著者
船越 公威
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.125-140, 1977
被引用文献数
1

Female P.jenynsii deposits prepupa on the host-roosting quarter except host-hibernating quarter. Intervals between depositions were about 5 days. Pupal period was about 20 days. Both the interval and period of prepupal deposition became shortened with the rise of experimental temperature. After the bat died away, the majority of flies also died within 24 hours. This indicates that blood-sucking is necessary at least once a day. Wintering flies sucked blood intermittently and lived for at least 4 months, but did not propagate. Average infestation number per host was 0.1-0.3 in winter and 0.2-0.7 in the other seasons. The low density per host throughout the year may primarily be due to host-predation and secondly due to density effect of fly. Periodic fluctuation of the average infestation number from April to September is largely caused by synchronization with the breeding cycles starting soon after awakening. The more bats grew, the more they were infested, its tendency being marked in adult females. Infestation degree corresponded presumably with the degree of hosts' activity at their roost. It was considered that specific and adaptive host-parasite relationship was ecologically influenced by duration of bats' roost utilization, activity at roost, size of cluster and flying pattern, together with the life history of flies.
著者
船越 公威
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.125-140, 1977-06-30 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
2

Female P.jenynsii deposits prepupa on the host-roosting quarter except host-hibernating quarter. Intervals between depositions were about 5 days. Pupal period was about 20 days. Both the interval and period of prepupal deposition became shortened with the rise of experimental temperature. After the bat died away, the majority of flies also died within 24 hours. This indicates that blood-sucking is necessary at least once a day. Wintering flies sucked blood intermittently and lived for at least 4 months, but did not propagate. Average infestation number per host was 0.1-0.3 in winter and 0.2-0.7 in the other seasons. The low density per host throughout the year may primarily be due to host-predation and secondly due to density effect of fly. Periodic fluctuation of the average infestation number from April to September is largely caused by synchronization with the breeding cycles starting soon after awakening. The more bats grew, the more they were infested, its tendency being marked in adult females. Infestation degree corresponded presumably with the degree of hosts' activity at their roost. It was considered that specific and adaptive host-parasite relationship was ecologically influenced by duration of bats' roost utilization, activity at roost, size of cluster and flying pattern, together with the life history of flies.
著者
安田 雅俊 船越 公威 南 尚志
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.21-25, 2015 (Released:2015-07-04)
参考文献数
15
被引用文献数
2

2013年12月から2014年2月まで,鹿児島県大隅半島南部の低標高の照葉樹林において,巣箱と自動撮影カメラを組み合わせた方法でヤマネGlirulus japonicusの活動性を調査したところ,冬期に20日以上の間をあけずに,しばしば撮影された.調査地における調査期間中の日平均気温の平均値は9.0°C(範囲:3.5~16.8°C)で,ヤマネが冬眠入りする目安とされる気温(8.8°C)と同程度であった.九州南部のヤマネは冬眠期間が短いか,冬期の暖かい時期に一部の個体が冬眠から覚醒して活動している可能性がある.また,暖冬などの気候条件によっては冬眠しない個体の出現が予想される.
著者
船越 公威 玉利 高志 市耒原 優樹 北之口 卓志 田中 広音
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.117-128, 2016 (Released:2017-02-07)
参考文献数
41
被引用文献数
3

コテングコウモリMurina ussuriensisのねぐら利用を知るためアカメガシワトラップ法による7年間の継続調査と電波発信機による単年度の追跡調査を行った.幼獣で捕獲された個体の翌年の再捕獲率は雄13%,雌16%で,再捕獲場所は出生地点かその近くであった.成獣雄はすべて単独で捕獲された.成獣雌もコロニー形成期(6~8月)を除けば単独で捕獲された.成獣雄は森林の低層部(地上高2 m前後)および中層部(6~10 m)の両方のねぐらを利用し,場所を頻繁に変えていた.一方,成獣雌は,6~7月に中層部のねぐらで出産・哺育集団を形成した.哺育後は低層部のねぐらも利用し,頻繁にねぐらを変えていた.成獣の雌雄とも再捕獲の4割が捕獲地点のねぐらを利用し,他地点のねぐらを利用した場合は雄で平均116 m,雌で209 mの距離であった.雄のねぐら移動の経年変化では,特定の場所に留まるタイプと移動するタイプが見られた.秋の交尾期におけるハーレムの形成が示唆された.雌雄とも出生年の秋に繁殖に関与する個体が認められた.確認された最長生存期間は雄で4年,雌で4年半であった.
著者
安藤 元一 船越 公威 白石 哲
出版者
九州大学
雑誌
九州大學農學部學藝雜誌 (ISSN:03686264)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.27-43, 1983-07
被引用文献数
3
著者
船越 公威 大沢 夕志 大沢 啓子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 = Mammalian Science (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.29-34, 2006-06-30
参考文献数
6
被引用文献数
2

