著者
小高 信彦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.349-360, 2013-11-30 (Released:2017-04-28)
参考文献数
71
被引用文献数
2

森林に生息する多くの脊椎動物が立枯れ木や腐朽木に形成される樹洞に依存して生活している。樹洞の生産とその利用を巡る樹洞営巣種間の生物間相互作用を研究する理論的枠組みとして、食物網のアナロジーであるnest web(以下、樹洞営巣網)という見方が提案され、キツツキ類の樹洞提供者としての役割について着目した研究が進展してきた。樹洞営巣網は、食物網にみられるような群集構造の特徴を備えており、構成メンバーにとって必要な資源である樹洞が構成メンバーの一部によって生産され、樹洞の消費者には階層がある(一次樹洞営巣種、二次樹洞営巣種;すなわち樹洞営巣ギルド)。樹洞営巣種の中でも、自ら繁殖のために樹洞を掘ることが出来る一次樹洞営巣種であるキツツキ類が堀った樹洞は、自ら巣穴を掘ることができない二次樹洞営巣種にとって重要な資源として利用される。樹洞の現存量によって個体数を制限される二次樹洞営巣種に対して樹洞を提供する能力を持つことから、キツツキ類は森林生態系の鍵種と考えられている。木材腐朽菌類は、キツツキ類とならんで樹洞を生産する生態系エンジニアとして重要な役割を担っている。腐朽菌類そのものが重要な樹洞生産者であり、また、腐朽菌類による木材の軟化プロセスは、キツツキ類による樹洞生産を促進する。腐朽菌類は、その種によって樹木の腐朽部位(幹や根部など)や、腐朽プロセス(辺材腐朽か心材腐朽など)の特性が異なる。このような腐朽菌類の特性の違いは、キツツキ類の繁殖成功や営巣場所選択にも影響を及ぼす。しかしながら、樹洞の形成や利用を巡る生物間相互作用の研究では、腐朽菌類の種まで同定してその役割が樹洞を利用する脊椎動物の個体や群集に及ぼす影響を明らかにした研究は少ない。本稿では、木材腐朽菌類の樹洞形成における役割に着目して、キツツキ類と樹木、腐朽菌類の三者関係についての一連の研究や、木材腐朽菌類を樹洞営巣網に組み込み、樹洞を利用する脊椎動物群集との関係について議論した初めての研究事例を紹介する。木材腐朽菌類を樹洞営巣網に組み込むことで、樹洞生産の経路が明らかとなり、樹洞を利用する鳥類の分類群と樹洞形成に関わる木材腐朽菌類の対応関係を明らかにすることが可能である。今後、樹洞形成に関わる多様な分類群の生物を視野に入れた樹洞営巣網の構築が期待される。
著者
小高 信彦
出版者
裳華房
雑誌
遺伝 (ISSN:03870022)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.40-44,3, 2005-03
被引用文献数
1
著者
小高 信彦 澤志 泰正
出版者
公益財団法人 山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.134-143, 2004
被引用文献数
8

1998年6月から2003年6月までの5年間に,ヤンバルクイナ<i>Gallirallus okinawae</i>の死亡個体(22件)と緊急保護個体(1件)の情報が集められた。死亡個体の情報22件のうち16件(72.7%)は自動車による交通事故が直接の死亡要因であると推察され,交通事故はヤンバルクイナの重大な死亡要因であることが明らかとなった。交通事故による死亡個体(16件)と緊急保護個体(1件)を合わせた計17件について,その発生場所と時期の特徴について分析を行った。発生場所については,国頭村内を通る県道70号線と県道2号線にヤンバルクイナの交通事故が頻繁に発生する地域がそれぞれ1ヵ所ずつ認められた。両地域は共に,ヤンバルクイナの生息地内を通る路線の中でも,自動車の走行速度が高くなると推察される場所であった。無飛翔性のヤンバルクイナにとって,生息地内を通過する車両の速度が高くなることは,直接的に交通事故件数の増加につながる。交通事故の発生時期については顕著な季節変化が見られ,5月と6月に11件(64.7%)の交通事故が集中して発生していた。この時期はヤンバルクイナの繁殖期と重なっている。
著者
小高 信彦
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

