著者
西崎 伸子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100016, 2013 (Released:2014-03-14)

1.  はじめに 2011年3月の原子力災害によって、広範囲の自然環境が放射能によって汚染された。このことは、環境汚染とともに、原発労働者や一般公衆の被曝問題を長期にわたって考えなければならない社会が日本に誕生したことを意味している。本報告の目的は、原子力災害後の社会のあり方を考えるために、1)子どもの被ばくリスク軽減の観点から、これまで実施されてきた国、行政、原因企業および市民団体の施策や取り組みを整理すること、2)市民団体がとりくむ草の根の保養支援活動の実態と意義を明らかにすること、3)地理学が対象としてきた「人と自然のかかわりと断絶」を考察することとする。   2.  対象と方法 子どもを対象とするのは、若年者の放射線感受性が高いことが、広島、長崎の原爆被曝者やチェルノブイリの原子力災害の調査から明らかにされてきたからである。福島県内外に今も15万人が避難をし、県外避難者6万人の多くが、子どもとその保護者による避難であるといわれている。避難区域が解除されても、もとの自治体に戻らない/戻れない人々が数多く存在するのは、インフラの未整備や就労の問題だけでなく、放射線による子どもへの健康影響に対する不安が未だ消えないことが原因である。 本報告は、国・行政の施策や市民による支援の取り組みに関する資料、および、報告者による参与観察と聞き取り調査によって得られた資料にもとづく。   3.  結果と考察 ①   政府は、避難を指示する区域を政治的判断で限定的に設定し、被曝線量が年1ミリシーベルト以上になる地域では除染を優先する方針を打ち出した。しかし、除染は計画通りに進まず、一度の除染作業では放射線量が十分には下がらない場所が生じている。この間、若年層の被曝リスクの回避を目的とした公的な施策は十分ではなく、低線量被曝は、不安感を抱く側の「心の問題」とされる傾向にある。 ②   保養に関する支援活動の現状は、1)被曝の低減、子どもの遊び支援に加えて、移住支援、健康診断、学習支援など多様化している。2)これらの支援活動は市民団体が主におこない、行政は、福島県内での活動には予算をつけるが、県外での活動への財政的支援には消極的である。3)2)の背景には、放射線被曝についての構造的問題があると考えられる。 ③   人と自然のかかわりの断絶は、人々の選択ではなく、原子力災害による被害として位置づける必要がある。また、保養支援は、「かかわり」の再構築につながる可能性があるだろう。   西﨑伸子「原発災害の「見えない被害」と支援活動」『東北発・災害復興学入門―巨大災害と向き合う、あなたへ』清水・下平・松岡編著, 山形大学出版会, 2013年9月出版予定
著者
青山 雅史
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100014, 2013 (Released:2014-03-14)

1.はじめに 2013年4月13日に淡路島付近を震源とするマグニチュード6.3の地震が発生した.この地震により,兵庫県淡路市で震度6弱,南あわじ市で5強を観測し,淡路市では液状化の発生が確認された.本発表では,この地震による液状化発生地点の分布を示し,液状化発生地点の土地条件(特に,液状化が発生した埋立地の造成(埋立)年代)に関する検討結果を述べる. 2.調査方法 現地踏査により,液状化発生地点を明らかにした.現地踏査では,目視による観察に基づいて液状化(被害)発生地点のマッピング,被害形態の記載をおこなった.現地踏査は2013年4月19~20日におこなった.現地踏査時には既に噴砂が除去され,噴砂の痕跡も消失していた地点も存在すると思われる.現地踏査で立ち入ることができなかった領域に関しては,新聞・テレビニュース等の画像を用いて,噴砂発生地点の抽出・地図上へのプロットをおこなった.また,現地踏査で立ち入ることができず,上記のような画像情報もない領域においても液状化が発生していた可能性はある. 液状化が発生した淡路市の埋立地の造成年代に関しては,国土地理院撮影・発行の空中写真,旧版地形図に加え,津名町史(津名町史編集委員会 1988)などに基づいて検討した.3.液状化発生地点の分布と土地条件 液状化は,淡路市の埋立地(生穂新島,志筑新島,塩田新島,津名港ターミナル付近)において発生し,埋立地以外の領域では確認されなかった.淡路市(旧津名町)では,1950年代末から60年代前半にかけて志筑港湾地区の埋め立てがおこなわれ,1971年度に兵庫県企業庁により津名港地区周辺における埋め立て事業(津名港地区臨海土地造成事業)が着手され,90年代末にかけて上記の埋立地が造成されていった.液状化発生の確実な指標となる噴砂(または噴砂の痕跡)は,それらの埋立地の多数の地点で確認された.特に,1970年代に造成された志筑新島と,1980年代前半に造成された塩田新島において,噴砂が多くの地点で生じていた.志筑新島と塩田新島では,グラウンド,空き地,太陽光発電所の敷地,住宅地,駐車場や道路のアスファルト路面のすき間などにおいて,噴砂が生じていた.噴砂の層厚は,ほとんどの地点で5 cm以下であった.空き地や緑地等でみられた噴砂孔の直径は10 cm以下であった.津名港ターミナルの駐車場アスファルト路面においても,噴砂が散見された.生穂新島では,淡路市役所周辺の駐車場,道路アスファルト路面のすき間や空き地などにおいて,噴砂がみられた.液状化に起因すると思われる構造物の沈下・傾斜は,志筑新島の住宅地の1地点においてのみ確認された.この他にも,液状化との関連は不明であるが,津名港ターミナルの岸壁付近において人工地盤(構造物間)にすき間や沈下が生じ,志筑新島のショッピングセンター周辺では地盤の変状(軽微な段差や波打ち)が生じていた.生穂新島では,噴砂が生じた地点周辺のアスファルト路面に軽微な変状が生じていた.
著者
壽圓 晋吾
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.143-151, 1952-04-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
13
被引用文献数
2 1

