著者
浅川 康吉 市橋 則明 羽崎 完 池添 冬芽 樋口 由美
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.75-79, 2000-05-31 (Released:2018-09-25)
参考文献数
14
被引用文献数
5

踏み台昇降訓練における踏み台の位置や高さの設定が,立脚側の股関節周囲筋の筋活動量に与える影響について筋電図学的検討を行った。対象は健常男性13名(25.9 ± 3.8歳)で,股関節周囲筋として大殿筋,中殿筋,内転筋,大腿筋膜張筋,および大腿直筋を選択した。踏み台昇降動作は,前方,後方,側方の踏み台の位置と,10cm,20cm,30cmの高さを組み合わせた計9通りで行った。統計学的分析には二要因とも対応のある二元配置分散分析を用いた。その結果,踏み台の位置は中殿筋,大腿筋膜張筋の筋活動に影響し,踏み台の高さは大殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋の筋活動に影響していた。内転筋と大腿直筋には交互作用が認められた。股関節周囲筋では,踏み台昇降訓練における踏み台の位置や高さの影響が各筋ごとにそれぞれ異なると考えられた。
著者
池添 冬芽 浅川 康吉 島 浩人 市橋 則明
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.232-238, 2007-08-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
38
被引用文献数
14

加齢に伴い,ヒト骨格筋においては筋張力が低下するだけでなく,筋厚,羽状角など筋の形態的特徴も変化する。近年では超音波法により簡便に筋の形態的特徴を調べたり,固有筋力を推定することが可能になったものの,高齢者を対象とした研究は少ない。本研究では大腿四頭筋の形態的特徴や筋力の加齢による変化について明らかにすること,ならびに高齢者の筋力低下に影響を及ぼす因子について検討を行うことを目的とした。超音波診断装置を用いて,外側広筋部での大腿四頭筋の筋厚および羽状角の測定を行った。また,大腿四頭筋の筋厚と大腿周径から筋横断面積の推定値を求め,さらに膝伸展筋力をこの筋横断面積で除した固有筋力指数を求めた。その結果,高齢女性では若年女性と比較して大腿筋厚や筋横断面積で約1/2,膝伸展筋力では約1/3に有意に減少することが確認された。また高齢女性において,膝伸展筋力と年齢との間に有意な相関がみられ,筋厚や筋横断面積と年齢との問には相関がみられなかった。これらのことから,大腿四頭筋では筋量よりも筋力の方が相対的に加齢による低下の程度が大きいことが示された。固有筋力指数も高齢者では若年者より有意に低い値を示し,加齢による筋力低下は筋量以外に神経性因子の変化が関与していることが推察された。さらに,高齢者の固有筋力指数は変動係数が56%と高く,筋力発揮に関わる神経性因子は,高齢者では個人差が拡大することが示唆された。
著者
井上 拓也 伊藤 浩充 池添 冬芽 小林 紗織 傍島 崇史 市橋 則明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.617-622, 2010-07-15

要旨:本研究の目的は,ブリッジ運動における足部の高さと頭部の位置が体幹・股関節伸展筋の筋活動に及ぼす影響について検討することである.対象は健常成人30名とした.脊柱起立筋胸椎部,脊柱起立筋腰椎部,大殿筋,大腿二頭筋の筋活動量,ならびにこれら主動筋間の筋活動比を算出した.ブリッジ運動は,頭部を挙上させない通常の場合と,頭部を挙上させて行う場合の2つの条件下で,足部の高さを床面から-20cm,0cm,20cmと変化させた.その結果,足部を高くすることで脊柱起立筋胸椎部・腰椎部の筋活動量は増加した.一方,足部を低くすることで大殿筋の筋活動量は増加し,脊柱起立筋腰椎部と大腿二頭筋に対する大殿筋の筋活動比はともに高まった.また,頭部を挙上させることで大殿筋の筋活動量は増加し,脊柱起立筋に対する大殿筋の筋活動比および脊柱起立筋胸椎部に対する腰椎部の筋活動比も高まった.本研究の結果から,ブリッジ運動において足部高を変化させ,あるいは頭部を挙上させることで,主動筋群内のより選択的なトレーニングが可能であることが示唆された.
