著者
中島 宏樹 大川 保昭 久保 寛紀 水野 翔太 三宅 真一 浅井 徹 杉浦 剛志 志水 清和 柴田 哲男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0741, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】慢性心不全患者は年々増加しており,再入院率が高いことが問題となっている。これまでに退院前患者教育が慢性心不全患者の再入院率を低下させることが報告されているが,わが国において患者教育を実践している医療機関は限られ,長期的なフォローアップを行う体制をもつ医療機関はほとんどない。さらに,患者教育プログラムに運動指導が含まれていないことが多い。今回,我々は心不全患者に対する運動指導を含めた患者教育が退院後1年以内の再入院率減少に有効であるか検討した。【方法】心不全増悪で入院した心不全患者73名(平均年齢70.5±9.6歳)を対象とし,当院で患者教育を導入する前の対照群36名と導入後の患者教育群37名との退院後1年間での再入院率を比較した。除外基準は,認知症(改訂長谷川式簡易知能評価スケール<20),6分間歩行距離<100 m,過去の心不全入院歴≧3回,慢性閉塞性肺疾患を合併する症例,入院中あるいは退院後に心臓外科手術を受けた症例,中枢神経疾患や骨関節疾患による運動制限がある症例とした。患者教育は理学療法士と看護師により実施し,患者教育には,心不全の病態と増悪因子・増悪時の対処法,体重管理,運動指導,塩分・水分制限,過活動制限,感染予防,栄養,服薬管理および血圧測定について当院で作成した資料を用いて行った。なお,患者教育群は入院中に通常のリハビリテーションプログラムに加え,計5-6単位の個別教育を実施した。退院後1年間,当院に再入院することなく,外来診察がないために経過が確認できない症例については自宅に電話して他院への再入院の有無などの状況を確認した。統計解析は,ベースライン時の各因子の2群間の比較に対応のないt検定またはMann-Whitney U検定を用いた。また,再入院率は,退院日を起点としてKaplan-Meier法を用いて算出し,有意差検定にはlog-rank検定を用いた。統計学的有意水準は5%未満とした。統計ソフトウェアにはEZR(ver. 1.11)を用いた。【倫理的配慮】本研究は一宮市立市民病院倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:9)。対象者には事前に書面および口頭にて研究の目的や内容の説明を行い,書面での承諾を得た。【結果】心不全増悪による再入院率は患者教育群で5名(13.5%),対照群では12名(33.3%)であった。ベースライン時の年齢,Body Mass Index,心不全増悪による入院回数,左室駆出率,脳性ナトリウム利尿ペプチド値,推算糸球体濾過量および6分間歩行距離の評価項目において2群間で有意差は認めなかった。心不全増悪による再入院率は患者教育群と対照群との間に有意差が認められた(log-rank test,P<0.05)。【考察】退院前の患者教育が心不全増悪による1年以内の再入院率を有意に低下させた。患者教育群は教育を実施しなかった対照群と比較し,再入院率が19.8%低下した。心不全患者は心不全増悪の要因として,塩分・水分制限の不徹底や過活動,治療薬の不徹底,感染などの予防可能な因子が上位を占め,心筋虚血や不整脈といった医学的要因よりも多いことが知られている。過活動の制限に関しては,嫌気性代謝閾値(AT)を超えての運動・活動の持続がダブルプロダクトの上昇による心負荷となり心不全増悪の要因となるが,運動耐容能の低下した症例では日常生活活動で容易にAT強度を超えるため,過活動となる機会が多いことが予想される。先行研究において報告されている心不全増悪による再入院に影響を及ぼす因子にはベースライン時で有意差を認めなかったことから,運動指導を含めた患者教育により患者自身が体重管理や過活動の制限,塩分・水分制限,服薬の遵守,感染予防などを実施できたことが再入院率の低下に影響したと考えられる。【理学療法学研究としての意義】心不全患者自身による管理能力が再入院予防において重要であることが示唆されているが,多職種による患者教育を実践している医療機関は少ないのが現状である。一方で,理学療法士が心不全患者に関わる場面は,今後さらに増加することが予想され,心不全管理に関する一般的事項を患者自身およびその家族に指導することは心不全増悪による再入院率を低下させ,さらにQOLを改善する可能性を有している。理学療法士はその一翼を担っており,本研究の結果から理学療法士の立場から患者教育を実践することが再入院率低下に有効であると示唆された。
著者
柴田 哲男 大草 重康
出版者
公益社団法人地盤工学会
雑誌
土質工学会論文報告集 (ISSN:03851621)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, 1978-06-15

ソ連の土質工学発展の過程と現状を紹介したものである。まず革命前のロシアにおける科学技術の発達とソ連の地盤, 地質条件の特徴を簡単に説明し, ついで1928年から始まる第1次5か年計画以後, ソ連の国土開発とともに発展してきたソ連土質工学における顕著な研究と著書および, 積極的に行なわれていた海外の研究の導入について述べている。次に, ソ連の土質・基礎工学の分野で指導的な役割を果たしている『基礎および地下構造物研究所』の機構と研究方向および研究テーマを紹介し, ついで, 1959年から出版されている論文誌『地盤, 基礎および土質力学』の論文内容, 論文数について述べて研究の動向を示している。最後に, 近年のソ連における研究として, ソコロフスキーの塑性論, ベレザンツェフの極限平衡理論による基礎の沈下計算, スナルスキーの円形基礎下における地盤内応力と変形問題に対する研究, そして, フローリンからザレッツキーに至る力学モデル, およびクイの負の摩擦力の研究, FEMの応用などの特徴的な研究について簡単に紹介している。
著者
徳永 恵津子 柴田 哲男
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.330-334, 2020 (Released:2020-04-01)
参考文献数
22

