著者
吉村 健佑 川上 憲人 堤 明純 井上 彰臣 小林 由佳 竹内 文乃 福田 敬
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.11-24, 2013-02-20 (Released:2013-02-26)
参考文献数
25
被引用文献数
5 3 1

目的:本研究では,職場におけるメンタルヘルスの第一次予防対策の実施が事業者にとって経済的利点をもたらすかどうかを検討することを目的とし,すでに公表されている国内の研究を文献検索し,職場環境改善,個人向けストレスマネジメント教育,および上司の教育研修の3つの手法に関する介入研究の結果を二次的に分析し,これらの研究事例における費用便益を推定した.対象と方法:Pubmedを用いて検索し,2011年11月16日の時点で公表されている職場のメンタルヘルスに関する論文のうち,わが国の事業所で行われている事,第一次予防対策の手法を用いている事,準実験研究または比較対照を設定した介入研究である事,評価として疾病休業(absenteeism)または労働生産性(presenteeism)を取り上げている事を条件に抽出した結果,4論文が該当した.これらの研究を対象に,論文中に示された情報および必要に応じて著者などから別途収集できた情報に基づき,事業者の視点で費用および便益を算出した.解析した研究論文はいずれも労働生産性の指標としてHPQ(WHO Health and Work Performance Questionnaire)Short Form 日本語版,あるいはその一部修正版を使用していた.介入前後でのHPQ得点の変化割合をΔHPQと定義し,これを元に事業者が得られると想定される年間の便益総額を算出した.介入の効果発現時期および効果継続のパターン,ΔHPQの95%信頼区間の2つの観点から感度分析を実施した.結果:職場環境改善では,1人当たりの費用が7,660円に対し,1人当たりの便益は点推定値において15,200–22,800円であり,便益が費用を上回った.個人向けストレスマネジメント教育では,1人当たりの費用が9,708円に対し,1人当たりの便益は点推定値において15,200–22,920円であり,便益が費用を上回った.上司の教育研修では2論文を解析し,Tsutsumi et al. (2005)では1人当たりの費用が5,290円に対し,1人当たりの便益は点推定値において4,400–6,600円であり,費用と便益はおおむね同一であった.Takao et al. (2006)では1人当たりの費用が2,948円に対し,1人当たりの便益は0円であり,費用が便益を上回った.ΔHPQの95%信頼区間は,いずれの研究でも大きかった.結論:これらの研究事例における点推定値としては,職場環境改善および個人向けストレスマネジメント教育では便益は費用を上回り,これらの対策が事業者にとって経済的な利点がある可能性が示唆された.上司の教育研修では点推定値において便益と費用はおおむね同一であった.いずれの研究でも推定された便益の95%信頼区間は広く,これらの対策が統計学的に有意な費用便益を生むかどうかについては,今後の研究が必要である.
著者
蓮沼 英樹 市瀬 孝道 上田 佳代 小田嶋 博 金谷 久美子 清水 厚 高見 昭憲 竹内 文乃 西脇 祐司 渡部 仁成 橋爪 真弘
出版者
一般社団法人日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.74, pp.19010, 2019 (Released:2019-12-25)
参考文献数
63
被引用文献数
1

Asian dust is a phenomenon involving the long-range transport of atmospheric pollutants originating from the desert areas of China and Mongolia. In recent years, the health effects of Asian dust have raised public concerns. Numerous studies on the health effects of Asian dust have been published since the last review in 2010. Thus, a literature review was conducted to shed light on the latest epidemiologic findings. PubMed and Science Direct databases were used for the review of epidemiologic studies published between June 2009 and April 2018. We identified 53 epidemiologic studies. Mortality, ambulance transportation, hospitalization/medical examination, changes in symptomatic, functional, and examination findings, as well as birth outcomes have been reported as outcomes. When the outcomes were categorized by disease, the effects of Asian dust on respiratory, cardiovascular, and allergic diseases raised concerns. The common evidences of causation between Asian dust and these diseases were the consistency of findings and temporal sequence of association. As results of research on dose-response relationships have become available, and the possibility that the health effects of Asian dust may vary depending on its chemical composition has been pointed out, further research using the exposure level indicators of Asian dust or its chemical composition should be conducted. Furthermore, with focus on the crucial issue of reducing exposure, research related to prevention and raising awareness should be further promoted.
著者
佐藤 伊織 戸村 ひかり 藤村 一美 清水 準一 清水 陽一 竹内 文乃 山崎 喜比古
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.39-49, 2004

我々は、不妊治療と出生前診断について、一般市民の知識・信念・態度を、自記式調査票により調査した。東京都N区の住民基本台帳から30代〜50代の者179名を無作為抽出し、そのうち住所の明らかな169名を対象とし、99の有効回答を得た。各調査項目と属性間、一部項目間の二変量の関係についてPearsonのx2検定を行った。不妊治療の知識やそれへの態度については、男女に明確な差は認められなかった。しかし、女性の方が不妊治療をよりシビアにとらえる傾向が見られた。市民の中には、不妊を夫婦双方の問題として取り組む姿勢も見られ、これからは実際に男性からも積極的に不妊治療に参加できる環境を整えることが望まれる。出生前診断や中絶に関する態度は、その人の年代・子どもの有無によって違いが見られた。出生前診断が必ずしも優生思想や障害者差別に結びつくものではないという点について特に、認識の普及が必要である。
著者
中山 祥嗣 磯部 友彦 岩井 美幸 小林 弥生 小栗 朋子 竹内 文乃
出版者
一般社団法人日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.156-163, 2018 (Released:2018-05-31)
参考文献数
37
被引用文献数
1 1

