著者
立部 知保里 宮本 匠
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1-17, 2020 (Released:2020-08-20)
参考文献数
22

本稿は,2013年フィリピン台風ヨランダの被災地であるセブ州北部のメデリン町とバンタヤン島を事例とし,住民組織(People’s Organization: PO)が被災後の地域社会の再生に果たした役割と意義を考察するものである。まず,同地域では災害そのものによる被害はある程度回復しているものの貧困や開発という根本的な問題は被災前から変わっていないことや,一方で,災害後のNGOのサポートにより住民の当事者団体であるPOが多数立ち上がったことを示す。次に,POは生業の創出と生活向上,開発への抵抗を主要関心事としており,メンバーは活動への参加を通して生活の刺激・楽しみを得ていることを論じる。この事例から,従来の支援や助け合いの主体であった政府,NGO,家族関係は,それぞれ政治的な不公平,持続可能性,問題解決能力という点で限界があることを示し,POの意義と役割を,①支援の受け皿となる新しい主体となる,②被災住民の自立を促す,③被災住民による問題解決の方策を多様化させる,④被災住民の生活の活力となることであったと論じる。最後に,災害復興とそれを経た「次の社会」においてPOのような当事者組織が持つ可能性を交換様式の議論から明らかにする。
著者
宮本 匠 渥美 公秀
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.17-31, 2009 (Released:2009-08-25)
参考文献数
43
被引用文献数
9 3

災害復興には,「目標」の共有が大切といわれる(室崎,2007)。しかし,実際に地域において,それらはどのように生まれ,存在し,共有されていくのだろうか。災害復興における「目標」は,人々がどのように災害を経験するのかということと深く結びついている。本研究は,2004年10月23日に発生した新潟県中越地震における川口町木沢集落の復興過程についての長期的なフィールドワークをもとになされたものである。中越地震の被災地の多くは,山間に散らばる小さな中山間地集落である。地震は,折からの過疎化・高齢化をさらに加速させた。これら困難な課題が山積した被災地において,人々はどのようにして肯定的な未来に向かって歩みを進めることが出来るのか。本論では,被災者と外部支援者が新しい現実についてのナラティブを恊働構築することで創造的な復興をめざす,災害復興へのナラティブ・アプローチを提案した。本研究は,グループ・ダイナミックスの観点から,災害復興に対して外部支援者の立場を利用して新しいナラティブを生成するというアクションリサーチの試みである。
著者
頼政 良太 宮本 匠
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2011, (Released:2021-11-26)
参考文献数
95
被引用文献数
1

災害ボランティアセンターは,「公的」な機関が設立するものと,「民間」が設立するものがある。災害時の組織は管理・統制モデルと即興・自律モデルに分けられるが,阪神・淡路大震災以降,管理・統制モデルを志向する「公的」な災害ボランティアセンターへの一元化が進み,「民間」との分化や対立関係も見られるようになった。さらに,管理・統制によって生まれる「秩序化のドライブ」により,ボランティアの多様性が失われてきた。本研究では,阪神・淡路大震災以降に設立された災害ボランティアセンターの詳細な事例研究を通し,ボランティアによる助け合いというポジティブな面と,ボランティアは見ず知らずの他者であり不気味な存在であるというネガティブな面の両義性に対応するために管理・統制が進んでいった点を明らかにした。さらに,「公」と「民」の分化や対立の背景にその両義性があることを指摘した。最後に,「公的」な災害ボランティアセンターだけでなく,多様な主体による「民間」災害ボランティアセンターが存在することで,この分化や対立を乗り越える可能性を示した。
著者
李 旉昕 宮本 匠 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1608, (Released:2018-09-19)
参考文献数
27
被引用文献数
2

災害復興に関する課題として,復興に対する支援が十分に提供されるために,かえって復興の当事者たるべき被災地住民から「主体性」を奪ってしまう課題を指摘できる。支援者と被災住民の間に〈支援強化と主体性喪失の悪循環〉が生じてしまうという課題である。ここで「主体性」とは,当事者が抱える問題や悩みを外部者が同定するのではなく,当事者が自ら問い,言語化し,解決しようとする態度のことである。本研究では,東日本大震災の被災地である茨城県大洗町において,「クロスロード:大洗編」という名称の防災学習ツールを被災地住民が自ら制作することを筆者らが支援することを中心としたアクションリサーチを通して,この悪循環を解消することを試み,浦河べてるの家が推進する「当事者研究」の視点から考察した。第1に,「クロスロード」を作成する作業を通じて,一方に,〈問題〉について「主体的に」考える被災地住民が生まれ,他方に,当事者とは切り離された客体的な対象としての〈問題〉が対象化されている。第2に,「クロスロード」として表現された〈問題〉は,多くの人が共有しうる,より公共的な〈問題〉として再定位される。最後に,一連のプロセスに外部の支援者である筆者らが果たした役割と課題について考察した。
著者
宮本 匠 渥美 公秀
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.17-31, 2009
被引用文献数
3

