著者
岡久 雄二
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2034, (Released:2021-08-31)
参考文献数
86

希少種を対象としたバードウォッチング観光では、旅行者が保護活動について学ぶ機会の提供や、経済効果による保護活動のインセンティブ向上などの好適な影響が期待される。一方、安易な自然観光資源活用は対象種に負の影響を与える危険性を伴う。そのため、負の影響を最小限に留めつつ、活用が対象種の保護活動に与える好影響を高めることが必要である。本稿では接近実験と文献に基づく統計解析により観察圧がトキ Nipponia nipponの行動と繁殖に及ぼす負の影響を明らかにし、産業連関表に基づいて、トキを目的とした観光需要が佐渡島の経済とトキの保護に与える経済波及効果を評価することで、トキの観光活用に対する提言を行った。トキに軽自動車で接近した場合、逃避距離は最長で 145 mであったが、平均逃避距離は 2015年の 106.9 mから 2019年の 62.5 mまで経年的に短縮した。トキの警戒行動は自動車の接近に伴って増加したが、群れサイズが大きいほど増加が緩やかであった。 1羽でいる場合には 184 mまで接近すると警戒行動が 1回以上増加したが、 5羽の群れでは 128 mまで接近しなければ警戒行動が増加しなかった。次に、人間の観察がトキの繁殖成績に及ぼす影響を推定した結果、野生絶滅以前の日本産トキについては営巣林への立ち入り規制によってトキの繁殖成績が有意に向上していた。また、年間約 5万人の観光客がトキを目的として佐渡島に来島しており、トキの観光活用がもたらす経済効果は 44.5億円と推定された。トキの生息環境保全に重要な役割を果たす農林水産業に対する波及効果は約 3,460万円、飼育トキの公開施設であるトキの森公園における環境保全協力金収入は約 1,600万円であった。これらより、野生下のトキの観光活用に対して 3つの提言を行う。 1)水田におけるトキの観察は単独個体ではなく群れを対象とし、最短観察距離を 150 mと定めることでトキへの影響を抑制すること。 2)営巣個体への観察圧が日本産トキの繁殖成績を低下させたことを教訓とし、営巣個体についての観光活用は行わないこと。 3)野生下のトキの観光活用においてトキ環境保全協力金を徴収する仕組みを導入するか、トキの森公園との連携を図ること。本稿で示した情報が活用され、トキへの影響を抑制しつつ、観光活用を通じたトキ保護活動の持続可能性確保が実現されることが望まれる。
著者
岡久 雄二 岡久 佳奈 小田谷 嘉弥
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.307-315, 2019-10-25 (Released:2019-11-13)
参考文献数
39

ヤマシギScolopax rusticolaは日本国内では本州から南西諸島にかけての地域で越冬する夜行性の狩猟鳥である.生息状況に関する情報が乏しいことが個体群保護管理上の課題となっており,モニタリング手法開発が求められている.これまでに,環境省によりライトセンサスを用いた越冬期の生息状況確認手法がマニュアル化されているものの,ライトセンサスによって得られる在データのみを用いた分布や個体数推定手法は検討されていない.そこで,我々は冬期の佐渡島において夜間にライトセンサス法を行ない,ヤマシギの越冬分布を調査し,観察位置の在データをもとにMaximum Entropy Modelを用いてヤマシギの環境選択性と分布を推定した.モデルより,佐渡島の36.8(25.12–43.14)km2に79(54–92)個体が生息していると推定された.ヤマシギは水田面積が広く,気温の高い平野部に生息しており,既存の報告と異なり,耕作している水田が主な採餌環境となっていた.佐渡島ではトキNipponia nipponをシンボルとした環境保全型農業によって餌生物量が増加している事が知られるため,ヤマシギの採餌環境としても水田が高質化していることが示唆される.本研究で示したライトセンサスとMaximum Entropy Modelの組み合わせによって,全国のヤマシギの分布状況をモニタリングし,休猟区や鳥獣保護区の計画によってヤマシギの保護管理を行なうことが必要であろう.
著者
高川 晋一 植田 睦之 天野 達也 岡久 雄二 上沖 正欣 高木 憲太郎 高橋 雅雄 葉山 政治 平野 敏明 葉山 政治 三上 修 森 さやか 森本 元 山浦 悠一
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.R9-R12, 2011 (Released:2011-12-09)
参考文献数
7
被引用文献数
8

全国的な鳥類の分布情報データを用いて,各種の分布を決める要因や生息数の増減に影響する要因等を探る上で,どのような生活史・生態・形態的な特性をもった鳥において変化が見られるのかを検討することは,効果的な解析手法の1つである.こうした解析を行なうためには日本産鳥類の形態や生態に関する情報が必要である.そこで,今回,海鳥類を除いた日本でみられる鳥類493種について,生活史や生態,形態の情報についてとりまとめ,データベース化した.このデータベース「JAVIAN Database(Japanese Avian Trait Database)」は,さまざまな研究を行なう上でも有用な情報と考えられるため,ここに公開した.
著者
岡久 雄二 小西 広視 高木 憲太郎 森本 元
出版者
日本鳥類標識協会
雑誌
日本鳥類標識協会誌 (ISSN:09144307)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.12-18, 2011 (Released:2012-11-25)
参考文献数
11

キビタキFicedula narcissinaの雄について,外部形態に基づく齢査定の方法を検討した.第1回夏羽の個体は第2回夏羽以降の個体よりも自然翼長,尾長とも短かったが計測値は重複が大きかった.また,脛羽の色は第1回夏羽,第2回夏羽,それ以降の第3回夏羽以降の3群でそれぞれ異なっており,第1回夏羽では淡褐色,第2回夏羽では灰黒色の羽が疎らに生え,それ以降の第3回夏羽以降では純黒色の羽が密に生えていた.さらに,虹彩の色は第1回夏羽では灰褐色,第2回夏羽では褐色であり,第3回夏羽以降の個体の多くは赤褐色であった.これらより,キビタキの雄の齢は脛羽と虹彩の色によって第1回夏羽,第2回夏羽,第3回夏羽以降の3群に識別することができると考えられた.
著者
岡久 雄二 小西 広視 高木 憲太郎 森本 元
出版者
The Japanese Bird Banding Association
雑誌
日本鳥類標識協会誌 (ISSN:09144307)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.12-18, 2011

キビタキ<i>Ficedula narcissina</i>の雄について,外部形態に基づく齢査定の方法を検討した.第1回夏羽の個体は第2回夏羽以降の個体よりも自然翼長,尾長とも短かったが計測値は重複が大きかった.また,脛羽の色は第1回夏羽,第2回夏羽,それ以降の第3回夏羽以降の3群でそれぞれ異なっており,第1回夏羽では淡褐色,第2回夏羽では灰黒色の羽が疎らに生え,それ以降の第3回夏羽以降では純黒色の羽が密に生えていた.さらに,虹彩の色は第1回夏羽では灰褐色,第2回夏羽では褐色であり,第3回夏羽以降の個体の多くは赤褐色であった.これらより,キビタキの雄の齢は脛羽と虹彩の色によって第1回夏羽,第2回夏羽,第3回夏羽以降の3群に識別することができると考えられた.
著者
岡久 雄二
出版者
公益財団法人 山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.91-95, 2010-09-30 (Released:2012-12-04)
参考文献数
12

A total of 15 individuals of the Ryukyu Robin Erithacus komadori were observed in the foothills of Yakushima Island every August from 2006 to 2008. The Ryukyu Robin had been rarely seen in Yakushima Island and this is the first authentic report with photographs.