- 著者
-
戸村 理
- 出版者
- 日本教育社会学会
- 雑誌
- 教育社会学研究 (ISSN:03873145)
- 巻号頁・発行日
- vol.92, pp.219-240, 2013-07-25 (Released:2014-07-28)
- 参考文献数
- 32
本論文は明治期慶應義塾における教育課程と教員給与の分析をとおして,当該期間における慶應の経営実態を明らかにすることを目的とする。 大学教員は教育課程の運営を行い,その対価として給与を得る。このように経営上,教育と財務は不可分の関係にあるが,高等教育史研究ではこの関係性が十分に考察されて来なかった。そこで本論文では教員の雇用形態に着目して「教育と財務の相克」という歴史的課題を考察した。 教育課程の分析では,専任教員が各学科の授業科目をどれだけの時間担当し,いかに配置されていたのかを検証した。その結果,担当時間および配置ともに学科間で差異があることが明らかになった。 教員給与の分析では人事管理,人件費分析,教員個人の処遇と負担の実態を検証した。人事管理は採用管理,時間管理,給与管理の3点を考察した。人件費分析では,教員給与総額が年々増加し,とくにその9割が専任教員の給与であることを示した。教員個人の処遇と負担の考察では,専任教員の中に「高給かつ低負担」,「薄給かつ高負担」という階層性が存在することを明らかにした。 以上の知見を整理すると,慶應では専門性の高い授業科目を担当した少数の専任教員には「高給かつ低負担」という傾向が,それ以外の授業科目を担当した多数の専任教員には「薄給かつ高負担」という傾向がみてとれた。こうした階層性は,経営の維持と発展を目指すがゆえの階層性であったと推察された。