著者
羽田 貴史
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.133-153, 2022-08-10 (Released:2023-12-23)
参考文献数
28

本稿は,占領下の1947年から1951年にかけての大学管理法構想が,CI&E教育課,文部省,教育刷新委員会の対抗・協調関係のもとでどのように具体化されたかを,明らかにする.今までの研究は,占領文書の分析が不十分で,教育課内部の複雑な事情を検討していない.大学管理法案は,教育課高等教育班のイールズによる外圧から始まったにもかかわらず,日本側は,教育課首脳と協力しながら大学理事会法の制定を防いだ.イールズ案が撤回になった後,民主的に組織され,組合関係者も参加した大学管理法案起草協議会による法案作成という戦後改革でも稀な手続きで法案が作成された. 法案そのものは国会で廃案になったが,大学自治を明確にする点で画期的な内容であった.すなわち,合議制機関としての評議会・教授会の権限を明確にし,執行機関としての学長・学部長の権限を定め,同僚制に基づく学内管理機関と商議会の設置による地域社会への責任の明確化,国立大学審議会による文部行政権のコントロールも意図した画期的な内容であった.
著者
羽田 貴史 戸村 理 廣内 大輔 井上 美香子 田中 智子 蝶 慎一 福石 賢一 小宮山 道夫 荒井 克弘 渡邊 かよ子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

60-70年代における社会運動としての大学紛争研究と、大衆化段階における大学改革の研究を統合し、政府・学術団体・経済団体・大学・教授団・教職員組合・学生集団の織りなす複雑な政治過程として大学紛争を捉え、紛争を経た大学改革像を解明する。さらに、このことを通じて、大学の自主改革案の全体像と大学政策への反映を明らかにし、70 年代の大学改革を、単純な政府主導ではない新たな歴史像を提起する。また、経済社会の変容と大学の大衆化、青年の叛乱という同じ課題を抱えたアメリカ・イギリス・ドイツとの国際比較を行い、日本の紛争=改革の特殊性を明らかにする。
著者
羽田 貴史 安原 義仁 黄 福涛 大場 淳 杉本 和弘 荒井 克弘 成定 薫 米澤 彰純
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究の成果として,(1)アメリカにおける高等教育の市場化の構造を日本と比較して,日本の高等教育市場化の課題を明らかにしたこと(ローズ論文),(2)イギリスにおける大学団体の動向と課題を始めて体系的に明らかにしたこと(ロック論文),(3)アメリカ,イギリス,オーストラリア,北欧,中国,フランスの大学団体・専門団体の現状と課題を始めて明らかにし,今後の研究の基礎を作ったこと,(4)大学基準協会,国立大学協会,公立大学協会,日本私立大学連盟,日本私立大学協会という主要大学団体がはじめて参加し,大学団体の在り方を講論し,課題を整理したこと(2007年8月7日シンポジウム),(5)高等教育の市場化を支える装置である大学評価制度について,認証評価をはじめとする体系的な研究を行ったこと,(6)市場化のもとで,大学がガバナンスや組織変容を通じて適応していく方向や力学を明らかにし,調整団体・大学団体の役割を明確にしたこと,(7)国立大学関係学部長会議の資料収集と目録作成により,高等教育政策の形成過程において,これらの大学団体や組織が果たす役割を検討する基礎情報を明らかにしたことがあげられる。また,高等教育政策の形成にあたっては,大学内における学長(機関レベル),部局長(中間レベル),学科長(基礎組織レベル)の各層ごとで,統合の価値規範が異なるコーガン=ベッチャーモデルが日本でも検証でき,階層構造での葛藤を調整するガバナンスが求められることを明らかにした。大学団体・調整団体の役割は,こうしたガバナンスの構築に寄与することが期待される。
著者
荒井 克弘 佐藤 直由 猪股 歳之 大迫 章史 渡部 芳栄 羽田 貴史 米澤 彰純
出版者
独立行政法人大学入試センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