災害復興には,「目標」の共有が大切といわれる(室崎,2007)。しかし,実際に地域において,それらはどのように生まれ,存在し,共有されていくのだろうか。災害復興における「目標」は,人々がどのように災害を経験するのかということと深く結びついている。本研究は,2004年10月23日に発生した新潟県中越地震における川口町木沢集落の復興過程についての長期的なフィールドワークをもとになされたものである。中越地震の被災地の多くは,山間に散らばる小さな中山間地集落である。地震は,折からの過疎化・高齢化をさらに加速させた。これら困難な課題が山積した被災地において,人々はどのようにして肯定的な未来に向かって歩みを進めることが出来るのか。本論では,被災者と外部支援者が新しい現実についてのナラティブを恊働構築することで創造的な復興をめざす,災害復興へのナラティブ・アプローチを提案した。本研究は,グループ・ダイナミックスの観点から,災害復興に対して外部支援者の立場を利用して新しいナラティブを生成するというアクションリサーチの試みである。<br>
著者
立部 知保里 宮本 匠
出版者
日本災害復興学会
雑誌
日本災害復興学会論文集 (ISSN:24354147)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.46-57, 2021 (Released:2021-11-05)
参考文献数
26

本稿は、平成30年7月豪雨で被災した広島県坂町の住民福祉協議会(住民協)を対象に、既存の住民自治組織が災害時に果たした役割を明らかにし、その強みと限界、およびそれをどのように補完していくべきかを考察したものである。発災後、住民協は避難誘導や安否確認、避難生活で助け合いの主体となっただけでなく、復旧・復興の過程で外部支援と地域をつなぐ役割を担った。ただし、年代や居住年数などの地域性によって、各住民協の災害時の対応にも違いがみられた。住民協には自立性の強さや平時から機能する体制があるといった強みがある一方で、住民協に加入していない世帯は排除される、住民協間の横のつながりが薄いなどの限界がある。それらの限界を補完するためには、地域内外のボランティアや内発的な新たな住民組織とのかかわりが重要である。
著者
宮本 匠 渥美 公秀 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.35-44, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
10
被引用文献数
2 1

研究者と研究対象の間に一線を画して,対象を客観的に記述しようとする自然科学に対して,人間科学は研究者と当事者による恊働的実践として進められるが故に,アクションリサーチとしての性格を宿している。本稿は,人間科学のアクションリサーチにおいて研究者がとる独特な視点とその役割を,新潟県中越地震の被災地で継続しているアクションリサーチの事例から理論的に明らかにしたものである。その際,大澤(2005)による,柳田國男の遠野物語拾遺の説話についての解釈を援用し,われわれの経験の社会的構成が「言語の水準」と「身体の水準」による複層的な構成をとっていること,それが当事者の「個人の内的な世界」と当事者の内属する「共同体の社会構造」の両者に存在していることを述べたうえで,当事者の「身体の水準」に留まっている他者性を回復させることでベターメントを図ることが人間科学のアクションリサーチにおける研究者の役割であり,その二重の複層的な構成をみる「巫女の視点」が人間科学のアクションリサーチにおいて研究者がとる視点であることを論じた。最後に,アクションリサーチにおける研究者は,その実践過程を言語によって回顧的に報告し,次の実践やさらなる共同体のベターメントへつなげていくところまでを射程としていることを指摘した。
著者
宮本 匠 渥美 公秀 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.35-44, 2012
被引用文献数
1

研究者と研究対象の間に一線を画して,対象を客観的に記述しようとする自然科学に対して,人間科学は研究者と当事者による恊働的実践として進められるが故に,アクションリサーチとしての性格を宿している。本稿は,人間科学のアクションリサーチにおいて研究者がとる独特な視点とその役割を,新潟県中越地震の被災地で継続しているアクションリサーチの事例から理論的に明らかにしたものである。その際,大澤(2005)による,柳田國男の遠野物語拾遺の説話についての解釈を援用し,われわれの経験の社会的構成が「言語の水準」と「身体の水準」による複層的な構成をとっていること,それが当事者の「個人の内的な世界」と当事者の内属する「共同体の社会構造」の両者に存在していることを述べたうえで,当事者の「身体の水準」に留まっている他者性を回復させることでベターメントを図ることが人間科学のアクションリサーチにおける研究者の役割であり,その二重の複層的な構成をみる「巫女の視点」が人間科学のアクションリサーチにおいて研究者がとる視点であることを論じた。最後に,アクションリサーチにおける研究者は,その実践過程を言語によって回顧的に報告し,次の実践やさらなる共同体のベターメントへつなげていくところまでを射程としていることを指摘した。<br>
著者
李 旉昕 宮本 匠 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.81-94, 2019 (Released:2019-03-26)
参考文献数
27
被引用文献数
1 2

