著者
木村 周平 小西 公大 伊藤 泰信 内藤 直樹 門田 岳久 早川 公
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究はソーシャルデザイン実践について、生活・地域・教育の領域において、それを推し進める「準専門家」(後述のようにアドバイザーやコンサルタント、研究者等を含む)の実践に着目して研究することで、ソーシャルデザインに対して文化人類学からどのような関わり方が可能なのかについての知見を提示することで、人類学や近接学問領域の蓄積、さらに公共的な実践に対して貢献しようとするものである。
著者
門田 岳久
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.205, pp.255-289, 2017-03

本論文は消費の民俗学的研究の観点から、沖縄県南部に位置する斎場御嶽の観光地化、「聖性」の商品化の動態を民族誌的に論じたものである。二〇〇〇(平成一二)年に世界遺産登録されたこの御嶽は、近年急激な訪問者の増加と域内の荒廃が指摘されており、入場制限や管理強化が進んでいるが、関係主体の増加によって御嶽への意味づけや関わり方もまた錯綜している。例えば現場管理者側は琉球王国に繋がる沖縄の信仰上の中心性をこの御嶽に象徴させようとする一方、訪問者は従来の門中や地域住民、民間宗教者に加え、国内外の観光客、修学旅行客、現場管理者の言うところの「スピリチュアルな人」など、極めて多様化しており、それぞれがそれぞれの仕方で「聖」を消費する多元的な状況になっている。メディアにおける聖地表象の影響を多分に受け、非伝統的な文脈で「聖」を体験しようとする「スピリチュアルな人」という、いわゆるポスト世俗化社会を象徴するような新たなカテゴリーの出現は、従来のように「観光か信仰か」という単純な二分法では解釈できない様々な状況を引き起こす。例えばある時期以来斎場御嶽に入るには二〇〇円を支払うことが必要となり、「拝みの人」は申請に基づいて半額にする策が採られたが、新たなカテゴリーの人々をどう識別するかは現場管理者の難題であるとともに、この二〇〇円という金額が何に対する対価なのかという問いを突きつける。古典的な枠組みにおいて消費の民俗学的研究は、伝統社会における生活必需品の交易と日常での使い方に関してもっぱら議論されてきたため、情報と産業によって欲求を喚起されるような高度消費社会的な消費実践にはほとんど未対応の分野であったと言える。しかし斎場御嶽に明らかなように、信仰・儀礼を含む既存の民俗学的対象のあらゆる領域が「商品」という形式を介して人々に経験される時代において、伝統社会から「離床」した経済現象としてこれを扱うことは、現代民俗学の重要な課題となっている。This paper presents a folklore study of consumption, focusing on Sēfā Utaki located in southern Okinawa Prefecture. This is an ethnographic analysis of the development of the sacred site as a sightseeing spot and the commercialization of holiness. Inscribed on the World Heritage List in 2000, this Utaki has attracted an increasing number of tourists. As this has caused damage to the site, protective measures are being taken, such as imposing a limit on the number of visitors and strengthening maintenance management. This increase in the number of people concerned, however, has led to the diversification of interpretations and involvements. For example, while the field administration wants to make the Utaki the central symbol of the local religion originated from the Ryūkyū Kingdom, the Utaki itself attracts diverse people, ranging from conventional visitors, such as Munchū, local community residents, and folk devotees, to overseas and domestic tourists, study tour participants, and those the field administration call "spiritual people," and each of them consume the holiness in their own ways, creating a multi-faceted situation. In particular, the emergence of a new category of people that symbolizes the so-called post-secular society ("spiritual people" who try to get a holy experience in an untraditional context affected by mass media's depiction of sacred places) has created a complicated situation where visitors cannot be simply classified as either sightseers or religious explorers. For example, when Sēfā Utaki started to charge visitors an admission fee of 200 yen, which will be reduced by half for visitors for prayer if they request it, the field administration encountered two difficult problems: (i) how to identify those classified into the new category; and (ii) what the fee of 200 yen is actually charged for.An ethnographic study of consumption in a classical framework has mainly focused on the trade of daily necessities and their use in daily lives in a traditional society, yet it has hardly covered the perspective of what consumption means in a high-level consumer society where consumers' desire is stirred up by information and other industries. As illustrated by the example of Sēfā Utaki, now that all the existing ethnographic subjects, including religions and rituals, are commercialized so that general people can experience them for themselves, contemporary folklorists are faced with a new important question of how to deal with these economic phenomena deviated from the traditional society.
著者
門田 岳久
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.156, pp.201-243, 2010-03-15

