著者
岩田 充永 梅垣 宏行 葛谷 雅文 北川 喜己
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.330-334, 2008 (Released:2008-07-14)
参考文献数
5
被引用文献数
4 3

目的:夏季の高温多湿が進む日本では,熱中症が増加することが予想されるが,高齢者の熱中症については十分な検討がなされていない.高齢者熱中症の特徴を明らかにするために,65歳以上高齢者で入院となった熱中症例について検討した.方法:2006年の7∼9月とおよび2007年の7∼9月に名古屋掖済会病院救命救急センターを熱中症で受診し,入院となった65歳以上高齢者を対象に,発症日の気候,同居家族,発症環境,空調設備の有無や利用状況,基本的ADL,かかりつけ医の有無,認知症の有無,介護サービスの利用状況,重症度,入院期間,転帰について調査した.結果:研究期間中の熱中症受診104例中31例(31%)が入院となり,そのうち65歳以上高齢者は25例中20例(80%)で,若年者79例中11例(13.9%)に比較して有意に入院率が高かった(p<0.001).平均入院期間は20.6±17.8日で,65歳以上入院群27.5±18.6日,65歳未満入院群5.3±3.0日と高齢者群の入院期間は有意に長期となった(P<0.001).自宅内発症の熱中症は16例で,全例65歳以上で入院を必要とし,65歳以上高齢者の入院熱中症症例(20例)の80%を占めた.自宅内発症例の多くは,最高WBGT 28°C以上(14例),空調設備を有していない(11例),ADL自立(10例),認知症(12例),介護サービス未利用(11例),独居もしくは配偶者と2人暮らし(14例)などの特徴を認めた.入院症例のうち12例(60%)が自宅に退院できなかった.結論:高齢者は通常の自宅生活でも熱中症を発症する危険があり,WBGT28°C以上の日は特に危険が高い.高齢者の熱中症を予防するためには,(1)ADLが比較的保たれ介護サービスを受けない高齢者や独居もしくは配偶者と2人暮らしの高齢者に対する見守り体制の構築,(2)住居における空調設備の設置援助と適正利用への啓発と見守り体制の構築の2点が重要である.
著者
葛谷 雅文 深柄 和彦 Agathe RAYNAUD-SIMON Cornel Christian SIEBER Jürgen M. BAUER Stéphane M. SCHNEIDER
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.935-954, 2011 (Released:2011-06-15)
参考文献数
112
被引用文献数
3

高齢者では高頻度で栄養障害がおこりやすく、それが原因で様々な健康障害やサルコペニアを誘発するのみならず、在院日数の延長、生命予後にも関わっている。低栄養の要因に関しては高齢者特有の多くの原因があり、その要因を含めた定期的な栄養評価が必要である。栄養療法に関しても十分な臨床的なエビデンスが必ずしも構築されているわけではないが、早期に人工的栄養療法を含めた栄養学的介入が高齢者の健康障害の予防につながる可能性がある。
著者
葛谷 雅文
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.268-272, 1998-04-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
12
被引用文献数
3 5

