著者
埴原 恒彦
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.98, no.4, pp.425-437, 1990 (Released:2008-02-26)
参考文献数
35
被引用文献数
3 6 18

最近の日本人の起源に関する研究から,アイヌは縄文人の直系の子孫で東南アジアの後期更新世人類,すなわちプロトモンゴロイドに由来するとされている.一方,北海道東北部のアイヌ及びサハリンアイヌに関しては北方系モンゴロイド集団の遺伝的寄与を無視することは出来ないことも指摘されている.山口(1974,1981)は近世アイヌの成立に関して,本州の縄文人と類似した道南部の縄文人を中心として道東部の縄文人さらに樺太,千島からの外来要素が加わって成っているとしている.サハリンアイヌの形質人類学的研究は主にソビェト,日本の人類学者によってなされているがその起源に関しては北方系と南方系の説がある.本研究では進化において最も保守性の強い歯冠形質に基づきサハリンアイヌの起源にっいて検討した.歯冠全体の大きさに関しては,サハリンアイヌは非常に小さく縄文人,北海道アイヌ,沖縄島民,あるいはネグリトと類似性を示す.しかし計測的形質の形態因子においてはアリュート,エスキモー,北部中国人,現代日本人といったいわゆる北方系要素を有する集団と共通する特徴を示す.さらに主成分分析によっても同様の結果が得られた.一方,非計測的歯冠形質に基づく分析では彼らは縄文人,北海道アイヌ,ネグリト等南方系集団のクラスターに含まれる.以上の結果はサハリンアイヌがその形質において北方系と南方系の両要素を有するという従来の研究結果を支持するものである.しかし非計測的歯冠形質の進化における保守性,計測的形質の遺伝的特徴(詳しくは本文参照)を考慮するとサハリンアイヌが北方系民族の遺伝的寄与はあるもののその起源は北海道アイヌ,縄文人等と同様に後期更新世に現在の中国南部,あるいは東南アジアで進化してきたプロトモンゴロイドに求められる可能性が強いと考えられる.今回得られた結果はサハリンアイヌの起源に関する一考察に過ぎず,今後さらに北方系の形質が重要視されているオホーツク文化期のアイヌを中心に時代的,地理的にアイヌの系統を再考して行かなければ結論は出せないように思われる.本研究が旧石器時代の東アジアを起点とする先史モンゴロイド集団の拡散と分化に関する研究の一助となれば幸いである.
著者
Zarko ROKSANDIC 南川 雅男 赤澤 威
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.96, no.4, pp.391-404, 1988 (Released:2008-02-26)
参考文献数
42
被引用文献数
13 23

