著者
太田 博樹
出版者
一般社団法人 日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.115, no.2, pp.73-83, 2007 (Released:2007-12-22)
参考文献数
68

現在100種を上回る生物種で全ゲノム塩基配列決定が進行中もしくは完了し,『ゲノム博物学』といった様相を呈している。ヒト近縁種については,ヒト,チンパンジー,マカクの全ゲノム・ドラフト配列が発表され,これらゲノム情報の種間比較により分子レベルから人類進化へアプローチする研究は10年前に比べ格段に容易となった。ゲノムワイドの種内比較研究もヒトで最も進んでおり,国際HapMapプロジェクトが組織され,3大陸(アフリカ,ヨーロッパ,アジア)人類集団から百万個以上のDNA多型マーカーが同定された。各生物種の全ゲノム配列やヒト多型データは,データベースが整備されインターネットを介して容易に入手できる。こうしたゲノム科学の進展は「ヒト」および「人」に関わるあらゆる学問,産業,思想に革命的なインパクトを与えることが予想され,既にそうなりつつある。産業との関連においては,シークエンスやタイピングの効率の向上に重きが置かれがちだが,データ解釈の正確さを忘れない姿勢が科学者のあるべき姿であろう。この点において人類学的視点をゲノム科学へフィードバックする重要性が今後さらに増すに違いない。本稿では,ゲノム科学をめぐる世界的動向を概説し,ゲノム科学と人類学の関わりについて議論する。
著者
太田 博樹
出版者
日本生理人類学会
雑誌
日本生理人類学会誌 (ISSN:13423215)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.91-96, 2017 (Released:2017-10-31)

Twin research has been of fundamental importance to the field of human genetics. There are two phases to twin studies: 1) a biological interest for twins, and 2) usefulness of schemes using twin characteristics. In this review, I outline the two phases of twin studies, related to both genome and epigenome studies, and discuss the potential expansion of twin studies in physiological anthropology in the near future.
著者
松下 裕香 太田 博樹 WELKER Barbara PAVELKA Mary 河村 正二
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第27回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.36, 2011 (Released:2011-10-08)

L-Mオプシンの対立遺伝子分化による種内色覚多型が一般的に存在する新世界ザルの中で、唯一ホエザル属は狭鼻猿類と同様にL-Mオプシンの遺伝子重複によって、種内で一様な3色型色覚を有していると考えられてきた。そのためホエザルは霊長類の3色型色覚進化を論じる上で重要な存在となっている。しかしこれまでに野生集団を対象にその色覚多型性を検証した例はなく、実際に集団内で一様な3色型色覚を有しているかは不明だった。そこで本研究ではホエザル野生集団に対し、L-Mオプシン遺伝子の多型性を検証することを目的とした。 そのために、まずコスタリカ共和国グアナカステ保護区サンタロサ地区で採集されたマントホエザル(Alouatta palliata)3群33サンプル及びベリーズ国モンキーリバー地区で採集されたグアテマラホエザル(A. pigra)5群44サンプルの糞試料からDNAを抽出した。次にLまたはMオプシン遺伝子の欠失した個体を探索するため、L及びMオプシンの最大吸収波長に大きく関与するアミノ酸サイトの存在するexon 5の塩基配列解析を行った。各サンプルについてexon 5のPCRを行ったところ、マントホエザル11サンプル、グアテマラホエザル7サンプルでexon 5配列の増幅に成功し、それらにつきダイレクトシークエンシングとクローニングによる塩基配列の確認を行った。 その結果、LまたはMオプシンの欠失した個体は存在しなかったが、マントホエザルの1個体及びグアテマラホエザルの3個体でexon 5がLとMのhybridになっていることを発見した。このうち、視物質の最大吸収波長に関わる変異をマントホエザル1個体、グアテマラホエザル2個体に検出した。今後さらにサンプル規模を増やし、また、検出されたhybridオプシンがホエザルのL及びMオプシンの最大吸収波長からどの程度シフトするのかをin vitroでの視物質の再構成による吸収波長測定を行うことで検証していく必要はある。しかし塩基配列解析に用いたものがわずか18サンプルにも関わらず、4個体のhybridオプシン遺伝子を持つ個体が検出されたことから、ホエザルがこれまで考えられていたように種内で一様な3色型色覚を有しているのではなく、種内に高頻度で色覚多型が存在する可能性が高いことが考えられる。
著者
植田 信太郎 黒崎 久仁彦 太田 博樹 米田 穣
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2006

2500年前から2000年前にかけて古代中国の人類集団の遺伝的構成が大きく変化したことを示した我々の先の研究成果を発展させるため、黄河中流(中原)の3000年前ならびに3500年前の遺跡から出土した古人骨のDNA分析をおこなった。その結果、(1) 3500年前から3000年前にかけても変化が起きていたこと、(2) 3500年前と現在の人類集団の遺伝的多様性には違いがみられないこと、が明らかになった。
著者
太田 博樹 SCHMIDT Ryan SCHMIDT Ryan William
出版者
北里大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

