著者
上岡学
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第56回総会
巻号頁・発行日
2014-10-09

はじめに日本の小学校の算数教育において、乗法指導の導入は1当たり量を先(被乗数)に記述する指導方法が定着している。そこで本研究では、乗法の導入問題を作成するときに1当たり量が先にくる問題がどのぐらいの割合で出現するのかを調査研究した(調査1)。さらに乗法の導入問題において1当たり量が問題文中において後半にある場合(逆向問題)、立式はどのように考えたらよいのかについても調査研究した(調査2)。(調査1)(方法)大学生に対して、「かけ算の導入問題としてふさわしいと思う問題を作成してください」という課題を与える。(対象)大学生84名(結果)(1)「かけ算導入問題」について①1当たり量が前半(先)にくる問題(順行問題)の出現率は、63.1%であった。たとえば、「2つのおかしが入った袋が3つあります。おかしは全部でいくつですか。」という問題である。「前半の数字×後半の数字」とすれば、自動的に「1当たり量×かける数」となる問題である。②1当たり量が後半(後)にくる問題(逆行問題)の出現率は、29.8%であった。たとえば、「4人の友だちに、チョコレートを5つずつ配ります。チョコレートはいくついりますか。」という問題である。1当たり量を先という指導であれば、「後半の数字×前半の数字」となり、意識して「1当たり量×かける数」と逆にしなければならない問題である。③1当たり量が交換可能な問題(中立問題)の出現率は、1.2%であった。たとえば、「学校の靴箱は、縦に5つ、横に6つ並んでいます。全部でいくつの靴箱がありますか。」という問題である。どちらの数も同等の関係である問題である。(長方形の面積の公式は「縦×横」であるので、「縦」が「1当たり量」であると考えれば①に含まれるが本研究では③とする。)④その他課題意図の取違えは、6.0%であった。(調査2)(方法)逆向問題「5人の友達にチョコレートを3つずつ配ります。全部でいくつでしょうか。」という問題を提示して、それに対する立式の考えを5択(A:式は5×3であり、3×5は間違いである/B:式は5×3であるが、3×5でもよい/C:式は3×5であり、5×3は間違いである/D:式は3×5であるが、5×3でもよい/E:式は5×3でも、3×5でもよい)から選択する。(対象)大学生80名(結果)①A「式は5×3であり、3×5は間違いである」は現行の指導方法から最も遠い考え方であるが16.3%であった。また議論になることがあるC「式は3×5であり、5×3は間違いである」については15.0%であった。意味を理解していれば認められるべきE「式は5×3でも、3×5でもよい」は10.0%であった。②BとCは、一方の指導を強調するが、他方も許容であるとする考え方であるが、いずれも約30%であり、合わせると約60%であった。
著者
林崎 涼 白井 正明
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2015年大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

石英や長石などの鉱物粒子から年代を推定できる光ルミネッセンス (OSL) 年代測定法は,津波堆積物自体から堆積年代を見積もる手法として有効と考えられている.また,OSL 年代測定で鉱物粒子の露光状態を見積もることにより,堆積物の運搬・堆積過程を推定する研究もなされており,その手法は津波堆積物にも適用できる可能性がある.しかしながら,津波堆積物の OSL 年代測定例は少なく,正確な堆積年代を見積もれるのか,また露光状態を見積もることで運搬・堆積過程を推定できるのかは明らかでない.本研究では,福島県相馬市と南相馬市における東北地方太平洋沖地震の津波堆積物を対象としてOSL 年代測定を行い,堆積年代と運搬・堆積過程の推定についての有効性を明らかにした.アルカリ長石の単粒子を用いた OSL 年代測定の結果, 11 地点,26 試料全てにおいて,東北地方太平洋沖地震の津波堆積物の堆積年代である現世の堆積年代を示す粒子を見出すことができた.単粒子を用いた OSL 年代測定を行うことにより,津波堆積物の堆積年代を見積もることができると考えられる.一方で,著しく古い堆積年代を示す粒子の混入も確認できたことから,複数粒子を同時に測定する一般的な測定方法では,津波堆積物の正確な堆積年代を見積もることは難しいといえる.また,津波堆積物に含まれる砂質の鉱物粒子は,運搬過程でほとんど露光していないことが明らかになった.すなわち,津波堆積物中の砂質の鉱物粒子は,供給源となる堆積物の堆積環境の露光状態を反映していると考えられる.津波堆積物に含まれる鉱物粒子の露光状態を OSL 年代測定により見積もることで,津波堆積物の堆積年代だけでなく,供給源となった堆積物の堆積環境の推定にも有効だと考えられる.
