著者
石島 旨章 久保田 光昭 寧 亮 劉 立足 金子 晴香 二見 一平 定月 亮 羽田 晋之介 ANWARJAN YUSUP 清村 幸雄 平澤 恵理 斎田 良知 高澤 祐治 池田 浩 黒澤 尚 金子 和夫
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.138-151, 2013-04-30 (Released:2014-11-26)
参考文献数
37
被引用文献数
7 3

運動器障害によって介護が必要な状態や要介護リスクの高い状態を表す「ロコモティブシンドローム (ロコモ, 運動器症候群) 」が提唱され, 変形性膝関節症 (knee osteoarthritis, 以下, 膝OA) はその代表疾患である. 膝OAは, 関節軟骨の変性と摩耗を病態の首座に, 関節内構造体である滑膜や軟骨にも障害が及び, 関節の形態と機能を障害し, 歩行時痛などにより移動能力が障害され, 最終的には生活の質 (activity of daily living;ADL) を著しく低下させる, 緩徐であるが進行性の疾患である. その罹患患者数は, 超長寿化を迎えた本邦において約2,500万人にものぼり, そのうち約800万人が膝痛と共存しながら過ごしている. 近年, 病態については, 従来のリスク因子に加えてメタボリック症候群の罹患との強い相関などが明らかとなっている. また, このように高い罹患率にもかかわらず, 日常臨床ではその診断や治療効果の判断を, 単純X線にのみ頼っているが, MRIや関節マーカーを用いることで, 病態の把握が進み, さらに, 臨床現場においても医療者に患者情報の増大をもたらす可能性を秘めている. 数ある治療法のなかに疾患修飾型治療法は存在せず, すべて疼痛緩和を目的とした症状緩和型治療法でしかない. 近年, 膝OAに対する薬物治療に, 弱オピオイドが使用可能となり, 治療選択肢が広がった. また, 外科的治療法では, 膝OAに対する関節鏡下手術の無効性が明らかとなる一方, 人工膝関節置換術の術後成績は飛躍的に向上している. さらに, 脛骨高位骨切り術に用いる内固定材の進歩により, その適応と信頼性が高まっている. したがって, 外科的治療法にも選択肢の幅が広がり, ADL低下を招くほどの末期膝OAにおいては, 不必要に保存療法を長引かせることなく, 外科的治療法を選択すべきである. しかし, 現時点では各種治療法の重症度別の使い分けなどは定まっておらず, エビデンスに基づいた治療法の選別と秩序だった使用方法の確立が求められている.
著者
高宮 成将 土屋 勝 久保田 光昭 金 栄智 乾 哲也 大野 隆一
出版者
一般社団法人 日本脊椎脊髄病学会
雑誌
Journal of Spine Research (ISSN:18847137)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.126-131, 2022-02-20 (Released:2022-02-20)
参考文献数
9

はじめに:Balloon Kyphoplasty(BKP)でのセメント漏出は,重大な合併症を引き起こす可能性があるが,術前画像で血管系への漏出リスクを予測する報告はなかった.本研究では,BKP術後のセメント漏出リスクを術前CTで予測可能か,また術後血管内塞栓について検討した.対象と方法:対象は2016年11月から2019年9月に急性期骨粗鬆症性椎体骨折に対しBKPを施行した81例.骨折分類に杉田分類を用いた.術前CTで椎体骨皮質破断の有無,術後CTでセメント漏出の有無を評価した.結果:セメント漏出群は23例(28.4%)だった.終板ずれ型は,他の型に比べ有意にセメント漏出が多く(p = 0.0072),椎体骨皮質破断ありでの漏出群の割合は35.6%であり,破断なしに比べ有意に高値だった(p=0.015).また,椎体周囲静脈叢へのセメント塞栓についても全例が終板ずれ型だった.結語:術前CTで椎体骨皮質破断が見られる場合は,セメント漏出が有意に多かった.血管内へのセメント塞栓については,終板ずれ型が危険因子である可能性が考えられる.
著者
田村 温美 筒井 英光 伊藤 純子 小原 亮爾 星 雅恵 久保田 光博 矢野 由希子 池田 徳彦
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.269-273, 2021 (Released:2022-02-22)
参考文献数
15

甲状腺・副甲状腺手術の後出血は1~2%の頻度とされている。頸部は狭い空間であることから,少量の出血でも血腫による静脈潅流障害により喉頭浮腫から気道閉塞に至る可能性がある。このため,甲状腺・副甲状腺手術において後出血は最も緊急性の高い合併症である。当科では,後出血予防の様々な取り組みにより,後出血に対する再開創率は0.5%と好成績であった。しかしながら,手術を行う限り後出血はどうしても一定の頻度で発生してしまうため,発生防止と同時に,早期発見と迅速な対応を行う取り組みが必要である。当科ではその取り組みのひとつとして,頸部マーキングを行っている。ひも1本でできる危機管理をコンセプトにこの頸部マーキングを「東京医大ひも法」と名付けて行っている。「簡便」かつ「安価」で導入可能であること,安全が「見える化」「数値化」することでチーム内での情報共有や早期発見に有用な方法である。ひも法における「マーキングが2cmずれたら主治医コール」は妥当な基準と考えている。
著者
小口 高 貞広 幸雄 村山 祐司 久保田 光一 奥貫 圭一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