著者
中本 順 傳 秋光 松本 大輔 西山 花生里 池添 冬芽 田野 香菜 松井 尋美 中山 知未 坂元 真由美 山下 修司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.D0482, 2006

【目的】<BR>今日わが国の慢性透析患者は20万人を超え、さらに透析療法の進歩により、透析治療の長期化、透析者の高齢化といった新たな問題が生じている。また、透析患者の主な原疾患は糖尿病性腎症が第1位となった。こういった背景から、昨今、慢性腎不全血液透析患者(以下、CRF-HD患者)に対するリハビリテーション医療の考え方が適用されつつある。そこで、今回我々はCRF-HD患者に対するリハビリテーション医療のための基礎検討として、CRF-HD患者の日常の運動量とQOLの実態を検討した。併せて、透析導入となった原疾患(慢性腎炎&lsaquo;非DM群&rsaquo;と糖尿病群&lsaquo;DM 群&rsaquo;)により差があるのか、あるとすればどのような差異がみられるのかを検討した。<BR>【方法】<BR>対象は、姫路市内の某病院で外来維持透析を受けている、調査に同意したCRF-HD患者で、50〜60歳男性13名である。透析導入となった原疾患(慢性腎炎&lsaquo;非DM群&rsaquo;と糖尿病群&lsaquo;DM群&rsaquo;)の2群に分類した。4週間以上装着されたLifecorder EXデータとSF-36の下位尺度項目評価データなどを、Peasonの相関係数、unpaired Student-t検定で検討した。<BR>【結果】<BR>1)両群の年齢、透析期間、体格、ルーチン血液検査には有意差を認めなかった。2)全体的(n=13)には、身体機能と運動量(1日平均消費カロリー)は正相関した(R=0.738, p=0.0039)。しかし、群別では非DM群(n=6)では相関せず(R=0.593, p=0.215)、DM群(n=7)で正相関した(R=0.821, p=0.0237)。3)身体機能などでは非DM群と有意差なし(身体機能;DM: 60±16.33S.D., 非DM:72±17.664S.D., p=0.2294)にも関わらず、DM群では全体的健康観のみが有意に低かった(DM: 34.282±4.499S.D.,非DM:42.5±7.583S.D., p=0.0339)。4)非DM群とDM群間には、運動量に有意差は認めなかった(非DM:85.833±37.706 Cal/day,DM群:61.143±56.893 Cal/day,)。(1日平均歩数は、非DM:3577±1497歩, DM群:2328±1794歩と有意差は認めなかった。)<BR>【結論】<BR> 1)今後は自己判断の身体機能を実際に心肺持久力などの体力検査で検討し、可能な症例には体力改善を通じて自信をつけさせ、DM群のQOL改善を図ることが重要と考えられた。2)透析導入後の運動制限継続は昨今否定され、運動による透析合併症予防効果も期待されつつある。健常人の健康維持向上には、1日1万歩が推奨されている。従って、透析患者は非DM 、DMに関わらず可能な限り運動量を増加させる必要があり、適切な運動処方を作成して実践し検証する必要があると考えられた。<BR>
著者
中村 雅俊 池添 冬芽 梅垣 雄心 西下 智 小林 拓也 藤田 康介 田中 浩基 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

<b>【はじめに,目的】</b>臨床において,腸腰筋の短縮による股関節伸展制限や股関節屈曲拘縮は問題となることが多く,腸腰筋の伸張性を維持・改善するためにストレッチングがよく行われている。ストレッチングの基本的な方法は筋の作用と反対方向へ伸張することであり,腸腰筋のストレッチングとしては股関節を伸展する方法がよく用いられている。しかし,腸腰筋には股関節屈曲作用に加えて,腸骨筋では股関節外転および内旋,大腰筋では股関節内転および外旋作用があると報告されている。そのため,股関節伸展に加えて股関節の内・外転もしくは内・外旋を加えることで,より腸腰筋は伸張される可能性が考えられる。近年,せん断波エラストグラフィー機能により,組織に伝わるせん断波の速度を測定し,組織の硬度(弾性率)を算出することが可能になり,弾性率は筋の伸張の程度を反映していることが報告されている。そのため,この弾性率は腸腰筋のような深部筋の伸張程度を非侵襲的に評価できる有用な指標とされている。