著者
林 東佑 鳥海 不二夫 田中 幹人
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第36回 (2022)
巻号頁・発行日
pp.2B6GS1004, 2022 (Released:2022-07-11)

子宮頸がんを防ぐためのHPVワクチンは,ワクチンに反対する世論により2013年から積極的推奨が中止さえていたが,2021年末に再び再開された。この研究は、日本で最も利用が盛んなソーシャルメディアであるツイッターでHPVワクチンをめぐる世論がどのように変化したのかを分析した。 まず、リツイート·ネットワーク分析により、ワクチン反対グループとワクチン賛成グループが明確に二分されていることを確認した。 また、初期に少数派であったワクチン賛成グループが2016年をもって多数派となったことが示された。 さらに、両グループが主に引用する外部サイトにも違いがあることを確認した。これらに基づき我々は、右往左往したワクチン政策に関連する世論がどのように変化したか、そしてワクチンに対して異なる意見を持っていた2つのグループがどのような行動の違いを示したかを明らかにした。
著者
田中 幹人 石橋 真帆 于 海春 林 東佑 楊 鯤昊 関谷 直也 鳥海 不二夫 吉田 光男
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.71-82, 2022-04-28 (Released:2022-05-26)
参考文献数
27
被引用文献数
1

新興感染症であるCOVID-19に対処する中では,日々更新されるリスク知識を社会で共有し,また政策から個々人のレベルに至るまでリスクを判断していく必要があった。このリスク情報の流通と議論の場となってきたのは,もちろんメディアである。本稿では,我々の研究結果を基に,まず情報の送り手である新聞報道の傾向を振り返り,また情報の受け手である日本のメディア聴衆の相対的リスク観を把握する。そのうえで,ソーシャルメディアを含むオンラインメディア上でのコミュニケーションの成功例,失敗例を確認し,そこから教訓を得る。更にマス/オンラインメディアが複雑に絡み合う中で,COVID-19禍を通じて明らかになった感染者差別,ナショナリズム,懐疑論や隠謀論といった問題を確認したうえで,コミュニューション研究の知見を踏まえて,リスクのより良い社会共有に向けた方針を提示することを目指す。COVID-19という災害は,新興感染症として私達の医療・社会制度の刷新を求めているのみならず,コミュニケーションを通じたリスク対応のあり方についても大きな変革を求めているのである。
著者
吉澤 剛 ファン・エスト・ リニー 吉永 大祐 田中 幹人 標葉 隆馬 小長谷 明彦
出版者
Chem-Bio Informatics Society
雑誌
Chem-Bio Informatics Journal (ISSN:13476297)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.164-172, 2018-12-01 (Released:2018-12-01)
参考文献数
38
被引用文献数
5

分子ロボティクスは環境の変化に適応し、自己組織化、進化できる人工的な分子システムの創成を目的とした学術領域である。本稿では分子ロボティクス技術の分野で責任ある研究・イノベーションをどのように促進するかについて検討する。そのためにまず、遺伝子組換え技術やナノテクノロジー、合成生物学やゲノム研究などの先進技術の日本における初期発展段階での社会的反応から教訓を得た。それは《適切な》専門家・ステークホルダーの発見と巻き込み、規制の更新、科学コミュニケーションにおける科学者および市民の巻き込みである。分子ロボティクスの社会的側面に関する学術的・社会的議論の現状として文献レビューや未来ワークショップ、シナリオワークショップを実施した。そこでは幾多の倫理的・社会的・政治的・文化的課題を提起し、次の数十年で起こる望ましい/望ましくないシナリオを描いた。Twitterのテキストマイニング分析では、幅広い市民において分子ロボティクスについての意識や関心、知識がまだ限定的であることを明らかにした。結論として、分子ロボティクスが責任あるイノベーションを可能にするには、分子ロボティクスの発展のスピードを掌握すること、技術的潮流を監視すること、テクノロジーアセスメントのための安定的な知識基盤を確立すること、そして分子ロボティクス研究者と社会科学者との持続可能な相互関係を構築することである。
著者
標葉 隆馬 田中 幹人
出版者
National Institute of Public Health
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.103-114, 2018-02-01 (Released:2018-04-14)
参考文献数
77

東日本大震災は直接的な人的被害のみならず,大きな社会的被害と混乱をもたらした.この東日本大震災を巡る社会的課題の一端について考察するために,本稿では日本の科学コミュニケーションが持つ構造的問題とその歴史的経緯について検討を行う.(特に再生医療分野のリスクコミュニケーションに関する)最近の研究において,科学的コンテンツは重要であるものの,それ以上に潜在的なリスク,事故の際の対応スキーム,責任の所在などへの関心事がより一般の人々の中で優先的であることが見出されている.このことは「信頼」の醸成において,責任体制も含めた事故後の対応スキームの共有が重要であることを含意している.また,コミュニケーションの実践においても利害関係や責任の所在の明示が重要であることを指摘する.同時に,東日本大震災を巡るメディア動向とその含意についても,最近までの研究成果を踏まえながら考察を加える.東日本大震災において,とりわけ全国メディアとソーシャルメディアにおいて福島第一原子力発電所事故がメディア上の関心の中心事となり,東北地方の被災地における地震・津波に関する話題が相対的に背景化したこと,一方で被災現地のメディアでは異なるメディア関心が見出されてきたことを指摘する.
著者
川本 思心 鈴木 努 種村 剛 杉山 滋郎 田中 幹人 石井 哲也
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-10-21

文献・インタビュー・質問紙調査等によって、日本におけるデュアルユース概念の特徴は以下のように概括された。1)用途両義性と軍民両用性の連続性がない。2)軍民両用研究ではなく軍事研究に着目している。3)資金出資組織によって軍事研究か否かを判断する「入口議論」に傾いている。4)「両義性がある」ことが、軍民両用研究を肯定(追認)する根拠にも、否定する論拠にもなっている。5)核兵器や化学兵器、バイオテロといったイメージが中心。これらの成果は学会・シンポジウムで10回発表し、論文6本、書籍5冊、一般記事等3本として公開した。また、一般向けイベント主催・登壇5件を行い、本件に関する議論を広く社会に発信した。
著者
標葉 隆馬 田中 幹人
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.103-114, 2018

<p>東日本大震災は直接的な人的被害のみならず,大きな社会的被害と混乱をもたらした.この東日本大震災を巡る社会的課題の一端について考察するために,本稿では日本の科学コミュニケーションが持つ構造的問題とその歴史的経緯について検討を行う.(特に再生医療分野のリスクコミュニケーションに関する)最近の研究において,科学的コンテンツは重要であるものの,それ以上に潜在的なリスク,事故の際の対応スキーム,責任の所在などへの関心事がより一般の人々の中で優先的であることが見出されている.このことは「信頼」の醸成において,責任体制も含めた事故後の対応スキームの共有が重要であることを含意している.また,コミュニケーションの実践においても利害関係や責任の所在の明示が重要であることを指摘する.</p><p>同時に,東日本大震災を巡るメディア動向とその含意についても,最近までの研究成果を踏まえながら考察を加える.東日本大震災において,とりわけ全国メディアとソーシャルメディアにおいて福島第一原子力発電所事故がメディア上の関心の中心事となり,東北地方の被災地における地震・津波に関する話題が相対的に背景化したこと,一方で被災現地のメディアでは異なるメディア関心が見出されてきたことを指摘する.</p>