In the upper region of -River Kanda found in the eastern part of the Musashino Upland which is overlaid with the Kwanto Volcanic Ash, the ground water-table slants toward the valley on both sides. (cf. Fig. 1) The discharge of this river in this area increases, though very gradually, as the river flows down. From these facts, we presume River Kanda is being nourished by the ground water. At present, the slopes of the precipices forming the valley are different on both sides-the form of the valley is assymmetrical. Where the slope of the precipice is steeper on the north side than on the south, the ground water- table slants toward the north. Where the slope is, steeper on the south side than on the north, the ground-water-table slants toward the south. (cf. Fig. 6) Gathering up these facts, the author believes that the assymmetrical valley wall is related to the declivity of the water table. The ground heaves up gradually in the vicinity of the valley. This seems to be due to the dampness of the ground and to the abundance of the vegetation in the valley region; that is, the darn press of the ground and vegetation protect the ground from the strong Musasllino winds seen elsewhere which blow away the dried mud and causes wind-erosions. If the valley were to be filled up, we would, obtain a convex ground feature.
著者
渡辺 満久 中田 高 後藤 秀昭 鈴木 康弘
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100137, 2011 (Released:2011-11-22)

1.日本海溝沿いの活断層の特徴と地震・津波との関係を検討する。立体視可能なアナグリフ画像は、海上保安庁海洋情報部とJAMSTECの統合測深データ(0.002°間隔のGMT grd format、東経138-147°・北緯34-42°)と、250mグリッド地形DEM(岸本、2000)を用いて作成した。本研究では、平成23年~25年度科学研究費補助金(基盤研究(B)研究代表者:中田 高)、平成21~24年度科学研究費補助金(基盤研究(C)研究代表者:渡辺満久)を使用した。2 海底活断層は、以下の3種類に区分できる。(1) アウターライズの正断層群は、三陸沖から牡鹿半島南東沖にかけてはほぼ南北走行に延びるが、それ以南では海溝軸と斜交するように北東-南西走行となり、房総半島沖においては再び海溝軸と並走するようになる。正断層は、日本海溝軸から東側50~60km程度の範囲内に分布している。断層崖の比高には変位の累積性が認められ、海溝軸に近いものほど大きい(最大で500m以上)。(2) 三陸沖や房総半島沖の海溝陸側斜面の基部では、長さ200km程度の逆断層が複数認定できるが、連続性は良好ではない。その西側では、三陸北部沖から茨城県沖にかけて400km程度連続する長大な逆断層が認められ、隆起側には大きな垂直変位が生じていることを示す背斜構造がある。さらに陸側には、一回り小規模な逆断層(延長50km程度)がある。三陸沖以北の日本海溝斜面基部には、アウターライズより密に正断層が分布する可能性が高い3 日本海溝沿いの活断層と地震・津波との関係は、以下のように整理できる。(1) アウターライズには、鉛直変位速度が1mm/y程度の正断層が10程度並走する。正断層帯における伸長量は2cm/yに達する可能性もある。アウターライズの正断層起源とされる1933年三陸津波地震の起震断層は特定できない。(2) 延長400kmに達する連続性の良い逆断層は、その位置・形状から、2011年東北地方太平洋沖地震に関連する活断層であると判断される。今回の地震は複数の活断層が連動したものではなく、長大な活断層から発生する固有地震であった可能性が高い。同様の地震は、869年と1611年にも発生した可能性がある。1793年の地震時の津波は、分布は広いがあまり高くはないため、他の活断層が引き起こしたものであろう。海溝の陸側に分布する正断層に関しては、不明な点が多い。(3) 長さ200km程度の活断層はM8クラスの地震に、陸側の数10km程度の活断層はM7クラスの地震に関連するであろう。歴史地震との対応も比較的良好である
著者
山村 順次
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.699-713, 1976
被引用文献数
2