絶滅危惧種ノグチゲラは、スダジイの優占する沖縄島北部、やんばる地域の森林に固有のキツツキである。近年、ノグチゲラがリュウキュウマツ枯死木に営巣し、繁殖に失敗する事例が観察されるようになった。リュウキュウマツ枯死木は、主に人工植栽とマツ材線虫病の侵入によって人為的に創出されたものである。リュウキュウマツ枯死木に営巣したノグチゲラの巣立ち成功率は、やんばる地域の照葉樹林の優占樹種であるスダジイの場合よりも低いにもかかわらず、ノグチゲラは営巣木としてリュウキュウマツ枯死木に対する選好性を示した。これらの結果は、マツ材線虫病によって発生したマツ枯死木はノグチゲラに対してエコロジカルトラップとして作用するという仮説を支持する。
著者
八木橋 勉 渡久山 尚子 石原 鈴也 宮本 麻子 関 伸一 齋藤 和彦 中谷 友樹 小高 信彦 久高 将洋 久高 奈津子 大城 勝吉 中田 勝士 高嶋 敦史 東 竜一郎 城間 篤
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>ヤンバルクイナは沖縄島北部のやんばる地域のみに分布しており、環境省のレッドリストで絶滅危惧IA類(CR)に分類されている。森林面積や外来種とヤンバルクイナの繁殖分布の関係を明らかにするため、沖縄島北部でプレイバック法による調査を2007年から2016年の繁殖期に3年ごとに4回実施し、確認個体数を応答変数とするGAMMによる統計解析を行った。その結果、ヤンバルクイナは、マングースが少ない場所ほど多い、広葉樹林面積が大きい場所ほど多い、畑地草地面積が大きい場所ほど多い、2007年と比較して近年確認個体数が増加している、という統計的に有意な関係がみられた。また、確認地点数も増加していた。これらの結果から、地上性のヤンバルクイナは、外来種であるマングースの影響を強く受けているが、マングース防除事業の効果により、近年分布が回復していると考えられた。ヤンバルクイナは広葉樹林面積が大きい場所で多いことから、近年大面積伐採が減少していることも分布回復に有利に働いていると考えられた。同時に畑地草地面積が大きい場所で多いことから、林内だけでなく、林冠ギャップ、林縁や草地なども生息環境として重要である可能性が考えられた。</p>
著者
阿部 真 阿部 篤志 齋藤 和彦 高嶋 敦史 高橋 與明 宮本 麻子 小高 信彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>大型の着生ラン、オキナワセッコク(<i>Dendrobium okinawense</i> Hatusima et Ida)は、沖縄島北部やんばる地域を代表する固有種のひとつである。戦後の森林伐採や乱獲のために激減したとされ、環境省と沖縄県が絶滅危惧種(それぞれIB類、IA類)に指定する。本研究は、本種野生株の分布情報から、その適切な保護・回復のために有効な森林管理を検討する。これまでに本種が成熟林に依存すること、着生木(ホスト)樹種の選好性があること、また、2018年までに整備された国立公園の保護区域が現生する株の多くをカバーすることを明らかにした。本報告では、探査を重ね400近くになった着生木の情報から、本種の生育に求められる環境条件を、林齢や地形について絞り込む。伐採や盗掘のリスクを抑えつつ適切な林分や配置を誘導することにより、本種の分布について効果的な回復が期待できる。研究は(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(課題番号4-1503及び4-1804)の支援を受けた。また、環境省の調査資料(やんばる地域希少植物生育状況調査、平27~28)の提供を受けた。</p>
著者
高嶋 敦史 中西 晃 森下 美菜 阿部 真 小高 信彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>沖縄島やんばる地域の亜熱帯林において、樹洞はケナガネズミやヤンバルテナガコガネなどの希少野生生物も利用する重要な生態学的資源である。そこで本研究では、やんばる地域の非皆伐成熟林2箇所に試験地(面積0.36haと0.25ha)を設け、胸高直径(DBH)15cm以上の幹を対象にDBHと樹洞の発生状況を調査した。なお、樹洞は立木の幹、枝、根に発生している奥行き10cm以上の穴と定義した。調査の結果、試験地内の立木の第一優占種はイタジイで、それに次いでイスノキやイジュが多かった。イタジイの樹洞を有する率(以下、樹洞発生率)は全体では22%であったが、DBH40cm以上では52%に達するなど、DBHが太くなるほど樹洞発生率が高くなる傾向が確認された。イスノキでも同様にDBHが太くなるほど樹洞発生率が高くなる傾向が確認されたが、樹洞発生率は全体で52%、DBH30cm以上では77%、同40cm以上では90%となっており、イタジイと比べてより細い幹でも高い樹洞発生率を呈していた。その一方、イジュにはまったく樹洞が発生していなかった。このように、樹洞発生率はDBHが太くなるほど高くなる傾向があるものの、樹種間による違いが大きいことが明らかになった。</p>
著者
高橋 與明 高嶋 敦史 小高 信彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>沖縄島北部のやんばる地域に分布している亜熱帯林は、世界的に見ても希少な植物相を育む森林であり、多くの固有種や希少種が生息している。沖縄県は台風の常襲地域であるため、森林は台風の影響を受け、高い頻度で撹乱が発生する(小多ら、2015)。例えば2012年には、最大瞬間風速が50m/sを超えるような大型の台風によってやんばる地域の森林が広範囲に渡り大きく攪乱されたが、そのような攪乱が森林生態系に与える影響は大きいと考えられる。広大な森林域の生態系に対する攪乱の影響を正しく評価するためには、局所的な生態系調査は必要であるとともに、林冠木が暴風によって被害を受けた地理的な位置を広域で把握することも必要となる。本研究では、後者について大型の台風による攪乱前後の二時期の航空機リモートセンシングデータからやんばる地域の森林変化を検出する手法を考案し、変化量をマッピングした。使用したリモートセンシングデータは航空機LiDARデータ(台風攪乱前)と空中写真測量データ(台風攪乱後)である。マッピングの結果、負の変化量が大きな場所は林冠木の樹冠が損傷している被害地(二次元的な空間分布)を的確に表現していることが示された。</p>
著者
安田 雅俊 関 伸一 亘 悠哉 齋藤 和彦 山田 文雄 小高 信彦
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.227-234, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
37
被引用文献数
2

