著者
土井 剛彦 牧浦 大祐 小松 稔 小嶋 麻有子 山口 良太 小野 くみ子 小野 玲 平田 総一郎
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.30, 2009

【目的】転倒に対する恐怖は、高齢者において身体活動量低下を引き起こす要因の一つであり、身体機能や健康関連QOLなどの心理面と強く関連する。一方、身体活動量は、高齢者の全身状態・身体機能を反映し、個別特性を考慮する上で重要とされているが、ある程度の身体活動量を有していても、一定の割合で転倒に対する恐怖を持っている人は存在する。つまり、身体活動量が高い者と低い者では転倒恐怖感に対する要因が異なると考えられるが、その関係は明らかとなっていない。本研究の目的は、転倒恐怖の有無に、健康関連QOLがどのように関連するかを、身体活動量を考慮した上で検討することである。【方法】対象者は地域在住女性高齢者312名とした (年齢 : 79±7.2歳)。転倒恐怖感は質問紙にて転倒恐怖感ありと返答したものを転倒恐怖感あり群 (Fear of falling : FF) 、転倒恐怖感なしと返答したものを転倒恐怖感なし群 (No fear of falling : No-FF) とした。身体活動量は生活習慣記録機 (Lifecorder EX, Suzuken) を一週間装着して一日平均歩数 (Physical activity : PA) を算出し、PAが対象者全体の中央値より高い者を高活動群、低い者を低活動群とした。その他の測定変数はTime up & Go (TUG)、年齢、BMIとした。健康関連QOLについては、SF-36を用いて測定し、国民標準値を50点とするスコアリングを行い下位尺度別 (身体機能 : PF, 身体的日常役割機能RP, 身体の痛み : BP, 社会的生活機能 : SF, 全体的健康感 : GH, 活力 : VT, 精神的日常役割機能 : RE, 心の健康 : MH) に算出した。統計解析は、群間比較をunpaired t testにて行い、転倒恐怖の有無を目的変数、QOLの下位尺度と調整因子であるTUG、年齢、BMIを独立変数とし強制投入した名義ロジスティク解析を活動群別に行い、統計学的有意水準を5%未満とした。【結果】FF群は124名(60% ;78.4±7.5歳)、No-FF群は188名(40%;79.3±7.0歳)であり、年齢、身長、体重、TUGの対象特性に有意な群間差はみられなかった。身体活動量は対象者全体では5750±3467歩 (中央値:4990歩)であり、低活動群の方が高活動群に比べ、転倒恐怖有する者の割合が高かった (高活動群;54%, 低活動群;66%)。FF群はNo-FF群に比べPA、SF-36の下位尺度全項目ともに有意に低値をとった。転倒恐怖の有無に対して有意に関連性の認められた項目は、高活動群ではPF (オッズ比;14.6)、GH (オッズ比;74.7) が、低活動群ではBP (オッズ比;9.8) であった。以上のことから転倒恐怖に関連する健康関連QOLの要素が身体活動量レベルにより異なることが示唆された。【考察】転倒恐怖によりPA、健康関連QOLがともに低下し、高齢者の健康を阻害する要因の一つであることが示唆された。また、高活動の者においては身体機能や健康状態が、低活動の者においては身体の痛みが、転倒恐怖感と強く関連した。つまり、健康状態を低下させる転倒恐怖感を消失させるためには、個々の活動レベルを考慮した上で異なったアプローチを行う必要性があると考えられる。
著者
小川 真人 北垣 和史 小野 くみ子
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.349-355, 2010-08-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
21

【目的】定期的運動習慣の違いが,安静時および間欠的無酸素性運動後の回復時における心臓自律神経系活動に与える影響を明らかにすることである。【方法】対象者は定期的に運動を行っている健康大学生24名(年齢20.6 ± 1.2歳),および定期的な運動習慣を持たない健康大学生26名(年齢21.6 ± 0.9歳)の計50名であった。測定項目は,心拍数,心拍変動,運動反復回数,運動反復時間であった。運動様式は,高さ15 cm,23段の階段の全力駆け上がり,その後20秒休息を1クールとし,これを80% HR reserveに至るまで繰り返し実施した。【結果】安静時では,運動習慣を有さない群と比較して運動習慣を有する群は心拍数は有意に低く,心臓副交感神経系活動は有意に高値を示した(各々p < 0.05)。間欠的無酸素性運動後の回復期30分において,心拍数は,運動習慣を有する者の回復が有意に早く(p < 0.05),心臓副交感神経系の活動は運動直後と回復期30分を比較したとき,運動経験を有する群で有意に上昇(p < 0.01)した。しかし,心臓交感神経系活動の経時的変化に有意差はみられなかった。【結論】運動習慣を有する者の安静時心拍数の低下,運動後の心拍数の早期回復には,心臓副交感神経系の活動が大きく関与していることが示唆された。
著者
伊藤 浩充 瀧口 耕平 小野 くみ子 松本 慶吾
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cd0833, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 足関節の捻挫は、スポーツ外傷の中で最も多い外傷の一つである。サッカー選手にとって足部・足関節の外傷は、スポーツ選手としての選手生命に大きく影響する。しかしながら、本外傷はスポーツ選手や指導者には比較的軽視される傾向にあり、また、本外傷の発生因子については未だ十分解明されていないため、予防に関しても十分な対策がとれていないのが現状である。そこで、本研究では、高校サッカー選手の足関節捻挫の発生要因を明らかにすることを目的とした。【対象と方法】 対象は、高校男子サッカー部員71名である。対象者の選択基準として評価時に四肢関節に痛みなどの急性症状および著しい筋力低下の無い者とした。方法は、平成23年3月12日から3月20日までの間にフィジカルチェックを実施した。調査項目は、問診にてボールをける時の利き足と外傷の既往歴を聴取した。次に、関節可動域と筋硬度を計測した。関節可動域は、股関節の外転・内旋・外旋・屈曲・伸展の可動域、膝関節屈曲・伸展の可動域、足関節背屈可動域、体幹の前屈・後屈・側屈の可動域を傾斜計(MITSUTOMO製)および紐付き分度器とメジャーを用いて測定した。