著者
斉藤 昌之
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.23-29, 2012-01-01 (Released:2013-01-01)
参考文献数
33

褐色脂肪は代謝的熱産生を行なう特異的な脂肪組織であり,寒冷環境下での体温維持やエネルギー消費の自律的調節に関わっている.褐色脂肪に関する従来の知見の大部分は冬眠動物や実験動物から得られたものであったが,最近成人にも褐色脂肪が存在し実際に機能していることが明らかにされ,肥満やメタボリックシンドロームとの関係で注目を集めている.ここでは,マウスなどでの知見をまとめてから,ヒト褐色脂肪研究の現状について食品成分による活性化の可能性を含めて紹介する.
著者
斉藤 昌之
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.210-216, 2020 (Released:2020-04-01)
参考文献数
17

ヒトを含めて哺乳動物には白色と褐色の2種類の脂肪組織が存在する. 白色脂肪がエネルギーを中性脂肪として蓄積し飢餓への備えをするのに対して, 褐色脂肪は脂肪エネルギーを熱に変換する代謝性の非ふるえ熱産生の特異的部位であり, 寒冷環境下での体温維持や, 感染・炎症時の発熱やストレス性高体温に関与している. さらに, 褐色脂肪は体温のみならず全身エネルギー消費や体脂肪の調節にも寄与するので, 抗肥満ターゲットの1つとしても注目されている. 最近, がんの画像診断法であるFDG-PETを利用してヒトの褐色脂肪を評価する手法が開発され, 多くの知見が集積されつつある. 本稿では, 健常成人の褐色脂肪について, 体温や体脂肪調節における役割を中心に紹介する.
著者
斉藤 昌之 若林 斉
出版者
日本生理人類学会
雑誌
日本生理人類学会誌 (ISSN:13423215)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.27-37, 2022-05-25 (Released:2022-05-25)
参考文献数
45
被引用文献数
1

Brown adipose tissue (BAT) is a specialized tissue for non-shivering thermogenesis (NST) after cold exposure. Although BAT research has long been limited mostly in small rodents, the rediscovery of metabolically active BAT in adult humans has dramatically promoted the translational studies on BAT in health and diseases. In recent years, it has become clear that BAT cross-talks with some peripheral tissues and controls their functions and systemic homeostasis of energy and metabolic substrates. Moreover, it has been found that BAT contributes to NST after nutrient intake as well as cold exposure. Thus, BAT is a metabolic regulator beyond thermogenesis and a target against obesity and metabolic syndrome. This is supported by discovering that various paracrine and endocrine factors are secreted from BAT, called as BATkines. However, there is still few information about the genetic and environmental factors that determine the activity and amount of human BAT. Here, we review our current understanding on the pathophysiology of human BAT, including its seasonal and diurnal variations.
著者
松澤 佑次 船橋 徹 斉藤 昌之 矢田 俊彦
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

本研究は脂肪細胞機能を解析し過栄養を原因とする動脈硬化、糖尿病、癌戦略を打ち立てんとするものである。(1)脂肪細胞の起源と発生分化:生体の三次元的な組織変化追跡法が開発され、血管新生が脂肪組織増大に必須であること、単球接着など動脈硬化巣と類似した変化が肥満脂肪組織におこることが示された。侵入したマクロファージはアディポサイトカイン分泌に影響を与え、脂肪組織リモデリングという現象が起こる。局所酸化ストレス物質や低酸素状態がアディポサイトカイン分泌異常をおこすことも明らかになった。(2)脂肪細胞の基本生命装置:アディポソームと呼ぶ膜小胞が新たな分泌機構として明らかにされた。著しく変化する脂肪細胞容積感知分子として容積感受性クロライドチャネルが同定された。水チャネル分子であるアクアポリンが脂肪細胞グリセロール分泌に関与し、その欠損により飢餓時の糖新生不足がおこり低血糖をきたすことを示され脂肪細胞におけるグリセロールチャネルの概念が確立された。(3)機能破綻による病態発症機構の解明とその制御:アディポネクチンの生理的意義に関する多くの研究成果が得られ、単に代謝性疾患にとどまらず、循環器疾患、消化器疾患、炎症性疾患、さらには腫瘍など、主要な疾患と生活習慣の関連を解明する上で大きく貢献し、アディポネクチン学(Adiponectinology)という一つの学問分野を形成するに足るものとなり、わが国から世界に向けた大きな発信となった。以上より、多分野の研究者が参入し脂肪細胞生物学(アディポミクス)という分野が急速に立ち上がった。本領域研究は科学領域に大きな成果をもたらしたと考えるが、加えて国家的課題となっている多くの生活習慣病対策に対し、メタボリックシンドローム概念確立の科学的基盤の一つとなったと考える。
著者
斉藤 昌之 大橋 敦子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.118, no.5, pp.327-333, 2001 (Released:2002-09-27)
参考文献数
21
被引用文献数
5 5

