著者
苅谷 愛彦 清水 長正 澤部 孝一郎 目代 邦康 佐藤 剛
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.5, pp.386-399, 2014-09-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
25

山地の解体過程において,大規模地すべりの時間的推移を詳しく検討することは重要である.本論文は,このような視点から関東山地南部・三頭山(標高1,531 m)北西面の大規模地すべりをとりあげ,踏査や空中写真判読,年代測定に基づき,その地形・地質的特徴と発生年代を論じたものである.この大規模地すべりは三頭山山頂から西北西方向に伸びる稜線の直下で発生し,滑落崖を形成した.地すべりで斜面物質は約1.5 km移動し,谷壁や谷底に堆積した.地すべり移動体はジグソー・クラックを伴う厚い礫層からなり,堰き止めを起こし湖沼・氾濫原を形成したとみられる.初生地すべりはcal AD 1292~1399(鎌倉時代~室町時代)かそれ以前に発生し,二次地すべりがcal AD 1469~1794(室町時代~江戸時代後期)に生じた.山麓の集落には,湖沼・氾濫原の決壊や二次地すべりを示唆する伝承が残されていることも判明した.
著者
佐藤 博史
出版者
日本刑法学会
雑誌
刑法雑誌 (ISSN:00220191)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.456-461, 2014-04-30 (Released:2020-11-05)
著者
籾山 政子 加賀美 雅弘 佐藤 都喜子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.50-58, 1988-05-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
30

わが国における医学地理学研究は近年の研究テーマの多様化に,その著しい発展を見てとることができる。たとえば,住民の医療行動を空間的に分析した医療圏研究,あるいはこれを民俗的現象と結びつけた研究などに多くの関心が寄せられつつある。しかし,わが国の医学地理学の主流は,なお疾病死亡の地域較差をテーマとした研究にあるといえよう。この種の研究,とりわけ,その分析対象と方法は世界的動向と比較的類似している。しかし,一方,ここにはわが国独特の研究動向,すなわち籾山による疾病死亡の季節変化に派生する一連の研究がある。本報告は,この種の研究を取りあげ,わが国の医学地理学研究の特色および今後の展望を検討したものである。 近年つぎつぎに刊行された疾病地図は,本分野の社会的重要性を喚起したものとしてきわめて重要視されている。なかでもわが国における死因の第一位を占めてきた脳卒中死亡の地域較差は,これを契機にして,地理学をはじめ,疫学,人類生態学,統計学など,多彩な方面から検討されている。地理学においては,かかる地域較差を規定するような地域的要因,とくに気候的要因,それに加えて社会経済的要因の解明が,統計学的に進められている。そこでは,対象となる地域のスケールを変えることによって,疾病と地域とのさまざまな関係が解明される。これら諸関係を地理的スケールに応じて整理することが,地理学的現象としての脳卒中死亡,ひいては疾病全般の意味を吟味することになり,今後の医学地理学研究の展開にとって重要なポイントとなるであろう。
著者
佐藤 哲夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.117-133, 1987-12-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

本稿はバングラデシュ低地部における水稲の作付体系の実態を土地条件および社会経済的条件の両側面から評価し,稲作技術変化の可能性について検討したものである.調査地は同国南西部の低湿地に位置するバゲルハート県モラハート郡で詳細なデータは主としてムラでの住み込み調査によって得た。この調査地はランドサット画像によれば付近は深水田が卓越する地域に含まれる. この低湿地は,通常小さな自然堤防によっていくつかのブロックに仕切られており,雨季には湛水するが,乾季には中央部まで干上がって耕作されている.このような湿地はビル(bil)と呼ばれている.ここでの水稲作は,季節的な水位変動に対応して,収穫期の異なる稲の混播や混植,ジュートやゴマとの混作を特徴としている. 慣行的な作付体系の中では,9月および11月に収穫する稲を雨季初めに混播するものが最大面積を占める.近年導入された改良品種の乾季作は,潅漑さえ整備されていれば大部分の土地で可能なので,将来は慣行的作付体系との競合が予想される.ただし生産費からみた場合には,水利費の軽減が重要な課題である. 滞水期間の長くて乾季初めに稲の移植作業を完了できない最低位部では,危険回避のため伝統的に浮稲の単作が行われている.浮稲単作は土地集約度が低く土地生産性の点では不利であるが,犂耕の回数が少なくて済むなどの理由から,労働生産性は必ずしも低くはなく,商業的経営の性格が強い経営体で作付率が高い. 減水を利用した乾季の伝統的な移植稲作の場合,種子費の節約や耕起の省略が可能となるが,仮畦畔造りと移植作業が加わることで,生産費の合計は混播作とほぼ同じになる. 小作制度では収穫を折半する分益小作が一般的であった.その場合の地主の収益が実勢地価に対する比は,土地を抵当として信用小作を行った場合の利子率と均衡していることが確認された. 経営体の性格は,核家族制をとるムスリムの場合と,直系家族制をとるヒンドゥーの場合とでも異なる.前者が労働の機会費用に敏感で商業的性格をより強く示すのに対し,後者は土地貸借や兼業が少ないなど自給的性格がより強い.このような経営体の性格の違いは,水稲の作付体系にも反映しており,前者では単播浮稲の作付率が高くなっている.
著者
佐藤 都喜子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.103-115, 1987-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

医学地理学にはいくつかの分野があるが,本研究は,地域医療に関する地理学的研究である. ここでは,ハワイ州オアフ島住民のさまざまな医療行動のなかで,入院患者(Hawaii Medical Service AssociationおよびMedicaidの加入者)がどのように特定病院を選択しているかということを明らかにしようとした.そのために,患者とその主治医の結びつきが明確にされているデータを用い,主として計量的手法による分析をおこなった.その結果,入院患者が病院を選択する基準は,従来言われてきた医療機関までの時間距離より,むしろ病気の特性と医師のエスニシティ(民族集団への所属)が重要な要因であることがわかった。この事実をアメリカ医療制度をふまえて検討すると,病院選択に際して,患者よりむしろ医師が決定権をにぎっている傾向がみられることになる。特定の病院への選好が強い医師の判断が住民の一連の入院施設の選択行動において重要な意味を持つのである。従って,今後の研究課題として,患者と医師の種々の関係を具体的な事例に基いて分析することにより,医師の役割の特性をより明確にすることができるであろう。