著者
斉藤 竜平 赤尾 浩慶 かせ野 健一 野村 祐介 北山 道彦 津川 博一 梶波 康二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.541-544, 2009 (Released:2010-02-08)
参考文献数
9
被引用文献数
3 3

症例は80歳女性.慢性心房細動にて,2003年5月よりワルファリン投与開始.2.0 mg/日でPT-INR:1.6∼2.2で安定していた.最終のPT-INRは2008年5月26日の1.58であった.同年5月末より全身倦怠感,食欲低下を認めたが,近医にて明らかな異常を認めず自宅療養にて経過観察していたところ,血尿を認めたため,6月4日当科外来を受診.PT-INR 12.88と著明な延長を認め,ワルファリン内服を中止のうえ,入院となった.入院時貧血と尿路感染症(E. coli)および低アルブミン血症(Alb:2.2 g/dl)以外には異常は認めなかった.PT-INRの正常化により血尿は消失し,抗生剤治療で尿路感染症の改善を認めた.その後,全身倦怠感の消失とともに食事摂取量は増加し,低アルブミン血症も改善した.最終的に従来と同様の2.0 mg/日内服にて,PT-INR 1.8程度で安定した.本症例は内服コンプライアンスに問題はなく,経過中にワルファリン作用を増強させる薬物の併用,肝·腎障害,悪性腫瘍,甲状腺機能異常は認めなかった.尿路感染症による急性炎症反応と食欲低下によって引き起こされた低アルブミン血症が遊離ワルファリン濃度を上昇させたことが高度のPT-INR延長に関与したと考えられた.一般に,高齢者は体内薬物動態(吸収,分布,肝臓での代謝,VitK依存性凝固因子合成能,腎排泄)の低下に加え,感染や脱水等急激な体内環境変化への反応性が減衰しており,ワルファリン投与に際して注意深いモニタリングが必要であることが示唆された.