- 著者
-
林 上
日野 正輝
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
- 巻号頁・発行日
- vol.61, no.1, pp.120-140, 1988-05-31 (Released:2008-12-25)
- 参考文献数
- 83
- 被引用文献数
-
4
5
日本における卸売業システムの空間的パターンは,これまでずっと東京と大阪を中核都市とする二極構造によって特徴づけられてきた。しかしながら1960年代以降は,産業構造の変化と大企業本社の集中に対応しながら,卸売業取引は東京に集中するようになった。その結果,卸売業の空間的システムは単一システム構造へと変化していった。同時に,札幌,仙台,広島,福岡などの広域中心地が,それらの地域における重要な卸売業中心地になった。 戦後の経済成長にともなって輸送貨物量は驚くほど増大し,輸送手段にも格段の発達がみられた。トラック輸送の発展にともない,倉庫や食料品卸売市場などの施設のなかには都市中心部から大都市の郊外に移動するものが現われた。主要な都市の郊外に建設されたトラック・ターミナルや卸売商業団地は,卸売業施設の都心部から周辺部への移転を促進する役割を果たした。 日本の小売業システムにおける最も顕著な変化は, 1960年代の初頭以降に,スーパーマーケットやスーパーストアが全国的規模や地域的規模で急速に発展したことである。こうした店舗は,都市の階層システムを通して普及していったセルフ・サービス・システムと多店舗システムによって特徴づけられる。小売業は郊外地域で発展したため,大都市の内部では商業地域に関して対照的なパターン(郊外対都心)が生ずるようになった。 モータリゼーションは,都市階層のあらゆる段階で購買地域の構造に再編成をもたらしたもう一つの要素である。新たに発展した商業地域が自動車でやって来る消費者を吸引する一方で,既存の小規模な商業地域は厳しい競争を強いられるようになった。以前は中心地システムに対応していた購買中心地の空間的パターンは,こうした影響の下でその階層的特徴を徐々に失っていった。