現在沖縄島北部に局所的に分布する絶滅危惧種オキナワトゲネズミTokudaia muenninki(齧歯目ネズミ科)を対象として,過去の生息記録等を収集し,分布の変遷を検討した.本種は,有史以前には沖縄島の全域と伊江島に分布した可能性がある.1939年の発見時には,少なくとも現在の名護市北部から国頭村にいたる沖縄島北部に広く分布した.外来の食肉類の糞中にオキナワトゲネズミの体組織(刺毛等)が見つかる割合は,1970年代後半には75–80%であったが,1990年代後半までに大きく低下し,2016年1月の本調査では0%であった.トゲネズミの生息地面積は,有史以前から現在までに99.6%,種の発見時点から現在までに98.4%縮小したと見積もられた.
著者
阿部 真 阿部 篤志 齋藤 和彦 高嶋 敦史 安部 哲人 高橋 與明 宮本 麻子 小高 信彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.130, 2019

<p>沖縄島北部やんばるに固有の着生ラン、オキナワセッコク(<i>Dendrobium okinawense</i> Hatusima et Ida)は、地域を代表する植物種のひとつだが、森林伐採や乱獲により激減したとされる。発表者らはこれまで、着生木(ホスト)について樹種の選好性を明らかにし、また、林分情報の整理から分布における成熟林の重要性を指摘した。本研究は、2015(平27)年から2018年にかけて確認した野生株の情報をさらに集積し、林分履歴や地形との関係を解析した。これによって同種の分布をより正確に把握すると共に、立地条件を明らかにし、希少種の適切な保護・回復のために有効な森林管理を検討する。研究は(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(4-1503及び4-1804)の支援を受けた。また、環境省の調査資料(やんばる地域希少植物生育状況調査、平27〜28)の提供を受けた。</p>