著者
盛山 和夫
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-37, 1992-04-15 (Released:2009-11-16)
参考文献数
30
被引用文献数
4

階級理論は、マルクス主義的であるかそうでないかを問わず、階層理論とともに、危機を迎えているが、この危機を何とか打開しようとする試みも少なくない。そうした中で、その基本的着想がライトによって踏襲されているレーマーの『搾取と階級の一般理論』は、搾取概念の再検討にまでさかのぼって階級理論の再定式化をめざしたという点で、注目すべきものである。本稿は階級理論において搾取概念が占める位置を考察して明確にしたのち、レーマーとライトの新しい搾取概念を検討している。古典的な搾取理論は、「本来帰属すべき価値の不当な奪取」という観念に基礎をおいているのに対して、レーマーらのそれは「仮想的状態と比べた場合の格差」に基礎をおいてをり、限りなくネオ・ウェーバリアンの搾取概念に近くなっている。このため、具体的にいかなる社会集団が搾取―被搾取の関係にあるかを同定する能力に欠ける。それ以外の点も含めて、新しい搾取理論は今日の階級理論の危機を救うものとはいい難い。
著者
盛山 和夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.107-113, 2014 (Released:2016-07-10)
参考文献数
20
著者
盛山 和夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.333-342, 2006-09-30 (Released:2007-08-02)
参考文献数
4

本稿は、複数の部分集団からなるときの全体ジニ係数が集団比率の変化によってどう影響されるかを考察する方法について、浜田論文(2005)のように対数正規分布という特殊な仮定をおくことなく、より一般的な条件の下で定式化し、二集団からなるとき、集団比率の関数としての全体ジニ係数のグラフが、集団間ジニ係数の相対的な位置によって3種類に分けられることを示すものである。その一般的条件とは、集団内の分布のしかた(テクニカルにいえば、分布関数ないし密度関数)が不変に保たれたままで、集団比率ないし集団規模が変化するという条件であり、対数正規分布の仮定はこの特殊ケースをなしている。
著者
盛山 和夫
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.92-108, 2006

一昨年のアメリカ社会学会会長ビュラウォイの講演以来, 「公共社会学」に対して熱心な議論が交わされている.これは現在の社会学が直面している困難な状況を「公衆に向かって発信する」という戦略で克服しようとするものだが, この戦略は間違っている.なぜなら, 今日の社会学の問題は公衆への発信がないことではなくて, 発信すべき理論的知識を生産していないことにあるからである.ビュラウォイ流の「公共社会学」の概念には, なぜ理論創造が停滞しているのかの分析が欠けており, その理由, すなわち社会的世界は意味秩序からなっており, そこでは古典的で経験的な意味での「真理」は学問にとっての共通の価値として不十分だということが理解されていない.意味世界の探究は「解釈」であるが, これには従来から, その客観的妥当性の問題がつきまとってきた.本稿は, 「よりよい」解釈とは「よりよい」意味秩序の提示であり, それは対象世界との公共的な価値を持ったコミュニケーションであって, そうした営為こそが「公共社会学」の名にふさわしいと考える.この公共社会学は, 単に経験的にとどまらず規範的に志向しており, 新しい意味秩序の理論的な構築をめざす専門的な社会学である.
著者
盛山 和夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.2_85-2_100, 1988-10-09 (Released:2009-03-06)
参考文献数
7
被引用文献数
3

権力という概念は、われわれが日常的に社会的世界を理解する上できわめて重要な役割を果たしている。そこでは、権力は、世界に作用を及ぼすところの実体であり、独立した要因であると概念化されている。「権力の大きさ」とか「権力の大小」といった概念は、実体としての権力を前提にしている。 しかしながら、このような実体としての権力の実在は疑わしい。ニュートン力学におけるような物理的な力は実在するかも知れないが、社会学理論においてそれと同等の役割を果たすべき実体としての権力は、存在しないと考えた方が、これまでの権力理論の混乱と失敗をよりよく説明することが出来る。ここで、実体としての権力と、被説明項としての権力現象とを区別することが重要である。後者は、実際に観測され、説明を求められているさまざまな権力現象である。それに対して、前者はそうした権力現象を説明するために、日常的な社会理解において考え出された説明要因である。しかも、これは説明要因として、厳密な検討に耐えうるものではなく、結局のところ幻想的な要因であると考えられる。 したがって、ありうべき権力理論においては、もはや説明要因としての権力概念を保持することはできない。むしろ、さまざまな権力現象を現象に即して説明していく試みの蓄積が必要である。
著者
白波瀬 佐和子 盛山 和夫 ホリオカ チャールズ・ユウジ 杉野 勇 上野 千鶴子 武川 正吾 赤川 学 中田 知生 村上 あかね
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、日本の急激な人口高齢化が社会の階層構造に及ぼす影響を、社会調査データによって実証的に明らかにすることにあった。そこで本研究では、2010年に50~84歳を対象にした「中高年者の生活実態に関する全国調査」(有効サンプル6,442ケース)を実施し、2年後にはその3,193ケースについて追跡調査を行った。高齢期の階層は、所得や仕事内容、資産といった経済的要因のみならず、だれと暮らすか(世帯構造)と密接に関連していた。
著者
盛山 和夫
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.14-27, 2016-05-31 (Released:2019-06-20)
参考文献数
24

