著者
一柳 廣孝 橋本 順光 金子 毅
出版者
横浜国立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

平成22年度は4回の研究会をおこない、以下の方々の発表について検討した。志村三代子氏「戦後の『透明人間』-恐怖映画とジェンダーをめぐって」、鷲谷花氏「3DCGアニメーションにおける「不気味なもの」-または我々はいかに心配するのを止めてCGを愛する、ようになったか」、越野剛氏「ソ連におけるオカルト・超科学について」、濱野志保氏「写真と流体-ヨーロッパにおけるエネルギー写真と念写」。また、天理市に天宮清氏を訪ね、CBAに関するインタビューをおこなった。さらに雑誌「GORO」におけるオカルト関連記事のデータベースを作成した。今年度は本研究プロジェクトの完成年度にあたり、それまでの活動・研究報告の総括として「現代日本における「オカルト」の浸透と海外への伝播に関する文化研究研究成果報告書」をまとめた。研究会活動報告、本研究プロジェクトメンバーの研究成果などからなる「研究の概要」、「吉永進一氏インタビュー」、「新倉イワオ氏インタビュー」、「天宮清氏インタビュー」、「雑誌「GORO」オカルト関連記事一覧」が、その内容である。吉永氏の記事からは60~70年代におけるオカルト研究史、新倉氏からはテレビメディアにおける心霊シーンの変遷、天宮氏からは、日本におけるUFO研究の変遷とサブカルチャーへの影響関係など、きわめて貴重なお話をうかがうことができ、価値ある研究成果報告書になったと自負している。
著者
出雲 雅樹 金子 毅義 小酒 広之 佐藤 剛 谷藤 大樹 中村 敦
出版者
公益社団法人 日本放射線技術学会
雑誌
日本放射線技術学会雑誌 (ISSN:03694305)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.1639-1643, 2002
参考文献数
6
被引用文献数
3 1

When processing head MRA images, threshold values are automatically established using the MIP method, resulting in a high degree of reproducibility. As a result, two different individuals can produce highly comparable images. In addition, the MIP method is reportedly effective for depicting fine vessels. However, since information other than maximum values is ignored by the MIP method, data contained in original MRA images are not optimally utilized. The results confirmed that much of the information contained in original MRA images could not be seen on MIP processed images. In many cases, low-threshold processing was useful for depicting fine vessels and arterioles that could not be seen on MIP-processed images.
著者
金子 毅
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.520-539, 2005-03-31

本稿は、日本の高度成長の形成という問題を、「安全第一(safety-first)」という近代的スローガンの実践と、雇用という状況が生み出す権力関係との関連に基づき、そこで育まれる言説の構築という観点から検討するものである。労務管理を目的に導入された「安全」理念の定着に当たっては労使間での葛藤が存在しており、それはとりわけ「殉職」という死の意味付けを争点としていた。労働災害という異常な死は労使間の権力関係によって規定され、その際、企業戦略として適用されたのが、殉職を自己判断がもたらしたリスクの結果と見なす労働省の提示する「安全」理念であった。これにより当初不確定な死は正当な労災という「殉職」として位置付けられるとともに、被災現場の記憶すら去勢された数値化、記号化された「無化された死」として処理される。そして、企業が設立した菩提寺での葬儀を経て、晴れて「殉職」と公認された人々は、さらに企業主催の「殉職者慰霊」において企業の永続性を保障する「祖先」としての地位を付与されることになった。そうした言説の虚構性を見抜いた労働者たちは、雇用者による「安全」実践のシステムを逆利用した対抗的な言説を編み出すことで、労組の戦術を展開するが、相次ぐ合理化はその活動を先細らせ、構成員自体を企業に従順な「企業戦士」へと変貌させた。昭和40年代に入ると当初、対抗のシンボルと目されていた「殉職者慰霊」へ代表者の参加が見られるようになったことは、労組内部にこのような本質的な変化が生じた証である。このことから、労使間のポリティクスが企業、あるいはそれを操る国家の論理に回収された点が指摘されよう。それはまさしく成長神話の暗部が取り払われ、安全神話として確立した瞬間でもあった。言い換えれば、企業理念を縁取り、高度成長という時代のけん引役を果たした「安全」の唱導は、国策による国民統合の一つの手段であったと見なされよう。
著者
金子 毅
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.21-41, 2003

本稿のテーマは、労働災害という異常な死を「殉職」へと転換させる企業主催の慰霊行為を、祖先祭祀の枠組から捉えつつ、近代産業化の遂行の過程で導入された外来の「安全」理念の労使双方による主体的受容とのかかわりからこれを論ずることにある。「安全」遵守は、就業中の事故が労災か、本人の過失による事故かを見極める基準とされたがゆえに、雇用者には企業利益を守るための「戦略」として用いられる一方で、労働者には労災補償を得るための「戦術」として受容され、「ハビチュアル・レスポンス」としての身体の主体的構築を促すことになった。その結果、殉職者は「安全」理念に殉じた者として語られ、また殉職者慰霊は雇用者には企業永続のための一種の祖先祭祀として、労働者には無辜の仲間の死を悼む場として営まれつつ、「安全」の相互補完的受容が再確認される場になったと考えられる。
著者
真鍋 祐子 金子 毅 李 美淑 藤岡 洋
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2017-06-30