本研究の目的は,股関節伸展に股関節内・外転や内・外旋を加えることで腸腰筋をより伸張できるかどうかを明らかにすることである。<b>【方法】</b>対象は下肢に神経学的及び整形外科的疾患を有さない健常若年男性10名(平均年齢23.6±2.2歳)の利き脚(ボールを蹴る)側の腸腰筋とした。対象者をベッド上,背臥位にて安静にした安静時と,ストレッチング肢位は反対側の股関節を最大屈曲することで骨盤を後傾位に固定し,検査側の膝関節は大腿直筋の伸張の影響を考慮し,軽度屈曲位とした状態を基準とした。その後,対象者が痛みを訴えることなく最大限耐えうる角度まで他動的に股関節伸展する条件(伸展)と対象者が最大限耐えうる角度まで股関節内転,外転,内旋・外旋した状態から最大限股関節伸展する条件(内転,外転,内旋,外旋)の計5条件とし,安静を加えた6条件の施行は無作為の順番で行った。腸腰筋の弾性率(kPa)の評価は,SuperSonic Imagine社製超音波診断装置のせん断波エラストグラフィー機能を用い,大転子の高さの鼠径部で腸腰筋を同定し,測定を行った。弾性率の測定は各条件2回ずつ行い,その平均値を解析に用いた。弾性率は筋の伸張の程度と高い相関関係を示すことが報告されており,弾性率が高いほど,筋は伸張されていることを意味している。統計学的検定は,各条件における腸腰筋の弾性率をBonferroni補正におけるWilcoxon符号順位検定を用いて比較した。なお,有意水準は5%未満とした。<b>【倫理的配慮,説明と同意】</b>本研究は所属施設の倫理委員会の承認を得て(承認番号E-1162),文書および口頭にて研究の目的・趣旨を説明し,同意を得られた者を対象とした。<b>【結果】</b>腸腰筋の弾性率は安静時24.6±19.4kPa,伸展71.7±45.0kPa,内転60.9±27.2kPa,外転78.3±45.1kPa,内旋115.8±49.9kPa,外旋93.5±45.7kPaとなった。統計処理の結果,安静時に対して伸展,内転,外転,内旋,外旋のすべてのストレッチング条件で有意に高値を示した。また,伸展の弾性率と比較すると,内旋では有意に高値を示したが,内転と外転および外旋では有意差は認められなかった。<b>【考察】</b>本研究の結果,安静時と比較して全てのストレッチング条件で弾性率は有意に増加したことから,本研究で用いたストレッチング肢位はいずれにおいても腸腰筋を伸張することが可能であることが明らかとなった。また,伸展と比較して内旋で有意に増加したことから,一般的によく用いられている腸腰筋のストレッチング法である股関節伸展方向へのみのストレッチングよりも股関節伸展に内旋を加えることで,より腸腰筋を伸張できることが示唆された。その理由として,腸腰筋のなかで大腰筋は股関節外旋作用を持つと報告されており,股関節伸展に内旋を加えることで大腰筋がより伸張された可能性が考えられる。一方,他の肢位で腸腰筋がより伸長出来なかった理由として,腸骨筋は安静時には外転の作用があるが,内転すると内転作用に変化するため,内転することで腸骨筋が緩んだ可能性が考えられる。また,股関節伸展に外転・外旋を加えると腸骨大腿靭帯が伸張されるため,股関節伸展に外転や外旋を加えたストレッチング条件の最終可動域では腸腰筋よりも腸骨大腿靭帯が伸張され,腸腰筋の弾性率の増加にはつながらなかった可能性が考えられる。<b>【理学療法学研究としての意義】</b>臨床において腸腰筋のストレッチングは股関節伸展が用いられることが多いが,股関節伸展に内旋を加えることで,より効果的に腸腰筋を伸張することができることが示唆された。
著者
中村 雅俊 池添 冬芽 梅垣 雄心 西下 智 小林 拓也 田中 浩基 藤田 康介 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0402, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】スタティックストレッチング(SS)は筋の柔軟性の改善を目的として広く用いられている。SSが筋の柔軟性に与える影響については,関節可動域(ROM)を指標として検討されることが多い。しかし,ROMは対象者の痛みに対する慣れなどの影響があるため,近年では関節を他動的に動かした時に生じる受動トルクあるいは受動的トルクと関節角度との関係(角度―トルク曲線)から求めた筋腱複合体(MTU)全体のスティフネスを柔軟性の指標として用いることが推奨されている。