著者
福土 審
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.111, no.7, pp.1323-1333, 2014-07-05 (Released:2014-07-05)
参考文献数
49

過敏性腸症候群とは,腹痛と便通異常が関連し合いながら慢性に持続し,かつ,通常の臨床検査では愁訴の原因となる器質的疾患を認めないという概念の症候群である.その病因を,外因と内因,消化管と中枢神経系レベルの病態を惹起するものに分類する.消化管の外因として最近特に着目されているのが腸内細菌であり,次いで食物である.中枢神経系の外因として関与が確実なのは,患者に負荷される心理社会的ストレッサーである.消化管の内因として粘膜炎症が重要であり,最近,炎症に関連した現象として粘膜透過性亢進が着目されており,これらの背景にはゲノムがある.中枢神経系の内因として,ゲノム,エピゲノム,神経可塑性が存在する.
著者
佐藤 康弘 福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.26-30, 2020 (Released:2020-01-01)
参考文献数
13

神経性やせ症, 神経性過食症に代表される摂食障害は, 多様な合併症状を呈し, 治療をさらに困難にしている. 神経性やせ症患者では, 極度の栄養不足と脱水から, 肝機能障害, 腎不全, 便秘, 脱毛など, 全身に多様な症状が出現する. 中でも低血糖, 電解質異常に起因する不整脈, 治療介入初期の再栄養症候群は死につながる危険性がある. 成長期における身長増加の停滞, 骨粗鬆症は体重回復後も影響が残る可能性がある. 過食排出型患者では自己誘発嘔吐によるう歯や, 嘔吐, 下剤, 利尿剤乱用による電解質異常が深刻な問題となる. 一方精神面では神経性やせ症でも神経性過食症でも不安, 抑うつなどの精神症状や, パーソナリティ障害の合併を認めることは多く, 治療上の障害となっている. ED患者の治療には, 心身にわたる合併症状への適切な対処が求められる.
著者
福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.969-976, 2016 (Released:2016-10-01)
参考文献数
21

過敏性腸症候群 (irritable bowel syndrome : IBS) は, 大多数が心身症の病態を示す心身医学の代表的疾患である. IBSの公刊論文数の推移をみると, IBSの領域は現在明らかに活性化している. かかる動向の中にあって, 日本消化器病学会の提唱により, IBS診療ガイドラインを2014年に和文, 2015年に英文にて公刊した. エビデンスに基づく診療は個々の患者の治療反応性を完全に予測できるところまでには現在至っていない. しかし, 多数の患者を集積すればエビデンスの確率密度関数から実現値を高い確率で推定することは可能である. 診療ガイドラインの中のIBSのストレス応答, 心理的異常, 脳機能画像, 診療担当医の患者への心身医学的配慮, 食事療法, 抗うつ薬, 認知行動療法に代表される心理療法, 運動療法などは心身医学の重要性を数学的に証明している. IBSの診療ガイドラインの有用性は高く, それが実用に供されることを期待する.
著者
松平 浩 川口 美佳 村上 正人 福土 審 橋爪 誠 岡 敬之 Bernd Löwe
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.931-937, 2016

<p><b>目的</b> : Somatic Symptom Scale-8 (SSS-8) は, 身体症状による負担感を評価する自記式の質問票である. 今回, SSS-8をわが国へ導入するため, 原作の英語版を翻訳し, 言語的妥当性を担保した日本語版を作成した.  <b>方法</b> : 原作者から日本語版作成の許可を得た後, 言語的に妥当な翻訳版を作成する際に標準的に用いられる手順 (順翻訳→逆翻訳→患者調査) に従って日本語版を作成した.  <b>結果</b> : 日本語を母国語とする2名の翻訳者が, それぞれ日本語に翻訳し, 一つの翻訳案にまとめた [順翻訳] . 英語を母国語とする翻訳者が日本語案を英語に翻訳し直した [逆翻訳] . 次に, 原作者との協議を通じ, 原作版と日本語案の概念の整合性を確認し, 日本語暫定版を作成した. 筋骨格系疼痛および身体症状の経験を有す患者5名 (男性2名, 女性3名 ; 平均年齢54.4歳) に調査を行った結果, 全体として, 日本語暫定版の表現に問題はないと判断した.  <b>結論</b> : 一連の過程を経て, 言語的妥当性が担保された日本語版SSS-8を確定した.</p>
著者
福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.1034-1038, 2014-11-01 (Released:2017-08-01)