Vascular endothelial growth factor (以下VEGFと略す) は血管内皮細胞に対する特異的増殖因子として同定され, 胎生期の血管形成, ならびに種々の病態に伴う血管新生に関与していることが明らかにされつつある. 我々は以前血管平滑筋細胞の培養上清に血管新生誘導物質が存在し, それがVEGFであることを報告した. さらに人動脈硬化巣, 特に atheromatous plaque において, 平滑筋細胞層のみならず, lipid core 近傍のマクロファージ由来泡沫細胞周辺にVEGFの存在を認めた. 以上の結果よりVEGFは動脈硬化巣に存在し, 動脈硬化形成になんらかの役割を果たしていると思われる. しかしながらVEGFの発現が動脈硬化巣でどのように制御されているか依然として不明である. 今回我々はマクロフアージのVEGF発現にターゲットをしぼり, 炎症性サイトカインと, 動脈硬化の発症進展に重要な役割をはたしていると思われる酸化的変性低比重リポ蛋白 (OX-LDL) の影響につき検討した. マクロファージ cell line であるRAW264細胞に interleukin 1β, tumor necrosis factor αを暴露すると, RAW 264細胞にVEGF mRNA の発現が誘導された. さらに, OX-LDLの暴露によっても濃度 (5~100μg/ml), 時間 (3h~24h) 依存性にVEGF mRNA発現の増強を認めた. それに伴い細胞上清中のVEGF蛋白量も増加した. 以上より, 既に動脈硬化巣に存在が確認され, 病変の進展に関与していると思われる炎症性サイトカインや, OX-LDLによりマクロファージのVEGF mRNA 発現が誘導されることが明らかとなった. VEGFは動脈硬化巣に存在する微小血管形成や, 血管透過性の亢進, さらには単球・マクロファージの病変部への集積等に関与している可能性があると思われた.
著者
葛谷 雅文
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-6, 2016 (Released:2016-04-05)
参考文献数
20

サルコペニアには本来,加齢に伴う四肢骨格筋量の減少が存在し,筋力・身体機能の低下が惹起されている状態をさす(原発性).しかし,骨格筋減少を伴う病態は広範に存在し,いずれも対象者の身体機能低下に直結しており,サルコペニアは原発性以外に二次性サルコペニアとして多くの臨床領域で使用されるタームとなった.それに伴い,サルコペニアの臨床的重要度はさらに高まり,サルコペニアの研究に参入する研究者も増加しており,大変な盛り上がりをみせている.しかし,なおそのメカニズムは十分解明されたとは言えず,早急なその解明ならびに,介入方法の確立が期待されるところである.本総説は,そのメカニズム,介入法の一つとして,栄養を取り上げた.本総説が少しでもサルコペニアの臨床,研究の一助になれば幸いである.
著者
葛谷 雅文 遠藤 英俊 梅垣 宏行 中尾 誠 丹羽 隆 熊谷 隆浩 牛田 洋一 鍋島 俊隆 下方 浩史 井口 昭久
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.363-370, 2000-05-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
18
被引用文献数
8 14

名古屋大学医学部附属病院老年科病棟と, 国立療養所中部病院高齢者包括医療病棟入院中の65歳以上の患者を対象に老年医学的総合評価 (ADL, Instrumental ADL, 認知機能, 情緒傾向, 社会的状態などを含む) と服薬コンプライアンス評価調査表を用い, 高齢者の服薬コンプライアンスに関与する因子を検討した. 2施設間の調査対象集団を比較すると, 中部病院で女性の割合が多く有意に高齢であった. さらに中部病院では Instrumental ADLが有意に低スコアーであった. 老年医学的総合評価項目と服薬コンプライアンス評価項目との検討では, 服薬管理者 (自己管理か非自己管理か) を規定している因子は主にADL, Instrumental ADL, 認知機能障害, うつ状態, コミュニケーション障害の有無であった. 服薬状況 (薬の飲みわすれ) は老年医学的総合評価項目のいずれにも有意な関係がなかったが, 用法の理解度, 薬効の理解度との関係は施設間で差を認めた. すなわち大学病院では服薬状況と用法, 薬効理解度との間に有意な関係を認めたが, 中部病院ではいずれも有意差を認めなかった. 服薬用法理解, 薬効理解度は Instrumental ADL, 認知機能, コミュニケーション能力, 集団行動能力と有意な関係にあった. 薬効理解度は教育歴とも有意な関係にあった. 2施設を比較すると多くの総合評価項目とコンプライアンスの関係は一致していた. 以上より, 高齢者の服薬コンプライアンスは患者の身体機能, 認知機能とは関係なく, 服薬用法, 薬効理解との関係が示唆された. このことは服薬指導の重要性が高齢者の服薬コンプライアンス向上に重要であることを再認識させる.
著者
秋下 雅弘 荒井 啓行 荒井 秀典 稲松 孝思 葛谷 雅文 鈴木 裕介 寺本 信嗣 水上 勝義 森本 茂人 鳥羽 研二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.271-274, 2009 (Released:2009-06-10)
参考文献数
9