著者
青山 千春
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

日本海側の自治体1府9県は、「海洋エネルギー資源開発促進日本海連合(以下、日本海連合)」を2012年9月に設立し、政府のメタンハイドレート資源開発を後押しする事で、地域の活性化と雇用創出をめざしている。日本海連合の中の新潟県と兵庫県は県独自のメタンハイドレート調査を実施し、政府へその成果を示すことで、政府の開発促進をアピールしている。一方で太平洋側の和歌山県は、政府が開発している海域より、陸側に近い海域に表層型メタンハイドレートが存在する事を示すことにより、開発海域の再検討を政府へアピールしたい考えである。独立総合研究所は、2013年度に新潟県、兵庫県と和歌山県とそれぞれ共同研究を実施したので、その報告を行う。新潟県との共同調査は、2013年6月に、メタンプルームの観測を実施した。新潟県が保有する「越路丸」(187トン)で、佐渡東方の最上舟状海盆東斜面(水深200mから600m)において、カラー魚群探知機(FURUNO FCV-10)を利用して実施した。その結果、複数のプルームが観測された。兵庫県との共同調査は、2013年9月に、計量魚群探知機によるメタンプルームの観測、サブボトムプロファイラーによる海底下の観測、マルチビームによる海底地形の観測を実施した。「第七開洋丸」(499トン)で、隠岐堆東方海域で実施した。さらにピストンコアリングを行い、5本のサンプルを採取し、メタンハイドレートの痕跡を複数確認した。和歌山県との共同調査は、2013年11月と2014年1月に観測を実施した。和歌山県が保有する漁業調査船「きのくに」(99トン)で、潮岬南方12海里の潮岬海底谷(水深1,700mから2,200m)において、計量魚群探知機(SIMRAD ES60)を利用して実施した。その結果、複数のプルームが観測された。太平洋側でのプルームの報告は、いままでほとんど無いので、今後も観測を続けたい。
著者
蓮行
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第56回総会
巻号頁・発行日
2014-10-09

1.発表者の紹介発表者は,大阪大学コミュニケーションデザイン・センター(阪大CSCD)に在籍する常勤の教員であると同時に,劇団衛星というプロの劇団の現役の演出家・劇作家である。2013年度まで阪大CSCDアート部門の部門長であった平田オリザ東京藝大特任教授の提唱する「コミュニケーションティーチング」の方法論に基づく演劇ワークショップコンテンツ(以下:演劇WS)の開発・設計・実践を2007年から継続している。2.コミュニケーションティーチングとは発表者は,2003年に開発した演劇WS「演劇で算数」を端緒として,主に小学生をメインターゲットとした算数教育,環境教育,防災教育などの演劇WSを開発してきた。また2005年からは,それらに加えて社会人向けの演劇WSの開発と実践を手がけてきた。2007年からは「コミュニケーションティーチング」の呼称を用い,テーマとして防犯教育,食育,国際理解,人権教育などに幅を拡げ,対象も小学生のみならず,中学校,高校,大学,大学院,社会人,高齢者向けまで拡大した。職業人向けの研修としては教員(幼小中高大),一般企業,医師,栄養士,建築士,弁護士,司法書士,保育士ときわめて広範囲の専門家に向けて演劇WSを実践してきた。コミュニケーションティーチングのコンテンツの内容としては,「一般の参加者(子ども,大人問わず)が」,「プロの演劇人(俳優,演出家等)と共に」,「2~5回程度のWSで」,「台本作りから上演まで共同で行う」というものである。この上演内容のテーマが,それぞれ前述した「環境」や「防災」といったものになっている。3.これまでの実践に対する,学術的なアプローチと課題10年余で延べ約450クラス約14000人の小学生を対象に実践。