古人骨の安定同位体による食性復原の可能性を検討するために,三貫地,伊川津,羽島3貝塚で発見された縄文人骨の炭素同位体比を測定した.また分析結果のもつ意味を比較検討するために樺太,北海道の近世アイヌ墓地で発見された古人骨についても同様に炭素同位体比を測定した.炭素同位体比の測定は, ROKSANDIC がオーストラリア国立大学の Research School of Biological Sciences にある質量分析計を用いて行い,その結果の吟味,人類学的意味の検討については主として南川と赤澤が担当した。炭素同位体比は人骨中のゼラチンとアパタイト(hydroxyapatite)を試料として測定した.その結果,アパタイト中の同位体比は遺跡間,集団間でほぼ同じ分布範囲を示すが,ゼラチン中の同位体比は縄文グループと近世アイヌグループの間で違いが認められた.すなわち,近世アイヌ人骨のゼラチン中の炭素同位体比は縄文グループよりも13C 濃度が高く,サケあるいは海獣を主食とする北米太平洋沿岸の先史および近世の漁撈採集民に近い値を示した.しかし,今回分析した縄文グループの同位体比は,以上のような集団とヨーロッパ農民の中間に近い値を示したのである.以上の結果は,今回分析した縄文グループが近世アイヌと異なった食生活をしていたことを強く示唆している.縄文人とアイヌのゼラチンとアパタイト中の炭素同位体比の間には一定の相関が認められた.また過去の研究で,草食獣ではアパタイトの炭素同位体比がゼラチンのそれより約7‰高く,肉食獣ではそれが約3‰高いことが指摘されている.そこで今回の結果からそれぞれのグループの食性の肉食依存度を推定することを試みた.今回の測定結果では,アパタイトとゼラチン中の炭素同位体比の差(△)は,羽島グループ6.3‰,三貫地グループ5.5‰,伊川津5.5‰,そして北方の近世アイヌグループが2.7‰であった.典型的な肉食性人類の△値は解っていないので,肉食動物の値(△=3‰)を使って計算を行った.得られた各グループの肉食度はそれぞれ18%,38%,38%,108%となり,近世アイヌが高い肉食依存度を示すのに対して,縄文グループの肉食度は比較的低いという結果が得られた.この結果は,今回の仮定に基づく誤差をそれぞれ20%程度含んでいると考えられるが,それでも別に行われた15N-13C法による縄文人の食性分析の結果と比較的良く一致した.縄文人の食性は,今までは主として遺跡堆積物の特徴と民族考古学的手法により得られた結果を基にして論じられてきた.本研究では縄文人骨の同位体比を用いて,より直接的に彼らの食性を復原するという新しい方法を検討した.結果として,縄文人は近世アイヌとは著しく異なった食性を持って生活していたことが示唆された.その特徴は今回分析した縄文人については,水産物に加えて,植物から多くのエネルギーを摂取していたという点である.
著者
百々 幸雄
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.91, no.2, pp.169-186, 1983
被引用文献数
4

伊達市南有珠6遺跡の続縄文時代恵山期の貝層下部より掘りこまれた土壙墓より,人骨1体分が発見された(図1)。土壙墓は一部撹乱を受けていたが,層位的にみて恵山期のものであることは確実であり,恵山期に特徴的な片刃の石斧一点が副葬されていた。<br>人骨の保存状態は,頭蓋はきわめて良好であったが,四肢骨は概して不良であった。したがって,ここでは頭蓋のみを研究の対象として報告した。性別は明らかに女性であり,年齢は熟年程度と推定された。<br>頭蓋計測値と形態小変異の出現状態は,それぞれ表1と表4に示した。<br>脳頭蓋は,中型,高型,尖型であり,顔面頭蓋では,中上顔型,中眼窩型,広鼻型,狭口蓋型である。顔面頭蓋は,縄文人に比して,概して繊細であり,とくに頬骨と上顎骨体の退縮が著しい。歯槽性の突顎も著明である。しかし,歯の咬耗は著しく進んでおり,大臼歯で3度ないし4度の段階にある。また,歯の生前脱落と歯槽に膿瘍の痕跡も認められる。<br>21項目の計測値を,近世道南アイヌ,道央•道東北部のアイヌ,東北地方縄文人,西日本の縄文人(吉胡•津雲貝塚)および現代東北地方人女性頭蓋の平均値と比較し,これらとの間にペンローズの形態距離(Cz2)を求めると,南有珠6頭蓋は,道南アイヌに最も近く,次いで道央•道東北部のアイヌに近い。東北地方縄文人とも比較的近い距離にあるが,西日本の縄文人と現代東北地方人とはかなり離れる(表2)。<br>近世アイヌと本州縄文人頭蓋を比較的良く分離する頭蓋示数6項目を比較すると,長幅示数,頭蓋底示数,コルマンの上顔示数および口蓋示数の4示数では,南有珠6頭蓋は近世アイヌに近い。矢状前頭々頂示数はどちらかといえば,縄文人に近いが,前頭弧長および頭頂弧長の絶対値は,はるかに縄文人平均を上回っている。下顎枝示数は著しく大きく,超アイヌ的であるといって良い(図2-図7)。<br>顔面平坦度計測では,頬上顎部の示数のみがアイヌおよび縄文人の示数平均より大きく,南有珠6頭蓋の著しい突顎性を表わしているが,他の2示数,すなわち前頭部と鼻根部の示数は,アイヌと縄文人の示数平均の中間に位置する(表3)。<br>29項目の頭蓋の形態小変異の出現型を用いて,南有珠6頭蓋が,アイヌか和人のいつれかの集団から抽出されたものかを調べるために,尤度比を求めてみたが,和人に対するアイヌの尤度比は9.86となり,南有珠6頭蓋はアイヌ集団に帰属すると判定することができる(表4)。<br>以上の結果を総合的に判断すれば,南有珠6頭蓋は,本州の縄文人頭蓋よりも,近世アイヌ,とくに道南部のアイヌ頭蓋との親近性が強いといえ,山口(1980a,1981)が指摘するように,恵山期の続縄文時代人は,縄文から近世道南アイヌへの形態に移行していく過程にあると推察される。
著者
Singh Raghbir
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.18-21, 1970