サリドマイドの催奇形性はS型の光学異性体に起因し, R型サリドマイドは催奇形性を持たない.しかし,R型のサリドマイドであっても,生体内でS型とR型の等量混合物(ラセミ体)に変化してしまうことから,サリドマイドは現在もラセミ体で流通している.では,ラセミ化するにもかかわらず,なぜ,R型サリドマイドには催奇形性が見られなかったのか.一筋縄ではいかない光学異性体の挙動に迫る.
著者
柴田 哲男 融 健 中村 修一
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

有機化合物へフッ素原子を導入するための試薬や方法論は多数開発されているが,現在知られている含フッ素医薬品は,ベンゼン環や複素環などの芳香族上の水素原子をフッ素に置換した例ばかりが目立ち,含フッ素ステロイド医薬品に代表されるような不斉中心にフッ素原子を有する医薬品や農薬品は少ない。これは,不斉中心にフッ素を選択的に導入する実用的な不斉フッ素化試薬やフッ素化反応がないことにも起因する。我々はこの問題に取り組み,これまでの研究例から完全に脱却した,キナアルカロイド/Selectfluor試薬を開発することに成功した。この試薬は,2種の市販試薬を有機溶媒中で混合するだけで簡単に調整出来るキラルフルオロアンモニウム塩である。簡便に反応を実施でき,適応範囲が広く,しかも不斉収率は従来法に比べ格段に高いなど,これまでにはない優れた性能を備えていた。本方法は,試薬という性格上,キナアルカロイドを化学量論量使用する必要がある。我々がこの研究を発表した直後に,Togniらによって初めての触媒的不斉フッ素化反応が報告された。彼らはβ-ケトエステルのフッ素化反応において,チタン/酒石酸を触媒に用いることにより,二点配位型の錯体を経由し,高エナンチオ選択性でフッ素化体が得られることを見出した。選択性については,まだ改善の余地が残されていたが,その後このアプローチは袖岡らのPd錯体を用いる方法により劇的に改善された。鎖状構造から環状構造までバリエーションに富んだβ-ケトエステル類の不斉フッ素化反応を,すべて90%ee以上の選択性で実現した袖岡らの方法は,この分野を一挙に完成にまで近づけた。この研究成果に刺激され,我々は,もう一歩踏み込んだ新しいフッ素化反応が出来ないものかと模索し始めていた。アミノ酸より簡便に合成できるビスオキサゾリン型触媒は,世界中で汎用されるキラル触媒の一つで,その不斉合成への実績は大きい。そこで,この触媒を活用した新しいフッ素化反応の開発を目指すこととした。着手して数ヶ月後,β-ケトエステル類の触媒的不斉フッ素化反応において,金政らの開発したDBFOX触媒とニッケル触媒が最適であることを見っけた。その不斉収率はこれまでに一度も達成されなかったことのなかった99%eeを記録しただけでなく,オキシインドール類の不斉フッ素化まで可能にすることとなった。
著者
柴田 哲男
出版者
名古屋工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

フルオロメチル基の特異的性質が医薬品の薬理効果発現や増強など好ましい結果をもたらすという事実からフルオロメチル基、特にトリフルオロメチル基含有化合物の合成研究に注目が集まっている。その主流となる方法は、今から四半世紀前に開発された求核的トリフルオロメチル化剤(Me3SiCF3、Rupert試薬)あるいは求電子的トリフルオロメチル化剤(梅本試薬)を用い、触媒存在下でトリフルオロメチルを導入する二つのタイプに大別することが出来る。今年になっても新しい触媒を用いたトリフルオロメチル化法が続々と発表されているが、実用的トリフルオロメチル化法にはほど遠い。特にトリフルオロメチルカチオン(^+CF_3)等価体を用いる求電子的トリフルオロメチル化反応は、求核的な方法に比べ、検討された形跡は格段に少ない。その原因は、トリフルオロメチルアニオンの場合以上に、利用可能な試薬に制限があることである。これまで報告されている求電子的トリフルオロメチル化試薬として、S-(トリフルオロメチル)ジベンゾチオフェニウム塩、ペルフルオロアルキル化剤としてRf-I(C_6H_5)OSO_2CF_3(FITS反応剤)が挙げられる。近年では、Togniらによって超原子価ヨウ素を用いた求電子的試薬や梅本らによるオキソニウム塩も報告されている。しかしながら、これら試薬のうち、一部は市販もされてはいるものの、求核種に対する反応性は乏しい。そこで我々はスルホキシイミン型新試薬を開発した。この試薬は、取り扱い容易で安定な結晶であるにも関わらず、特に炭素求核種に対して高い反応性を示す良好な試薬である。硫黄及び窒素を最高原子価状態にすることで安定性を付与し、求核剤存在下では低原子価に戻る性質を反応起爆要因とした。