著者
戸村 理
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.104, pp.125-145, 2019-06-30 (Released:2021-04-01)
参考文献数
80
被引用文献数
1

本稿の目的は二つである。一つはこれまでの日本における大学組織研究のレビューを行うこと,もう一つはそのレビューを通じて,関連諸学との関係性や,大学組織が持つ組織慣性の点から大学組織研究の展望を行うことである。 大学組織の研究には,考慮すべき前提がある。それは大学組織の複雑性と,大学組織に関連する基礎概念の混用である。前者は大学という組織の目標の曖昧さや,組織の構成員である大学教員が自律性と自由を強く求めることに起因している。後者は大学の管理・運営・経営や,ガバナンス・マネジメント・リーダーシップといった現代の大学組織を取り巻く種々の用語について,必ずしも共通理解が伴っていないことに起因している。 以上の前提を考慮した上で本稿では,大学組織に言及したテキストやリーディングスを対象にレビューを行った。その結果,現状追認型の考察となっていることがあり,不確実な環境の中での大学組織の動態性やダイナミズムが十分に考察されずにいるとの見解に至った。 今後の展望では,第一に関連諸学である教育経営学や組織社会学に注目し,その知見や理論の援用可能性について検討した。第二は組織慣性に注目し,大学組織特有の組織慣性を学術的に見出すことが必要であるとした。それは期せずして,大学の再編・統合・連携や,大学経営における問題など,学術的のみならず高等教育研究に求められる実践的問題の解決にも寄与することが期待できるとした。
著者
羽田 貴史 戸村 理 廣内 大輔 井上 美香子 田中 智子 蝶 慎一 福石 賢一 小宮山 道夫 荒井 克弘 渡邊 かよ子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

60-70年代における社会運動としての大学紛争研究と、大衆化段階における大学改革の研究を統合し、政府・学術団体・経済団体・大学・教授団・教職員組合・学生集団の織りなす複雑な政治過程として大学紛争を捉え、紛争を経た大学改革像を解明する。さらに、このことを通じて、大学の自主改革案の全体像と大学政策への反映を明らかにし、70 年代の大学改革を、単純な政府主導ではない新たな歴史像を提起する。また、経済社会の変容と大学の大衆化、青年の叛乱という同じ課題を抱えたアメリカ・イギリス・ドイツとの国際比較を行い、日本の紛争=改革の特殊性を明らかにする。
著者
戸村 理
出版者
国立大学法人 東京大学大学院教育学研究科 大学経営・政策コース
雑誌
大学経営政策研究 (ISSN:21859701)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.217-233, 2023 (Released:2023-07-11)
参考文献数
1

Postwar higher education reform in Japan was driven by complex political dynamics and personal relationships between Japan and the United States. The new Japanese university system, which emerged in 1949, imported many features of the American higher education system. While pre-war Japanese universities did not admit women, all universities became coeducational. New colleges for women were also established. In terms of curricula, the pre-war emphasis on specialized education was replaced by the introduction of general education. The new universities that emerged in postwar Japan differed in character from their pre-war counterparts. However, they caused numerous problems, including student disputes and, in many cases, superficial imitations of the U.S. higher education system. How did an American woman who was familiar with Japanese culture view these post-war Japanese higher education reforms? Dallas Finn stayed in Japan from 1947 to 1954 and published “Reform and Japanese Higher Education” in the academic journal Far Eastern Survey, on November 21, 1951. This paper translates Finn's article into Japanese to clarify how the U.S. evaluated postwar Japanese higher education reform.
著者
戸村 理
出版者
國學院大學
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では近現代日本における大学学長職の地位・役割・動態について、歴史社会学的に考察する。具体的には近現代日本の学長職に関する政策及び機関内での地位と役割の変遷を、経営と教学の点から考察する。そしてどのような人物が学長職にあったのか、個人属性とキャリアパスに注目し、分析期間内における学長職の動態を明らかにする。学長職の大学経営に関する言説分析も行うことで、大学学長職の日本的構造を解明する。
著者
戸村 理
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.92, pp.219-240, 2013-07-25 (Released:2014-07-28)
参考文献数
32

本論文は明治期慶應義塾における教育課程と教員給与の分析をとおして,当該期間における慶應の経営実態を明らかにすることを目的とする。 大学教員は教育課程の運営を行い,その対価として給与を得る。このように経営上,教育と財務は不可分の関係にあるが,高等教育史研究ではこの関係性が十分に考察されて来なかった。そこで本論文では教員の雇用形態に着目して「教育と財務の相克」という歴史的課題を考察した。 教育課程の分析では,専任教員が各学科の授業科目をどれだけの時間担当し,いかに配置されていたのかを検証した。その結果,担当時間および配置ともに学科間で差異があることが明らかになった。 教員給与の分析では人事管理,人件費分析,教員個人の処遇と負担の実態を検証した。人事管理は採用管理,時間管理,給与管理の3点を考察した。人件費分析では,教員給与総額が年々増加し,とくにその9割が専任教員の給与であることを示した。教員個人の処遇と負担の考察では,専任教員の中に「高給かつ低負担」,「薄給かつ高負担」という階層性が存在することを明らかにした。 以上の知見を整理すると,慶應では専門性の高い授業科目を担当した少数の専任教員には「高給かつ低負担」という傾向が,それ以外の授業科目を担当した多数の専任教員には「薄給かつ高負担」という傾向がみてとれた。こうした階層性は,経営の維持と発展を目指すがゆえの階層性であったと推察された。