パンジャブ人は地中海人種型を示す北インドの重要な集団の一つであるが,その内婚的カースト Khatri に属する11歳から18歳までの男児400名について手長および手幅の年齢変化が調べられた.<br>各年齢階級の手長(第1表,第1図)および手幅(第2表,第2図)の平均値,標準偏差,年間成長率から,両計測値とも12歳と13歳との間に最大増加が認められた.増加は16歳を過ぎると小さくなり,17歳で成長の停止を示した.手長の標準偏差は13歳において最大であったが,これは個体間の成長の遅速の現われによると思われる.<br>また手長,手幅,身長の間の相関係数(第3表)は,どの組合せについても各年齢階級とも有意の正相関があることを示した.
著者
香原 志勢
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.105-113, 1968
被引用文献数
2

須田昭義教授の主宰する日米混血児の人類学的調査に,皮下脂肪分布の測定が加入したのは,1961年であるが,それ以後1966年までの6年間の資料をとりまとあて,ここに中間報告をおこなう。本調査は縦断的方法を用いることを旨としているがそれには期間が短かく,また,横断的方法を用いるには,被検者数が少数なので,その両者を併用した中間的方法をもちいて,とりまとめた。調査は年2回,3月末と9月末とにおこなった。被検者数は83名。それぞれ被検者1名につき,延3~11回測定をおこなった。女子についても調査を行っているが,その数が男子より少ないので,他日を期して発表したい。<br>本報告では,12部位についてのみの測定結果をまとめた。測定器具として Harpenden 皮膚皺襞測定器<br>(10grm./mm.2の一定圧力,6×9mm.の接触面をもつスプリング式測定器)を用いた。正規分布に近づけるため,えられた値は,つぎのように対数変換を行った。<br>100×{測定値(0.1mm)単位)-18}<br>結果はつぎのとおりである。<br>(1)8~16才の皮下脂肪組織の年令変化をみると,体幹上の計測点(右大胸筋下縁,右側胸中央,右側腹中央,臍右側,項,右肩甲骨下)においては加令的増加をしめすが,顔面ならびに四肢上の計測点(右頬,オトガイ下,右上腕三頭筋中央,右前腕前面中央,右大腿前面中央,右下腿内側面中央)においては加令的減少をしめす。このことは,加令にともなう皮下脂肪の集中現象をものがたるものである。<br>(2)ともに母親に日本人をもち,父親としてそれぞれ米白人,米黒人をもつ2集団(J-W と J-N)であるが,両者の間には,下腿,大腿の2点について有意の人種差がみられる。概して,顔面部や下腿の計測点では,白人との混血児の方が,黒人とのそれよりも皮下脂肪があつい。しかし,体幹部や上腕では人種差がみられない。生活様式,栄養を同じくする2集団の間で差がみられるものがあることは,これまで指摘されてきた黒白両人種間の皮下脂肪量の人種差をしめすものである。<br>(3)皮下脂肪組織の厚さに季節差がみられるものがある。顔面部ならびに四肢では,3月末が9月末よりも皮下脂肪があつい傾向にあり,とくに頬では,それがきわめて典型的な増減をくりかえしている。しかし,体幹では,反対の傾向がみられるものがあり,あるいは差がまったくみられないものもある。
著者
佐藤 方彦 勝浦 哲夫
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.1-17, 1975 (Released:2008-02-26)
参考文献数
123
被引用文献数
1 2