オリイオオコウモリ<i>Pteropus dasymallus inopinatus</i>について, 沖縄島周辺島嶼での1994~2005年にわたる直接観察, 食痕・ペリットの有無および聞き取り調査によって, 古宇利島, 伊江島, 水納島, 伊計島, 宮城島, 平安座島, 浜比嘉島, 津堅島および久高島に生息することを確認した. 与論島のオオコウモリに関して, 入手された標本・資料の検討結果からオリイオオコウモリと同定し, 与論島が本亜種の新分布地として追加された. さらに同島では詳細な生態的調査も行い, 2004年9月と2005年2月に少なくとも5頭の生息を確認した. 特に夏~秋季には親子も見られた. 食物としては, 春季にはアコウ<i>Ficus superba</i>やモモタマナ<i>Terminalia catappa</i>の果実, 夏~秋季にはシマグワ<i>Morus australis</i>やフクギ<i>Garcinia subelliptica</i>の果実, 冬季にはガジュマル<i>F. microcarpa</i>やアコウの果実が利用されていた. 以上の観察結果からオリイオオコウモリは, 個体数が少ないながらも, 一年を通して与論島に定住し繁殖しているものと考えられる.
著者
船越 公威 大沢 夕志 大沢 啓子
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.179-184, 2012-12-30

これまで沖永良部島においてはオオコウモリの分布記載がなく,また生息についても断片的な情報しか得られておらず,生息の有無を確定することができなかった.しかし,住民への聞き取りおよび記録写真等で2003年3月にオリイオオコウモリ<i>Pteropus dasymallus inopinatus</i>の生息が判明した.また,2011年6月に本種の成獣雄個体が捕獲された.同年10月と12月,2012年1月に本種が目撃された.加えて,2012年2月における精査で,少なくとも4頭の生息を確認し,この時期の食物としてギョボク<i>Crataeva religiosa</i>,オオバイヌビワ<i>Ficus septica</i>,モモタマナ<i>Terminalia catappa</i>およびアコウ<i>Ficus superba</i>の果実が利用されていた.以上の観察結果等から,オリイオオコウモリは沖永良部島において個体数は極めて少ないものの,1年を通じて他の島への季節的な移動もなく定住しうると考えられた.<br>
著者
亘 悠哉 船越 公威
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.331-334, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
10
被引用文献数
1

リュウキュウテングコウモリMurina ryukyuanaによる日中ねぐらとしての枯葉の利用を徳之島において3例記録した.これにより,これまでにほとんど情報のなかった本種の自然条件下でのねぐら利用の一端が明らかになった.利用していた枯葉の樹種は,イイギリIdesia polycarpa,アオバノキSymplocos cochinchinensis,フカノキSchefflera heptaphyllaであり,これらに共通する特徴として,1枚1枚の葉が大きく,枯れると椀状に変形すること,また葉のつき方が放射状で,枝折れにより枝先の葉が枯れると複数の葉が合わさって群葉状になるという点が挙げられた.同属のコテングコウモリで記録されている幅広い日中ねぐら場所の利用形態を考慮すると,本種も枯葉以外の様々なタイプのねぐらを利用している可能性は十分に考えられる.今後,今回のような観察情報を蓄積することともに,行動の追跡調査などを進めることで,本種のねぐら利用の全体像の把握につながるであろう.
著者
船越 公威 新井 あいか 永里 歩美 山下 啓 阿久根 太一 川路 貴代 岡田 滋 玉井 勘次
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.157-165, 2012 (Released:2013-02-06)
参考文献数
22
被引用文献数
1

鹿児島市で2009年に定着が確認されたフイリマングースHerpestes auropunctatusの食性と在来種への影響を把握するため,消化管内容物と糞を用いて食性分析を行った.分析した115頭のそれらから,哺乳類,鳥類,爬虫類,両生類,昆虫類,多足類,甲殻類,植物の果実の破片が検出された.周年にわたる絶対出現頻度は,動物質では昆虫類と土壌動物の割合が高く,次いで爬虫類の割合が高かった.特に,昆虫類の絶対出現頻度は95%と非常に高く,昆虫類に強く依存していることが分かった.また,季節別の相対出現頻度をみると,冬季から春季にかけては,哺乳類や鳥類が摂食される割合が高くなっていた.これは,昆虫類や両生・爬虫類に加えて,哺乳類や鳥類も重要な餌資源になっていることを示している.また,幼獣は哺乳類や鳥類を摂食していなかった.今後は,駆除後の在来種の回復を把握するため,本調査地における被食動物相の推移を調査する必要がある.
著者
船越 公威 岡田 滋 永里 歩美 新井 あいか
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.167-181, 2015 (Released:2016-01-28)
参考文献数
35