大人向けにも約20か所,1000人以上を対象に実施してきたが,惜しむらくは,学術的データは,限られた機会にしか取ることができなかった。原因としては「どのような質問紙で何を明らかにできるのか」という知見が不足していた事と,目的が明らかでない調査は現場の学習者や教員の負担を増やす事になり,メリットよりデメリットが大きかった事が挙げられる。そういう事情の中,調査研究を行うことができたものをいくつか例示する。2009年から2012年に取り組んだJST「犯罪からの子どもの安全」領域「演劇ワークショップをコアとした,地域防犯ネットワーク構築プロジェクト」(研究代表:平田オリザ)では,基礎研究や先行知見の土台が無いまま「演劇WSの防犯教育に於ける効果」を測るという応用・実践を試みたため,概念図の作成など様々な知見は得られたものの,基礎研究の重要性・必要性が強く認識された。2013年度マツダ研究助成《青少年健全育成関係》「青少年のエンパワーメントとパフォーミング・アーツの関係について-計量経済学からのアプローチ-」(研究代表:富田大介大阪大学特任助教)では,神谷祐介龍谷大学講師と共に,大学と公共ホールが共同事業として行う市民劇の参加者の「自己効力感(Self-efficacy)の向上」に主にフォーカスして,調査研究を行った。母数は小さいものの,「演劇が参加者の自己効力感の向上に資する」という仮説を立証できる大きな手がかりを得るに至った。以上のような現状を踏まえ,まず効果測定のターゲットを「演劇WSによる自己効力感の向上」に絞り,効果を測るためにどのような質問紙が必要なのか,神谷講師の助言の下で設計し,定量的に明らかにしていくことを試みる。発表者は,質問紙による調査を行って多くの一次データを得ることができる恵まれた立場であり,2014年度も,小学校40クラス1200人程度,中高生20クラス800人程度,社会人200人程度に対するアンケート調査を実施予定である。4.今後の検討課題演劇WSがもたらす効果について,対象とする年齢や職業なども幅広いため,細かく見て行けば様々な仮説は立つが,入り口として「自己効力感」にフォーカスすることは,それらの射程を広くカバーする普遍性があり,妥当性が高いと考えている。そして学習者に自己効力感の向上をもたらせるような教材(教え方・場づくりのスキルを含む)のデザインの知見と,その効果測定方法をまとめる事を目指す。これらの知見は,初等中等高等教育への実装,教員養成やFD,医療人教育,法曹人教育,専門家教育等への展開も期待される。そして,「自己効力感の向上」に続く,演劇WSのもたらす他の効果についても,調査研究と開発を試みるべく,様々な知見の結集を目指したい。
著者
工藤与志文 藤村宣之 田島充士 宮崎清孝
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第56回総会
巻号頁・発行日
2014-10-09

企画主旨工藤 与志文 本シンポジウムは2011年から始まった同名のシンポジウムの4回目である。また,企画者の一人として,その締めくくりとしての意味合いを持たせたいとも考えている。今回のテーマは「教育目標をどう扱うべきか」である。そもそもこれら一連のシンポジウムは,学習すべき知識の内容や質を等閑視し,コンテントフリーな研究課題しか扱わない教育心理学研究のあり方に対する批判からスタートしたものと理解している。そのような問題意識の行き着く先は「教育目標の扱い」ではないか。これまでのシンポジウムで度々指摘されてきた教育心理学の「教育方法への傾斜」は,自ら教育目標の善し悪しを検討することが少ないという教育心理学研究者の研究姿勢と関連している。教育目標がどうあるべきかという問題は教育学や教科教育学の専門家が取り扱うべきであり,教育心理学はその実現方法を考えていればよいという「分業的姿勢」の是非が問われるべきではないだろうか。