著者
竹中 佳彦 遠藤 晶久
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1_13-1_33, 2020 (Released:2021-06-16)
参考文献数
13

グローバル化と 「格差社会」 の進展、統治機構改革などは、エリートの平等観や政策選好をどのように変化させたであろうか。本論文は、1980年の 「エリートの平等観」 調査 (三宅一郎・綿貫譲治・嶋澄・蒲島郁夫. 1985. 『平等をめぐるエリートと対抗エリート』) に倣って2018年に実施した調査の結果をもとに、エリートの平等観や政策選好がどのように変化したかを明らかにしようとするものである。なお、この調査でのエリートとは、国会議員だけでなく、地方議員や経営者、労働組合、メディアなど各種リーダーを含めたものである。 本論文では、エリート・レベルのイデオロギー対立とその平等観との連関について、1980年代との比較から検討する。イデオロギーの変容が指摘され、右傾化が論じられている今日において、エリートにおいてもイデオロギー対立の様態が変容しているのかは重要な研究課題といえる。さらに、この約40年の間に生じた 「一億総中流社会」 から 「格差社会」 へという社会変化によって、平等観がイデオロギー対立にどの程度、組み込まれてきているのかについても分析を行う。
著者
日野 愛郎 山崎 新 遠藤 晶久
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.31-43, 2014 (Released:2018-01-05)
参考文献数
23

本稿は,人々が世論調査に回答する際に視覚的情報によってどのような影響を受けるのかという疑問を解明することを試みる。具体的には,順序効果,特に先に提示される選択肢が回答されやすくなるとされる初頭効果が生じる条件を検討し,アイトラッカー(視線測定器)を用いて回答者の視線を観察することを通して検証する。選択肢の提示順序を含む調査回答データとアイトラッカーから得られる視線追跡データの双方を分析した結果,回答者にとって事前知識があり選択肢が対立項目から構成される政党支持の質問においては初頭効果が生じない傾向にあることが明らかになった。一方,一般的に事前知識がなく選択肢がいずれも望ましい合意項目から構成される価値観を測定する質問においては,初頭効果が生じやすいことが確認された。以上の結果は,質問の内容によって順序効果の発生メカニズムが異なるとする本稿の仮説を首肯するものであった。
著者
田中 愛治 川出 良枝 古城 佳子 西澤 由隆 齋藤 純一 吉川 徹 小西 秀樹 船木 由喜彦 今井 亮佑 品田 裕 飯田 健 井柳 美紀 遠藤 晶久 清水 和巳 Jou Willy 千葉 涼 日野 愛郎 三村 憲弘 村上 剛 山崎 新 横山 智哉 加藤 言人 小川 寛貴 坂井 亮太 中西 俊夫 劉 凌
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2013-05-31

熟慮を経てから市民のニーズを測定するCASI調査と、熟議を通して市民のニーズを探るミニ・パブリックスを比較分析すると、熟議に基づくミニ・パブリックスよりも、熟慮に基づくCASI調査の方がサンプルの代表性は高く、実施のコストが低い点では好ましい。しかし、本プロジェクトの実験・調査を通して、熟慮だけでは難しいが、熟議を通してこそ達成できる効果もあることが分かった。例えば、事実に対する思い込みの是正においては、熟慮ではなく、熟議の効果が確認できた。したがって、CASI調査(熟慮)とミニ・パブリックス(熟議)のどちらにも利点があることが明らかになり、一概に両者の優劣をつけることはできないといえる。
著者
遠藤 晶久 山崎 新
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.225-240, 2015 (Released:2016-07-10)
参考文献数
30

CAI調査の大きな利点としてあげられるのは,調査プログラムで設定さえすれば回答時間という新しい種類のデータを手に入れられることである.質問を尋ねてから(あるいは表示してから)回答を得るまでの時間を計測した回答時間データは,回答結果のみでは知ることができない,その回答に至るプロセスを推測するための情報として利用可能である.本稿では回答時間データの分析を通じて,新たな世論調査分析の可能性を示す.その一例として,イデオロギーをテーマとして取り上げ,有権者のイデオロギー認知を政治知識と対照させることで政治的洗練性概念との関係を検討する.分析の結果,短時間で正解を取り出すという政治知識の回答過程に比べて,正解にたどりつくまでに時間がかかりやすい政党間対立認識は,有権者が確固として既に有しているものというよりも,何らかの情報処理を必要とするものであるということを示した.つまり,イデオロギー認知は政治知識と異なる認知モードにしたがっており,現実の保革イデオロギーによる政党間対立は,有権者の中では「知識」ではなく,類推からたどりつくものであることが示唆された.