大学3~4年生を対象としたGISのオンライン実習のための教材を整備し、大学の授業や講習会等で試験運用した。教材の公開にあたっては、独自のドメイン(http://gis-oer.csis.u-tokyo.ac.jp/)を取得し、GitHubを通じて正式公開に向けた試験公開(第1段階の公開)を行った。また、教材の活用状況を評価するために、前年度に課題となった外部ツールの仕様変更に対応しているオープンソースのプラグインを新たに用いて、活用状況を評価するシステムを構築した。教材の主要な内容は、GISの基本に関する総括的な書籍である「GISスタンダード」に沿っており、地理系の学部や関連学科における実習授業と対応させるようにした。これとは別に、インターネットを通じてGISを利活用するためのWeb GISに関する教材と、地形データを3Dプリンターで可視化するための手法に関する教材も整備した。インターネットを通じたGIS利活用のための教材は、WebGISと関連するツールを利用して、地理情報を可視化する手法や配信する手法を解説した。地形データを用いた3Dプリントのための教材では、GISのデータを3Dデータに変換する手法や、3Dプリントの手順を解説した。前年度からの継続の実践として、「GISスタンダード」と対応した教材を東京大学地球惑星環境学科などの授業において実際に試用し、アンケートなどを通じて利用者からのフィードバックを得た。今年度の授業では、前年度の事例を踏まえて改良した教材を用いたため、課題であった実習の難易度が軽減されたことが確認できた。さらに、教材に将来的に応用できる可能性がある地理情報システムを用いた応用研究を、研究協力者の早川裕弌氏や瀬戸寿一氏らとともに進めた。
著者
山内 啓之 小口 高 村山 祐司 久保田 光一 貞広 幸雄 奥貫 圭一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

これまでにGIS教育の充実のために、科学研究費を用いた複数のプロジェクトが行われ、基本となるコアカリキュラムと講義用教材が整備された。しかし、実習に関する検討は少なかった。GISを活用できる人材の育成には、大学の学部や大学院等における実習を通じた教育が重要である。<br> そこで、GISの実習用教材を開発し、公開するプロジェクトを平成27年度より開始した(科学研究費基盤研究A「GISの標準コアカリキュラムと知識体系を踏まえた実習用オープン教材の開発」、平成27~31年度、代表者:小口 高)。本プロジェクトでは、学部3~4年生の実習授業や自主学習を対象とした教材の開発と試験公開を行い、一般公開に向けて修正と改良を重ねてきた。本報は、これまでに整備してきた教材とその公開についてまとめたものである。<br> 今回整備した教材は、日本独自の地理情報科学の知識体系を教科書として編集した『地理情報科学 GISスタンダード』(浅見ほか編, 2015)の章構成に基づいている。GISの操作手法の解説には、無償のソフトウェアとデータを用いた。ソフトウェアは、様々な実習環境に対応できるQGISを主に用いた。QGISはバージョン更新が頻繁であるため、長期的にリリースされていた安定版のQGIS2.8を基本とした。しかし、リモートセンシング・データの解析、空間データベース、ネットワーク分析などの基礎的な内容や、空間統計学的な内容を含む教材においては、QGISのみでの対応が困難なため、GRASS GIS、PostGIS、CrimeStatなど複数のソフトウェアを組み合わせて使用した。<br> 教材で用いるデータは、国土数値情報やオープンデータなどとし、背景地図が必要な場合は、地理院タイルを利用した。以上のソフトウェアやデータを活用して、『地理情報科学GISスタンダード』の中で、実習の内容を含む6章~23章と26章に対応した教材を整備した。<br> 教材は、PowerPointファイルと記述が容易なMarkdownファイルでまとめ、GitHubにアップロードし、WEBで試験公開した。その後、編集や管理のしやすいGitHub上で、修正や改良を重ねた。GitHubでの公開は、Pull Request機能やIssue機能による低コストでの教材管理を目的としたものである。教材編集に一般利用者が参加できることから、ソフトウェアのバージョン更新に対応できるソーシャルコーディング的な教材運用も期待できる。 <br> 教材は、GitHubとGitBookを連携させ、閲覧しやすいWEBページで公開する。GitBookは、Markdownファイルの表示や閲覧に特化したサービスである。GitHubリポジトリのMarkdownファイルを読み込むことで、両リポジトリ間での双方向的な編集と表示が可能になる。また、簡易なコメント投稿機能や複数のファイル形式でのダウンロードなど、利用者に便利な機能が標準で用意されている。 <br> 教材には、クリエイティブコモンズに基づいて、CC BY-SA 4.0のライセンスを付与した。表記は &copy; GIS Open Educational Contents WG, CC BY-SA 4.0とした。これは、表示-継承の条件下において、幅広い用途での自由な利活用を認めることを意味する。<br> 本プロジェクトの成果は、大学等でのGIS実習や、学生や市民の自主学習に利用できるようにインターネットで一般公開する。今後は、公開した教材の運用とともに、一般利用者からPull Requestを受けつつ教材を更新していく仕組みの構築や、インターネットを活用したWEB GIS教材の整備等について検討する予定である。
著者
新家大亮 久保田光一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2013, no.1, pp.383-385, 2013-03-06