1921年生まれの現役画家・富山妙子の作品世界は、1970年代以降、社会参与を通して世界の歴史的動態に働きかけてきた。特に1980年に韓国で起きた光州事件では、いち早くその惨劇を版画作品にし、日本からドイツ、アメリカなどを中継して世界中に周知させる役割をはたし、それが非合法に韓国にも入り民主化運動を励ましたと評価される。本科研はそうした富山妙子の思想と作品世界がどのように構築され、また制作された作品がどのように世界へ伝播し、その意味世界が世界の歴史的動態にどのような波紋を与えたかを明らかにする。あわせて富山所蔵の作品や資料の歴史学的価値に鑑み、それらのデータベース化と公表を目指している。
著者
鈴木 雄亮 金子 毅
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.1029-1034, 2009 (Released:2010-01-25)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

清涼飲料水中に混入されたパラコート(PQ)及びジクワット(DQ)の迅速・簡便な定性試験法を検討した.抽出にはピペットチップ型固相抽出デバイスであるOMIX® pipette tipを用いた.コーラ及びコーヒー飲料にPQ及びDQを添加した試料について,C18,C4及びSCXタイプのOMIX® pipette tipにより抽出を行った.C18及びC4タイプのものを用いて抽出されたPQ及びDQは,呈色試験及び液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)により同定された.抽出に要した時間は,1検体あたり3分程度であった.SCXタイプのものを用いた場合は,PQ及びDQの回収に飽和食塩水を用いるため,LC/MSには不向きであるが,呈色反応による検出は可能であり,また,抽出操作もC18及びC4の場合と比較してより簡便であることから呈色試験によるスクリーニングには,非常に有用であると考えられた.
著者
小檜山 文子 佐藤 雅子 金子 毅
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.661-665, 2009-08-05
被引用文献数
4

マイクロ抽出法の一つである分散液液マイクロ抽出(dispersive liquid liquid microextraction,DLLME)法により,ベンゾジアゼピン系薬剤であるフルニトラゼパム及びニメタゼパムの低濃度水溶液試料から抽出を行い,ガスクロマトグラフィー質量分析による測定を行った.ベンゾジアゼピン系薬剤に対する抽出溶媒,分散溶媒の種類等の最適条件を検討し,同条件で三環系抗うつ薬剤であるアミトリプチリン及びノルトリプチリン並びにフェノチアジン系薬剤であるクロルプロマジン及びプロメタジンの低濃度水溶液試料についても抽出・測定を行った.更に本手法を用い,アルコール飲料中のフルニトラゼパムの抽出を試みたところ,振とう操作を必要とせず,迅速・高効率な抽出が可能であった.このことから,DLLME法は法化学分野における有用な抽出法の一つであることが認められた.
著者
鈴木 雄亮 金子 毅
出版者
日本法科学技術学会
雑誌
日本法科学技術学会誌 (ISSN:18801323)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.99-105, 2009 (Released:2009-08-25)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

In this study, the stability of methamphetamine, bromovalerylurea, acetaminophen and salicylic acid in formalin solution was investigated during 90 days. The stability of these drugs was examined in 4 types of formalin solution (10% and 20% concentration pH adjusted formalin (pH7.4) and each concentration pH unadjusted formalin solution) and at 2 temperature conditions (room temperature and cold storage).   Methamphetamine was very stable at cold storage in each formalin solution. In contrast, more than 80% of methamphetamine was converted into its N-methyl derivative, dimethylamphetamine in pH adjusted formalin at room temperature at 90 days. Bromovalerylurea was stable only when in pH unadjusted formalin at cold storage. Under the other conditions, bromovalerylurea was decomposed and observed a compound assumed to be the bromovalerylurea-formaldehyde reaction product by LC/MS. The concentration of acetaminophen was decreased gradually under all conditions and a compound assumed to be the acetaminophen-formaldehyde reaction product was detected by LC/MS and GC/MS. When salicylic acid was stored under all conditions, concentrations of salicylic acid did not change.   Thus, it appears that the stability of drugs varies individually in the presence of formalin and under different conditions (formalin concentration, pH and storage temperature). So, forensic scientists must note when attempting to determine the drugs in the formalin-fixed biological specimens.
著者
金子 毅
出版者
東京基督教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、まず米国における技術文化スローガン「safety-first」の構築過程を解析し、そこに内在する精神性と、その輸入概念としての日本語の「安全第一」活動との相違を明示することにあり、具体的には自動車工業都市デトロイトの成立事情とプロテスタント教会及びこれを取り巻く信仰の変質の問題を論じる。考察の軸としたのは信者である事業経営者と牧師との間に生じた、信仰をめぐる葛藤とその局面である。具体的な考察対象としたのは、フォード社における信仰実践に与した人物として、S.S.マーキュス及び着任間もない若きラインホルド・ニーバーである。そこから明らかとなったのは信者である経営者の意図に沿った道徳へと信仰が左右され、さらに従業員の私的生活をも包摂する「奉仕」を容認する「経営宗教」による独自の経営倫理意識の構築と、これによる「フォーディズム」という生産管理の実態であった。そこには時代をめぐる二つの社会的要因が作用している。第一に、労働を取り巻くカトリックを含む移民と禁酒運動による米国市民化という教会外部からの要因である。第二に、教会と信徒教育を取り巻く内的要因であり、これは聖書に依拠したテキスト化に動機付けられた教育の変質を示唆する。以上より、プロテスタンティズムに内在する資本主義の精神性という仮説に依拠せずに労働をめぐる「奉仕」観の変質を捉え、そこから生じた「safety」という理念へと肉迫することが可能となる。「フォーディズム」成立の時代のもとでは、聖書における主体的な「safety」の構えは失われ、空洞化されたスローガン「safety-first」と化したといえよう。