In this review, we present an initial plan for exposure assessment in the Japan Environment and Children’s Study (JECS) by focusing on a biomonitoring technique and discuss the challenges encountered when using the biomonitoring technique for exposure measurements. JECS registered 103,099 pregnant mothers and has been following children born to them. Various biological samples were collected from mothers during pregnancy (blood and urine), at birth (blood and hair) and at check-up one month after birth (breast milk). Samples were also collected from children at birth (cord blood) and at check-up one month after birth (hair and blood spot). Those samples will be used to assess maternal and foetal exposures to chemical substances. Measurement reliability, i.e., intraclass correlation coefficient (ICC), and attenuation bias related to low ICCs should be taken into consideration when using the biomonitoring results. Along with the biomonitoring technique, simulation models, pharmacokinetic (PK) models and exposomics techniques are under development in JECS. New analytical techniques include deciduous teeth measurements and -omics analyses. In particular, PK models and sensor technologies are one of the most important methodologies for future JECS exposure analyses. Statistical methods for examining the effects of intercorrelated multiple exposures as well as nondetection data should also be explored.
著者
吉村 健佑 川上 憲人 堤 明純 井上 彰臣 小林 由佳 竹内 文乃 福田 敬
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.E12003, (Released:2012-12-21)
被引用文献数
3 3 1

目的:本研究では職場におけるメンタルヘルスの第一次予防対策の実施が事業者にとって経済的利点をもたらすかどうかを検討することを目的とし,すでに公表されている国内の研究を文献検索し,職場環境改善,個人向けストレスマネジメント教育,および上司の教育研修の3つの手法に関する介入研究の結果を二次的に分析し,これらの研究事例における費用便益を推定した.対象と方法:Pubmedを用いて検索し,2011年11月16日の時点で公表されている職場のメンタルヘルスに関する論文のうち,わが国の事業所で行われている事,第一次予防対策の手法を用いている事,準実験研究または比較対照を設定した介入研究である事,評価として疾病休業(absenteeism)または労働生産性(presenteeism)を取り上げている事を条件に抽出した結果,4論文が該当した.これらの研究を対象に,論文中に示された情報および必要に応じて著者などから別途収集できた情報に基づき,事業者の視点で費用および便益を算出した.解析した研究論文はいずれも労働生産性の指標としてHPQ(WHO Health and Work Performance Questionnaire)Short Form 日本語版,あるいはその一部修正版を使用していた.介入前後でのHPQ得点の変化割合をΔHPQと定義し,これを元に事業者が得られると想定される年間の便益総額を算出した.介入の効果発現時期および効果継続のパターン,ΔHPQの95%信頼区間の2つの観点から感度分析を実施した.結果:職場環境改善では,1人当たりの費用が7,660円に対し,1人当たりの便益は点推定値において15,200–22,800円であり,便益が費用を上回った.個人向けストレスマネジメント教育では,1人当たりの費用が9,708円に対し,1人当たりの便益は点推定値において15,200–22,920円であり,便益が費用を上回った.上司の教育研修では2論文を解析し,Tsutsumi et al.(2005)16)では1人当たりの費用が5,290円に対し,1人当たりの便益は点推定値において4,400–6,600円であり,費用と便益はおおむね同一であった.Takao et al(2006)17)では1人当たりの費用が2,948円に対し,1人当たりの便益は0円であり,費用が便益を上回った.ΔHPQの95%信頼区間は,いずれの研究でも大きかった.結論:これらの研究事例における点推定値としては,職場環境改善および個人向けストレスマネジメント教育では便益は費用を上回り,これらの対策が事業者にとって経済的な利点がある可能性が示唆された.上司の教育研修では点推定値において便益と費用はおおむね同一であった.いずれの研究でも推定された便益の95%信頼区間は広く,これらの対策が統計学的に有意な費用便益を生むかどうかについては,今後の研究が必要である.
著者
中嶋 眞弓 大野 耕一 竹内 由則 竹内 文乃 中島 亘 Fujino Y. 辻本 元
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.65-71, 2012-10-10 (Released:2013-01-25)
参考文献数
22

重症動物の蛋白質やエネルギー摂取不足による低栄養状態を短期的かつ客観的に評価するため、医学領域において動的栄養指標蛋白として利用されている急速代謝回転蛋白 (RTP) のうち血漿トランスフェリン (Tf)、レチノール結合蛋白 (RBP) のイヌにおける有用性について検討した。健常イヌにおける短期的な給餌量調整試験では、給餌制限に伴いTf値は有意に低下し、給餌再増量に伴い上昇傾向を認めたが、RBP、ALB値に関しては一定の傾向は認められなかった。臨床例における検討では1週間以上50%以上安静時エネルギー必要量 (RER) を維持している慢性消化器疾患症例と比較して、摂取量が50%未満RERである食欲不振症例のTf値は有意に低値を示した。積極的な栄養療法を行った2症例におけるTf値の経時的測定では、上昇を認めた症例では経過良好であったが、徐々に下降した症例では斃死した。今回の結果からイヌの血漿Tf値測定は動的栄養指標蛋白として有用である事が示唆された。