我々は腓腹筋MTUを対象にSSが受動トルクに及ぼす影響を経時的に検討し,腓腹筋の柔軟性を増加させるには最低2分間以上のSS時間が必要であることを報告した(Man Ther, 2013)。しかし,筋の柔軟性を増加させるために必要なSS時間については対象筋によって異なる可能性が考えられる。そこで本研究は臨床においてSSを行う機会が多いハムストリングスを対象筋とし,5分間のSSがハムストリングスMTUに及ぼす影響を経時的に検討し,ハムストリングスの柔軟性を増加させるために必要なSS時間について明らかにすることを目的とした。【方法】対象は下肢に神経学的及び整形外科的疾患を有さない健常若年男性15名(平均年齢23.4±2.2歳,股関節90°屈曲位での膝最大伸展角度-33.4±6.1,最大膝伸展時の受動的トルク40.6±11.4Nm)の利き脚(ボールを蹴る)側のハムストリングスとした。スティフネスの評価は等速性筋力測定装置(Biodex社製Biodex system 4.0)を用い,背臥位にて骨盤を軽度前傾位に固定した状態で,股・膝関節90°屈曲位から痛みが生じる直前まで角速度5°/秒で他動的に膝関節を伸展させた際に得られる膝屈曲方向に生じる受動トルクの計測を行った。この受動トルクと膝関節角度との角度―トルク曲線を求め,先行研究に従って最終10%の角度範囲の傾きをスティフネス(Nm/°)と定義した。SSは等速性筋力測定装置を用い,スティフネスの測定と同様に股関節90°屈曲位で膝関節を伸展していき,痛みが生じる直前の膝関節角度で1分×5回(計5分間)のSSを行った。SS開始前(SS前)とSS開始後1分毎にスティフネスの評価を行った。なお,SS開始後のスティフネスの評価,すなわち最終10%の角度範囲での角度―トルク曲線の傾きの算出については,SS前と同様の角度範囲を用いた。統計学的処理は,SS前とSS後1分毎のスティフネスについて,一元配置分散分析とScheffe法における多重比較検定を用いて比較した。有意水準は5%未満とした。なお,結果は全て平均±標準誤差で示した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属施設の倫理委員会の承認を得て(承認番号E-1877),文書および口頭にて研究の目的・主旨を説明し,同意が得られた者を対象とした。【結果】ハムストリングスのスティフネスはSS前:1.23±0.24Nm/°,SS後1分:1.14±0.17Nm/°,SS後2分:1.08±0.16Nm/°,SS後3分:0.90±0.18Nm/°,SS後4分:0.83±0.16Nm/°,SS後5分:0.74±0.11Nm/°であった。一元配置分散分析の結果,スティフネスに有意な変化が認められ,多重比較の結果,SS前と比較してSS後3,4,5分目で有意に低値を示した。さらに1分目と比較して4,5分目,2分目と比較して5分目で有意に低値を示した。【考察】本研究の結果,スティフネスはSS前と比較してSS後3,4,5分目で有意に低値を示したことから,SS開始後3分目以降でハムストリングの柔軟性向上効果が得られることが示された。我々は腓腹筋の柔軟性を増加させるためには最低2分間のSSが必要であることを報告しており,ハムストリングスの柔軟性を増加させるために必要なSS時間と乖離がある。その要因としては,筋の断面積の違いと耐えうる最大の受動的トルク,つまりSS強度に違いがあることが関連していると考えられる。筋の断面積ではハムストリングスの方が腓腹筋よりも大きく,SS強度に関しては腓腹筋の方がハムストリングスよりも強かった(腓腹筋:49.4±12.4Nm,ハムストリングス:40.6±11.4Nm)。これらの結果より,ハムストリングスは腓腹筋よりも断面積が大きく,弱い強度でのSSしか行えなかったため,柔軟性を増加させるためには腓腹筋よりも長い時間である3分間のSS時間が必要になった可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】理学療法分野においてSS介入を行うことが多いハムストリングスの柔軟性を増加させるために必要なSS時間を検討した結果,最低3分のSS時間が必要であることが示唆された。
著者
