide their pupils with the solutions to the problems. The findings also show that in both countries teachers had experienced major problems relating to laboratory apparatus, science materials and length of class period in their actual teaching. Additionally, Japanese teachers had experienced other big problems pertaining to planning time and limited background and experience in the use of science materials, whereas Filipino teachers felt that the large class size was another big problem. The results further corroborate previous qualitative findings that indicate associations between teachers' beliefs and practices.
著者
大橋 淳史
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
科学教育研究 (ISSN:03864553)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.11-18, 2015

An experiment using a plant of purple sprout and soil of 'mebae gel' were developed in order to obtain interdisciplinary teaching materials straddling biological and chemical studies. The improved cultivation method using the gel made it possible to observe the growth of the roots easily and obtain anthocyanin from the plant effectively. Moreover, the hardness of water can be analyzed quantitatively using a solution of anthocyanin. The experiments were undertaken in a junior high school and confirmed that these teaching materials are effective.