著者
伊部 恭子
出版者
佛教大学福祉教育開発センター
雑誌
福祉教育開発センター紀要 (ISSN:13496646)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.35-56, 2018-03-31

本研究の目的は、社会的養護を経験した人々への生活史インタビューの結果から、どのような支援が求められているかを明らかにすることである。本稿では特に、施設退所後の生活のなかで様々な困難に直面しながらも、本人がふりかえってみたときに、「どのようなところから力をもらってきたのか」、「どのようなことが支えになっているのか」に焦点をあて、考察した。方法としては、初回インタビュー(調査協力者 31 人)から 6~10 年を経た追調査において、現在までに聴き取りを終えている 15 人の語りの内容を中心に取り上げる。検討の結果、次のことが示唆された。一つ目は、施設入所中に力をもらったり、支えとなった経験の記憶が、現在の生・生活の営みを支える源になっていること、二つ目は、退所後の生活における不安や困難に直面した時に本人が力をもらったり、支えられたりした経験が、その後の本人の生・生活においても大切なものとして位置づいていること、三つめは、本人自身が何か(誰か)のために役立ちたい、支えたいという意思をもち、その経験からも支えられたり、力を得ていることである。また、これらに通底するのは、本人にとってかけがえのない"個人"・"人(ひと)"との関わりがあり、その関係性のなかで本人自身が受けとめられ、本人の生やニーズが肯定されていることを実感しているということが導かれた。本稿で得た結果は、15 人の語りから例示された一部であり、その内容も個別的であるため、一般化・普遍化に向けての限界がある。今後は、生活史インタビューにおける本人の語りの全体像を見渡し、質的調査におけるナラティヴの分析方法を用いた検討が課題となる。その際、語り手の主観的な生活世界の観点から、傷ついた経験やつらかった経験に関する語り(生の営みの困難に関する語り)を含め、本人にとって、どのようなときに、どのような人との関係において、どのようなことが助けとなり生きる力をもらったのか(生の営みの肯定・回復に関する語り)に着目する。そのうえで、社会的養護のもとで育つ子ども・若者への支援について、ソーシャルワークの支援過程と援助関係の理論的検討をふまえて考察することを課題としたい。社会的養護児童養護施設生活史支えられた経験援助関係
著者
松本 伊智朗 湯澤 直美 関 あゆみ 蓑輪 明子 永野 咲 加藤 弘通 長瀬 正子 丸山 里美 大谷 和大 岩田 美香 大澤 亜里 鳥山 まどか 佐々木 宏 杉田 真衣 山野 良一 田中 智子 上山 浩次郎 藤原 千沙 吉中 季子 福間 麻紀 大澤 真平 藤原 里佐 川田 学 谷口 由希子 中澤 香織 伊部 恭子 山内 太郎 新藤 こずえ 小西 祐馬 加藤 佳代
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、子どもの貧困の現代的特質を明らかにすると同時に、政策的介入と支援のあり方を検討することである。そのために、大規模な子ども・家族を対象とした生活調査(3万人対象)を北海道で行った。あわせて、女性の貧困に関する理論的検討、社会的養護経験者に対する調査を行った。それらを通して、経済的問題、時間の確保、追加的ケアへの対応、ジェンダー平等の重要性、子どもの活動と経験、社会的ケアと社会保障制度の問題について検討を行った。
著者
伊部 恭子
出版者
佛教大学
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
vol.9, 2013-03-01

本稿の目的は,社会的養護を受けた人々への生活史聞き取り調査(2007?2010年度に実施) から,家庭復帰をした人とその家族関係・社会関係に焦点をあて,支援に関する課題を考察することである。ここでは,社会的養護のなかで,主に施設ケアを取り上げる。施設への入所前,入所中,退所後という時間的経過のなかで,当事者が,その生活とおかれている状況,家族関係,社会関係をどのようにとらえてきたのか,どのような困難や課題があり,どのように対処したのか等を明らかにし,支援の過程に則して課題を考察した。生活史インタビューの結果,家庭復帰後にも多様な生活困難,生活課題,家族関係・社会関係における葛藤や困難,課題が生じていることが明らかになった。支援の過程,すなわちアドミッションケア,インケア,リービングケア,アフターケアにおいて考慮すべき点として,特に,退所後の支援を見通したインケアにおける支援のあり方が,当事者の生と生活の力を育み,施設退所後に困難等を抱えた時の対処の仕方や課題解決の仕方に活かされる可能性,インケアと並行して親支援を行うことの重要性が確認された。引き続き,当事者の生活と支援について,時間軸に着目して分析し,回復に向けた支援に関する考察を深めていくことを課題とする。