特定外来生物のフイリマングースHerpestes auropunctatusの生息が,2006年~2011年の間に鹿児島県本土の2ヶ所(鹿児島市と薩摩川内市)で確認された.鹿児島市では,確認されて以後,生け捕り用カゴワナを利用して駆除事業が2009年7月から開始された.同時に,自動撮影装置による生息確認を2009年~2013年にマングース捕獲地点(耕作放棄地,荒地,竹藪および果樹園等)とその周辺域および山地林内で行った.また,2012年度にはヘアトラップによる体毛を採取し,マングースの根絶に向けた捕獲と在来種の生息状況を把握した.その結果,マングースの捕獲総数は115頭(雄47頭,雌68頭)であった.捕獲ゼロとなった2011年2月以降も集中捕獲を実施したが,捕獲されなかったことから,根絶またはそれに近い状況に入ったと判断された.一方,薩摩川内市で2011年12月に1頭が目撃され,2月4日に成獣雄1頭が捕獲された.その後のモニタリングでは捕獲ゼロであった.鹿児島市にマングースが定着して30年経過しながら,山地林内へ進出することなく喜入地区とその周辺の開けた地域で閉鎖的に存続していた理由として,本種の低温適応への生理的制限と競合関係あるいは天敵としてのテンの存在が考えられた.マングース駆除に伴う在来種の混獲による捕獲率や撮影率の変化から,在来種の生息状況を考察した.
著者
船越 公威 久保 真吾 南雲 聡 塩谷 克典 岡田 滋
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.156-162, 2007-11-30 (Released:2018-02-09)
参考文献数
16
被引用文献数
1

奄美大島では大規模なマングースの駆除事業が展開されているが、その駆除を効果的に実施する上でも、マングースの詳細な生息状況と分布を把握することが不可欠である。今回、トラッキングトンネルを利用したマングースの生息状況の把握を試み、その有効性を検討した。予備実験後に、本種の放逐地点から島を縦断する林道を含む計4つの道路沿いで、夏季と冬季の2回にトラッキングトンネルを累計各556、347基設置した結果、マングースの足跡の採取率は各季16.9%、22.5%であった。特に、放逐地点から奄美中央林道沿いの14km地点までの採取率は41.4%、戸口林道沿いでも34.6%の高い値を示し、徹底的な駆除が行われながらも高密度にマングースが生息していることが確認された。この背景には、捕獲ワナを警戒したトラップ・シャイの個体の存在も考えられる。また、放逐地点から30km以上離れた奄美中央林道沿いや奄美北部でも足跡が得られ、分布の拡大が認められた。加えて、マングース以外のノイヌやノネコの足跡が24ヶ所、ネズミ類などの足跡が300ヶ所で採取され、これらによる在来希少種への影響が懸念された。これまでのマングースの駆除事業では大幅なマングース個体数の減少に成功しているが、一方で少数個体によると思われる分布拡大がみられる。極低密度域などでトラッキングトンネルを活用し、マングースの生息有無が確認できれば、駆除事業がより効率的に展開できるものと期待される。
著者
船越 公威 長岡 研太 竹山 光平 犬童 まどか
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.245-256, 2009 (Released:2010-01-14)
参考文献数
38
被引用文献数
6

コテングコウモリMurina ussuriensisの枯葉(アカメガシワMallotus japonicus)トラップのねぐら利用とそのトラップ法の有効性について検証した.また,その利用結果から本種の繁殖生態について調査した.さらに,トラップ利用個体を用いて発信機装着による個体追跡を試みた.主要な調査地は鹿児島県霧島市の霧島神宮周辺と宮崎県都城市の御池周辺の照葉樹林である.地域や季節を通じた捕獲率は6~19%であったが,地域や季節によって大きく変化し,10月の霧島林と御池林では36%の高率であった.非繁殖期では雄の捕獲が大半を占めていたが,7月中旬には雌が頻繁に捕獲された.捕獲した個体から,南九州では出産が6月初旬で,広島県産よりも約1ヶ月早まることが示唆された.複数の成獣雌と幼獣からなる哺育集団が形成され,離乳期は7月中旬で幼獣はその頃から独立していた.また,交尾は10月がピークであると予想された.雄や非繁殖期の雌は単独でねぐらを利用するがねぐら間の距離が短いことから,ねぐら場所に対して単独的である一方,行動域は重複していた.トラップ法とテレメトリ法による個体追跡から,ねぐらは頻繁に替えられ,個体によっては比較的狭い範囲を移動していた.また,秋季には枯死倒木内をねぐらに利用していた.コテングコウモリの繁殖生態や社会構造を知る上でアカメガシワトラップ法の有効性が実証された.
著者
渡邊 啓文 船越 公威
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.323-328, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
33