本研究では,伝統的な小療養温泉地に近代的温泉療養所が開設された長野県鹿教湯温泉を例として,温泉集落の形成過程と機能・構造の変化を追求し,一般的には停滞または衰退してきている療養温泉が地域社会の発展に大きくプラスしたことを明らかにした.湯量の少ない共同湯を核に成立した閉鎖的外湯旅館集団は,新しい大量の温泉湧出に際しても,まず長野県厚生農業協同組合連合会の温泉療養所を誘致して療養温泉地としての充実を図ったが,このような地域の側の開発姿勢が療養温泉地発展の基本要因をなした.それに伴って,農民のための冬季集団保養が実施され,夏季には東京からの老齢湯治客が集中して入湯客の地域的季節配分が合理的になされるようになると,周辺農家の観光産業への転換が顕著となった.また丸子町当局は外来資本の進出を避けるために,温泉開発の主導権を握って温泉統合をなしとげ,ここに歓楽化を排除した療養温泉集落の機能が一層強められたのである.
著者
新名 朋子 野上 道男
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.209, 2004 (Released:2004-07-29)

1.研究目的 大都市圏において発生するヒートアイランドやクールアイランド現象は、人口集中域の拡大によって広域化し,都市域内部の土地利用のパターンによって、複雑にモザイク状になっていることが予想される。新版の気象庁気候値メッシュデータ(気候値2000)でも、土地の特性を都市域の気候値推定の要素に加えている。日本人の多くは都市生活者であり、都市域の温度環境を知ることは重要である。 広域都市圏の気候の実態を知るためには、リモートセンシングデータは好都合である。とくに衛星画像の昼・夜画像間の放射温度の「差」を用いることで、可視的な土地利用とその定常的な熱特性(不可視的)との関係を見ることができる。 また、種々に土地利用された地表面の熱特性が都市域の気温形成に影響していることから、都市域の気温分布特性を把握するために、地表面の熱特性を知っておくことが必要である。そこで本研究では土地利用(区分)ごとに地表面放射温度差(今後Radiation Temperature Difference=RTDと呼ぶ)の値が異なる場合があることに着目し、東京首都圏における土地利用ごとのRTD値とその季節変化を明らかにする。2.研究対象地域 本研究では「細密数値情報(10mメッシュ土地利用)首都圏」1994年版に収録されている行政区域内を首都圏として扱う。この対象地域を含む、ランドサットTM band6(解像度:120m×120mメッシュ)における、1050×1091ピクセル(約126km×131km)の範囲を解析対象とした。ランドサットTMデータは、昼夜間の放射温度差(RTD)の季節変化を見るために、夏と冬でそれぞれ昼夜の画像を用意した。尚、いずれの画像でも撮影時に降水や厚い雲はなかった。3.結果 RTD値の分布と土地利用分布との対応を明らかにするため、夏・冬のRTD画像と10mメッシュ値から作成した120mメッシュ土地利用画像を幾何学的に重ね合わせ、土地利用ごとにRTD値を集計し、平均値と標準偏差を計算した。 土地利用ごとのRTD値の差異からみると、田や畑などの自然的な土地利用では土地の被覆状態の季節変化(耕作など)がRTD値に影響を与えていることが数値的に示された。人工的な土地利用においては冬のRTD値は小さく、夏よりもヒートアイランドが強くなっていることが明らかになった。また、RTDの標準偏差からみると、郊外に多く分布する土地利用についてRTD値の広がりが小さいことが分かった。 都市気候の形成にかかわる土地利用としては,田や畑など自然的なものがまだ残る土地利用と,市街地・工場など高度に人工的な土地利用とが考えられる。しかし客観的な基準によって土地利用をみるために、クラスター分析を行ってみた。その結果として、自然的な土地利用については容易にまとまったクラスターとして抽出されたが、人工的な土地利用はなかなか同じクラスターになることはなかった。その理由としては、人工的な土地利用は細かいモザイク状になっており、RTD値がその土地利用特有の被覆状態よりもその土地利用が存在する場の影響を受けるためであるらしい。一方、自然的な土地利用では、その逆で近隣の場の影響よりも、その土地利用特有の被覆状態の方がRTD値を決め、またその値のバラツキも小さくなった(すなわち対応が鮮明である)と解釈された。