池添 冬芽 中村 雅俊 佐久間 香 塚越 累 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】筋力トレーニングの方法として,運動速度をゆっくりとするスロートレーニングと運動速度を素早くするパワートレーニングがあるが,どちらの筋力トレーニング法が高齢者の運動機能や筋特性,歩行能力,活動量,精神心理機能の改善に効果的であるかを多面的に検討した報告はみられない。本研究の目的はスロートレーニングとパワートレーニングのどちらが高齢者の機能向上に有効であるかを明らかにすることである。【方法】対象は京都市介護予防事業に参加した地域在住高齢者59名のうち,介入前後の測定会に参加できた51名(男性5名,女性46名,年齢77.9±5.6歳)とし,スロートレーニングを実施するスロー群,パワートレーニングを実施するパワー群,トレーニングを実施しない対照群の3群に分類した。なお,測定に大きな影響を及ぼすほど重度の神経学的・筋骨格系障害や認知障害を有する者は対象から除外した。スロー群およびパワー群には週1回8週間の理学療法士監視型の筋力トレーニングを実施した。また,この監視型トレーニング以外に,家庭での自主トレーニングとして同様の運動プログラムを実施するよう指導した。運動強度は主観的運動強度で「ややきつい」程度とした。筋力トレーニングは6種目(立ち座り動作,立位で股関節屈曲・伸展・外転など)の下肢筋力トレーニングを実施した。スロートレーニングでは求心性・遠心性フェーズともに5秒かけて運動を行った。パワートレーニングでは求心性フェーズはできるだけ速く動かし,遠心性フェーズでは2秒かけて運動を行った。両トレーニングともに反復回数は各種目につき10回とした。運動機能として筋力(膝伸展筋力,握力),バランス(片脚立位保持時間,ファンクショナルリーチ,ラテラルリーチ),柔軟性(長座体前屈),敏捷性(立位ステッピング)を評価した。歩行特性として多機能三軸加速度計を用いて最大努力歩行時の速度,ケーデンス,ストライド長,立脚期時間の左右非対称性,歩行周期変動性を評価した。筋特性として超音波診断装置を用いて大腿四頭筋の筋厚および筋輝度を測定し,それぞれ筋量および筋の質(筋内の非収縮組織の割合)の指標とした。また,Life Space-Assessment(LSA)により生活空間を評価した。歩行量として3軸加速度センサーを用いて1週間分の記録データから1日あたりの平均歩数と歩行時間を求めた。精神心理機能として,Geriatric Depression Scale-15(GDS-15)により抑うつ状態,転倒に対する自己効力感スケール(Fall Efficacy Scale;FES)により転倒恐怖感の程度を評価した。統計学的検定として,各群における介入前後の比較には対応のあるt-検定,各測定項目の群間比較には多重比較検定を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】すべての対象者に研究に関する十分な説明を行い,書面にて同意を得た。なお,本研究は本学医の倫理委員会の承認を得て行った(承認番号E-1581)。【結果】3群の年齢,身長,体重に有意差はみられなかった。週1回の監視型トレーニング以外に自主トレーニングをスロー群では2.7±1.9日/週,パワー群では3.4±1.4日/週行っており,この実施率に2群で有意差はみられなかった。運動機能の変化について,膝伸展筋力は対照群では変化がみられなかったが,スロー群とパワー群では介入後に有意な増加がみられ,両群の筋力増加率に有意差はみられなかった。膝伸展筋力以外の運動機能はいずれの群も変化がみられなかった。また,スロー群,パワー群ともに筋厚の有意な増加および筋輝度の有意な減少がみられ,筋厚および筋輝度の変化率に両群で有意差はみられなかった。歩行特性はスロー群の立脚期左右非対称性と歩行周期変動性のみ有意に減少した。生活空間や歩行量,抑うつ状態や転倒恐怖感は3群いずれも変化がみられなかった。【考察】スロー群,パワー群ともに介入後に膝伸展筋力や筋厚,筋輝度の改善がみられ,両群の改善率に有意差はみられなかった。このことから,スロートレーニングとパワートレーニングは筋力や筋量,筋の質の改善に有効であり,その効果は同程度であることが示唆された。それに加えてスロー群においては歩行周期変動性や左右非対称性の改善がみられたことから,歩行特性の改善にはスロートレーニングが有効であることが示唆された。しかし,両トレーニングともに筋力以外の運動機能や生活空間,歩行量,精神心理機能に及ぼす効果は不十分であることが示された。【理学療法学研究としての意義】スロートレーニングとパワートレーニングはともに筋力や筋量,筋の質の改善に有効であり,加えてスロートレーニングは歩行特性の改善にも有効であることが示唆された。
