著者
滝浪 常雄
出版者
名古屋学院大学教職センター
雑誌
名古屋学院大学教職センター年報 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU KYOSHOKU CENTER NENPOU; The Annual Report of the Center of Teacher Training Course (ISSN:24326569)
巻号頁・発行日
no.2, pp.1-10, 2018-02-28

本研究は読書指導の実質化を図るために,教員の読書指導支援プログラム開発の一環として,取り組んだものである*。いわゆる読書指導に長けた指導者が読書指導観として「どんな思いや考え,願い」を持って,読書指導を行っているのかを明らかにしようとした。今回H市立H中学校の図書館補助員Nさんの読書指導観についてインタビュー調査をもとに,ライフストーリー分析を行った。本稿においては,Nさんの(1)「図書館補助員に就くまでの経緯」(2)「読書指導観の形成過程と内実」(3)「読書指導実践」に3部に分けて分析考察した。Nさんは,生徒に対してかなり質の高い読書指導を行っており,その読書指導観は確固たる信念に裏付けられていることが分かった。その内実も生徒との信頼関係,生徒の居場所,生徒の直接的応答関係によって明らかになった。また生徒に対して読書好きにするための創意工夫された図書館経営実践と読書指導実践から得られた知見は,読書指導に悩み戸惑う教員へ重要な示唆を与えてくれるものと考える。
著者
水谷 晃三 高井 久美子
雑誌
研究報告コンピュータと教育(CE) (ISSN:21888930)
巻号頁・発行日
vol.2015-CE-132, no.34, pp.1-8, 2015-11-27

プログラミングは知識だけでなく実際にソースコードを作成する技能も同時に必要となる.プログラミング授業を動画教材による反転授業とする場合はソースコードの作成を伴うような事前学習が理想的である.筆者らは,効果的な反転授業のモデルを検討するため,(1) 授業中に行っていた講義に相当する動画教材を用意し事前学習を行うように指導,(2) 授業時間中の講義は一切行わず受講者は演習課題に取り組む,という反転授業を,プログラミング初学者を対象とした授業で試みた.本論文ではその実践報告と評価結果について述べる.
著者
志賀 栄文 渡辺 博芳
雑誌
研究報告コンピュータと教育(CE) (ISSN:21888930)
巻号頁・発行日
vol.2016-CE-133, no.15, pp.1-8, 2016-02-06

高等学校において自主学習の習慣を持たない生徒が増えてきている.そこで,生徒が学習目標を達成するとともに,学習の自己管理を身に付けることができるような授業を行うことが重要となる.本研究では,プロジェクトマネジメントの手法を参照して,生徒が自主学習の管理を行う授業方法を提案する.具体的には,生徒へ自主学習計画案を提示し,それに沿った形での計画的学習を実施しながら,実際の学習計画に対する実績の振り返りを行い,計画の見直しや再学習計画の有無を確認し対処した上で,次の計画的学習へ取り組みを進めることを目指す.この学習サイクルの管理をガントチャートや進捗会議を通して,目標達成までの自主学習の取り組みの把握ができるよう授業の設計を行った.この授業設計に基づいて,2014 年度から 2015 年度に改善をしながら,授業実践を行い,その効果を検証した.
著者
植田 康孝
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
vol.28, 2018-03-31

