著者
坪木 和久 伊藤 耕介 山田 広幸 中山 智喜 篠田 太郎 高橋 暢宏 新垣 雄光 大東 忠保 山口 宗彦 森 浩一 松見 豊
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2016-05-31

2017年度および2018年度に航空機を用いて観測した2つの台風について、ドロップゾンデデータの補正を行ったうえで解析し、台風の構造の特徴をあきらかにした。2018年台風第24号の進路予報の大外し事例を対象として観測システム実験を行った。予報精度の比較的良かった数値予報センターの解析値を疑似ドロップゾンデデータとして同化しても、予報精度の改善は見られなかった。背景場の台風渦が弱く、観測データでは台風渦を適切に修正できていないことが原因と考えられた。また、衛星搭載合成開口レーダによる海上風観測の検証として、ドロップゾンデデータによる現場観測のデータが利用可能性を調査した。2018年台風第24号に関する高解像度シミュレーションを行った。その結果、台風停滞時の顕著な台風と海洋との相互作用により、中心気圧が50hPa程度上昇し、温度と水蒸気勾配を逆転させるなど、内部コア構造の変質が起きていたことが明らかとなった。2019年8月末に名古屋大学の雲レーダを沖縄県瀬底島に設置し、台風の上層雲の観測を実施した。その後、次年度の観測のため、2020年2月末に名古屋大学の雲レーダを沖縄県与那国島に設置した。台風と豪雨の研究と国際共同研究計画について、台湾において国際ワークショップを開催し、米国、台湾、韓国、及び日本の台風研究と将来計画について情報交換と議論を行った。2018年および2019年に沖縄近海を通過した合計7個の台風について、接近時の風速とエアロゾル粒子の重量濃度の関係について調べたところ、平均風速が10 m/s増加するに従い、エアロゾル粒子の重量濃度が50μg/m3程度増加することがわかった。2019年度は、沖縄島に台風が接近した台風時を含め、継続的に大気エアロゾルを採取し、海塩および溶存有機炭素濃度を調べた。大気エアロゾル中の海塩含有量は、風速とよい正の相関を示すことが分かった。
著者
坪木 和久 伊藤 耕介 山田 広幸 堀之内 武 篠田 太郎 高橋 暢宏 清水 慎吾 大東 忠保 南出 将志 辻野 智紀 山口 宗彦
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2021-07-05

台風は自然災害の最大要因であり、なかでも最強カテゴリーのスーパー台風は甚大な被害をもたらす。地球温暖化に伴い、日本本土へのスーパー台風の上陸が懸念されている。しかし台風強度の推定値と予測値の両方に大きな誤差があることが大きな問題となっている。その最大原因は台風が急速に発達する「急速強化」である。さらにそのとき眼の壁雲が二重となる構造がしばしばみられ、その力学的・熱力学的構造が未解明だからである。本研究課題では、スーパー台風が、なぜ、そしてどのように形成されるのか、それにおける急速強化と二重壁雲構造はどのような役割をしているのかを、航空機観測、地上観測、数値シミュレーションの三本柱で解明する。
著者
伊藤 耕介 Chun-Chieh Wu Kelvin T. F. Chan Ralf Toumi Chris Davis
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.98, no.1, pp.5-17, 2020 (Released:2020-03-26)
参考文献数
46
被引用文献数
1 13

台風の移動の基礎的な理解はかなり成熟しているが、注目に値する研究の進展が近年も見られる。本論文では、単純化された順圧モデル・精緻な物理モデル・データ解析によって、主に2014年以降に得られた台風の移動に関する新しい概念や既存の概念に関する新たな知見を集約する。これには、台風の移動に関する環境場と台風の相互作用、および、予測可能性の研究を含んでいる。指向流・βジャイア・非断熱加熱といった従来の概念は依然として重要であるが、台風の進路を説明するメカニズムをより正確に理解することは、さらなる進路予報の精度向上に向けて、重要な基礎をなすであろう。
著者
伊藤 耕介
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.100, no.2, pp.321-341, 2022 (Released:2022-04-13)
参考文献数
46
被引用文献数
4