【研究の目的】本研究のテーマ「縄文人と弥生人の混血を検証」は埴原和郎が1991年に提唱した『日本人形成の二重構造モデル』の主要部分を占める。約1万2千年前、日本列島全体には狩猟採集民・縄文人が住んでいた、一方、2千数百年前に現れた弥生人は水田稲作民で、東アジア大陸からの移住者(=渡来民)と考えられている。そして弥生~古墳時代、在地系縄文人と渡来系弥生人の混血が進行したとされる。本研究で検証すべきは渡来系弥生人の遺伝的貢献がどの程度であったかである。埴原は遺跡数から推定される人口増加を説明するために、非常に多くの渡来民が日本列島へやってきたと考えた。しかし、水田農耕の技術力を背景に渡来民の人口増加率が急速であった可能性もある。渡来系弥生人の遺伝的貢献度を定量的に分析するには、古墳時代人の人骨のDNAを調べるのが最も有効だ。そこでライアン・シュミットは古人骨DNA分析に着手した。【研究実施計画】古い人骨からのDNA抽出は技術的困難が伴うため、まず最初に1つの細胞あたりの分子量が多いミトコンドリア・ゲノム(mtDNA)の分析に取り組んだ。茨城県ひたちなか市・十五郎穴横穴群遺跡から出土した人骨7検体(8~9世紀)および群馬県渋川市・金井東裏遺跡から出土した人骨2検体(6世紀初頭)を分析対象とした。これらを物理的に粉砕した上、DNAの抽出・精製をし、mtDNA D-loop 領域119bp断片を増幅するプライマーをもちいてPCRを行った。その結果、全ての試料で増幅に成功した。続いて、この増幅断片にオーバーラップする別のプライマーセットをもちいてさらなるPCR増幅を行った。その結果、D-loop領域のほぼ全体をカバーすることに成功した。これらのうち残存DNA量が十分なものについて次世代シークエンサーで分析を行うためのライブラリーを作成した。
著者
綿貫 茂喜 太田 博樹 星 良和 近藤 隆一郎 キム ヨンキュ 西村 貴孝
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

人類の寒冷適応や病気との関係が示唆されているミトコンドリアDNA多型(ハプログループ)を遺伝的背景の一つとし、ヒトの生理的多型を構成する遺伝要因を明らかにすることを目的とした。研究は主に寒冷曝露時及び低圧低酸素時のヒトの生理反応を検討した。10℃及び16℃の寒冷曝露実験では、ハプログループDが耐寒性に優れた。また4000m相当の低圧低酸素環境に曝露した時、Dグループは他のグループより血中酸素飽和度が高かった。以上よりミトコンドリアDNA多型はヒトの生理反応に影響し、生理的多型の一部を説明する可能性を示した。
著者
太田 博樹 勝村 啓史 植田 信太郎 須田 亙 水野 文月 熊谷 真彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

【研究目的】先史時代の日本列島に住んでいた人々は2~3 千年ほど前に劇的な“食”の変化を経験した。すなわち狩猟採集が中心であった縄文時代から大規模農耕が始まった弥生時代にかけての食性の変化である。この変化が先史日本列島に与えた生物学的インパクトは大きかったと予想される。本研究では先史時代遺跡で見つかる糞石や歯石のメタゲノム解析をおこない、“食”の対象となっていた動植物の特定を実現する。【実施した計画の概要】長崎大学医歯(薬)学総合研究科・弦本敏行教授(連携研究者)が管理する弥生時代遺跡出土人骨から採取を行った歯石から、琉球大学・澤藤りかい(研究協力者)がDNA抽出を行った。また、福井県立若狭歴史博物館・主任(文化財調査員)鯵本眞友美(研究協力者)、若狭三方縄文博物館・小島秀彰主査、および茨城県・ひたちなか市埋蔵文化センター・稲田健一主査(研究協力者)が管理する縄文時代遺跡出土の糞石から、北里大学・若林賢(研究協力者)がDNA抽出を行った。それぞれの遺跡から10検体、1検体、1検体の合計12検体からDNA抽出をおこない、うち9試料から検出限界以上のDNA濃度が検出された。葉緑体DNAプライマーをもちいて、2検体3試料でPCR増幅が確認でき、これらについてPCRアンプリコンシークエンスをおこない植物性食物の解析をおこなった。吹上貝塚遺跡出土糞石からはヒトが食する植物のDNAがヒットした。一方、鳥浜貝塚遺跡出土糞石からは環境DNAと思われるDNAがヒットした。また、前者からはヒトのDNAだけでなくイヌのDNAも検出された。このことから、この糞石がヒトのものかイヌのものか、区別を付ける必要が生じ、現在、さらなる分析をし、検討中である。
著者
石田 肇 弦本 敏行 分部 哲秋 増田 隆一 米田 穣 太田 博樹 深瀬 均
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

オホーツク文化人集団は 55 歳以上で亡くなる個体がかなり多い。オホーツク文化集団は、船上の活動などが腰椎の関節症性変化発症に関与した。久米島近世集団は、男女とも腰椎の関節症の頻度が高い。四肢では、オホーツク文化人骨では肘関節、膝関節で高い傾向を示した。沖縄縄文時代人は、目と目の間が平たいという特徴がある。成人男性の平均身長が約 153cm と、南低北高の傾向がみえる。北東アジア人の大腿骨骨体上部の形状が扁平形状であることを示した。四肢骨 Fst は頭蓋や歯の値より 2-3 倍大きい。SNP の解析により、アイヌ人と琉球人は一つのクラスターをなし、アイヌ・琉球同系説を支持した。