著者
小栢 進也 池添 冬芽 坪山 直生 市橋 則明
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.81-85, 2009 (Released:2009-04-01)
参考文献数
20
被引用文献数
7 5

〔目的〕若年者と高齢者を対象に不安定板および安定した支持面上での立位姿勢制御能力を比較した。〔対象〕若年者14名と施設入所高齢者10名を対象とした。〔方法〕不安定板上で20秒間立位を保持させた時の前後角度変動域,総角度変動,前後変位を測定した。前後角度変動域は角度変動の大きさ,総角度変動は変動した角度の総量,前後変位は平均的な傾斜角度を表す。また重心動揺計を用いて静止立位時の重心動揺面積,総軌跡長,前後方向中心変位および前後随意重心移動距離を計測した。〔結果〕若年者は総角度変動および前後随意重心移動距離のみ高齢者よりも有意に高い値を認めた。〔結語〕高齢者は不安定板の傾斜調整や最大重心移動のような随意的な姿勢制御能力が低下することが示唆された。
著者
永井 宏達 市橋 則明 山田 実 竹岡 亨 井上 拓也 太田 恵 小栢 進也 佐久間 香 塚越 累 福元 喜啓 立松 典篤 今野 亜希子 池添 冬芽 坪山 直生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E2S2007, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】加齢に伴い、筋力、バランス機能、柔軟性、敏捷性といった運動機能の低下がみられ、特に、バランス機能は加齢による低下が顕著であるとされている.近年、高齢者に対するバランストレーニング効果に関する報告が散見されるが、ゆっくりとした動きでのバランストレーニングと素早い動きでのバランストレーニングのどちらの動作速度でのバランストレーニングが効果的であるかは明らかではない.そこで本研究は、施設入所高齢者に対して素早い動きのバランストレーニング(RBT)と、ゆっくりとした動きのバランストレーニング(SBT)の二種類を実施し、その効果の違いを明らかにすることを目的とした.【対象と方法】対象はケアハウスに入所している高齢者41名(男性5名、女性36名、平均年齢:81.9±6.8歳)とし、RBT群(17名:80.8±7.0歳)とSBT群(24名:82.5±6.7歳)に対象者を分類した.なお、対象者には研究についての説明を行い、同意を得た.バランストレーニングとして、片脚立位、前方・左右へのステップ動作、椅子からの立ち上がりなどからなる20分程度の運動プログラムを週2回、8週間実施した.これらのトレーニングを、RBT群には、バランスを保ちながらできるだけ素早く特定の姿勢をとらせ、その後姿勢を保持するようにし、SBT群にはゆっくりとした動きで特定の姿勢まで移行させるように指導した.なお、2群のそれぞれの運動回数および運動時間は統一した.バランス能力の評価として、開眼・閉眼片脚立位保持時間、立位ステッピングテスト(5秒間での最大ステップ回数)、静止立位時の重心動揺面積(RMS)、前後・左右方向の最大随意重心移動距離をトレーニング前後に測定した.2群間のトレーニング効果を比較するために、反復測定二元配置分散分析を行った.【結果と考察】2群間のベースラインのバランス機能に有意差はみられなかった.二元配置分散分析の結果より、トレーニング前後で主効果がみられたバランス項目は、立位ステッピングテストであった(p<.05).このことから、立位でのステップ動作は、バランストレーニングを行う動作速度にかかわらず改善することが明らかになった.また、前後方向の最大随意重心移動距離に交互作用がみられたため (p<.05)、RBT群、SBT群それそれで対応のあるt検定を行った結果、RBT群においてはトレーニング後に前後方向の最大随意重心移動距離の有意な改善がみられたが(p<.05)、SBT群では変化がみられなかった.本研究の結果より、施設入所高齢者においては、素早い動きを伴うようなバランストレーニングを行う方がより多くのバランス機能を改善させる可能性が示唆された.【結語】施設入所高齢者におけるバランス機能向上には、素早い動きのトレーニングが有用である可能性が示唆された.
