著者
杉下 佳辰 朝倉 康夫
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.I_215-I_223, 2017 (Released:2017-12-27)
参考文献数
21

インフラストラクチャーのような相互依存性を有するシステムにおいては,ひとつのシステム内の局所的な障害による影響が複数のシステムに波及し,大規模な障害に発展する現象(カスケード故障)が発生する恐れがある.本研究では,電力網と通信網の相互依存関係を想定したモデルを拡張し,フローを考慮した過負荷による故障と依存性を考慮した故障を表現し,相互依存ネットワークにおけるカスケード故障のシミュレーションモデルを構築した.2003年のイタリア大停電を背景とした条件をモデルに入力して数値計算を行った結果,単体の場合に頑健なネットワークであっても,相互依存性によって脆弱性が大きく増大する危険性があることが示唆された.ネットワークの脆弱性を適切に評価するためには,相互依存性による影響を考慮することが必要不可欠である.
著者
長崎 滉大 中西 航 朝倉 康夫
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.78, no.5, pp.I_825-I_831, 2023 (Released:2023-05-12)
参考文献数
10

道路の一地点を通過する交通量は一日の間で時間によって変動する.地点交通量の確率分布を推定することにより,路側での観測が容易な交通量データからドライバーの行動の時間変動を知ることができる可能性がある.また,交通量の時間変動のように24時間単位で繰り返されている現象に対しては,角度を扱う方向統計学を適用し,0時と24時を同一と見なして分析することが適切である.本研究では,方向統計学における確率分布である円周分布を混合した分布を用いて,高速道路の複数地点で観測された地点交通量の分布のパラメータ推定を行った.分布の推定により,交通量の時間変動を朝の出勤と夕方の帰宅の分布に分離することができた.また,朝の分布は左に歪んだ立ち上がりの速い分布であり,後者の分布は緩やかな分布であることがわかった.
著者
杉下 佳辰 日下部 貴彦 朝倉 康夫
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.I_781-I_792, 2016 (Released:2016-12-23)
参考文献数
26

局所的な障害が要因となり,連鎖的障害がシステム全体へ波及する現象をカスケード故障(cascading failure)と呼ぶ.ネットワークとして表現できる現実の社会システムでは,ごく少数のノードやリンクで発生した障害がネットワーク全体に壊滅的な損害をもたらし得ることが確認されている.本研究では,カスケード故障による壊滅的損害を回避することを目的とした損害抑制策を提案する.具体的には,局所的障害の発生直後に,Collective-Influenceと呼ばれる指標値の低いノードを意図的に除去することでネットワークにかかる負荷を軽減し,障害の波及を抑制する策を提案する.数値計算によって耐久性の低いネットワークに対しても提案策が効果的に働くことを示すとともに,提案策によって既存の方策を上回る損害抑制効果が発揮される可能性を示唆する.
著者
柏谷 増男 朝倉 康夫 細川 透
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木計画学研究・論文集 (ISSN:09134034)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.659-665, 1999