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome: IBS)では,通常の一般臨床検査で把握される形態変化を欠くにもかかわらず,腹痛と便通異常に代表される下部消化管症状が慢性,再発性に持続する.IBSは頻度が高く,患者の生活の質を障害し,早期社会不適応の重大な原因となり,不安障害,うつ病性障害,身体表現性障害とのcomorbidityが高い.IBSの病態は,消化管生理学,微生物学,ゲノム科学,脳科学,心身医学を総動員して追求されており,いまだ完全ではないものの,次第に解明されつつある.その病態の中でも,脳腸相関の異常の重要性をわれわれは早い時期から提唱してきた.ComorbidityはIBSが重症化するにつれて病態への関与度が増す.コホート研究により,うつ病性障害と不安障害がIBS発症のリスク要因になることがわかつてきた.その逆に,IBSを含む機能性消化管障害であることがうつ病性障害と不安障害の発症リスクを高める.失感情症や人生早期の虐待などの重大なストレスはIBS発症のリスク要因になる.IBS患者では,大腸伸展刺激を加えたとき,中部帯状回,扁桃体,脳幹の過活動や背外側前頭前野の活性不全があり,腹痛を感じやすい.これらは,失感情症や被虐待歴をもつ個体でも部分的に生じている.IBS発症のリスク要因としては,感染症の種類も重要である.うつや身体化があると,感染症を契機としたIBS発症のリスクが高まるが,伝染性単核症が慢性疲労症候群の発症リスクを高めるのと対照的に,キャンピロバクター腸炎はIBSの罹患率を高め,病原体の臓器-疾患特異性がある.IBSとそのcomorbidityの背景には脳機能画像で検出可能な脳機能異常があり,脳腸相関を軸にしたその支配遺伝子,蛋白,関連微生物の同定が急務である.
著者
濱口 豊太 金澤 素 福土 審
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-5, 2007 (Released:2014-07-03)
参考文献数
42

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome;IBS)は脳腸相関の異常が病態の中心をなす疾患群である。IBSの病態は、消化管運動異常、消化管知覚過敏、心理的異常で特徴づけられる。消化管知覚過敏の発生機序の解明に、脳腸ペプチド・免疫・粘膜微小炎症による消化管機能変化・遺伝子・学習・神経可塑性・脳内神経伝達物質およびヒトの心理社会的行動などから進歩が見られる。消化管への炎症や疼痛を伴う刺激が先行刺激となって内臓知覚過敏を発生させる機序の一つとしてあげられる一方で、腹痛や腹部不快感の二次的な増悪を心理ストレスが引き起こし、そのときの消化器症状が関連づけられている可能性がある。本稿は、消化管知覚過敏が発生するメカニズムとして考えられている消化管粘膜微小炎症後の消化管知覚過敏、繰り返される大腸伸展刺激後の内臓知覚と情動変化の視点から、ヒトの心理的背景と遺伝要因について概説する。
著者
福土 審 金澤 素
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

脳腸相関の詳細と過敏性腸症候群の病態を解明することは、心身医学的に重要であるだけでなく、社会的利益が大きい。本研究では、炎症回復後の過敏性腸症候群の動物モデルに対する副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)拮抗薬の投与が、動物の内臓知覚過敏と消化管伸展刺激による粘膜炎症の再燃の病態をともに改善させた。また、ヒトへのペプチド性CRH拮抗薬の投与が脳腸相関を介した過敏性腸症候群の中枢機能を改善させた。
著者
福土 審 青木 正志 金澤 素 中尾 光之 鹿野 理子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

脳腸相関とは、中枢神経系と消化管の機能的関連を言う。これは発生学的に古い現象であるが、不明な点が多い。脳腸相関には大きく分けて2つの現象・経路がある。一つはストレスにより、中枢神経系興奮が自律神経内分泌系を介して消化管機能を変容させる現象・経路である。もう一つは、消化管からの信号が求心路から中枢神経系に伝達され、中枢神経機能を変容させる現象・経路である。われわれは、ストレスにより、あるいは、消化管刺激により、脳の特定部位でcorticotropin-releasing hormone(CRH)を中心とする神経伝達物質が放出され、局所脳活動を賦活化する、そして、過敏性腸症候群においてはこの現象が増強されている、と仮説づけた。本研究は、この仮説を動物実験とヒトに対する脳腸検査によって検証することを主目的とし、positron emission tomography(PET)と脳波power spectra、topographyをはじめとする脳機能画像と併せ、脳腸相関におけるCRHならびにその他の物質の役割を明確にした。平成15-18年度の科学研究費により、過敏性腸症候群の動物モデルを作成することができた。この動物モデルの病態はCRH拮抗薬により改善した。また、消化管への物理ストレスにより内臓痛が生じ、視床と辺縁系で脳血流量が増加した。同時に、脳波power spectra、topogramが変化し、腹痛とともに不安が生じた。この時、消化管運動も変化した。過敏性腸症候群ではこれらの現象が顕著であるが、これらもCRH拮抗薬により改善した。過敏性腸症候群あるいはその病態を示す動物では、辺縁系におけるCRH遊離がこれらの結果を招くことが示唆された。これらの知見を平成15-18年度に得たことにより、脳腸相関におけるCRH系の関与を明らかにするという研究目的を達成することができた。