著者
松原 彩香 池添 冬芽
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.823-827, 2013 (Released:2014-01-21)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2

〔目的〕本研究は若年女性を対象に骨盤底筋トレーニングおよび腹横筋トレーニングを実施し,骨盤底筋・腹横筋機能におよぼす影響を明らかにすることを目的とした.〔対象〕健常若年女性31名を対象とした.〔方法〕対象者を骨盤底筋トレーニング群,腹横筋トレーニング群,コントロール群に分類した.超音波診断装置を用いて骨盤底筋機能および腹横筋機能を測定した.〔結果〕背臥位での骨盤底挙上量の変化量はコントロール群と比較して骨盤底筋トレーニング群および腹横筋トレーニング群において有意に大きい値を示したが,両群間には有意差がみられなかった.〔結語〕骨盤底筋トレーニングと腹横筋トレーニングはいずれも骨盤底筋機能を向上させる効果があり,両トレーニング法に効果の違いはみられないことが示唆された.
著者
荒木 浩二郎 池添 冬芽 田中 浩基 簗瀬 康 森下 勝行 中尾 彩佳 磯野 凌 神谷 碧 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1306, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】筋力トレーニング直後に生じる筋厚の増加(筋腫張)は血流増加,血管透過性亢進による組織間液増加に起因し,筋肥大に必要な低酸素状態や代謝物蓄積の程度を反映すると考えられている。我々は高齢者を対象に最大等尺性筋力の10%の負荷での膝関節伸展運動を10回1セットとして5セット実施した結果,1~2セット後には筋腫脹がみられず,3セット以降から筋腫脹が生じることを報告した(第2回基礎理学療法学会,2015)。筋腫張は筋肥大を引き起こす重要な要素とされているが,筋腫脹が生じる最低限の運動量でトレーニング介入をした場合に筋肥大効果が得られるかは明らかではない。そこで本研究では高齢者を対象に,最大等尺性筋力の10%の負荷で筋腫張が生じる最低限の運動量を用いて12週間の低強度筋力トレーニング介入を実施し,介入効果が得られるか検討した。【方法】対象は健常高齢者26名(男性3名,女性23名,年齢75.0±4.2歳)とし,介入群13人,対照群13人にランダムに割り付けた。介入群のみ週3回(1回監視下運動,2回自主練習),12週間の低強度膝伸展筋力トレーニングを実施した。運動負荷として,椅子坐位,膝関節90°屈曲位で測定した最大等尺性筋力の10%の重錘を用いた。膝関節屈曲90°から0°の範囲での膝関節伸展運動(求心相3秒,保持3秒,遠心相3秒)を10回1セットとし,3セット行なった。セット間の休息は1分とした。介入前後に筋力,筋厚を測定した。筋力の測定には筋力計(OG技研製マスキュレーターGT30)を用いて椅子坐位,膝関節30,60,90°屈曲位で最大等尺性膝関節伸展筋力を測定した。筋厚の測定には超音波診断装置(フクダ電子社製)を用いて,背臥位,膝伸展位で大腿直筋(RF),中間広筋(VI),外側広筋(VL),内側広筋(VM)の筋厚を測定した。測定部位はRF,VIが上前腸骨棘(ASIS)~膝蓋骨上縁の50%,VLが大転子~大腿骨外側上顆の50%,VMがASIS~膝蓋骨上縁の80%の高さの5cm内側とした。超音波画像は各筋2枚撮影し,平均値を解析に用いた。統計解析は群と時期を2要因とした分割プロットデザインによる分散分析を行なった。なお,有意水準は5%とした。