本論の目的は,第一に,「文化資源化」「宗教の商品化」といった概念を用いて,現代日本における巡礼ツーリズム(半ば産業化された巡礼)の成立と地域的展開の民族誌的記述を行うことであり,第二に,市場経済や消費社会の文脈上に生成される「宗教的なるもの」を記述していく作業が,日常生活の全体を描こうとする現代民俗学的な宗教研究において,いかなる理論的貢献をなすものなのか明らかにすることである。本論はマクロからミクロへとスコープを絞っていく記述方式を採る。まず,20世紀初頭以降の日本において,「観光」という行為形式が人々に広まっていくマクロな状況を背景に,巡礼が生活世界における慣習的習俗から脱埋め込みをなされ,文化産業によって,人々が自由選択可能な「商品」としての巡礼ツーリズムへと転化するプロセスを描く。次に,宗教的習俗の商品化が,よりローカルな社会空間において具体化していく姿を示すために,新潟佐渡地方における調査事例から,地元巡礼産業の営業活動と,そこに参与する巡礼者たちの日常的実践を記述していく。ここに観察されるのは,資源化=脱埋め込みによってもとの文脈を離れた諸要素が,巡礼産業の地域活動と巡礼経験者の諸実践を媒介することで,再び日常の文脈に再埋め込みされていくプロセスである。一見「信仰」が盛んであるように見える佐渡の巡礼ではあるが,人々の宗教的経験を可能としているのは地域的伝統であるというよりも,このように巡礼諸産業に下支えされた市場経済的構造である。従って生活論としての現代民俗学は,空間的に境界付けられた小地域(村)を記述の外延として設定し,その内部の出来事をただ描くだけでは不十分である。「文化資源化」は,観察対象が「全体」においていかなる布置を見せているのかという,ミクロとマクロの相互反照性を常に考慮すべきことを,我々に要求する概念なのである。
著者
藏本 龍介 清水 貴夫 東 賢太朗 岡部 真由美 門田 岳久 中尾 世治
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

・2015年度:メンバーのこれまでの研究内容を共有すると同時に、「宗教組織の経営」という問題をいかに共通の枠組みで分析しうるか議論した。・2016年度:前年度の議論を踏まえ、経済人類学者(住原則也氏)、宗教社会学者(白波瀬達也氏)を招き、シンポジウムを開催した。そしてその成果を『「宗教組織の経営」についての文化人類学的研究』(2017年、南山大学人類学研究所)として刊行した。・2017年度:前年度までの議論を踏まえ、「宗教と社会」学会(2017年6月)において、宗教社会学者(西村明氏)をコメンテーターとして招き、「宗教組織の「経営」についての民族誌的研究」と題するテーマセッションを開催した。
著者
岩本 通弥 森 明子 重信 幸彦 法橋 量 山 泰幸 田村 和彦 門田 岳久 島村 恭則 松田 睦彦 及川 祥平 フェルトカンプ エルメル
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、日独の民俗学的実践のあり方の相違を、市民社会との関連から把捉することを目指し、大学・文化行政・市民活動の3者の社会的布置に関して、比較研究を行った。観光資源化や国家ブランド化に供しやすい日本の民俗学的実践に対し、市民本位のガバナビリティが構築されたドイツにおける地域住民運動には、その基盤に〈社会-文化〉という観念が根深く息づいており、住民主体の文化運動を推進している実態が明確となった。