著者
武田 正倫 斉藤 寛 窪寺 恒己 松浦 啓一 町田 昌昭 A.AZIZ W.W.KASTORO M.KASIM Moosa 松隈 明彦
出版者
国立科学博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

平成4年度においては、平成4年11〜12月および平成5年1〜2月にアンボン島において、現地研究者の協力を得て、魚類・棘皮動物、軟体動物、魚類寄生虫、甲殻類の調査を行った。各動物群とも、多数の標本を採集して国立科学博物館へ持ち帰った。平成5年度においてはロンボク島各地を主調査地とし、補助的にスラウェシ島メナドにおいても調査を行った。調査方法は前年度と同様で、磯採集やキューバダイビングによって採集を行った。したがって、調査は主として潮間帯から水深20〜30mに達する珊瑚礁域で行われたが、その他、砂あるいは砂泥地においても各種動物を調査、採集した。魚類はおよそ2000点の標本を得、また、棘皮動物の標本はヒトデとクモヒトデ類を主として千数百点に上るが、すでに同定が行われたアンボン島産のクモヒトデ類は9科25種であった。軟体動物はロンボク島において多板類14種、大型腹足類約170種、二枚貝類約60種が採集された。このうち多板類は12種が日本南西部に分布する種と同種か、極めて近縁な種であり、その中の2種は新種と考えられる。また、頭足類は3科5種に同定された。甲殻類の標本数はおよそ1000点に達するが、造礁サンゴと共生する種の多くは琉球列島にも分布するものである。分類と分布だけでなく、生態に関しても特に興味深いのは、ウミシダ類やナマコ類と共生するカニ類で、数種の新種が確認された。魚類寄生虫に関しては、市場で新鮮な魚類を購入し、鰓や消化管に寄生する単生虫・二生虫・条虫・線虫、鉤頭虫・甲殻類を取出し、圧平標本や液浸標本として固定保存した。多くのものは沖縄と共通すると思われるが、ボラやボウズコンニャクの食道や腸から得た旋尾線虫や二生虫類に新種が発見された。すでに論文として、あるいは口頭で発表したものもあるが、分類学的研究が終了したものから順次国立科学博物館研究報告、動物分類学会誌あるいはそれぞれの動物群を対象とした専門誌に報告する予定である。
著者
Ng Peter K.L. 武田 正倫
出版者
日本動物分類学会
雑誌
動物分類学会誌 (ISSN:02870223)
巻号頁・発行日
no.47, pp.29-32, 1992-06-25

イワガニ科の中で,完全な淡水生活をするのはGeosesarma属のカニ類だけで,東南アジアを中心に,現在までおよそ32種が知られている.分布の北限にあたるフィリピンからはルソン島北部とパナイ島から1種ずつ記録されているが,1985年に国立科学博物館によって行われた学術調査の際にミンダナオ島で採集された3雄,4雌は両種とは明らかに異なっていた.これらの7個体の標本においては,第3顎脚外肢の鞭が完全に退化しており,この点に関してはG.malayanum NG et Limの種群に属す.しかし,甲と鋏脚の特徴が既知種とは異なることから,新種としてG,protosの学名を与えた.
著者
Ng Peter K.L. 武田 正倫
出版者
国立科学博物館
雑誌
Bulletin of the National Science Museum. Series A, Zoology (ISSN:03852423)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.111-116, 1993-09

The identity of the poorly known Philippine freshwater crab, Telphusa cumingii, is clarified on re-examination of the type in the British Museum. The species, briefly described by MIERS in 1884 and never reported since, has been regarded as belonging to the superfamily Gecarcinucoidea, and allied to species like Sundathelphusa picta and Holthuisana transversa. Telphusa cumingii in fact, belongs to the superfamily Potamoidea, family Potamidae, in the recently established genus Ovitamon NG et TAKEDA, 1992.
著者
加瀬 友喜 田吹 亮一 速水 格 武田 正倫 遠藤 一佳 千葉 聡
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1.海底洞窟特有のソビエツブ科巻貝の2新属4新種、クチキレエビスガイ科の1新属2新種、従来全く知られていない殻形態を示す1新属1新種(Pluviostillac palauensis)を発見、報告した。2.海底洞窟のシラタマアマガイ属巻貝の殻体を検討し,2新種を含む6種を識別し,コハクカノコガイ属と単系統群(コハクカノコガイ科)を構成することを明らかにした.また、それらの軟体の解剖学的研究を進め、殻体による結果を支持した。3.マーシャル島の化石種を検討し,この種はシラタマアマガイ属に近縁な新属であることを明らかにし,同類が中新世には既に海底洞窟のような環境に適応していたことを示した.4.海底洞窟のシラタマアマガイ属と河川に生息するコハクカノコガイ類の殻体および軟体の解剖学的研究を進めた。また、両者の環境を繋ぐanchialineやhyporheic環境から多くの未知のコハクカノコガイ類を発見し、それらを分類学的に検討し、2新属を認めた。5.コハクカノコガイ類を含むアマガイ上目の解剖と分子系統学的研究から、同目は複数回地上環境へ進出し、また、コハクカノコガイ類は海底洞窟などの隠生的な環境に適応した後、anchialineやhyporheic環境、さらに地上の河川に進出したことを明らかにした。6.海底洞窟及びanchialine環境の微小甲殻類のカラヌス目Ridgewayia属の1新種を見いだした。この種は北大西洋や地中海の種に近縁であることが強く示唆された.また、アミ目のHeteromysoides属とHeteromysis属の4新種、BochusaceaのThetispelecaris属の1新種を見いだした。Thetispelecaris属の新種は同属の2番目の記録であり、その由来は海底洞窟から深海に進化したことが示唆された。
著者
武田 正倫
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.7, pp.69-99c, 1976-02

オウギガニ科の種の同定は難かしいことに定評があるが,これは種類が多く,形態的にも変化に富んでいるため,近縁種を見い出すことに相当の経験を必要とするからでろあう。種類が多いことは当然古来からの文献が多いことも意味し,各種の異名の整理や文献の入手もなかなか思うにまかせない。これらの前提条件がある程度かなえられれば,種の同定自体は決して難かしくはないが,属以上の系統分類には多くの種を調べる必要があり,困難な問題が多い。オウギガニ科の属に関しては,最近の傾向として,パリ自然史博物館のD.GUINOT女史やすでに引退したR.SERENE博士が主として追及しているように,雄の第1腹肢による細分が著しい。さらに上位の体系として口腔部に位置する出水溝の形成の有無によって,無溝類と有溝類に分けられることが多い。しかし,これは亜科よりももっと広い意味をもっていることは明らかで,他の科と比較すれば,それぞれXanthidaeとPilumnidaeとして科に昇格させることも可能ではないかとさえ考えられる。オウギガニ科に関してもっとも重要な貢献をしているALCOCK(1898)は無溝類を3亜科に,有溝類を4亜科に細分しているが,有溝類はその後BALSS(1932)によって3亜科にまとめられている。本報告ではパラオ諸島産のカニ類にもとづいて,1試論として14亜科に細分したが,とくに無溝類の亜科に異論があるものと思われる。Actaeinae, Carpiliinae, Chlorodiinae, Cymoinae, Etisinae, Euxanthinae, Galeninae,XanthinaeおよびZosiminaeの9亜科は無溝類の特徴を,Eriphiinae, Pilumninae, Polydectinae, PseudoziinaeおよびTrapeziinaeの5亜科は有溝類の特徴をもつ。これらを一応系統順に解説するが,ここでは紙面の都合によりCarpilinaeとXanthiinaeのみを扱っている