A number of studies on weighting and unweighting formulas for calculating mean skin temperature are reviewed. From the view point of simplicity of experimental technique and calculation in field studies, a four-p int mean based on a system devised by Ramanathan (1964) is noted especially.The present authors concluded from a review of many previous studies concerning mean skin temperasure during muscular works that increases in cutaneous venous tone, increases in heat loss from body surface by the additional wind caused by the movements, and increases in evaporative heat loss accompanied with rises in body core temperature are the principal reasons why the mean skin temperature shows no significant rises during muscular works.A nomogram for calculation of mean skin temperature from the heart rate and oxygen intake under various conditions of air temperature and work intensity is indicated. This nomogram was made to be used for female young adults.
著者
Eng Jacqueline T. Zhang Quanchao Zhu Hong
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
Anthropological Science (ISSN:09187960)
巻号頁・発行日
vol.118, no.2, pp.107-116, 2010
被引用文献数
10

The practice of castrating men is an ancient one. Eunuchs have served as guards to harems and as palace chamberlains for many early courts, but details about their lives are often hazy or shrouded in secrecy. Although the changes wrought to their physical appearance from castration are well-documented, little is known about the magnitude of the skeletal changes resulting from the loss of sex hormones associated with the procedure. Such a loss of hormones, especially before puberty, affects skeletal growth and development and may result in early osteoporosis as well as impacting quality of life. The burials of two eunuchs from the Ming Dynasty (1368–1644 AD) of imperial China provide an opportunity to examine the consequences of castration upon the human skeleton. These eunuchs may have been castrated at different periods in their lives. One eunuch appears to have been castrated before the development of secondary sexual characteristics; the delayed epiphyseal closure accompanying androgen deficiency may account for his long limbs. Skeletal evidence also sheds light on the lives of these eunuchs, including their oral health, history of childhood stress, and activity patterns.<br>
著者
上野 益三
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.87, no.3, pp.279-295, 1979 (Released:2008-02-26)
参考文献数
28
著者
茂原 信生 小野 寺覚
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.95, no.3, pp.361-379, 1987 (Released:2008-02-26)
参考文献数
18
被引用文献数
1

鎌倉材木座遺跡(鎌倉時代~室町時代)から出土したイヌ(最小個体数30体)のうち,成獣8体(オス6,メス2)の頭蓋を中心に調査し,他の時代の犬骨と比較検討した。材木座犬骨は繩文犬より額段が小さく原始的である。頭蓋最大長の平均値は,繩文時代の田柄貝塚犬骨の平均値を上回っている。長径が大きくなっているわりに高径や幅径は大きくなっていない。この点で高径や幅径が大きいより後代の中世•近世犬骨とは異なっている。頑丈で,プロポーションは繩文時代犬骨とよく似ている。日本古代犬の体の大きさは繩文時代から鎌倉時代までに変化したが,頭蓋のプロポーションは,鎌倉時代よりあとの時代に大きく変化したと推測される。
著者
川村 眞一
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.401-412, 1941-08-25 (Released:2008-02-26)