筋硬度は、大腿筋膜張筋・中殿筋・長内転筋・下腿三頭筋を筋弾性計PEK-1(株式会社井元製作所)を用いて測定した。また、足部アーチをFeiss線により判定し、後足部の内外反肢位の判別も記録した。フィジカルチェック後3か月間の外傷発生調査を週2回の頻度で実施した。そして、足関節の内反捻挫、外反捻挫、底屈捻挫を受傷した者(A群)としなかった者(B群)とに分類し、フィジカルチェック時のデータを比較分析した。統計学的分析には、JMP ver 6.0を用い、マンホイットニーU検定、分散分析、カイ二乗検定を行った。有意水準は危険率5%未満として判定した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には、ヘルシンキ宣言に基づき、本研究の実施に際して、甲南女子大学研究倫理委員会の審査ならびに承認を得た後、対象者およびサッカー部所属の監督とコーチには、事前にフィジカルチェックの目的と内容、実施計画を文書及び口頭により説明し、同意を得た。【結果】 足関節の捻挫を受傷したA群は14名で、内反捻挫7名、外反捻挫4名、底屈捻挫3名、B群は57名であった。A群においてフィジカルチェック時の測定項目を受傷下肢と非受傷下肢との間で比較すると、股関節外旋可動域は受傷下肢の方が有意に小さく(A群40度:B群45度、p<0.046)、股関節内旋可動域は受傷下肢の方が有意に大きかった(A群40度:B群36度、p<0.038)。また、股関節内旋と外旋の可動域の差をみると、非受傷下肢よりも受傷下肢の方が負の値を示して有意に小さく(A群-1度:B群9度、p<0.016)、内旋可動性優位であった。さらに、股関節外旋可動域の左右差についてA群とB群を比較すると、A群のうち利き足を受傷した者は、股関節外旋可動域の左右差がB群に比べて有意に大きかった(A群14度:B群0度、p<0.0345)。つまり、受傷下肢が利き足の場合は外旋可動域が相対的に小さかった。【考察】 過去の我々の調査では、サッカーによる足関節の捻挫は、走行時の方向転換、ジャンプの着地、スライディング、相手とのボールの同時キック時などでよく発生していた。足関節の捻挫は、足部が地面に接地する時の身体重心による外力や相手から受ける外部外力が距骨下関節軸より離れているほど発生しやすい。つまり、股関節にかかる荷重ベクトルが距骨下関節軸から遠いか近いかによって発生率が左右されると考えられる。本研究では、股関節内旋可動性優位になりやすい者ほど足関節の捻挫を生じやすいことが明らかとなった。これは、股関節内旋位になった場合には身体重心が距骨下関節軸より外側偏倚傾向を示すことから内反捻挫を誘発しやすくなることが推測される。また、外旋可動域が相対的に狭いことから下腿外旋で代償し外反捻挫を受傷することが推測される。したがって、股関節の内外旋方向の可動性の左右差が大きすぎたり、股関節の内外旋差の絶対値が大きいと足関節の捻挫が生じやすくなると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 足関節捻挫の発生要因は様々であるが、足関節だけでなく股関節にも発生要因が存在することが明らかとなった。股関節の内外旋可動域の左右差と股関節内外旋差を少なくするようにコンディショニングをし、動作練習をすることにより運動時にかかる足関節への偏った負荷が軽減でき、足関節捻挫発症の予防につながると考えられる。そして、スポーツによる足関節捻挫の発生予防プログラムの効果検証にも役立てることができる。
著者
大橋 啓太 小野 くみ子 川手 勇也 渡瀬 涼 石川 朗
出版者
一般社団法人日本体力医学会
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.303-309, 2018-08-01 (Released:2018-07-18)
参考文献数
16

The aim of this study was to investigate the effects of the difference in the ways to carry a baby using a baby carrier on the respiratory response during upslope walking. Fourteen healthy adults participated in this study. We set the individualized walking speed at 30% of the maximum oxygen uptake at 0% grade. The test began at 0% grade walking on the treadmill and increased by 2% every 5 min until 8%. The test was performed randomly in these two conditions: holding an infant model weighing approximately 15% of body weight in front of the subject with a baby carrier (F) and backpack with a baby carrier (B). Heart rate (HR), oxygen uptake (VO2), minute ventilation (VE), tidal volume (TV), respiratory exchange ratio (R), and respiratory rate (RR) were measured and the values from the last 1 min of each grade were averaged. HR, VO2, VE, TV, R, and RR significantly increased with increasing grade in each condition. There were no significant differences in interaction effects in HR, VO2, VE, TV, R, and RR. This study suggests that the difference in the ways to carry a baby using a baby carrier has no effects on the respiratory response during upslope walking at a speed corresponding to 30% of the maximum oxygen uptake at 0% grade until 8% grade.
