- 著者
-
亀崎 直樹
- 出版者
- 日本野生動物医学会
- 雑誌
- 日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
- 巻号頁・発行日
- vol.24, no.3, pp.87-90, 2019-09-25 (Released:2019-11-25)
近年,水族館における研究活動が停滞している。そこで,水族館での研究活動の必要性や停滞する原因を分析した。国内では,1960年代に多くの水族館が設立され,集客の目的もあったが,設立者の理念としては,海や海洋生物を博物学的・生物学的に一般に普及したいとする教育的目的があった。また,当時は海洋生物の生態に関する情報も少なく,多くの市民の関心を呼んだ。ところが,ある時代からか水族館がアミューズメントパークとして機能し始める。目的が教育からビジネスに移行したのだ。そしてビジネスを目指す人材がトップにたつと,研究は必要ではなくなり,むしろ邪魔なものになった。海洋生物についての研究は,社会全体で見れば活発ではあるが,その予算の大部分は主として食料となる水産資源となる生物を対象とした研究に費やされる。水産資源として価値のない生物はほとんど無視され,研究スピードは遅々としている。しかし,生物多様性の価値観は近年見直すべきだとする思想は,現代社会の潮流となっている。水産資源ではない海洋生物を,純粋な博物学的な価値観で扱える施設は水族館だけである。水族館は海や川に関する学問を一般に普及するために重要な役割を担っている。また,それを実行するためには研究が必要不可欠である。