少子化にともなって大学進学者数の伸びは鈍化しつつある。しかし他方で、大学の数は漸増を続けており、この市場競争の厳しい時代を大学はどのような経営で生き抜こうとしているのか、私立学校、大学の設置者である学校法人に焦点を合わせ、法人が採っている経営戦略を(1)学校法人内部での調整、(2)学校法人外部との連携・統合、(3)設置形態の変更の3つに類型に分け、それぞれについて訪問調査およびアンケート調査を行った。その結果、拡大に加えて縮小や廃止などを同時進行で行ってきた学校法人の存在や、地域との連携を重視して生き残りを図る学校法人などの各種の実態が事例として明らかになり、学校法人の経営行動の多様性が明らかになった。
著者
羽田 貴史
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.104, pp.7-28, 2019-06-30 (Released:2021-04-01)
参考文献数
32
被引用文献数
1

日本の高等教育研究は,日本高等教育学会及び大学教育学会創設後20年を経て,制度化が確定にしたかに見えるが,その学問的基盤は,他の学問分野と比べて劣弱である。特に,研究者の訓練を行う大学院が4つしかないこと,育成された高等教育研究者の就職市場が,高等教育政策・行政に関する政府関係組織や,大学教育センターなど大学の実務的組織であることは,基礎・開発・応用のバランスをもった高等教育研究の深化・発展を制約し,利益相反関係など複雑な問題を高等教育研究に投げかけている。 高等教育研究の分化は,個人の発達過程において大学生をとらえる視点を弱め,社会を構成するサブシステムである高等教育システムを,初等中等教育や職業・資格との関係で捉えることを困難にする。 さらに,学会成立の以前から,高等教育研究には,〈好奇心駆動型〉の基礎研究志向より,大学改革の役に立つ〈使命達成型〉研究志向が強かった。 教育学は,国民教育制度のための性格が強いが,高等教育研究で前提とされる改革とは,政府の策定する政策に基づく改革を意味しがちである。 その結果,大学や大学人が主体的・自主的に構想し推進する改革を視野に入れず,政府の政策を大学執行部が具体化することを「改革」と呼ぶ風潮が生まれてきた。そして,大学教員ではなく,大学執行部による教育マネジメントを根拠づけるために,データによる客観的な研究発表ではなく,結論に合わせた都合の良い研究すら見られる。
著者
羽田 貴史 金井 徹
出版者
日本教育行政学会
雑誌
日本教育行政学会年報 (ISSN:09198393)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.158-175, 2010-10-01 (Released:2018-01-09)

The purpose of this paper is to consider the big picture of the presidential appointment system of national universities after World War II and to explore what kinds of presidents were selected under the system. The system of president appointment prevailed in all imperial universities since the system was established in the wake of the Tomizu and Sawayanagi incidents, although legislation to this effect was not fulfilled. This system restricted the constituency of candidates to professors with methods of election : 1) Candidates narrowed down by preliminary committee in advance and 2) A president elected through several elections without a prior selection of candidates. The election system remained with an expansion in the constituency even after the postwar national university system was inaugurated in 1953 which included provision for electing a president independently. In the presidential selection at that time there were only four presidents who were elected at their old universities. The internal promotion system of a president was not a common pattern given the circumstances of antagonism among faculties and the shortage of candidates eligible for president. In addition, "the principal as the professional" that was the personnel transfer route of the Ministry of Education was dismantled because of the system entitling national universities to hold an independent election for presidents. Recommendations of the Central Council for Education (1963) and University Council (1995) pointed out that nearly all presidents actually had little in the way of management skills and that elections tended to become sensational and be favorable for large-scale faculties. The election system, however, has remained in national universities even after these recommendations. The presidents of national universities selected under the postwar election system have had the following characteristics : 1) Almost all national university presidents were selected in their early 60s as they came up to forced retirement as professors of a national university, 2) The number of presidents who graduated from imperial universities or former imperial universities has decreased, and the number of inbred candidates for national universities for presidents has increased, 3) Presidents being given internal promotion have become the majority, and 4) Almost all of these presidents in the postwar period were from the faculties of medicine, technology, science, education, agriculture, or economics. The presidents of national universities have been transformed from being seen as the "president as a symbol of the university" who was a graduate of other imperial universities, which was found at the beginning of the postwar period, to the "president as a symbol of collegiality" selected from his university and well-informed about that particular university. This tendency has remained after national universities were incorporated.
著者
村澤 昌崇 羽田 貴史 阿曽沼 明裕 白川 優治 藤墳 智一 立石 慎治 安部 保海 堀田 泰司 大場 淳 渡邉 聡
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