気象庁の全球日別海面水温解析の準リアルタイム版(以下、R-MGD)では、解析時間の前に得られた観測データに短時間スケールの変動を落とすようなフィルタを適用している。そのため、台風の通過に伴う急激な海面水温の変化がバイアスを生むと考えられる。本研究では、R-MGDの現場観測に対するバイアスを、北西太平洋における台風の通過に沿って定量化した。初めに、2020年8月~9月にかけて立て続けに接近した3つの台風に関し、事例解析を行った。R-MGDは3つの台風の通過直後では2℃以上もの正バイアスを生じており、最後の台風が通過して1週間以上経過したのち負バイアスが観測された。R-MGDと係留ブイの比較を行ったところ、短時間スケールを落とすフィルタリングと解析時間の前に得られたデータを用いていることで、バイアスが説明できた。次に、2015年5月から2020年10月の期間でコンポジット解析を行ったところ、台風最接近の1日前から4日後までに統計的に有意な正バイアス、台風最接近の7日後から14日後までに統計的に有意な負バイアスが、台風から500 kmの範囲内で検出された。正バイアスは、冷たい亜表層の水と激しい台風の通過に伴って生じやすく、とりわけ、黒潮と黒潮続流域を除く中緯度帯で大きくなっていた。また、R-MGDの解析時間の72時間前までに得られた現場観測を追加の最適内挿法で同化することにより、バイアスは軽減されることが分かった。これは、この過程により短周期の変動が復元されたためである。台風予報への影響評価および最適内挿法の独立な観測に対する検証も実施した。
著者
伊藤 耕介 沢田 雅洋 山口 宗彦
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.15-34, 2018 (Released:2018-06-11)
参考文献数
41
被引用文献数
1

台風予測に関する高解像度領域非静力学モデルの性能評価を行うために,5 kmメッシュの気象庁非静力学大気モデル(NHM5km_atm)及びそれに海洋モデルを結合した大気海洋結合モデル(NHM5km_cpl)を用いて,北西太平洋全域を計算領域とした台風予測実験を行った。計算対象は2012-2014年の1200UTCに台風が存在したほぼ全ての事例であり,予測時間は3日間である。本研究では気象庁全球モデル(GSM)の出力を0.5度格子に粗視化したものを初期値・側面境界値として用い,NHM5km_atmとNHM5km_cplによって得られた台風の進路と強度の予測精度をRegional Specialized Meteorological Center (RSMC) Tokyoベストトラックに対して検証し,またGSMの予測精度とも比較を行った。実験の結果,24-60時間の進路予測に関してはNHM5km_atmとNHM5km_cplはGSMよりも良く,特に水平風の鉛直シアが強い場合に改善率は最大20%に達した。ただし,統計的にはこれらの平均値の差は,両側検定で信頼水準90%を超える改善とは認められなかった。強度予測に関しては,初期時刻において強い台風が現実的に再現されていないことがあり,短時間予測の誤差は大きいものの,2日以上の予測に関しては,NHM5km_atmとNHM5km_cplはGSMに比べて20%以上の改善が認められ,統計的にも非常に有意であることが明らかとなった。またNHM5km_cplはNHM5km_atmに比べて,台風強度は平均的に見て弱く再現される傾向にあったものの,変化傾向の相関係数に関しては改善傾向を示していた。このほか,台風の中心決定方法が短時間の進路予測に対して数%程度の影響を及ぼすこと,最大風速予測の成績は参照するベストトラックデータの種類にも依存することが明らかとなった。
著者
山田 広幸 伊藤 耕介 坪木 和久 篠田 太郎 大東 忠保 山口 宗彦 中澤 哲夫 長浜 則夫 清水 健作
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.1297-1327, 2021 (Released:2021-10-31)
参考文献数
97
被引用文献数
11

2017年台風第21号(ラン)対する上部対流圏の航空機観測を、新たに開発したドロップゾンデシステムを備えた民間ジェット機を用いて行った。これは、日本の研究グループがドロップゾンデを用いて非常に強い台風の内部コアを観測した初めての事例である。本論文では、目の暖気核構造と、それに関連するアイウォールの熱力学的および運動学的特徴について記述する。この台風は観測の2日間において、鉛直シアーが強まる環境で最大の強度を維持した。ドロップゾンデにより、この期間に対流圏中層と上層に温位偏差の極大をもつ二重暖気核構造が維持されたことが捉えられた。この2つの暖気核は相当温位が10 K以上異なり、起源が異なることが示唆された。飽和点分析により、上部暖気核の空気はアイウォールから流入したことが示唆された。鉛直シアーベクトルの左半円側におけるアイウォール上昇気流は、台風の中心側で相当温位が高く絶対角運動量が低い2層の構造を持っていた。飽和点とパーセル法の分析から、この中心側の上昇気流で相当温位が370Kを超える暖かい空気が目の境界層から流入し、最終的に上部暖気核に輸送されることが示唆された。これらの結果から、目の境界層を起源とする高い相当温位の空気の鉛直輸送が、鉛直シアーによる台風強度への負の影響に対抗して、上部対流圏の目の継続的な昇温に寄与するという仮説が導かれた。この研究は、相当温位の計算に必要な温度と湿度の測定が、ドロップゾンデのような消耗型の機器でしか行えない現状において、アイウォール貫通型の上部対流圏航空機観測が暖気核構造の監視に重要であることを示している。
著者
山田 広幸 伊藤 耕介 坪木 和久 篠田 太郎 大東 忠保 山口 宗彦 中澤 哲夫 長浜 則夫 清水 健作
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.1297-1327, 2021
被引用文献数
11

