著者
渡辺 満久
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100072, 2013 (Released:2014-03-14)

現在、我々は、原子力施設周辺で多数の活断層が存在しているという事実、原子力関連施設の耐震安全性が不十分なまま放置されてきたこという事実に向き合っている。このような事態に陥ったことに関しては、地理学界にも大きな責任がある。 活断層の認定や活動度の評価においては、高度な地形学的見識が必要とされる。しかし、安全審査の場では、「水は高い所に向かっても流れる」と発言する「専門家」や、旧汀線高度異常などに気付かない「専門家」が活断層の評価を担当してきた。また、電力との密接な関係をもつ「専門家」が評価を牛耳ってきたことも問題である。 地形研究者は、上記した問題に対して具体的に提言することができたはずである。しかし、我々がこうした役割を果たしてきたとは到底いえない。問題に気づきつつも、「純粋な研究にこそ意義があり、社会的責任は負わない、負うべきではない」、「そんな議論は大人気ないことであり、相手にしないことだ」といった理由から沈黙を続けた研究者が多かった。原子力政策に係わることを避け、問題から目を反らしてきた研究者も多いと考えている。 能登半島地震、中越沖地震に続き、東北地方太平洋沖地震によって大きな事故が発生した。これらの事故が発生した原因の一つは、耐震性安全審査において地形学の研究成果(地形学そのもの)が蔑にされてきたことにある。これらに対して地形学からの発言が無かったため、活断層の活動性は著しく過小評価され、あるいは活断層の存在自体が無視されてきた。理学は実学ではないとする主張は、一面では理解できる。しかしながら、多くの国民が関心を抱く原子力の問題に対して沈黙すると、学問の存在意義自体が問われかねない。 2012年には原子力規制委員会が発足し、原子力施設の敷地内断層に関する外部有識者として、多くの変動地形研究者が学会から推薦された。有識者会合では積極的に意見が交わされているが、それ以外の場においても変動地形研究者は自らの役割を果たす必要がある。原子力発電所に関わる議論をタブー視してきた過去とは決別すべきである。 ところで、規制委員会での議論では敷地内の断層だけが重視され、問題が矮小化されている可能性が高い。本質的な問題は、どうしてそのような断層が存在しているのかということである。周辺の活断層の性状や敷地を含む空間に起こりうる現象を正確に把握してゆくことが最も重要である。 また最近、日本列島全体を大きく変形させた東北地方太平洋沖地震と津波の発生様式について、地震学的見解とは異なる、海底活断層との関係を重視した変動地形学的新知見が得られている。地震学的に定着した見解に対しても、地形学から積極的に問題提起をしてゆく必要がある。
著者
渡辺 満久
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

1.はじめに下北半島北西部においては、南へ傾動するような地殻変動が進んでおり、MIS 5eの旧汀線高度は大間岬付近では約60m、約10km南方の佐井周辺では約20mまで低下している(渡辺ほか、2012、活断層研究、No.36)。このような高度変化は、四国の室戸岬に見られるものに匹敵し、日本では最大級のものである。また、大間岬周辺には、間欠的隆起が起こっていることを示す隆起ベンチも認められ、その高度も北ほど高い。このような地殻変動をもたらす原因として、大間の北方海域から下北半島北西部の地下へと連続する、低角度の活断層の活動が想定されている(渡辺ほか、2012)。大間原子力発電所は、このような地殻変動が進行している地域の北端部(最も隆起が大きい地域)において建設が進められようとしている。発表者らが上記の事実を指摘するまで、事業者(電源開発)と当時の評価組織は、異常な隆起現象を認識していなかった。現在、事実関係は概ね認めてはいるが、その原因は定常的で緩慢な隆起運動であり、地震性隆起を否定している。しかし、過去80年間の水準点測量結果によれば、そのような地殻変動は進行していないことが明らかにされている(渡辺ほか、2012)。本発表では、大間原子力発電所の敷地内には、多数の「将来活動する可能性のある断層等」が存在することを報告する。現地調査には、平成25~27年度科学研究費補助金(基盤研究(C)研究代表者:渡辺満久)の一部を使用した。2.将来活動する可能性のある断層等大間原子力発電所建設敷地には、MIS 5eとMIS 5cに形成された海成段丘面が分布している。これらの段丘堆積物の基盤を成すのは、後期中新統の易国間層である。易国間層中には、S-10断層・S-11断層・cf-1断層などが確認でき、後期更新統の海成段丘堆積物を変形させている。S-10断層は、電源開発がシームS-10と呼んでいるものであるが、これに沿って変位が生じていることは明らかであり、ここではS-10断層と呼ぶ。S-10断層は、易国間層中の層面すべり断層であり、MIS 5cの段丘堆積物を切断して(変形させて)いる。複数の活動履歴が読める可能性がある。 S-11断層は、S-10断層と同様に、電源開発がシームS-11と呼んでいる断層である。