- 著者
-
小西 秀樹
- 出版者
- 東京工業大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2005
本研究では,政治経済学の分析枠組みを用いて,財政政策の決定について考察した.第一に,利益集団と投票者の行動を導入した政治経済モデルを開発し,財政再建が行われる政策決定プロセスの理論化を行った.このモデルでは,増税と支出削減を組み合わせた財政再建の構成が政治家と利益集団との癒着の程度を表すシグナルとしての役割を果たし,投票者が政治家のタイプを識別することができるようになる点を明らかにした.第二に,賃金税と消費税で社会保障支出の財源調達を行うケースを想定して,財源調達方法が政治経済的な枠組みのもとでどのように決定されるか,それぞれの財源調達方法が固有に持つ再分配効果の違いに着目して,検討した.そして,高齢化の進んでいない社会では,賃金税のみで社会保障財源が調達される均衡(正確には,構造誘導均衡)だけが存在し,消費税による財源調達が行われることはないが,高齢化が進展すると,複数の構造誘導均衡が現れ,賃金税だけで社会保障財源が調達するケースだけでなく,消費税だけで調達されるケース,両者が併用されて調達されるケースが均衡になることを明らかにした.第三に,現行の厚生年金制度の政治的な存続可能性を実証分析した.具体的には「存続」と「廃止」を二者択一の選択肢とした国民投票で過半数が「存続」を支持するか,将来人口推計や財政再計算のデータを用い,正の残存期間収益を持つ最少年齢(境界年齢)と全有権者の中位年齢を計測して比較した.計測の結果,現行制度は政治的に存続可能と判定されるものの,今後の年金改革では,2025年までに境堺年齢を迎える現在30歳および40歳代の世代の残存期間収益を引き下げないことが重要であることがわかった.