<p> 2017年台風第21号(ラン)対する上部対流圏の航空機観測を、新たに開発したドロップゾンデシステムを備えた民間ジェット機を用いて行った。これは、日本の研究グループがドロップゾンデを用いて非常に強い台風の内部コアを観測した初めての事例である。本論文では、目の暖気核構造と、それに関連するアイウォールの熱力学的および運動学的特徴について記述する。この台風は観測の2日間において、鉛直シアーが強まる環境で最大の強度を維持した。ドロップゾンデにより、この期間に対流圏中層と上層に温位偏差の極大をもつ二重暖気核構造が維持されたことが捉えられた。この2つの暖気核は相当温位が10 K以上異なり、起源が異なることが示唆された。飽和点分析により、上部暖気核の空気はアイウォールから流入したことが示唆された。鉛直シアーベクトルの左半円側におけるアイウォール上昇気流は、台風の中心側で相当温位が高く絶対角運動量が低い2層の構造を持っていた。飽和点とパーセル法の分析から、この中心側の上昇気流で相当温位が370Kを超える暖かい空気が目の境界層から流入し、最終的に上部暖気核に輸送されることが示唆された。これらの結果から、目の境界層を起源とする高い相当温位の空気の鉛直輸送が、鉛直シアーによる台風強度への負の影響に対抗して、上部対流圏の目の継続的な昇温に寄与するという仮説が導かれた。この研究は、相当温位の計算に必要な温度と湿度の測定が、ドロップゾンデのような消耗型の機器でしか行えない現状において、アイウォール貫通型の上部対流圏航空機観測が暖気核構造の監視に重要であることを示している。</p>
著者
西嶋 一欽 丸山 敬 林 泰一 高橋 徹 友清 衣利子 伊藤 耕介
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、台風に先回りして容易に設置可能な風圧計測デバイスを開発することで、台風通過時に建築物が密集した都市部に位置する低層建築物に作用する風圧を実測する。さらに、実測した建築物に対して、その周辺の遮蔽物の有無を段階的に変化させた風洞実験を実施し、実測値と比較することで、都市部に位置する低層建築物に作用する風圧特性を決定づける要因を類型化し、周辺環境の何をどこまで再現すれば十分な精度で風圧を評価できるかを明らかにする。得られた知見を用いれば、都市のどこに大きな風圧が作用し得るかを明らかにすることが可能になり、都市型強風災害リスク分析の高度化や耐風補強に関する意思決定に貢献できる。
著者
伊藤 耕介 WU Chun-Chieh CHAN Kelvin T. F. TOUMI Ralf DAVIS Chris
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.98, no.1, pp.5-17, 2020
被引用文献数
13

<p>台風の移動の基礎的な理解はかなり成熟しているが、注目に値する研究の進展が近年も見られる。本論文では、単純化された順圧モデル・精緻な物理モデル・データ解析によって、主に2014年以降に得られた台風の移動に関する新しい概念や既存の概念に関する新たな知見を集約する。これには、台風の移動に関する環境場と台風の相互作用、および、予測可能性の研究を含んでいる。指向流・βジャイア・非断熱加熱といった従来の概念は依然として重要であるが、台風の進路を説明するメカニズムをより正確に理解することは、さらなる進路予報の精度向上に向けて、重要な基礎をなすであろう。</p>
著者
伊藤 耕介
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

台風の強度に関する研究は,防災上の観点からはもちろんのこと,温暖化に代表される気候変動によってインパクトがどのように変化するのかを評価するという意味でも重要性を増している.中でも,台風状況下の海面付近の観測は限られるため,本研究では,観測可能な物理量の情報と数値モデルを用いて,海面から大気に渡される運動量フラックス・熱フラックスの影響を調べる研究を進めてきた.本年度は「運動量・熱フラックスを修正した場合の台風強度変化に関する詳細な物理プロセスの解明」及び「3次元モデルへの本スキームの適用」についての数値実験を行った.前者については,台風の最大接線風速をターゲットとして,アジョイント方程式を用いた後方時間積分によって感度解析を行い,最大風速変化に寄与する物理場を過去にたどることとした.この感度解析の結果,海面付近の擾乱成分が1時間以内というごく短時間スケールで台風の最大風速を強めるというプロセスが存在することが新たに明らかとなった.本研究の成果については,国際学会で発表を行ったほか,論文にまとめて国際誌Journal of the Atmospheric Sciencesに投稿し,すでに受理された.後者については,非静力学メソ4次元変分法データ同化システム(JNoVA)に本スキームを導入して,運動量フラックス及び熱フラックスの推定に関するスキームが動作するかについて調べた.結果として,運動量交換係数は元の値に比べ,台風の進行方向右側前方で大きく,左側後方で小さくなるように修正されれば,観測値との整合性が高められることが分かった.本研究で行った海面フラックスの最適化により,台風予報性能向上することが貢献することが期待される.本研究の結果は,国際会議において既に口頭発表済みであり,現在,国際誌への投稿を準備している段階にある.