経路探索において最短経路は一意に定まるが、2番目以降の最短経路は定義に依存して異なる。例えば、同じ点を通らない、同じ辺を通らない、同じ辺を通ってよい、などの異なる定義ができる。本研究ではこの定義をより一般的に枝や点毎に通る回数の上限を定めることとし、それに応じてHershbergerら、丸山ら、加藤ら、Eppsteinらによる4種の異なるk番目の最短経路アルゴリズムの中で適切なものを選び、k番目の最短経路を探索するライブラリを作成する。このライブラリを利用した計算実験により各アルゴリズムによる2番目以降の最短経路の比較を行う。
著者
坂本 諒 千葉 雄司 久保田 光一 土居 範久
雑誌
情報処理学会論文誌プログラミング(PRO) (ISSN:18827802)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.48-66, 2011-03-25

本論文では SH4A 向けコンパイラにおいて浮動小数点演算の演算精度を指定する命令を選択し,挿入先を定める手段として,0-1 整数計画法を利用する手法を提案し,その実用性を評価した結果を示す.SH4A は浮動小数点演算命令の実行時にどの精度で演算を行うか指定するための命令を 2 種類提供するが,それぞれ挿入可能な箇所と実行コストが異なる.このため SH4A 向けコンパイラでは,どこでどの命令を使って精度の指定を行うべきか判断する必要があるが,提案技法ではこの判断に 0-1 整数計画法を利用する.また,0-1 整数計画法がコンパイル時間に与える悪影響を軽減するために,挿入箇所を求める問題を分割,簡約化する技法も提案する.分割や簡約化を適用しても最適解の探索に膨大な時間がかかる場合はあるが,そのような場合には最適解を求めることを諦め,探索を中断してヒューリスティックにより解を求める.組み込み機器向けベンチマーク EEMBC benchmark suite および組み込みプロセッサ向けベンチマーク CoreMark を使って評価したところ,提案技法でコードサイズを最適化すると,コードサイズを 1.2% 小さくできることが分かり,このときコンパイル時間の増加率は相乗平均で 13.5% になり,最適解を求ることができた問題の比率は 99.9% 以上になることが分かった.また,CoreMark を使って評価したところ,提案技法で実行サイクル数を最適化すると,最適化しない場合と比べ,精度指定にかかる実行サイクル数と,アプリケーション全体の実行サイクル数をそれぞれ 64.1% と 3.1% 削減できることが分かった.
著者
伊理 正夫 今井 敏行 久保田 光一 室田 一雄 杉原 厚吉
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

本研究は,代表者伊理正夫が1983年に発案した高速自動微分法のためのソフトウェア試作と実際問題への応用を発展させ,実用技術として確立することを目的とした。本研究によって得られた成果をその目的に沿って述べると次のようになる。(1)プリプロセッサの改良:C++による処理系を試作し,既に製作してあったFORTRANによるものとともに改良を重ね,実験用ソフトウェアとしては一応の完成をみた。それらを移植し,種々の計算機上で高速自動微分法を利用可能にした。さらに,勾配の誤差も計算できるようにするなど改良を加えた。現在,サブル-チン等の副プログラムに対する処理,ベクトルプロセッサ向けの処理を導入すべく,処理系をさらに改良中である。(2)丸め誤差の推定の理論の厳密化,丸め誤差の推定値を積極的に利用する算法の開発・実験,実際的な問題への応用:理論的に従来の区間解析よりも優れていることを証明しただけでなく,応用時に問題になる計算グラフの作成方法の改良の必要性を指摘し,解決のためグラフの縮小法を開発した。実用面では,演算増幅器の直流解析などを例にした非線形方程式系解法への応用や,幾何的アルゴリズムを利用した地理的最適化問題に適用し,精度,速度,特に収束性を詳しく調べることを通じ,従来の方法に比べて高速自動微分法が有効であることを確認した。(3)高速自動微分法と数式処理システムとの融合:プリプロセッサが改良中であること,実用面での高速自動微分法の有効性の証明を精密に行なうのに時間と労力を費やしたため,この方面に関する研究は,完成しておらず,今後の課題として残された。上記の成果をふまえて,国際数理計画シンポジウム,京大数理解析研研究集会,情報処理学会研究会,SIAM Workshopなどでの発表,内外の研究者との交流を行い,本研究の成果が国際的に先導的地位にあることを確認した。