This ancient tomb of Shimosone-village, Yamanashi Prefecture, was excavated in the 40th year of Meiji. Those remains found at this place are now belong to the Anthropological Institute of Tokyo Imperial University.Among remains discovered there are an ancient bronze mirror from China, various iron implements, such as swords, daggers, axes, a spear-head, arrow-heads etc., also with a jasper bracelet. Some bifurcated harpoon-like iron implements are distinguishable. Near by this mound, there is another huge tomb called Choshizuka, with was excavated at the top of it in the 3rd year of Showa, and a little stone chamber came to light which had the same construction with that of Maruyama.The remains from Choshizuka now in the Inperial Household Museum of Tokyo contain three bronze mirrors from China, two imitations of them, magatama and other ornamental objects, swords, daggers, bracelets and other articles of jasper, a shell bracelet, stone model postles, etc.It would be said that both Maruyama and Choshizuka perhaps be built during about the same period, i, e., IV-V century A. D., judging from the resemblance of the stone-chamber construction and sorts and characters of remains found. A noble who buried at Maruyama would probably have some relation with the one who was in the Choshizuka. Discoveries of bronze mirrors from China at these mounds should told how high grade of culture had already been in this local part ; the reason why the situation denote should perhaps be debted to the wandering of people from Kinai, the cultural center at that time, to Kai Province, as some ancient historical records suggest, though the vestiges of neolithic and eneolithic culture are found in the froms of some iron implements and their technics.
著者
鳩貝 太郎
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.115, no.1, pp.56-60, 2007
被引用文献数
2 1

わが国では法的な根拠を持った学習指導要領が教科・科目の内容等を定め,それに沿った教科書が発行されている。現行の高等学校学習指導要領では理科は11科目からなり,それらから必要な科目を数科目選択することになっている。そのため,生物Iの履修率は約67%,生物IIは約18%である。現状では生物に関する基本的な内容を学ばないまま高等学校を卒業する生徒が少なくない。高校生の3分の2ほどが選択している生物Iの内容にはヒトの遺伝,変異,進化,生態に関する内容及び生命現象の仕組みを分子レベルで扱うことなども含まれていない。学習指導要領で生物の内容を充実させることと,生物の基礎・基本の定着を図る指導の充実が求められている。<br>
著者
金澤 英作
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
Anthropological science. Japanese series : journal of the Anthropological Society of Nippon : 人類學雜誌 (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.116, no.1, pp.54-56, 2008-06-01

人類学の国際組織として最も歴史の古いInternational Union of Anthropological and Ethnological Sciences(IUAES,通称ユニオン)は1948年に組織されたものであるが,5年に1回の本会議とその間に配置される中間会議などの開催準備や調整,またこの組織に登録された専門研究領域(Commission)による国際的研究活動を行っている。日本が1968年に本会議を,また2002年には中間会議を開催したことは記憶に新しい。一方,ラテンアメリカの人類学会を中心としたWorld Council of Anthropological Associations(WCAA)が2004年にブラジルにおいて組織された。この組織は世界の人類学関連学会の連携と協力のため組織で,インターネットを活用して研究情報の交換,研究協力などを行うことを目的としている。今のところ国際会議の開催などは予定されていないとのことである。本稿ではこれらの国際組織の動きと現在生じている問題点などについて情報を提供したい。<br>
著者
佐伯 史子
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
Anthropological science. Japanese series : journal of the Anthropological Society of Nippon : 人類學雜誌 (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.114, no.1, pp.17-33, 2006-06-01
被引用文献数
3 3

縄文人の身長および身長と下肢長のプロポーションを明らかにすることを目的として,男女各10体の交連骨格を復元し,解剖学的方法(anatomical method)を用いて身長と比下肢長を求めた。現代のアジア集団,オーストラリア先住民,ヨーロッパ集団,アフリカ集団の生体計測値と比較した結果,縄文人の身長は男女とも現代のオーストラリア先住民,ヨーロッパ集団,アフリカ集団よりも低く,東アジア集団に近い値を示した。縄文人の比下肢長もオーストラリア先住民,ヨーロッパ集団,アフリカ集団に比べて小さかったが,東アジア集団の中ではやや大きく,特にアイヌと近い値を示した。縄文人の比下肢長が東アジア集団の中では比較的高い値であったことに鑑みると,縄文人と典型的なモンゴロイドとは異なるプロポーションを有する集団との関係を想定する必要も考えられた。<br>