今年度は以下の研究を進展させた。①大学組織に関する基礎研究の一環として、昨年度に引き続き、Bess&DeeのUnderstanding College and University Organizationの翻訳勉強会を進めた。②所属組織保有の過去の調査データをマージして二次分析に生かすための検討を行った。併せて東洋経済新報社刊『大学四季報』のデータを購入し、東洋経済新報社とのコラボレーションにより、大学の外形特性と生産性・競争的資金獲得との関係に関する計量分析を行い、2018年2月2日RIHE公開セミナーにおいてその成果を報告した。③方法論の見直し・新手法の適用可能性を検討し、その成果を分担研究者との連名で高等教育学会編『高等教育研究』の依頼論文(2017年6月刊行)、研究協力者との連名でディスカッションペーパーシリーズ(広島大学高等教育研究開発センター刊)として刊行した。④研究分担者により、大学の機能最適化に関する数学モデルで用いられる機能分化指数を用い,カリフォルニア及びニューヨークの大学群の機能の経年変化の分析を行い,UC Berkeley 公共政策大学院高等教育研究センターのリサーチペーパーとして発表した。⑤研究分担者により、大学組織の基本単位である学部に着目し,特に改組を行った人文社会系学部を取りあげ,当該学部の教員構成を分析した。その成果は、2017年度の日本高等教育学会にて報告された。⑥研究分担者により、シンガポールの高等教育の将来像を示す「SkillsFuture」政策およびシンガポール工科大学(SIM)の過去10年の発展の経緯と今後の戦略についての情報収集を行った。さらに、フランスにおける大学組織の在り方や統合・連携等についての調査研究を行い、大学の統合・連携の進展が進行しつつあり、全ての大学が統合又は地域毎に連携しなければならないことが明らかになった。
著者
羽田 貴史 HATA Takashi
出版者
名古屋大学高等研究教育センター
雑誌
名古屋高等教育研究 (ISSN:13482459)
巻号頁・発行日
no.11, pp.293-312, 2011-03

本稿の目的は、Faculty development と呼称されている大学教員の能力開発についての諸問題を検討したものである。具体的には、①FD の概念、②大学教員の能力構造、③研究と教育の関係、④能力発達とキャリア・ステージの関係、⑤専門性発達の義務化、⑥専門性発達の責任主体の論点について、日本国内・諸外国の研究動向を批判的に検討し、課題を整理した。その結果、大学教員の能力を研究、教育、管理運営、組織的市民性、学問的誠実性など全面に渡って発達させることが重要なこと、キャリア・ステージに沿った支援プログラムが必要なこと、こうした専門性開発の責任は、大学教員自身が第1 に負うものであり、学部・学科など教員の属する組織運営が専門性開発を支援する責任を負うこと、教員・部局・センターのトライアングル構造と、キャリア・ステージに対応したプログラムが最大の課題であることを指摘した。Faculty development is a critical issue for improving higher education in Japan. The purpose of this paper is to examine some problems surrounding Faculty development, understood as attempts to develop educators in higher education institutions. This paper reviews the empirical research and some meta-analysis studies on Faculty development, including those conducted in foreign countries. Among the issues and questions to be discussed are: (1) the concept of Faculty development, (2) the role and competence of faculty, (3) the relationship between research and teaching, (4) the relationship between professional development and career stage in higher education, (5) professional development as an ethical goal of the profession, (6) the responsibility of professional development, and the roles of individual faculties, departments, and centers in teaching and learning. This paper concludes that a major goal of professional development for university faculty should be to develop the capability of faculty not only in the area of teaching skills but also in other areas such as overall research, university management, organizational citizenship, and academic integrity. As a final conclusion, effective programs should be created and implemented for professional development, focusing on faculty career needs at different stages, through cooperation with departments and CTL.