目的:日本老年医学会では,2005年に「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリスト」を含む「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を発表した.このような薬物有害反応(ADR)を減らす取り組みにはマスコミも関心を持ち,今般,同ガイドライン作成ワーキンググループとNHKは共同で,老年病専門医に対してADR経験と処方の実態を問うアンケート調査を行った.方法:2008年9月,学会ホームページに掲載された全ての老年病専門医(1,492名)の掲載住所宛にアンケートを郵送した.質問項目は,1)この1年間に経験した高齢者ADRの有無(他機関の処方含む),2)上記リスト薬からベンズアミド系抗精神病薬,ベンゾジアゼピン系睡眠薬,ジゴキシン(≥0.15 mg/日),ビタミンD(アルファカルシドール≥1.0 μg/日)および自由追加薬について,過去のADR経験頻度,3)ADR予防目的による薬剤の減量·中止の有無,4)課題と取り組みについての自由意見,とした.結果:回答数425件(29%).1)1年間のADR;72%.2)過去のADR;ベンズアミド79%(稀に54%,よく25%,以下同),ベンゾジアゼピン86%(62%,24%),ジゴキシン70%(61%,9%),ビタミンD 37%(33%,4%).自由回答では,非ステロイド性消炎鎮痛薬が最も多く,降圧薬,抗血小板薬,抗不整脈薬,血糖降下薬,抗うつ薬が次いだ.3)ADR予防目的の減量·中止93%.4)自由意見;ADRに関する医師·患者の啓発活動,老年病専門医の養成,多剤処方回避の指針作りやシステムの確立を挙げる意見が多かった.結語:老年病専門医はADRをよく経験する一方,多くは予防的対策を講じている.今回の意見を,新しい指針作りや啓発活動に生かすべきである.
著者
葛谷 雅文
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.199-203, 2003-05-25
被引用文献数
13 11

高齢者は咀嚼力の低下, 嚥下障害などを伴いやすく, さらに食欲低下を起こすさまざまな原因により摂食障害また摂食量が低下し, 低栄養に陥りやすい. しかも医療者側に低栄養に関する認識が低く, 重要性の自覚がないため, 往々にしてその栄養障害を見逃し, 患者の予後に悪影響を及ぼしていることが少なくない. 実際, 寝たきり高齢者などでは, 入院中にもかかわらず, 身長, 体重が測定されていないことは決してめずらしいことではない. 低栄養の原因となる摂食障害の原因を明らかにし, それに対して適切に対処することが高齢者の予後に好影響もたらすことは明らかだが, それ以前に医療従事者が低栄養に気付くこと, また低栄養のリスクがあることを認識することがもっとも大切なことだと思う. また, もともと食欲低下がめずらしくない高齢者が食欲をそそられるような食事の提供にも今後病院側は注意をはらうことが必要であろう. さもなければ"starvation in the hospital"は今後も続くことになる.
著者
小池 晃彦 押田 芳治 葛谷 雅文 成 憲武
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

加齢による骨格筋減少のメカニズムとエイコサペンタエン酸(EPA)の筋減少抑制効果を検討するために、老化促進マウス(SAMP1)と対照マウス(SAMR1)を用いた。EPAによる骨格筋量の増加は、SAMR1でのみ見られた。しかし、SAMP1で筋力増加の傾向がみられた。また、EPA投与で、SAMR1のみ骨格筋蛋白合成シグナルの活性化がみられた。SAMP1では内在的なシグナル異常があった。代償性の筋肥大は、SAMP1でもSAMR1と同様にみられ、SAMP1の筋量減少は、筋肥大能とは関係なくおこると考えられた。以上よりEPAの投与は加齢時の筋量保持や筋力改善に有効な可能性が示された。