災害復興に関する課題として,復興に対する支援が十分に提供されるために,かえって復興の当事者たるべき被災地住民から「主体性」を奪ってしまう課題を指摘できる。支援者と被災住民の間に〈支援強化と主体性喪失の悪循環〉が生じてしまうという課題である。ここで「主体性」とは,当事者が抱える問題や悩みを外部者が同定するのではなく,当事者が自ら問い,言語化し,解決しようとする態度のことである。本研究では,東日本大震災の被災地である茨城県大洗町において,「クロスロード:大洗編」という名称の防災学習ツールを被災地住民が自ら制作することを筆者らが支援することを中心としたアクションリサーチを通して,この悪循環を解消することを試み,浦河べてるの家が推進する「当事者研究」の視点から考察した。第1に,「クロスロード」を作成する作業を通じて,一方に,〈問題〉について「主体的に」考える被災地住民が生まれ,他方に,当事者とは切り離された客体的な対象としての〈問題〉が対象化されている。第2に,「クロスロード」として表現された〈問題〉は,多くの人が共有しうる,より公共的な〈問題〉として再定位される。最後に,一連のプロセスに外部の支援者である筆者らが果たした役割と課題について考察した。
著者
宮本 匠
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.60-69, 2016 (Released:2016-10-06)
参考文献数
13

本稿は,アクションリサーチの前提中の前提である,価値志向的であること,よりよい状態を目指そうという態度が,ときにアクションリサーチの現場を閉塞した状況にしてしまうことを指摘したうえで,それがいかに回避され得るのかを考察したものである。アクションリサーチにおけるベターメントの達成は,当事者の内的な世界における「身体の水準」が,共同体における他者との出会いによって,「言語の水準」へと顕在化することとして捉えることが出来る。新潟県中越地震の復興支援の事例では,ベターメントにつながるような「身体の水準」の顕在化に寄与するかかわりは,何らかのよりよい状態に向けて現在を変革する「めざす」かかわりではなく,「変わらなくてよい」ことを前提とした「すごす」かかわりであった。よりよい状態を「めざす」アクションリサーチにおける困難は,近代的な自我がいきつく〈時間のニヒリズム〉からとらえることが出来る。そのニヒリズムを基礎づける「インストルメンタル」な時間態度がどのように生まれたのかをふりかえると,それを保持したまま,なお現在のうちに生の充足を感受する「コンサマトリー」な時間態度が成立可能であることが理解できる。この「コンサマトリー」な時間態度の獲得が,現代社会のアクションリサーチの困難を回避する方策である。
著者
草郷 孝好 宮本 匠
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.33-60, 2012-03-31

住民主体の地域再生を促すためのしくみとして、地域生活プロセス評価手法を構想した。これは、地域活性化を目指す活動が開始された場合、その活動によって、地域がどう変化していくのかを住民自身で把握することができ、その結果、当該活動の良し悪しを住民自身が判断し、場合によっては、活動そのものを軌道修正していくためのしくみである。著者らは、2004年の中越地震で被災した地区の1 つである新潟県長岡市川口木沢地区の協力を得て、2010年から本手法の試行を開始した。そこで、本論では、住民主体の地域再生の必要性とは何かを論じ、地域生活プロセス評価手法の概要と新潟県長岡市川口木沢地区における同手法の導入について、2010年に実施したプロセス評価のベースライン調査を基にして、概説する。 A community life process evaluation method was designed as a mechanism to promote local revitalization. This could help local residents to understand how their own community changes once an activity that aims at the local revitalization is introduced. Moreover, the performance of the activity could be evaluated and, if necessarily, the activity could be revised based on the evaluation. Authors have started a trial of this method in Kizawa, Kawaguchi, Nagaoka, Niigata Prefecture, hard-hit by the Chuetsu earthquake in 2004. This paper aims at explaining the needs of the people-led community development, providing an outline of the community life process evaluation method, and its baseline investigation survey conducted in 2010 in the Kizawa area.
著者
宮本 匠
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度当初は、前年度より継続していたアメリカ合衆国デラウェア大学災害研究所での研究を行い、筆者が実施した新潟県中越地震や阪神淡路大震災の被災者への復興曲線を用いたインタビュー結果について、同研究所の研究者らとその分析について議論を行った。議論の中では、被災者の心理的な回復の様子をその描かれた曲線の形状に即して吟味すると、1、短期間で回復していくもの、2、長期間で回復していくもの、3、一度回復したのちに再び大きく心理的に落ち込んでしまう「2番底」を経験するもの、4、曲線の一部分あるいは全体が複数の線によって重ね描きされ心理的な不安定さを表現するもの、5、曲線が底部で停滞したまま心理的な回復がなされていないことを強調するもの、等の特徴によって類型化できることが分かった。このように類型化できる一方で、ひとつひとつの曲線、つまりひとりひとりの復興が、決して普遍的な復興モデルに回収されることのない単一性(singularity)をもっていることを強調しておくことが、復興支援にとって重要であることも強調した。また、被災者の心理的な回復場面、曲線でいえば、被災者の心理的な変化を表す曲線が下降から上昇へと転じる屈折部分で起こっている現象を理論的に明らかにするために、筆者の中越地震被災地でのアクションリサーチを記録したエスノグラフィーを柳田國男の遠野物語拾遺における説話についての社会学的考察を援用して考察し、論文にまとめた。これらの一連の被災者の心理的な回復がどのようなに現象し、どのように支えることが可能なのかについての論考は、甚大な被害を及ぼした東日本大震災からの復興や今後予期されている首都直下地震や東南海地震のような巨大災害からの復興への備えとして実践的な意義をもつと考えられる。