S-11断層も、易国間層中の層面すべり断層であり、MIS 5cの段丘堆積物を切断して(変形させて)いる。電源開発は、変位が生じていることは認めているものの、それらは岩盤の強風化部の変状であるとしている。ただし、そのメカニズムは不明である。cf-1断層は、易国間層を切断する断層である。MIS 5c以降には活動していないことは確認されているが、MIS 5e~MIS 5cの間の活動の有無は確認されていない。また、cf-1断層は、上述のS-10断層を切断している。なお、電源開発の図面では、易国間層上部を切断するcf-1断層が、上部層と下部層の境界で突然消滅するように描かれている。その他、易国間層を切断する、E29断層・E33断層などがあり、MIS 5eの段丘堆積物を切断して(変形させて)いる。3.地盤の安定性上記したように、大間原子力発電所敷地内には、多数の「将来活動する可能性のある断層等」が存在している。S-10は、原子炉予定地の直下、10~20mの位置にある。いくつかの施設は、S-11やE-29などの断層を掘削して建設するように見える。コントロール建屋は,cf-1断層の直上にある。このような不安定な地盤に原子力施設を建設することは合理的であるとは思えない。原子力施設は、理学的に健全な土地を選び、工学的に安全に建設すべきである。なお、電源開発の図によれば、断層の上盤を除去すれば施設への影響を取り除ける、という考えが読み取れる。本当にそれでよいのだろうか?
著者
鈴木 康弘 堤 浩之 渡辺 満久 植木 岳雪 奥村 晃史 後藤 秀昭 Mihail I STRELTSOV Andrei I KOZHURIN Rustam BULGAKOV Nikolai TERENTIEF Alexei I IVASHCHENKO
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.109, no.2, pp.311-317, 2000-04-25 (Released:2010-11-18)
参考文献数
12
被引用文献数
3 4

We have prepared a preliminary active fault map of Sakhalin, Russia, based on an interpretation of aerial photographs and satellite images. Major active structures include 110-km-long active faults along the western margin of the Yuzhno-Sakhalinsk Lowland in southern Sakhalin and 120-km-long active faults along the western margin of the Poronaysk Lowland in central Sakhalin. These active faults are parallel to but are located as far as 10 km east of the Tym-Poronaysk fault. Geomorphic surfaces on the upthrown side of the fault are tilting westward, therefore, the faults are considered to be west-dipping low-angle reverse faults. The vertical component of slip rates of these faults are >0.3 mm/yr in southern Sakhalin and 1.0-1.5 mm/yr in central Sakhalin. The net-slip rates could be much greater because the faults are low-angle reverse faults. If these faults rupture along their entire length during individual earthquakes, the earthquakes could be as great as M7.6-7.7. In northern Sakhalin, we have identified a series of right-lateral strike-slip faults, including the 1995 Neftegorsk earthquake fault. The slip rates for these faults are estimated at 4 mm/yr. The right-lateral shear in northern Sakhalin and east-west compression in central and southern Sakhalin may reflect relative plate motion in far-east Asian region.