本シンポジウムでは,上記の問題意識をふまえ,教育心理学研究は教育目標そのものをどのように俎上にのせうるか,その可能性について議論したい。教科教育に対する心理学的アプローチ:発問をどのように構成するか藤村 宣之 教育目標に対して教育心理学がどのようにアプローチするかに関して,より長期的・教科・単元横断的なマクロな視点と,より短期的なミクロな視点から考えてみたい。 マクロな視点によるアプローチの一つとしては,各学年・教科・単元の目標を,発達課題などとの関わりで教科・単元横断的にあるいは教科や単元を連携させて設定し,それに対応させて構成した学習内容に関する長期的な授業のプロセスと効果を心理学的に評価することが考えられるであろう。その際には,学習内容にテーマ性,日常性を持たせることが教科・単元を関連づけた目標設定を行ううえでも,子どもの多様な既有知識を生かして授業を構成するうえでも重要になると考えられる。 より短期的に実現可能なミクロな視点からの関わりの一つとしては,各単元・授業単位で,どのような発問を設定して,子どもたちに思考を展開させることを考えることで,単元の本質的な内容の理解に迫るというアプローチも考えられる。当該単元の教材研究を子どもの思考や理解の視点から行うことを通じて,どのような力をその単元・時間で子どもに獲得させるか(たとえば当該単元のどのような理解の深まりを一人一人の目標とするか)を考え,それを発問の構成に反映させていくというアプローチである。 ミクロな視点からのアプローチの一つとして,子どもの多様な既有知識を発問の構成に活用し,探究過程とクラス全体の協同過程を組織することで,一人一人の子どもの各単元の概念的理解の深まりを目標とした学習方法(協同的探究学習)のプロセスと効果について,本シンポジウムでは報告を行いたい。発問の構成の方針としては,導入問題の発問としては,当該教科における既習内容に関する知識,他教科の関連する知識,日常的知識など子どもの多様な既有知識を喚起し,個別探究過程,協同探究過程を通じてそれらの知識を関連づけ,さらに,後続する展開(発展)問題の発問としては,それらの関連づけられた知識を活用して単元の本質に迫ることが,個々の学習者の概念的理解を深めるうえでは有効ではないかと考えられる。以上に関する具体的な話題提供と討論を通じて,教科教育の教育目標を対象とする教育心理学研究のあり方について考察を深めたい。知識操作と教育目標工藤 与志文 ここしばらく「知識操作」に関する研究を続けている。知識操作とは,課題解決のために知識表象を変形する心的活動のことを指す。近年,法則的知識(ルール)の学習研究において知識操作の重要性が示されつつある。ところで,同一領域に関する知識といっても,操作しやすい知識と操作しにくい知識があるように思う。西林氏の言葉を借りれば,知識は「課題解決のための武器」であるのだから,どんな武器を与えるかによって戦い方も変わってくるだろうし,すぐれた武器があれば勝算も高まるだろう。筆者は,「操作のしやすさ」をすぐれた武器の要件の1つだと考えている。雑多な知識の中からすぐれた武器となる知識を精選し,学習者がそれらを使えるように援助することは,重要な教育目標となると考えている。このような観点で教科教育を見た場合,わざわざ鈍い武器を与えているのではないかと思われる事例が少なくない。重さの保存性の学習を例に説明してみよう。 極地方式研究会テキスト「重さ」では,「ものの出入りがなければ重さは変わらない」というルールを教えている。このルールは含意命題の形式をとっているため操作が容易であり,ここから直ちに他の3つのルールを導く事ができる。①「重さが変わらないならばものの出入りはない(逆)」②「ものの出入りがあれば重さは変わる(裏)」③「重さが変わるならばものの出入りがある(対偶)」小学生がこれらのルールを駆使することで,一般に困難とされている課題に対して正しい推論と判断が可能になることが教育実践で明らかにされている。