著者
大嶽 秀夫
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

行政改革は、「小さい政府」、「民間活力の応用」、「規制緩和」などをスロ-ガンとして行われたものである。ところが、その実施過程ならびに結果において、コ-ポラティスト的性格が強く現れるというパラドックスが見られた。例えば、電電公社の民営化を通じて、自由化や規制緩和が促進されたことは言うまでもないが、他方で、民営化の過程ならびにその結果において、コ-ポラティスト的特徴は一層強まった。第一に、全電通は、電電三法の国会審議に対し、総力を挙げて圧力行使を行ったが、その過程で従来からの社会党を介した影響力のチャネルばかりでなく、自民党との直接の接触のル-トを開拓、利用した。全電通が、単なる労働条件や雇用の問題を超えて、産業政策についての自らの主張を確立し、それを代表させるチャネルを確立していったという意味で、(メゾ)コ-ポラティズムへの一歩であるといってよい。また、自民党の側も、それまでの労働組合(特に総評系労組)の政治参加のアクセスを拒否する態度から、政治参加を容認、奨励するあり方へ転換した。転換した。この意味でも、日本政治が、行政改革を通じてコ-ポラティズムに一層近付いたと解することができる。他方、経営との関係でも、全電通は、民営化に関して経営者との利害を一致させ、むしろ積極的に民営化を推進したと言って過言ではない。全電通の主張は、経営側とほとんど同じものであり、いわば経営側の尖兵として政治活動を行ったのである。この(ミクロ)レベルでも、自由主義的改革は、コ-ポラティズム的労使協調を一層促進させたのである。また、電電公社の民営化は、一人の解雇者も出さずに実現された。実は、カッツェンシュテインの分析したスイスやオ-ストリアの例が示すように、(国際的)自由化は、国内のコ-ポラティズムを生み出す基礎たりうるのであり、この例と比較すれば、日本が特に特異な構造を示しているというわけではない。「国益」ないしは「企業の利益」という観点が貫徹すれば、国際市場、国内市場における競争のために労使が協力するのは当然のことであるからである。この観点に立てば、ミクロ・レベルのコ-ポラティズムが自由主義的改革によって一層進行したことは何等驚くべきことではない。
著者
大嶽 秀夫
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

本研究は, 戦後日本と西ドイツの防衛政策の展開を, アメリカ政府の軍事政策との関連を一つの焦点におきながら研究する計画の一環である. 二年度にわたる今回の研究では, 両国の再軍備とその展開過程を実証的に分析し, 相互に比較することが中心となった. とくに, 日本の再軍備に関しては, インタビューや資料発掘を通じて, これまで明きらかにされていなかった再軍備政策の様々な側面が解明できたと考える. 報告諸第一部では, その成果として, 一九五〇年七月のいわゆるマッカーサー指令の背景はなんであったか, それが日本政府にいかに受け取られたか, また, マッカーサーや吉田の長期的再軍備構想はいかなるものであったか, その構想が警察予備隊から保安庁へ改組にどう実現したか, などを明らかにした. さらに, 第二部では, これまで研究者に利用されたことのない山本善雄文書を主として使いながら, 旧海軍グループが海上自衛隊の再建にいかなる役割を演じたかを詳細に検討した. 続いて第三部では, 保守党政治家による積極的再軍備論の主張の登場の背景とその展開を分析した. ここでは, とくに芦田, 石橋, 鳩山などいわゆる「リベラリスト」がなぜ, 再軍備論を通じて日本政治の最右翼に位置することになったかを詳しく検討した. ついで, 野党, 即ち日本社会党とドツ社会民主党の再軍備政策の比較を研究成果としてとりまとめた. 即ち, 第四部では, 一九五〇年代におけるドイツ社会民主党の防衛, 経済政策上の「転換」を日本社会党との比較を通じて検討した. さらに, 第五部では, 日本の右派社会主義者の防衛論を検討し, 西ドイツと同様の「転換」に失敗したのはなぜかを分析した. 以上のことから明らかなように, 本研究は, もう一つの特色として, 再軍備を単なる防衛政策の問題としてではなく, 広い政治対立の一側面としてとらえ, その対立のイデオロギー的, 政治文化的背景を検討したところに特徴があろう.
著者
大嶽 秀夫
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

日仏の近現代政治史のなかから、さまざまな争点をとり上げて、比較検討した。そのうち、ネオリベラル・ポピュリズムの展開およびフェミニズムの政治史については、それぞれ単著として発表した。さらにヴィシー政権と大日本帝国の比較を行い、それが戦後政治に与えた負の影響を検討した。最後に現代日本の政党政治と社会運動についても、インタビュー調査も行い、詳しい検討を行った。これらの成果については出版準備中である。
著者
木村 幹 大嶽 秀夫 下斗米 伸夫 山田 真裕 松本 充豊
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、現在の各国政治に顕著に見られる「ポピュリズム現象」に注目し、その原因と各国の事情について分析したものである。研究の概要は以下のようなものである。1)「ポピュリズム」の概念に対する検討。本研究においては、従来の錯綜した議論の中から、ポピュリズムを政治家や政党の「戦略」としてのポピュリズムと改めて位置づけた。2)戦略としての「ポピュリズム」が採用されるに至った各国の事情。本研究におしては、主たる検討対象として、日本、ロシア、台湾、韓国の4カ国を取り上げ、その具体的な状況について検討を行った。3)各国に共通する状況と世界的な「ポピュリズム」現象が持たされた理由。本研究では、その理由として、従来の政治体制、就中、政党と議会に対する信頼の低下が、各国の政党や政治家をして、政治的リーダーシップの獲得・維持のための合理的な選択として、政治家の個々の個人的人気に依拠せざるを得ない状況を作り出していることを指摘した。また、このような政党と議会に対する信頼の低下の背景に、冷戦崩壊とグローバル化の結果として、各国の従来の政治システムが機能不全を起こしていることがあることを明らかにした。以上のような、本研究は今日も続く、世界各地の「ポピュリズム」現象とその結果としての不安定な政治状況に対する包括的な理解を築くものとして、大きな学問的意義を有している。そのことは、本研究の成果が既に国際的な学術会議や、雑誌論文として公にされ、国内外に広く反響をよんでいることからも知ることができる。
著者
大嶽 秀夫
出版者
阪急コミュニケーションズ
雑誌
アステイオン
巻号頁・発行日
no.76, pp.210-233, 2012