著者
渡辺 満久 齋藤 勝
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地學雜誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.115, no.6, pp.727-736, 2006-12-25

The eastern margin of Echigo Plain, central Japan, is characterized by NNE-SSW trending active faults. The Anchi fault is made up of two segments : the Anchi-nishi fault and the Anchi-higashi fault. Each fault trace is approximately 2-km long. They may be short subsidiary faults on the hanging wall of the master fault in this region (the Tsukioka fault). Trench investigations across the Anchi fault reveal its rupture history as follows : 1) the Anchi-nishi fault and the Anchi-higashi fault are west-dipping reverse faults; 2) the Anchi-nishi fault shows a vertical offset of 1.3-1.9 m after ca. 30 ka; and, 3) the vertical displacement of 3.5 m is associated with two faulting events along the Anchi-higashi fault, one between ca. 30 and 60 ka and the other younger than ca. 30 ka. Geomorphic features indicate that a reverse fault branches into these two faults at a certain depth. Thus, the total vertical offset for the last ca. 30 ky is between 3.1 to 3.7 m. This value is one third of that along the master active fault. If the source fault consists of these active faults, we should evaluate the activity of the master fault taking account of the activity of the Anchi fault. It is very important to know the nature of subsidiary faults, even if they display very short traces.
著者
渡邉 純子 渡辺 満利子 山岡 和枝 根本 明日香 安達 美佐 横塚 昌子 丹後 俊郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.113-125, 2016 (Released:2016-04-02)
参考文献数
36

目的 本研究は,中学生におけるライフスタイルと愁訴との関連性の検討を目的とした。方法 2012年 5~11月,同意を得た熊本県内10校の中学校 1, 2 年生,計1,229人(男子527人,女子702人)を対象とし,愁訴(12項目)および体格,食事調査(FFQW82),ライフスタイル(18項目),食・健康意識(9 項目)に関する自記式質問紙調査を実施した。回答を得た1,182人(回収率96.2%,男子500人,女子682人)を解析対象とした。愁訴は(いつも・ときどき)を愁訴ありとして,12項目のありの個数を「愁訴数」として取り扱った。要約統計量は男女別に,連続量は平均値と標準偏差または中央値(25%点,75%点),頻度のデータについては出現頻度(%)を求めた。男女間の比較には前者では t 検定,またはウィルコクソン順位和検定を,後者ではカイ 2 乗検定により比較した。愁訴については因子分析で因子構造を確認した。ライフスタイル等と愁訴との関連性は,主成分分析およびステップワイズ法による変数選択により検討した。有意水準は両側 5%,解析は SAS Ver9.3を用いた。結果 本対象の体格は全国平均とほぼ同レベルであった。エネルギー摂取量の朝・昼・夕食の配分比率は,2:3:4 を示し,とくに朝食の摂取不足の傾向が認められた。ライフスタイルでは,男女ともに朝食を十分摂取できていない者 2 割強,夜 9 時以降の夕食摂取者 3 割程度,TV・ゲーム等 2 時間以上の者 5 割程度認められた。愁訴の出現頻度は,「いつも疲れている感じがする」,「集中力がない」,「やる気がでない」がそれぞれ男女ともに 40%以上を示した。 多変量解析の結果,「愁訴数」の少なさと関連するライフスタイル項目として,男女ともに「バランス食摂取」,「睡眠 6 時間以上」,女子の「3 食規則的摂取」,「食欲あり」,「リラックス時間あり」が示唆された。「愁訴数」の多さと関連する項目として,男女ともに「早食い」,「TV・ゲーム等 2 時間以上」,男子の「料理・菓子をつくる」,女子の「間食・夜食をとる」,「夜 9 時以後の夕食摂取」,「弁当は自分でつくる」が示唆された。なお、食事摂取量は「愁訴数」とはほとんど関連が認められなかった。結論 中学生の「朝食を落ち着いてしっかり食べる」および「食事は 1 日 3 回規則的に食べる」などの食事摂取状況やライフスタイルが「愁訴数」の少なさと関連することが示唆された。