筋肉運動とは別に, 食事や薬物によって代謝的熱産生を増やし体脂肪を減少させようとする試みのターゲットとして, ミトコンドリア脱共役タンパク質UCPが注目されている. UCPはプロトン輸送活性を有しており, その名の通りミトコンドリア内膜での酸化的リン酸化反応を脱共役させて, エネルギーを熱として散逸する機能を持っている. 代表的なUCPである褐色脂肪細胞UCP-1の場合, 寒冷曝露や自発的多食などで交感神経の感動が高まると, 放出されたノルアドレナリンがβ3受容体に作用して細胞内脂肪の分解を促し, 遊離した脂肪酸がUCP-1のプロトン輸送活性を増加させると同時に, 自ら酸化分解されて熱源となる. 更にノルアドレナリンの刺激が持続すると, 転写調節因子や核内受容体の作用を介してUCP-1遺伝子の発現も増加する. 従ってこれらの関与分子を活性化すれば, 熱産生の亢進と肥満軽減の効果が期待される. 事実, β3受容体に対する特異的な作動薬を各種の肥満モデル動物に投与すると, エネルギー消費が増加し体脂肪が減少することが確かめられている. 最近各種のUCP isoformが発見され, 特にUCP-2は広く全身の組織に, またUCP-3は熱産生への寄与が大きい骨格筋に高発現していることが明らかになって, 肥満との関係に多くの関心が集まっている. 現在までに, これらUCPの遺伝子発現の調節については多くの知見が集積したが, 今後, 脱共役機能自体の解析を進めることが抗肥満創薬において重要である.
著者
奥田 拓道 斉藤 昌之
出版者
医学書院
雑誌
臨床検査 (ISSN:04851420)
巻号頁・発行日
vol.30, no.8, pp.p850-856, 1986-08
著者
アハメド モハメド 木村 和弘 ソリマン モハメド 山地 大介 岡松(小倉) 優子 マコンド ケネディ 稲波 修 斉藤 昌之
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.125-131, 2007-02-25

脂肪細胞から分泌されるレプチンは摂食調節やエネルギー消費を調節するだけでなく,直接あるいは腫瘍壊死因子(TNF-α)を介して間接的にヒト好中球機能を修飾する.ウシ好中球はfMLP受容体を持たないなどヒト好中球とは異なる特徴を持つ.そこで本研究ではホルスタイン牛好中球の脱顆粒応答および活性酸素産生能に村するレプチンとTNF-αの作用を調べた.なおウシ好中球には活性型レプチン受容体Ob-RbとTNF-α受容体(TNF-R1)の発現が確認された.ヒトレプチン,ヒトTNF-α,活性型ホルボールエステル(PMA)とオプソニン化したザイモザン(OZP)は脱顆粒を惹起しなかった.一方,アナフィラトキシンを含むザイモザン活性化血清は(ZAS)は脱顆粒を誘導した.しかし,レプチンやTNF-αはZASによる脱顆粒反応にも影響しなかった.レプチンを除く,TNF-α, PMA, OZPとZASは活性酸素の産生を異なる強度で誘導した.さらにTNF-αはOZPとZASによる活性酸素産生能を増強し,この活性増大作用の一部分はNADPHオキシダーゼの細胞質コンポーネントであるp47^<phox>の膜移行の増加で説明された.レプチンはいずれの刺激に対しても影響を示さなかった.これらの結果よりヒト好中球とは異なりレプチンはウシ好中球の脱顆粒応答および活性酸素産生能に村して直接的な作用を示さないことが明らかとなった.
著者
アハメド モハメド シャバン ゼイン 山地 大介 岡松(小倉) 優子 ソリマン モハメド アブエルダイム マブルク 石岡 克己 マコンド ケネディ 斉藤 昌之 木村 和弘
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.509-514, 2007-05-25
被引用文献数
11

脂肪細胞分泌因子,レプチンは摂食やエネルギー消費のみならず,免疫細胞機能を修飾することが知られる.ウシ単核球(PBMC)をレプチン単独あるいはT細胞マイトージェンCon Aと同時に刺激すると,レプチンはPBMCの増殖を10-40%増大させた.一方,PBMCからTリンパ球を分離し,同様に刺激すると,レプチンはTリンパ球の増殖を抑制したので,レプチンはPBMCに含まれる単球マクロファージなどに作用してTリンパ球増殖因子を産生させる可能性を示した.次に単球マクロファージを分離してサイトカイン遺伝子の発現を調べたところ,多寡はあるものの腫瘍壊死因子TNF-α,インターロイキン(IL)-1β,IL-12p35,IL-12p40,IL-18遺伝子の恒常的な発現が見られた.レプチンを作用させるとTNF-αとIL-12p40mRNAの発現が増大したが,他の遺伝子の発現は変化しなかった.TNF-αの分泌量を調べると,実際に培養液中の濃度が増加した.また培養液中のIL-1β濃度が増大した.そこで伏在性のpro-IL-1βやpro-IL-18を活性型に分解させるタンパク分解酵素caspase-1の発現について調べたところ,レプチンによってその遺伝子の発現が増大した.これらの結果より,レプチンは単球マクロファージに作用しIL-12p35/p40の複合体形成や活性型IL-1β/IL-18を分泌させTリンパ球の増殖を促進すると考えられた.
著者
北尾 直也 八幡 剛浩 松本 孝朗 岡松(小倉) 優子 大町 麻子 木村 和弘 斉藤 昌之
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.69, no.10, pp.1065-1068, 2007-10-25

脱共役蛋白質UCP1は熱産生組織である褐色脂肪に特異的に発現し,寒冷下における体温調節に寄与している.高原性ナキウサギ(Ochotona dauurica)はモンゴルや中国北方の寒冷高地帯に生息する小型の非冬眠動物であり,同環境への適応にUCP1の関与が示唆されている.本研究では,高原性ナキウサギのUCP1 cDNAをクローニングし,ヌクレオチド配列を決定した.予想されるアミノ酸配列は他の動物種のUCP1と高い相同性を示し,UCPファミリーに共通するいくつかの配列が確認された.また,様々な組織におけるUCP1 mRNAおよび蛋白質を調べたところ,肩甲骨間の皮下脂肪組織に発現が認められたが,他の部位の脂肪組織や心臓,骨格筋,脳などには発現が認められなかった.これらの結果は,高原性ナキウサギのUCP1が褐色脂肪組織での熱産生に貢献していることを示唆する.