著者
大橋 啓太 藤原 芽生 小野 くみ子 石川 朗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】スタティックストレッチングがもたらす効果として,リラクセーション効果がある。リラクセーション効果を目的としたスタティックストレッチングに関する研究では,5分から10分程度のストレッチングプログラムを実施した場合のリラクセーション効果についての報告はあるが,一般的に推奨されている30秒程度のスタティックストレッチングがもたらすリラクセーション効果に関する報告は見当たらない。そこで,本研究ではスタティックストレッチングの伸張時間の違いが,自律神経活動に及ぼす影響について検討することを目的とした。</p><p></p><p>【方法】9名の健常若年成人男性を対象とした。実験に先立ち,膝関節伸展位での股関節屈曲(SLR)可動域(ROM)を測定し,そこから3度減じた角度をストレッチング実施角度に決定した。実験は,5分間の安静背臥位(PRE)後,スタティックストレッチングとしてSLR(ST)を行い,その後5分間の安静背臥位(POST)を行い,終了とした。実験条件は,ストレッチングを10秒間(10秒条件),30秒間(30秒条件),60秒間(60秒条件)それぞれ行う3条件に加え,安静背臥位を保持する条件(CON条件)の計4条件を設定した。実験を通して,心拍数(HR)および心臓副交感神経系活動(lnHF)の測定を行い,効果判定として実験後にSLRのROM測定を行った。さらに,交感神経活動指標として唾液アミラーゼ活性(SAA)を,PREの最後の1分間,ST直後1分間,POST終了後1分間,それぞれ唾液を採取して測定した。ST実施角度決定時およびST時の自覚的伸張感はVisual Analog Scale(VAS)を用いて測定した。データ処理として,PREにおける測定値は,最初と最後の1分間を除いた3分間の平均値を,STにおける測定値は,それぞれの条件の後半の10秒間の平均値を,POSTにおける測定値は5分間の平均値をそれぞれ算出し,比較検討した。</p><p></p><p>【結果】ROMは,30秒条件(P<0.01)および60秒条件(P<0.05)において実験前と比較して実験後に有意に増大した。VASは,各条件においてストレッチ角度決定時およびST時に有意差を認めなかった。HRは,時間および条件の交互作用に有意差を認め(P<0.01),10秒条件においてPREおよびPOSTと比較してST時に有意な上昇を認めた(P<0.01)。lnHFは,PREと比較してST時に有意に上昇した(P<0.01)が,条件間および交互作用には有意差を認めなかった。SAAは,条件,時間,交互作用とも有意差を認めなかった。</p><p></p><p>【結論】リラクセーション効果を目的としたスタティックストレッチングの伸張時間について,60秒までの短時間のスタティックストレッチングでは,伸張時間の違いによる自律神経活動,特に副交感神経活動への有意な影響は認められず,リラクセーション効果を目的とした場合は,少なくとも60秒よりも長い時間のスタティックストレッチングを実施する必要があることが示唆された。</p>
著者
牧浦 大祐 土井 剛彦 浅井 剛 山口 良太 小松 稔 小嶋 麻悠子 小野 くみ子 小野 玲 平田 総一郎
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.923-928, 2010 (Released:2011-01-28)
参考文献数
44
被引用文献数
2

〔目的〕性は年齢と同じく歩行に影響を与える重要な因子である。近年,歩行中の加速度信号に波形解析(root mean square,自己相関分析)を加えて得られる歩容指標(歩行の変動性,動揺性,規則性)を用いた歩行の安定性の定量化が行われている。今回,歩容指標を用いて歩行の安定性に性差が存在するのか検討した。〔対象〕対象は健常若年成人46名(男性24名,女性22名)とした。〔方法〕25 mの自由歩行中の体幹加速度信号から得られた歩容指標の値を男性と女性2群の間で比較した。〔結果〕女性は男性に比べ,歩行の変動性,垂直・前後方向の動揺性が有意に大きく,逆に垂直方向の規則性は有意に低下していた。〔結語〕健常若年成人では歩行の安定性に性差が存在する可能性が示唆された。