著者
中田 高 奥村 晃史 今泉 俊文 隈元 崇 堤 浩之 渡辺 満久
出版者
広島工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究は,従来の活断層研究により積み重ねられてきた断層の分布や構造に関する静的な断層モデルに対して,地震時の活断層の挙動に関する動的モデルを構築することを主たる目的とした.そのために,1)活断層の位置,形状,変位速度の分布を解明,2)断層変位量計測の新たな手法の開発,3)日本列島の活断層の変位量データベースの作成,4)活断層の挙動に関する動的モデルの検討,を具体的に行った.その結果,議論の多い活断層の不連続部や末端部において,大縮尺空中写真判読による見直しを実施し,これまで活断層の存在が確かではなかった岩国断層や西部や北九州地域の活断層をはじめ多くの活断層について,詳細な位置,形状を確定した.横ずれタイプと逆断層タイプのそれぞれの典型である阿寺断層および横手盆地東縁活断層系について,独自に空中レーザープロファイラーによるDEMを取得し,断層変位地形の把握,断層変位量の計測について,手法の利点と問題点を具体的に検討した結果,レーザー計測データを用いた断層変位地形の立体化が活断層認定に有効であり,正確な変位量の把握には変動地形学的手法の併用が不可欠であることが明らかになった.また,GPS地形測量装置や簡易レーザー計測装置(Handy Station)を用いた断層変位量計測を実施し,その有効性を検討した.さらに,既存の文献に記載された断層変位量などをもとに主要98活断層(帯)の活断層変位量データベースを構築した.これをもとに断層変位量分布の特徴を検討し,幾つかの活断層(帯)について地下のアスペリティの位置を推定した.これらの情報と活断層の幾何学形状から推定した断層の破壊開始点をもとに,主要活断層帯から発生する地震の動的モデルの試案を提示した.
著者
堤 浩之 Andrei I. KOZHURIN Mihail I. STREUTSOV 植木 岳雪 鈴木 康弘 渡辺 満久
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.109, no.2, pp.294-301, 2000-04-25 (Released:2010-11-18)
参考文献数
10
被引用文献数
3 6

We have mapped a series of north-trending faults along the northeastern coast of Sakhalin, Russia, based on aerial photograph interpretation and field observations. These faults include the Upper Pil'tun fault which ruptured during the 1995, Mw 7.0 Neftegorsk earthquake, and the Ekhabi-Pil'tun and Garomay faults east of the surface ruptures. The coseismic displacement associated with the 1995 earthquake shows that the Upper Pil'tun fault is a right-lateral strike-slip fault. Right-lateral stream offsets as much as 80m demonstrate that similar earthquakes have occurred repeatedly along the fault in the late Quaternary. The fault extends for 10 km further to the south beyond the southern termination of the 1995 surface breaks, which is consistent with the coseismic ground deformation detected by SAR interferometry. The Ekhabi-Pil'tun fault trends N10° W to N10°E with a series of fault scarps down-to-the-west across low-relief hilly terrain eroded byperiglacial processes. Right-laterally offset streams and lake shores suggest thatthe Ekhabi-Pil'tun fault is also a right-lateral strike-slip fault. A 3-m-deep trench across the fault north of the Sabo River contains geologic evidence of two episodes of pre -historic surface faulting. The most recent event occurred after 4000 yr B.P. and the penultimate earthquake occurred at about 6200 yr B.P. The interval between the events is greater than 2000 years, which is significantly longer than that obtained for the Upper Pil'tunfault by previous trench excavations.