社会のあり方をめぐっては,かつては資本主義か社会主義かというイデオロギー対立があった.今日,その意義は失われているが,代わりに,いわゆる「大きな政府か小さな政府か」というイデオロギー対立が出現している.一方の極にあるのは新自由主義で,市場システムの効率性を前提に,社会保障など政府の経済への介入はできるだけ少ない方が望ましいと考える.他方の極には,福祉の理念的価値を重視するあまりに,福祉サービスや支援を提供することに伴う資源条件や制度的しくみへの考察を「不純」なこととして排除する福祉絶対主義がある.この立場は,脱生産主義といった考え方やワークフェアへの短絡的な批判などに現れている. 新自由主義は,じつは経済理論としても間違っているのだが,経済学者の間では正しいものと信じこまれていて,マスメディアでのプレゼンスは高い.他方,福祉絶対主義は資源条件と制度的しくみを無視する点においてやはり空論的である.また,ここまで極端ではなくても,福祉価値を重視する社会福祉論には財源問題への答えを用意しない「マナ型福祉論」が多く,それは新自由主義と対抗する上で説得力に欠ける.それらに代わって,社会保障および社会福祉の制度をめぐる議論は,市民的共同性をめざすという福祉の理念的価値を重視すると同時に,その経験的な実現可能性も重視するという二つの条件を満たすべきである.これはコモンズ型の福祉論として展開されることになる.
著者
盛山 和夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.3-16, 2000

今日、社会学とその関連分野は深い混迷の中にあるといっていいだろう。1968 年を境に、それまで研究共同体を支えていた二つの信仰があっという間に崩壊してしまい、いまや何ら共通の信仰(形而上学、理念)も共通の言葉もないまま、公式組織(大学、学会)の中に共同体の形骸をさらすのみである。こうした中で、数理社会学がどのような意義を持ちうるのか、そしてそれはいかにして可能なのか(土場(1996)の問題提起を参照されたい)。1970 年代のはじめ、さまざまな新しいパラダイムが出現して注目されていった中に、数理社会学もその一つとしてあった。他には、現象学的社会学、レイベリング論、エスノメソドロジー、社会構築主義、フェミニズム、エスニシティ研究、カルチュラル・スタディーズ、文化的再生産論、従属理論、世界システム論、社会システム論、言説分析、ポスト構造主義など、枚挙にいとまがない。数理社会学はこうした他のパラダイムと比べるとやや特殊な位置に立っている。他の多くが、とりわけポスト構造主義が典型的にそうであるように、近代的な知のあり方の脱構築をめざしているのに対して、数理社会学は数学を用いた合理的な知識の体系という、見方によっては時代錯誤的な目標をかかげているのである。現象の数理的把握という方法は、ガリレオやニュートンによって近代科学が華々しく興隆していく上での基盤であったが、それは、脱構築派からみれば、単なる「現前」についての知識にすぎないということになる。<BR> 他方、数学は基礎づけ主義的思考の大いなる源泉であった。ホッブズもカントもユークリッド幾何学の華麗な体系に魅了されていた。自明で疑いえない真理から出発して正しい世界もしくは世界像を構築していくことがめざされていた。しかし今日、この公理主義的世界観はうさん臭く思われている。
著者
盛山 和夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.71-86, 1986

社会学の現状の"危機"は、その理論の欠如に由来しており、個別科学としての社会学の独立と安定のためには理論の創出という営為が不可欠である。社会学にはこれまで理論と言うよりも擬似理論の方が横行している。それらは例えば「視座」「概念図式や定義」「経験的一般化」「the more..., the more型言明」あるいは「パスモデルのような統計的モデル」などである。前二者は真偽性を欠いているし、後の三つは説明力に乏しい。<BR> こうした背景には次のような方法的な誤りがある。(1)説明の持つ意義を否定して記述のみに満足する経験主義的バイアス、(2)小さな問題への理論的考察の価値を評価しない全体論的バイアス、(3)理論の正しさがそれ自体にではなくそれが生産される基盤の方にあると考える土台理論とそれと関連した方法的一元主義、(4)新しい知識がデータからのあるいは既存の言明からの積み上げによってえられるとする積み上げ主義。<BR> 我々の知識の拡大に貢献するような理論の創出にとって必要なのは、知的課題に対してさまざまな解を思い付く想像力とともに、それを自ら厳しく検討していく批判力である。