【結果】12週介入後の測定が可能だった介入群12名(男性2名,女性10名,年齢75.9±4.0歳),対照群10名(男性1名,女性9名,年齢73.7±3.3歳)を解析対象とした。低強度筋力トレーニングにおいて用いた重錘の重さは2.2±0.7kgであった。分散分析の結果,すべての膝関節角度の膝関節伸展筋力において交互作用を認めなかった。また大腿四頭筋各筋の筋厚も交互作用を認めなかった。【結論】本研究では先行研究によって明らかとなった最大等尺性筋力の10%の負荷で筋腫脹を生じさせる運動量(セット数)を用いて12週間の低強度筋力トレーニング介入を行っても筋力増強,筋肥大効果は得られないことが示唆された。低強度筋力トレーニングでも効果を得るためには運動量を増やす必要があると考えられる。
著者
池添 冬芽 浅川 康吉 島 浩人 市橋 則明
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.232-238, 2007
参考文献数
38
被引用文献数
10

加齢に伴い,ヒト骨格筋においては筋張力が低下するだけでなく,筋厚,羽状角など筋の形態的特徴も変化する。近年では超音波法により簡便に筋の形態的特徴を調べたり,固有筋力を推定することが可能になったものの,高齢者を対象とした研究は少ない。本研究では大腿四頭筋の形態的特徴や筋力の加齢による変化について明らかにすること,ならびに高齢者の筋力低下に影響を及ぼす因子について検討を行うことを目的とした。超音波診断装置を用いて,外側広筋部での大腿四頭筋の筋厚および羽状角の測定を行った。また,大腿四頭筋の筋厚と大腿周径から筋横断面積の推定値を求め,さらに膝伸展筋力をこの筋横断面積で除した固有筋力指数を求めた。その結果,高齢女性では若年女性と比較して大腿筋厚や筋横断面積で約1/2,膝伸展筋力では約1/3に有意に減少することが確認された。また高齢女性において,膝伸展筋力と年齢との間に有意な相関がみられ,筋厚や筋横断面積と年齢との問には相関がみられなかった。これらのことから,大腿四頭筋では筋量よりも筋力の方が相対的に加齢による低下の程度が大きいことが示された。固有筋力指数も高齢者では若年者より有意に低い値を示し,加齢による筋力低下は筋量以外に神経性因子の変化が関与していることが推察された。さらに,高齢者の固有筋力指数は変動係数が56%と高く,筋力発揮に関わる神経性因子は,高齢者では個人差が拡大することが示唆された。
著者
池添 冬芽 市橋 則明 羽崎 完 森永 敏博
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.59-63, 2001-03-31
被引用文献数
1

本研究の目的は, 段差昇降動作における昇降動作様式の違いおよび下腿の肢位によって, 膝周囲筋の筋活動がどのように変化するかを明らかにすることである。対象は健常女子学生18名であった。測定筋は右下肢の大腿直筋, 内側広筋, 外側広筋, 半膜様筋, 大腿二頭筋とし, 前方昇降動作と後方昇降動作をそれぞれ下腿中間位, 下腿内旋位, 下腿外旋位で行わせたときの筋電図を分析した。前方昇格および後方昇降動作の筋活動量を比較すると, 大腿直筋, 内側広筋, 外側広筋においては前方昇降動作より後方昇降動作の方が有意に大きな筋活動量を示した。また, 下腿の肢位による変化は, 内側広筋, 半膜様筋, 大腿二頭筋において認められ, 内側広筋, 大腿二頭筋では下腿外旋位, 半膜様筋では下腿内旋位で最も大きな値を示した。これらのことから, 段差昇降訓練を行う場合, 段差昇降様式の違いではハムストリングスに対する負荷は変化しないが, 大腿四頭筋に対しては, 前方昇降より後方昇降させる方が大きな負荷量が得られること, さらに内側広筋をより収縮させたい場合には下腿外旋位で段差昇降を行うことが有効であることが示唆された。