混雑が路線選択行動に与える統計的分析は, 従来からクロスセクション分析により試みられてきたが, マクロデータでは有意な結果が得られていない.本研究では時系列のデータ分析が必要と考え, プーリング推定ータを対象とした推定の結果, 推定式自体の精度は良く, 混雑を表す指標の予想混雑率の逆数の値は1%ないし0.1%の水準で有意となった.ただし, 昭和62年以前の国鉄の推計方式にバイアスがあるとすれば, 断定的な結論は下せない.なお, この結果から推測される弾性値は小さく, 鉄道各社が積極的に混雑率低下に取り組めるほどの乗客数増加は望めない.
著者
柏谷 増男 二神 透 朝倉 康夫
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究では大都市通勤鉄道の混雑緩和に着目して都心居住の実態分析及び都心居住推進のためのモデル開発を行った。まず,我が国大都市圏の通勤鉄道混雑は著しく劣悪であるが,輸送力の増強では対応し得なく,業務核都市等への分散策はかえって混雑を激化させる可能性があり,むしろ都心居住の推進をめざすべきことを指摘している.次に,大阪府を対象として,従業地分布や住宅立地等に見られる地域構造の変化と通勤交通の実態について1970年から1990年または1995年までの国勢調査(5年ごとに実施)データを用いて分析した.その結果,1970年代の大阪市製造業の衰退による工場跡地に高層共同住宅が立地する形で,1980年以降都心住居が顕著になったこと,1980年から1985年の都心3区通勤通学発生交通量は15%増加し,この値は府下市町村の値をも上回っていること,都心3区発生交通量の約60%は都心3区に到着しておりその場合の鉄道利用率は約25%であることが分かった.このことから都心3区居住の通勤通学者の増加は通勤鉄道需要の抑制に大きく寄与したと言える.また,通勤鉄道混雑の評価を利用者の行動にもとづいて分析することが困難なことを指摘し,むしろ通勤交通混雑を社会的制約として取り入れ,それにより低下した土地利用効率をつけ値総額の低下量で測定し,この値を通勤交通混雑の社会的価値とすることを提案している.研究に用いた基本モデルは交通混雑制約を持つ最適土地利用配分モデルであるが,このモデルのラグランジェ関数を分析し立地誘導指標を見いだしたうえで,この方法を大阪府北東部地域へ適用した
著者
羽藤 英二 朝倉 康夫 山本 俊行 森川 高行 河野 浩之 倉内 慎也 張 峻屹 高見 淳史 井料 隆雅 佐々木 邦明 井上 亮
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

プローブ技術を援用したデータフュージョン理論による総合的行動調査の高度化に向けて、1)行動文脈の自動識別アルゴリズムの開発、2)プローブデータを基本とした交通調査・管制システムの開発、3)これらを組み込んだモビリティサービスの実装研究を行ってきた。時系列に同一個人の行動データの蓄積が可能なプローブ技術を用いた総合的行動調査の可能性を示すと同時に、様々な交通施策評価や交通管制の効率化に向けたプローブ技術とデータフュージョン理論の可能性を明らかにすることができた。特にセンサー情報を利用した行動判別アルゴリズムでSVMにAdaboostアルゴリズムを組み合わせることで、大幅な精度向上が可能になり、加速度センサーを有するスマートフォンによって95%以上の確率で交通行動の自動収集判別を可能にすることに成功した.こうした技術とPT調査を組み合わせた総合的な調査プラットフォームを構成することで,従前のワンショット型の交通調査からAlltheyear型の交通調査への移行と,総合的調査技術を用いた交通計画の可能性を示した.
著者
朝倉 康夫 羽藤 英二 井料 隆雅 多々納 裕一 長江 剛志 赤松 隆 吉井 稔雄 山本 俊行 中山 晶一朗
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

情報通信技術の高度化に伴い,GPS,携帯電話,PHS などの移動体通信システムの利用者数は飛躍的に増加しつつある.移動体通信による位置特定機能を用いると,機器を携帯する個々のヒトの位置特定が可能であり,過去数年の間に移動体通信機器を利用した交通行動調査手法が数多く提案されてきている.移動体通信を利用したヒトの交通行動の観測と分析手法については,1998 年に研究代表者らがITS 世界会議で発表した論文を皮切りに国内外で研究が進められている.国内ではプローブ車両による道路交通流の観測に代表されるように,実務面でも移動体観測への関心が高まっている.しかしながらこれに関連する既往研究のほとんどは平常時の交通行動を対象としたものであり,災害時を想定した観測システムの開発や分析手法に関する研究は見られない.一方,災害時の交通ネットワークのリスク評価に関しては,多様なアプローチから研究されてきているが,災害時の交通行動に関する実証データを得ることが困難であるために,実際の交通ネットワークを対象としたリスク評価研究の蓄積は必ずしも十分ではない.移動体通信機器を応用して災害時の交通行動を,災害を模した状況において実証的に把握することは,災害時の交通ネットワークのリスク評価の信頼性をより高め,また,より精緻な場面への応用ができるようになることが期待されよう.