著者
谷口 薫 渡辺 満久 鈴木 康弘 澤 祥
出版者
SEISMOLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
地震. 2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.11-21, 2011-08-25
被引用文献数
2

The 150 km long Itoigawa-Shizuoka Tectonic Line Active Fault System (ISTL) in central Japan is one of the most active fault systems in Japan. Paleoseismologcal studies 1980s have revealed that the most recent event and the average recurence interval of the ISTL. The approximately 7 km long portion of the fault system between Matsumoto and Okaya has been regarded as a gap without any active fault trace. The gap namely the "Shiojiri Pass Gap" has long been taken as a segment boundary owing to the geometric discontinuity. Recent geomorphological analyses of the gap have demonstrated a through-going left-lateral slip assocaited with recent earthquakes in this area, based on aerial photograph interpretation and excavation studies. Excavation study on this portion revealed that the latest faulting event occurred between 1,700 cal. B.P. to 1,310 cal. B.P. (255 A.D. -645 A.D.). The timing of the last faulting event at this study area coincides with the timing in the Gofukuji fault and Okaya fault. The active faults extending from the Matsumoto basin as far as the northwestern margin of the Suwa basin display the evidence for its recent reactivation at the same time.
著者
渡辺 満久 中田 高 後藤 秀昭 鈴木 康弘
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100137, 2011 (Released:2011-11-22)

1.日本海溝沿いの活断層の特徴と地震・津波との関係を検討する。立体視可能なアナグリフ画像は、海上保安庁海洋情報部とJAMSTECの統合測深データ(0.002°間隔のGMT grd format、東経138-147°・北緯34-42°)と、250mグリッド地形DEM(岸本、2000)を用いて作成した。本研究では、平成23年~25年度科学研究費補助金(基盤研究(B)研究代表者:中田 高)、平成21~24年度科学研究費補助金(基盤研究(C)研究代表者:渡辺満久)を使用した。2 海底活断層は、以下の3種類に区分できる。(1) アウターライズの正断層群は、三陸沖から牡鹿半島南東沖にかけてはほぼ南北走行に延びるが、それ以南では海溝軸と斜交するように北東-南西走行となり、房総半島沖においては再び海溝軸と並走するようになる。正断層は、日本海溝軸から東側50~60km程度の範囲内に分布している。断層崖の比高には変位の累積性が認められ、海溝軸に近いものほど大きい(最大で500m以上)。(2) 三陸沖や房総半島沖の海溝陸側斜面の基部では、長さ200km程度の逆断層が複数認定できるが、連続性は良好ではない。その西側では、三陸北部沖から茨城県沖にかけて400km程度連続する長大な逆断層が認められ、隆起側には大きな垂直変位が生じていることを示す背斜構造がある。さらに陸側には、一回り小規模な逆断層(延長50km程度)がある。三陸沖以北の日本海溝斜面基部には、アウターライズより密に正断層が分布する可能性が高い3 日本海溝沿いの活断層と地震・津波との関係は、以下のように整理できる。(1) アウターライズには、鉛直変位速度が1mm/y程度の正断層が10程度並走する。正断層帯における伸長量は2cm/yに達する可能性もある。アウターライズの正断層起源とされる1933年三陸津波地震の起震断層は特定できない。(2) 延長400kmに達する連続性の良い逆断層は、その位置・形状から、2011年東北地方太平洋沖地震に関連する活断層であると判断される。今回の地震は複数の活断層が連動したものではなく、長大な活断層から発生する固有地震であった可能性が高い。同様の地震は、869年と1611年にも発生した可能性がある。1793年の地震時の津波は、分布は広いがあまり高くはないため、他の活断層が引き起こしたものであろう。海溝の陸側に分布する正断層に関しては、不明な点が多い。(3) 長さ200km程度の活断層はM8クラスの地震に、陸側の数10km程度の活断層はM7クラスの地震に関連するであろう。歴史地震との対応も比較的良好である