大分県南東部の隧道内天井は,2013年~2017年の春~夏季の調査でテングコウモリMurina hilgendorfiとノレンコウモリMyotis bombinusの活動期のねぐらとして利用されていた.テングコウモリは5月~6月に10頭前後の個体が密集した集団を形成していた.この群塊は妊娠後期から末期に入った雌の集団であり,九州では初めての発見である.群塊体表の温度は単独個体よりも高く高体温を保持しており,胎児の成長促進に寄与していることが示唆された.テングコウモリは妊娠末期に移動して,他所で出産・哺育すると考えられる.
著者
永里 歩美 船越 公威
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.181-186, 2010 (Released:2011-01-26)
参考文献数
10

ニホンテンMartes melampus の換毛を引き起こす要因および毛色の地理的変異を解明するため,毛色の季節的な変化について九州南部における自動撮影装置を用いた野外調査と飼育下での観察をあわせて行った.その結果,野外,飼育下ともに冬毛への換毛が11月から,夏毛への換毛が4月から始まっていた.飼育下での観察結果から,冬毛への換毛は,室温が28°Cから16°Cに下降し,昼時間が11.5時間から10.5時間と短縮する時期に起こった.夏毛への換毛は,室温が18°Cから25°Cに上昇し,昼時間が12.5時間から13.5時間と長くなる時期に起こった.換毛の進行過程は,夏毛への換毛と冬毛への換毛が逆向きに進んだ.冬毛の鮮やかさは低緯度のものほど薄れ,九州南部のものでは吻部や眼の周囲が周年を通じて黒かった.
著者
船越 公威 坂田 拓司 河合 久仁子 荒井 秋晴
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.351-357, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
16

クロホオヒゲコウモリMyotis pruinosusの九州における生息分布は,これまで宮崎県綾町照葉樹林における捕獲記録だけであった.今回,熊本県でも生息が確認されたので報告する.確認場所は熊本県東部の山都町内大臣渓谷にある隧道トンネルの天井の窪みで2007年9月30日,2008年7月27日および8月24日に成獣雄各1頭が確認された.また,2011年11月27日に同トンネルで成獣雌1頭が確認された.背面の体毛は灰黒褐色または黒褐色でクロホオヒゲコウモリの特徴である差し毛に銀色の光沢がない個体もみられた.しかし,側膜がモモジロコウモリM. macrodactylusと違って外足指の付け根に着いていること,九州ではヒメホオヒゲコウモリM. ikonnikoviが分布せず尾膜の血管走行が曲線型でなかったことを考慮して,クロホオヒゲコウモリと判定した.また,熊本県産2個体のミトコンドリアDNA(cytochrome b遺伝子1140 bp)を解析した結果,クロホオヒゲコウモリであることが支持されたが,種内の遺伝的変異が比較的大きく地理的変異があることが認められた.前腕長や下腿長は九州産の方が本州・四国産よりも大きかった.頭骨の形状についても,九州産では本州・四国産のものに比べて頭骨基底全長が短く,眼窩間幅や脳函幅が広かった.頭骨計測8項目を基に主成分分析を行った結果,九州産は本州・四国産との間で明瞭に分離された.
著者
船越 公威 大沢 夕志 大沢 啓子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.29-34, 2006 (Released:2007-06-26)
参考文献数
6
被引用文献数
2

オリイオオコウモリPteropus dasymallus inopinatusについて, 沖縄島周辺島嶼での1994~2005年にわたる直接観察, 食痕・ペリットの有無および聞き取り調査によって, 古宇利島, 伊江島, 水納島, 伊計島, 宮城島, 平安座島, 浜比嘉島, 津堅島および久高島に生息することを確認した. 与論島のオオコウモリに関して, 入手された標本・資料の検討結果からオリイオオコウモリと同定し, 与論島が本亜種の新分布地として追加された. さらに同島では詳細な生態的調査も行い, 2004年9月と2005年2月に少なくとも5頭の生息を確認した. 特に夏~秋季には親子も見られた. 食物としては, 春季にはアコウFicus superbaやモモタマナTerminalia catappaの果実, 夏~秋季にはシマグワMorus australisやフクギGarcinia subellipticaの果実, 冬季にはガジュマルF. microcarpaやアコウの果実が利用されていた. 以上の観察結果からオリイオオコウモリは, 個体数が少ないながらも, 一年を通して与論島に定住し繁殖しているものと考えられる.