たとえば,水と発泡入浴剤の重さを測定し,入浴剤を水に入れた後の質量変化をたずねる課題では,小学3年生が重さの減少と気体の発生を関連づける推論を行うことができた(重さが減ったということは何かが出ていった→においが出ていった→においにも重さがある)。 一方,学習指導要領をみると,小3理科の目標の1つとして「物は形が変わっても重さは変わらない」ことの学習が挙げられている。教科書では,はかりの上の粘土の置き方を変えたり形を変えたりして確かめている。しかし,このルールは命題の帰結項(重さは変わらない)に対応する前提項を欠いており,含意命題の形式をとっていない。したがって,上記のような操作は不可能である。しかもこのルールは,変形して重さが変わる状況では使えない(極地研のルールでは,「重さが変わったんだから何か出入りがあったのだろう」と予想できる)。重さの保存性理解にとって,どちらの知識が武器として有効であるかは明らかではないか。本シンポジウムでは,知識操作という観点から,学習すべき知識の内容や質を問い直すつもりである。ここから,教育目標を対象にした教育心理学研究の1つの可能性を示してみたい。「学習者を異世界へいざなう教科教育の価値とは:分かったつもりから越境的交流へ」田島 充士 「学校で学んだ知識は,社会に出ると役に立たない」との言説は,今も昔も多くの人々にとって,強い説得力を持って受け止められているものだろう。学習者が学校で学ぶ知識(以下「学問知」と呼ぶ)は,実践現場で養成され活用される具体的知識(以下「実践知」と呼ぶ)と乖離する傾向にあると多くの人々によって受け止められているのは事実であり,学習者に対し,学外における実践知学習の場を提供する,インターンシップ等の実践演習型教育プログラムの実施も盛んである。 しかし教育心理学においては,この実践知習得をターゲットとした実践演習等の価値が認められる一方で,肝心の,社会実践に対する学問知教育(教科教育)の貢献可能性については,十分にモデル化されているとはいえない状況にある。本発表では,ヴィゴツキーによる科学的概念を介した発達論を基軸として,学問知が有する実践的価値を実証的に分析する理論モデルを提供することを目指す。 科学的概念とは,教科教育を通し学習される,抽象的な概念体系をともなう学問知の総体である。その特徴は,空間・時間を異にする,個々別々の具体的な文脈に孤立した実践知を,学習者自身がこの抽象体系に関連づけることで特定のカテゴリーとしてまとめ,相互の比較検証を可能にすることにある。以上のように学問知を捉えるならば,教科教育とは,異なる実践文脈を背景とし,異質な実践知を持つ,いわば異世界に属する人々との越境的な相互交流を促進する可能性を有するという点で,広く社会実践に開かれた価値のあるものだともいえる。 その一方で,教科学習においては多くの者が,授業文脈では学んだ知識を運用できるが,学外の人々との相互交流において応用的に利用することができない「分かったつもり」に陥る傾向も指摘される(田島, 2010)。これは本来,越境的交流の中でこそ活かされるべき学問知が,教室内の交流のみに,その使用が閉じられている問題といえる。つまり教科教育の問題とは,学問知そのものが社会実践に閉ざされているという点にではなく,現状では,多くの学習者がそのポテンシャルを十分に活かすことができず,学外の社会実践との関連を見出すことができないという点にあるのだと考えられる。 本発表では,以上の問題に取り組むべく,実践知との関連からみた学問知に関する理論的視座を提供する。さらに学習者を分かったつもりにとどめず,学問知のポテンシャルの活用を促進し得る教育実践の展開可能性についても検証する。その上で,学習者を異世界へいざなうという学問知の強みを活かした教科教育の社会的価値について論じる。