「ナイト・エンタテインメント」は,「子供向けエンタテインメント」に対し,自律的にナイトタイムに楽しむ「大人向けエンタテインメント」を指す。「子供向けエンタテインメント」は,大人の世界への入口に位置付けられる。子供たちは,従来,大人たちの様々な行為を観察して遊びの世界に取り入れることで楽しんで来た。子供は,仲間が集まって行う「子供向けエンタテインメント」から,工夫することの面白さや社会のルールを学ぶ。子供の遊びで良く使われる「~ごっこ」という名称は,「~ごと」には,「真似る」「仮託する」という意味を内包する。 「ナイト・エンタテインメント」は,このような「子供向けエンタテインメント」から独立する。本稿は,「子供向けエンタテインメント」に対する教育的な「遊び」とは遊離した形態で,「遊び」の原点である「快楽」を求める「ナイト・エンタテインメント」の一つである「ギャンブル」を取り上げる。現代社会は,貧富の格差が固定化して社会の閉塞感に溢れ,「夢を持ち難い時代である」と言われる。そのため,ギャンブルで夢やファンタジー,非日常性を見たい人が増える背景が確実に存在する。確率から考えると明らかに非合理的行動に捉えられる「宝くじを購入する」人が現在も少なからず存在することが,それを示す。 商業カジノは依然として,世界的に成長が著しいエンタテインメント分野であり,世界の100カ国以上で開業されているが,日本においても解禁されることが議論されている。カジノには,負の側面があることも見逃すことが出来ない。これまで10年以上に亘って何度も導入が試みられながら挫折を重ねて来たのは,ギャンブルに対して国民の根強いアレルギーがあることを背景とする。お酒,エロスを含め嗜好的な色彩が強い「ナイト・エンタテインメント」は,倫理面から批判されることも多い。ここに,経済学で良く知られた「合成の誤謬」が発生する。ミクロ経済の個人行動として道徳的なことでも,みんなで行うとマクロ経済では困難な状況を招くことを指す。例えば,倹約や借金をなくす行為は,個人的な道徳観では良いこととされるが,みんなでやると消費が落ち込み,不況になり,結果,みんなの所得が少なくなり,失業が発生する。政府の借金である国債をゼロにしようとすると,超緊縮財政になり,国民経済は大きなダメージを受ける。「借金をしない方が良い」という個人の道徳心は,ビジネス面においてはマイナス面が大きい。個人や企業の借金を増やしたこと自体を道徳的に批判することは,マクロ経済的観点からすれば筋違いとなる。同様に「ナイト・エンタテインメント」を消費することは,個人的な道徳心に反しても,厳しく批判したり否定したりすることは「合成の誤謬」につながる。 カジノは概して,他のエンタテインメントと同様にビジネス面で機能することが実証されている。映画館,プロスポーツチーム,遊園地と同様,消費者が進んで支出するサービスを提供する娯楽に過ぎないが,カジノなどギャンブル全般を不道徳であると見做し,偏見を持っている人は多い。このような主張は,良く言えば極めて単純,悪く言えば短絡的に捉えられる。日本は,「サッカーくじ」導入の際も,子供への悪影響など机上の空論を議論して,時間を費やした苦い過去を持つ。カジノも同様の側面があり,イメージではなく,正確にメリットとデメリットの両面を,学術的に把握する段階に来ている。
著者
林部 均
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.160, pp.1-28, 2010-12-28

藤原京は,わが国はじめての条坊制を導入した都城といわれている。そして,その造営にあたっては,複雑な経過があったことが,『日本書紀』の記述や近年の発掘調査から明らかとなりつつある。ここでは,条坊制のもっとも基本となる要素である条坊がいつ施工されたのかについて,具体的な発掘調査をもとに検討を加えた。その結果,もっとも遡る条坊施工から,もっとも新しい条坊施工まで20~30年の年代幅があることが明らかとなった。もっとも遡る条坊施工は,天武5年(676)の天武による「新城」の造営に対応することは問題ないとして,もっとも新しく施工された条坊がどういった性格のものであるのかをあらためて検討した。それは,もっとも新しく施工された条坊の施工年代が,明らかに藤原宮期まで下がるからである。この事実について,藤原京は大きな都城であるから単なる造営段階の工程差とも解釈は可能であろう。しかし,ここでは,あらためて藤原京の造営過程,そして,発掘調査で確認される実態としての藤原京を検討していくなかで,大宝元年(701)に制定・公布された大宝令による改作・再整備の可能性を指摘した。それは,もともと王宮・王都のかたちには,その時々の支配システムが如実に反映されているという考古学からの王宮・王都研究の基本原則にもとづく。この原則にたつかぎり,藤原京は天武・持統朝の造営であり,持統3年(689)に班賜された浄御原令の政治形態を反映した都とみなくてはならない。そして,大宝元年の大宝令の制定・公布により,もともとから存在する藤原京と新しい法令との間に齟齬が生じることとなり,その対応策として,改作・再整備がおこなわれたと考えた。また,『続日本紀』慶雲元年(704)の記事も,そのような文脈の中においてはじめて解釈が可能ではないかと考えた。いずれにしても,これまでの藤原京の研究は,大宝令を前提に,その京域などの研究が進められてきた。しかし,藤原京の造営は,それを遡ることは確実であり,その前提こそ見直さなければならないのではないかと問題提起をおこなった。
著者
玉野 富雄 金岡 正信 タマノ トミオ カナオカ マサノブ Tomio TAMANO Masanobu KANAOKA
雑誌
大阪産業大学論集. 自然科学編
巻号頁・発行日
vol.125, pp.1-22, 2015-03

Considering Japanese construction culture before the Meiji era, the castle masonry walls in the modern age are without equal in the world. The Osaka Castle masonry wall in the Tokugawa period represents an extremely excellent and unparalleled construction culture in the world from the point of view of the beauty of the structure observed in the corner wall profile curve, as well as the wall curved surface, and the mechanical rationality as the structural form. That is a magnificent and graceful construction culture which was uniquely developed and accomplished in Japan. This paper presents the technical history of the Osaka Castle masonry walls, discussing the historical and scientific studies on the masonry walls in the Toyotomi period and in the Tokugawa period.